オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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20話 酒場のお姉さん

 ロモスの朝は、やっぱりうるさかった。

 

 窓の外からは、港の喧噪と、パンを焼く匂い。

 宿の廊下からは、客と店の人間の声。

 そして、レオナの頭の中では――昨日からずっと、あの「好き」の電子音が止まっていなかった。

 

(落ち着きなさい、わたし)

 

 寝台から起き上がりながら、レオナはいつものように自分の頭上を見上げる。

 

【レオナ】

 相馬 250/280

 

(……ほんと、どうかしてる数字よね)

 

 でも、自覚はある。

 ここまで行ったのは、性格云々じゃなくて――

 

(顔よね、顔……)

 

 自分でそう断言せざるを得ないくらいには、

 相馬の見た目が、レオナのストライクゾーンのど真ん中だった。

 

(だからって、ここまで行く!? って世界に向かって言いたいけど)

 

 ため息をひとつ。

 髪を整え、ドレスを着直し、部屋を出る。

 

◇ ◇ ◇

 

 階段を降りると、宿の食堂はちょうど朝のピーク前だった。

 

 パンの香り。

 スープの湯気。

 そして――カウンターの前で、また見慣れた光景。

 

「いやー、朝から働いてる人っていいよなぁ。

 尊敬するわ、マジで」

 

「も、もう……そんな大げさな」

 

 相馬が、宿の看板娘に軽妙に話しかけていた。

 

 栗色の髪を三つ編みにした、健康的な笑顔の娘。

 どう見ても「狙ってます」という距離感。

 

(……またやってる)

 

 レオナは、内心で頭を抱えながらも、

 つい視線をそちらに向けてしまう。

 

 その瞬間――相馬が、ふっとこちらを振り向いた。

 

「お、レオナ。おはよ」

 

 月明かりのときとは違う、朝の光の中の顔。

 それだけで、胸の奥が「ズギューン!!」と打ち抜かれた。

 

 顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】

『……朝からその顔で笑いかけないで……

 まだ心臓が起ききってないのに……しゅき……』

 

「っっ!!」

 

 自分の甘い声が、食堂の空気にふわっと溶ける。

 看板娘はきょとん、ダイとポップは「はいはいまたか」という顔。

 

【レオナ→相馬 250 → 252/280】

 

(今ので2上がるの!?)

 

 自分に自分でツッコむ。

 

「おはよう。

 あなた、朝からナンパしてるんじゃないでしょうね」

 

 どうにか声を絞り出す。

 

「ナンパっていうか、朝のご挨拶?」

 

 相馬は肩をすくめる。

 

「ほら、旅の安全は情報交換からって言うじゃん」

 

「言った覚えないわよそんなこと!!」

 

 レオナのツッコミが、朝の食堂に元気よく響いた。

 

◇ ◇ ◇

 

 ひとしきり騒いだあと、どうにか全員でテーブルに着く。

 

「今日はいよいよ森に向かうんだよね!」

 

 ダイがパンをかじりながら言った。

 

「うん、の前に問題の村だな」

 

 ポップがスープを啜る。

 

「クロコダインの配下に狙われてるっていう、

 あの小さい村」

 

「そこ経由で森に入るのが、一番自然なルートね」

 

 レオナは、パンをちぎりながら答える。

 視線は地図――のつもりが、

 意識の半分は向かいの相馬の顔に持っていかれていた。

 

 真正面。

 テーブル越し。

 光の入り方がよくて、目がぴっちり合う。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『テーブル越しに向かい合ってるだけで、

 一日分の心臓の耐久度を使い切りそう……好き……』

 

【レオナ→相馬 252 → 254/280】

 

 数字が、じりじりと上がっていく。

 

「今日は、村で情報集めて、森の手前までは進みたいな」

 

 相馬がパンをちぎりながら言う。

 

「ついでに、美味い酒場も見つけ――」

 

「“ついでに”の方向性がおかしい!!」

 

 レオナがすかさず割り込む。

 

「クロコダイン討伐が主目的。酒場探しはオマケもいいとこよ」

 

「いやいや、どっちも命に関わるぞ?」

 

「どう関わるのよ!」

 

「うまい酒といい女がいてこそ、

 “生きて帰る理由”になるじゃん?」

 

「……………………」

 

 言い切った顔が、また妙にいい顔をしているのが腹立たしい。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+怒り混じり)】

『そんなこと言う顔もかっこいいの、

 ほんとにどうかしてる……でも好き……』

 

【レオナ→相馬 254 → 256/280】

 

(このシステム、わたしの理性に一切配慮がない……!!)

