オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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21話 前哨戦

 ロモス北の森から響いた轟音は、村の空気を一瞬で変えた。

 

 犬が吠え、子どもが泣き、

 大人たちの顔から血の気が引いていく。

 

「魔物だ!」「森の方角だ!」

 

「全員、家に入って戸を閉めて!」

 

 レオナが即座に怒鳴った。

 

 王女の声は、この小さな村でも不思議とよく通る。

 村長もすぐにそれに続いた。

 

「子どもを中に入れろ! 男は武器を持って集会所に!

 女衆は中で傷の手当ての準備を!」

 

「ダイとポップは?」

 

 相馬が短く問う。

 

「もう宿から武器取りに走ってるわ!」

 

「なら――」

 

 彼は、ちらりと森の方を見やる。

 

「先に“様子見”行こうか、王女様」

 

「行くわよ、危険因子!」

 

 レオナは杖を握りしめ、

 二人で村の外れへ駆け出した。

 

◇ ◇ ◇

 

 村の北側。

 

 畑と木立の境目あたりで、

 すでに戦いは始まりかけていた。

 

 森の入口から、

 武器を持ったオークやリザードマンがわらわらと押し寄せてくる。

 

「ギギギ……!」

 

「人間どもを蹂躙しろ…!」

 

 村の若者たちが必死に抵抗しているが、

 数も力も段違いだ。

 

「くそっ!」

 

 一人の青年が、リザードマンに押し込まれて膝をついた。

 

「ベギラマ!!」

 

 そこへ、鋭い炎の刃が飛ぶ。

 リザードマンの武器を弾き飛ばし、その体勢を崩した。

 

 相馬だった。

 

「おっと、レディの前であんまりカッコ悪いとこ見せんなよ?」

 

「れ、レディって誰のことだよ!」

 

 青年が叫ぶ横で――

 

「フバーハ!」

 

 レオナの防御魔法が、

 矢や火の粉から村人たちの身体を包み込む。

 

 風が渦巻き、熱を和らげる。

 

「戦える人は後ろへ下がって!

 ここから先は、わたしたちが前に出るわ!」

 

 指揮官モードの声。

 でも、その視界の端には、やっぱり相馬の横顔が映る。

 

 炎の中で魔法を撃つ姿。

 真面目な目。

 

 ――顔イベント。

 

 胸の奥が、また「ズギューン!!」と打ち抜かれた。

 

【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】

『やっぱり、戦ってるときの顔が、一番好き……

 真面目な目で魔法撃ってる姿、何回見ても心臓に悪い……しゅき……』

 

【レオナ→相馬 260 → 262/280】

 

(この状況で増えないで……!)

 

 自分の心臓にツッコみつつ、

 レオナはさらに前へ進んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

「ギャオォォッ!!」

 

 畑の奥から、巨大な影が現れた。

 

 虎のような体躯に、

 刃のような牙を持つ獣。

 

 バトルレックス――

 ドラゴンの血を引いた、獰猛な魔物だ。

 

「まずいわね……!」

 

 レオナが舌打ちする。

 

「村の中まで入ったら、被害が出るわ」

 

「じゃ、ここで止めるしかないな」

 

 相馬が、さらっと言う。

 

「ダイたちが来るまでの前座としては、ちょっと重いけど」

 

「前座って言うな!」

 

 そう言いつつ――

 彼は一歩前に出た。

 

「おいで、でっかいの」

 

 わざと挑発する声。

 

 バトルレックスの目が、ぎらりと光った。

 次の瞬間、巨体が突進してくる。

 

「レオナ、後ろ!」

 

「分かってるわ!」

 

 レオナはすぐさま下がり――

 その瞬間、相馬が地面を蹴った。

 

「ラピッドステップ!」

 

 身体強化系の技――

 魔法というより、技術の延長。

 

 彼の足元が、軽くなったように地面を滑る。

 

「うおぉっ!」

 

 バトルレックスの突進を紙一重で横に流し、

 肩口にベギラマを叩き込む。

 

 爆ぜる火花。

 巨体が悲鳴を上げた。

 

「グギャァァ!!」

 

「今よ!」

 

 レオナが叫ぶ。

 

「村の人たち、下がって!