 

◇ ◇ ◇

 

 午前中のうちに、ロモスの城下を出発した。

 

 北へ向かう街道は、思ったよりも整備されている。

 荷馬車が行き交い、小さな村や宿場が点々と続く。

 

「ここを抜けて、森の手前で一泊ね」

 

 レオナは、馬車代わりの荷車の縁に腰掛けて言う。

 

「問題の村は、その途中にあるはずだわ」

 

「楽しみだなぁ、新しい町」

 

 ダイは、相変わらず純粋に目を輝かせている。

 

「オレ、いろんな国見てみたかったんだ」

 

「だったら、早く魔王倒して平和にしてくれよな」

 

 ポップが苦笑しながら杖を担ぐ。

 

「そしたら、世界旅行し放題だぜ」

 

「うん!」

 

 ダイの頭上の数字が、素直に揺れる。

 

【ダイ】

 レオナ 72/150

 相馬  73/150

 

 一方そのころ、レオナの視界の端では――

 相馬が、道端の行商人の娘に軽く手を振っていた。

 

「やっ」

 

「あ、こんにちは!」

 

 籠を抱えた娘が照れ笑いする。

 

「この先の村って、なにか名物とかある?」

 

「えっと……お酒が美味しいって聞きました!」

 

「マジ? サイコーじゃん」

 

 さらっと距離を詰めていく。

 

【相馬→行商娘 28/150】

 

「……ほんと、どこでもスカすのねあなた」

 

 レオナは呆れながらも、

 ついその横顔を見てしまう。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+嫉妬)】

『他の子と話してる横顔見るだけで、

 胸がモヤモヤするの、ほんとにズルい……しゅき……』

 

【レオナ→相馬 256 → 257/280】

 

◇ ◇ ◇

 

 昼少し前。

 

 一行は、街道沿いの小さな村に到着した。

 

「ここが、王様の言ってた村?」

 

 ダイが、木の門を見上げる。

 

「ええ。クロコダインの配下がうろついてるっていう」

 

 レオナは、周囲を見渡す。

 

 畑と、木造の家々。

 道端には露店が数軒。

 奥には小さな酒場と宿屋が並んでいる。

 

「とりあえず、村長に挨拶と情報収集ね」

 

「おう。

 その前に、飯!」

 

 ポップが、ずいっと酒場の看板を指さした。

 

「情報収集と腹ごしらえはセットだぜ」

 

「それ言うと一気に信憑性増すのなんでかしら」

 

 レオナは若干あきれつつ、

 一行は村唯一の酒場へ向かった。

 

◇ ◇ ◇

 

 中は、昼時にしてはそこそこ賑わっていた。

 

 木製のテーブル。

 簡素なカウンター。

 奥の厨房から、香ばしい匂い。

 

「いらっしゃ~い」

 

 出てきたのは、二十代半ばくらいの女性だった。

 

 肩までの茶髪をラフにまとめ、

 胸元のあいたシャツにエプロン。

 笑顔は明るく、目つきはやや大人びている。

 

(あ、これは――)

 

 レオナは、嫌な予感がした。

 

「はい、四人ね? 奥のテーブル空いてるわよ」

 

「サンキュ、お姉さん」

 

 案の定、相馬が一歩前に出た。

 

「ここらへんで一番美人の店員さんに案内されるとか、

 今日ツイてるなぁ」

 

「な、なにそれ、うまいこと言っちゃって」

 

 女が笑う。

 完全に「オトされてます」という反応。

 

【相馬】

 村の酒場女 42/150

 

【酒場女】

 相馬 35/150

 

「うわ、また数字が……」

 

 ポップが思わずパネルを見て呟く。

 

「見ないの!!」

 

 レオナが遮る。

 

(見たら胃がやられるわ)

 

◇ ◇ ◇

 

 テーブルについて、昼食を頼む。

 

「この村、いい雰囲気だな」

 

 ダイが、スープをすすりながら言った。

 

「そうね。

 ここが戦場になる前に、なんとかしないと」

 

 レオナは、窓の外の畑を見つめる。

 

 そんな中――

 

「お姉さーん、追加でパンお願い」

 

 相馬が、カウンターの女に声をかけた。

 

「はーい、ちょっと待ってね~」

 

 彼女が厨房に引っ込む。

 そして、パンの皿を持って戻ってくる。

 

 その間に、相馬はわざとテーブルから離れて、

 カウンター近くまで迎えに行った。

 

(あ)

 

 レオナの胸がざわつく。

 

 相馬が、皿を受け取りながら、

 自然な流れで会話を始めていた。

 

「昼からずっと忙しそうだね」

 

「まぁねぇ。ここくらいしか店ないし」

 

「夜も?」

 

「夜もよ。

 最近は、魔物のせいで外出る人減ったから、

 そのぶんここに来て騒ぐのよ」

 

「ふーん」

 

 相馬は、にやっと笑った。

 

「じゃ、今夜はもっと忙しくしてあげようか?」

 

「……え?」

 

 女が瞬きする。

 

「今夜、仕事終わったらさ。

 どっか静かなとこで、一緒に飲まない?

 

 勇者候補の護衛で来てるんだけど、

 明日には森に入っちゃうんだよね。

 

 “今夜限り”ってことで、さ」

 

 さらっと「今夜限り」と言った。

 

 完全に、ワンナイトを狙っている誘い方だった。

 

「~~~っ!!」

 

 レオナは、スプーンを握りつぶしそうになった。

 

(なに言ってるのよこの人!! わたしの目の前で!!)

 

 しかし、女の反応は――想像以上に良かった。

 

「え、勇者サマたちの仲間?」

 

「まぁ、“危険因子枠”ってやつだけど」

 

「なにそれ、ちょっと面白いじゃない」

 

 女がくすっと笑う。

 

 彼の軽口と、危険因子という響きがツボに入ったのかもしれない。

 

「今夜、店閉めるのはちょっと遅くなるけど……

 それでもよければ、付き合ってあげよっか」

 

「マジで? やった」

 

 相馬が、嬉しそうに笑った。

 

「じゃ、店じまいのあとに外で待ってる。

 月、綺麗そうだしさ。

 

 ――せっかくだから、“忘れられない夜”にしようぜ?」

 

「……っ!」

 

 女の頬が、ほんのり赤くなる。

 

【相馬→酒場女 42 → 50/150】

【酒場女→相馬 35 → 43/150】

 

「……」

 

 レオナは、言葉を失っていた。

 

(成功、した……)

 

 本気でワンナイトを仕掛けて、本気で通してしまった。

 しかも、自分が見ているところで。

 

 胸の奥が、ぎゅうっとねじれる。

 

 怒りとも、悲しみともつかない感情。

 でも――顔を見れば、やっぱり心臓は鳴る。

 

 女と話し終えて戻ってきた相馬の顔が、

 視界のど真ん中に飛び込んでくる。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+嫉妬MAX)】

『そんな顔で他の女を“忘れられない夜”に誘わないで……

 忘れられない夜、一番に約束してほしいのは、わたしなのに……しゅき……』

 

【レオナ→相馬 257 → 260/280】

 

 一話あたりの上限いっぱいまで上がった感覚。

 数字の上昇と一緒に、胸の中も悲鳴を上げていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 昼食を終え、村長との挨拶や情報交換を済ませる。

 

「森の方から、最近よく魔物が出るんだ」

 

 小さな家の中で、村長が眉をひそめる。

 

「クロコダインの手下だろう。

 夜になると、森の方から咆哮が聞こえることもある」

 

「この村を守る戦力は?」

 

「若い連中が何人かいるが、とてもあの獣王には……」

 

 村長は言葉を濁した。

 

「分かったわ」

 

 レオナは頷く。

 

「あなたたちは、夜は決して外に出ないこと。

 明日、わたしたちが森に踏み込むわ」

 

「おお……!」

 

 ダイの拳に、力がこもる。

 

 そんな真面目な会話の後でも――

 

「じゃ、今夜は俺たちが村で“景気づけ”してやんないとな」

 

 相馬の口調は軽い。

 

「クロコダインぶっ倒す前夜祭、みたいな」

 

「前夜祭でワンナイト狙うな!!」

 

 レオナのツッコミが、すでに悲鳴混じりだった。

 

◇ ◇ ◇

 

 日が沈み、村に夜が降りる。

 

 酒場は、昼よりも賑わっていた。

 

「う~っ、なんか緊張してきた……」

 

 ポップが、ジョッキを握りしめながら言った。

 

「明日、クロコダインなんだよなぁ……」

 

「オレ、がんばるよ!」

 

 ダイは、スープを飲みながら頷く。

 

 レオナは、テーブルで周囲を見渡しながら、

 頭の片隅ではずっと時計を数えていた。

 

(そろそろ、店じまいの時間……)

 

 あの約束どおりなら、

 相馬は店が静かになったところで、

 さっきの女と一緒に外に出るはずだ。

 

(ほんとに行くつもり……?)

 

 胸がざわざわする。

 

 そんな中――

 

「じゃ、俺ちょっと、外の風当たってくるわ」

 

 相馬が、さりげなく席を立った。

 

「おいおい、もう酔ったのか?」

 

 ポップが笑う。

 

「いや、“これから”だから」

 

 意味深な言い方をして、

 相馬は片手をひらひら振りながら酒場を出ていった。

 

 レオナの心臓が、どくんと跳ねる。

 

(本気で行く気だ……)

 

◇ ◇ ◇

 

 数分後。

 

 レオナは、我慢できずに席を立っていた。

 

「レ、レオナ?」

 

 ダイが慌てて顔を上げる。

 

「ちょっと、外の様子を見てくるわ」

 

「オレも行こうか?」

 

「大丈夫。すぐ戻るから」

 

 そう言って、笑顔だけは作る。

 

 酒場の扉を開けると、ひんやりした夜風が頬を撫でた。

 

 月明かり。

 村の外れに続く小道。

 そして――

 

 そこに、二つの人影。

 

 ひとつは、見慣れた背中。

 もうひとつは、昼間の酒場の女。

 

 ふたりは、肩が触れそうな距離で並んで歩いていた。

 

 女の手には、小さな布袋。

 たぶん、自分の飲み物か何かだろう。

 

「ほんとに来たね」

 

「約束だからね」

 

 相馬が、軽い声で答える。

 

「森の入口まで散歩ついでに行かない?

 月、綺麗だしさ」

 

「森!? こわくない?」

 

「俺がいるから大丈夫。

 勇者候補の仲間だぜ?」

 

「ふふ、頼もしいこと言うじゃない」

 

 ふたりの声が、夜気に溶ける。

 

 レオナは、酒場の門の陰から、ただそれを見ていた。

 

(本当に……行くんだ)

 

 ワンナイトを狙った誘いが、

 本当に「成功」してしまった瞬間だった。

 

 胸の中で、何かがぐしゃっと潰れる。

 

 でも――それでも、顔を見れば、心臓は鳴る。

 

 振り向きざまに見えた相馬の横顔が、

 月明かりを受けて浮かび上がる。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+嫉妬+絶望)】

『その顔で、他の女と森に行かないで……

 “忘れられない夜”を、わたし以外と作らないで……

 ……でも、そんなあなたが、どうしようもなく好き……』

 

 自分の声が、泣き笑いみたいになっていた。

 

【レオナ→相馬 260/280(変動なし/今話の上限到達)】

 

◇ ◇ ◇

 

(止める? 止めない?)

 

 足が、地面に縫いつけられたみたいに動かない。

 

 王女としては、

 仲間の行動に口を出すべきなのかもしれない。

 

 でも、レオナとしては――

 それが、ただの「嫉妬」にしか見えないのが嫌だった。

 

(わたし、何様なのよ)

 

 相馬には、相馬の自由がある。

 恋人だと約束したわけでもない。

 ただ「好きだ」と言い合っただけ。

 

(だから、止める理由なんて――)

 

 そこまで考えたところで。

 

 ――森の方向から、轟音が鳴り響いた。

 

「なっ……!?」

 

 地面が、かすかに震える。

 遠くで、何かが崩れる音。

 

「なに、今の……!」

 

 酒場の中からも、悲鳴が上がった。

 

「魔物か!?」「森の方からだ!」

 

 村人たちがざわめき、

 誰かが鐘を鳴らす音が聞こえる。

 

 相馬と女も、足を止めて振り向いた。

 

「……チッ」

 

 相馬が、舌打ちした。

 

 その顔に、

 さっきまでのチャラさとは違う色が浮かぶ。

 

「ごめん、お姉さん」

 

「え?」

 

「約束、守れないかも」

 

 彼は、あっさりと言った。

 

「このまま森に行ったら、

 本当に“忘れられない夜”になるかもしれないけど――

 

 それ、たぶんロマンチックな意味じゃないから」

 

「……そりゃ、そうね」

 

 女は、苦笑した。

 

「勇者サマの仲間なら、

 そっち優先しなさいよ」

 

「恩に着る」

 

 相馬は、にやっと笑って見せた。

 

「代わりに、俺が生きて帰ってきたら、

 また“忘れられない夜”の予約、入れてもいい?」

 

「アンタ、こんなときでも軽いわね!」

 

 女の笑い声が、少しだけ震えている。

 

 それでも――彼女は頷いた。

 

「生きて帰ってきたら、そのとき考えてあげる」

 

「オッケー」

 

 それを聞いて、相馬は踵を返した。

 

 村の方へ。

 

 レオナの方へ。

 

◇ ◇ ◇

 

「レオナ!! ダイたちは!?」

 

 駆け寄ってきた相馬に、

 レオナは一瞬、何も言えなかった。

 

 さっきまで、女と森へ向かおうとしていた背中。

 今は、まっすぐ戦場へ向き直っている。

 

 複雑な感情が、一瞬で喉を塞いだ。

 

「ダイとポップは、もう武器取りに戻ってるわ」

 

 どうにか声を絞り出す。

 

「村長の家に、避難の指示を――」

 

「後でまとめてやろう」

 

 相馬は、短く言った。

 

「先に“音の主”を押さえないと、

 村がパニックで崩壊する」

 

「……そうね」

 

 レオナは頷く。

 

 その顔を、相馬がふと覗き込んだ。

 

 月明かりの下。

 さっきまで女を誘っていた男の瞳が、

 今はちゃんと「戦う目」になっている。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+安堵+まだ嫉妬)】

『女の人と行きかけてたのに、

 ちゃんとこっちに戻ってきてくれるの、

 悔しいくらい嬉しい……

 そんな目で“戦いに行く”って言われたら、

 やっぱり好きって思っちゃう……』

 

 数字は動かない。

 でも、胸の中の何かは、また形を変えた。

 

「行くわよ、危険因子」

 

 レオナは、杖を握りしめる。

 

「今度は、森で“忘れられない夜”を作りましょう。

 村が無事だったって意味でね」

 

「了解、王女様」

 

 相馬は笑い、

 ふたりで酒場を飛び出した。

 

 その背中を、酒場の女が見送る。

 

「……ホント、変な人に惚れちゃったわね、あの王女様」

 

 女は、レオナの頭上に浮かぶ真っ赤な「260/280」を見上げて、

 ちょっとだけ苦笑した。

 

 ワンナイトの誘いは、たしかに成功していた。

 あと数分、森への道を歩いていたら――

 本気で「忘れられない夜」になっていたかもしれない。

 

 それが、戦いの音で中断されたのもまた事実。

 

 けれど、レオナにとっては十分だった。

 

(この人、本気でそういうことできるんだって、

 目の前で見ちゃった)

 

 その事実が、

 彼女の「好き」に、新しい棘と、

 新しい重さを加えていく。

 

 そしてその「好き」を抱えたまま、

 王女と勇者候補と危険因子は、

 獣王クロコダインの待つ森の方角へと駆け出していった。

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