 相馬、畑の方に誘導して!」

 

「了解~」

 

 相馬は、軽口を叩きながらも、

 きっちり魔物の進路を外へ向けていく。

 

(チャラくても、こういうときの動きは本当に頼りになるのよね……)

 

 思わず、その背中を見つめてしまう。

 

 ――顔は見えない。

 でも、振り返りざまに一瞬こっちを見る目は、やっぱり危険だった。

 

 ――顔イベント(振り返り一瞬)。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『“任せろ”って目でこっち見るの、ずるい……

 背中だけでも好きなのに、顔見たら余計に好きになる……』

 

【レオナ→相馬 262 → 264/280】

 

◇ ◇ ◇

 

 そこへ、遅れて二人の少年が駆けつけた。

 

「レオナ! 相馬!」

 

 ダイとポップ。

 

「遅くなっちゃった!」

 

「なんかでっけぇのいるじゃねーか!!」

 

「説明は後! ダイ、正面から止めて!」

 

「うん!」

 

 ダイが木剣を構え、

 バトルレックスの前に立つ。

 

「うおおおお!!」

 

 竜の紋章が、うっすらと額に反応する。

 木剣が、魔物の爪を受け止め――

 そのまま押し返した。

 

「すげ……」

 

 村の青年たちが、思わず息を呑む。

 

「ポップ!」

 

「分かってるって!」

 

 ポップが前へ出て、杖を構える。

 

「メラゾーマ――

 ……は無理だから、メラミ!!」

 

 中級の火球が、バトルレックスの脇腹に炸裂した。

 炎が鱗を焦がし、巨体がよろめく。

 

「よし、効いてる!」

 

「ダイ、今のうちに体勢を!」

 

「うん!」

 

 連携が、はまった。

 

 レオナは、その光景を見ながらも、

 視線を横に滑らせる。

 

 相馬は、いつの間にか村人たちの盾になっていた。

 

 魔物が投げた石。

 散ってきた破片。

 それらを、バギや小さな防御呪文で捌いている。

 

(前線でも後方でも、

 ちゃんと“足りないところ”を補う動きをする……)

 

 王女として評価したい部分と、

 レオナとして見てしまう部分が、胸の中でぐちゃぐちゃになる。

 

 ――顔イベント(横顔凝視)。

 

【電子音声:レオナ(甘々+誇らしさ)】

『ほんと、危険因子のくせに、

 一番“支えてくれてる”のがあなたなの、ずるい……好き……』

 

【レオナ→相馬 264 → 266/280】

 

◇ ◇ ◇

 

「グギャァァァ!!」

 

 バトルレックスが、

 最後の足掻きのように大きく吠えた。

 

 口の中に、赤黒い光が集まっていく。

 

「やば、ブレス来る!」

 

 ポップが叫ぶ。

 

「ダイ、下がれ!」

 

「でも――!」

 

「ダイ!!」

 

 レオナの声が、鋭く飛ぶ。

 

 迷いながらも、ダイは一歩下がった。

 その瞬間――

 

「じゃ、代わりに俺が」

 

 相馬が前に出た。

 

「危険因子、行きます」

 

「ちょっと!?」

 

 レオナの心臓が止まりかける。

 

(何やってるのよ!!)

 

 バトルレックスの口から、

 灼熱のブレスが吐き出された。

 

「フバーハ!」

 

 レオナが、全力で防御魔法を重ねる。

 

 だが、それだけでは足りない。

 

「ベギラマ・シールド!」

 

 相馬が、ベギラマを“壁”のように展開した。

 炎と炎がぶつかり合い、

 ブレスの威力を削いでいく。

 

「くっそ、熱っつ!!」

 

 相馬の腕が焦げる匂いがした。

 

「相馬!」

 

 反射的に、レオナの足が前に出る。

 

 ――顔イベント(火の中で振り返る顔)。

 

【電子音声:レオナ(甘々+恐怖)】

『そんな顔で、そんなことしないで……

 また勝手に死のうとしたら、本気で怒る……

 生きて。生きて。生きて……』

 

【レオナ→相馬 266 → 268/280】

 

「死なねぇって!」

 

 相馬が、炎の中で笑う。

 

「尻尾剥ぐ前に死んだら、

 システムのやつに怒られるだろ?」

 

「システムなんかどうでもいいのよ!!」

 

 レオナは、叫ばずにいられなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 ブレスが収まり、

 バトルレックスの体勢が大きく崩れる。

 

「ダイ!」

 

「うん!」

 

 ダイが、一気に前へ飛び込んだ。

 

「うおおおお!!」

 

 木剣が、竜の紋章の力を借りて輝き――

 バトルレックスの首筋に、強烈な一撃を叩き込む。

 

 巨体が、地面を揺らして崩れ落ちた。

 

「やった……!」

 

 村人たちから、安堵の声が漏れる。

 

 レオナも、胸をなでおろした。

 

(終わった……)

 

「――いや」

 

 相馬は、まだ前を見ていた。

 

「これは、前座だろうな」

 

 森の奥に、気配がある。

 

 ただの魔物とは違う。

 重く、鋭く、獣の匂い。

 

「グオオオオオオオオ……」

 

 低い咆哮が、

 森の木々を震わせた。

 

 獣王クロコダイン。

 

 その存在が、

 確かにそこまで迫っていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 戦いの後。

 

 村人たちは、倒れたバトルレックスを遠巻きに眺めていた。

 

「と、とんでもねぇ……」

 

「こいつ一匹で村がやられてたかもしれねぇのに……」

 

「勇者サマたち、すげぇ……!」

 

 尊敬と畏怖が入り交じった視線が、

 ダイたちに注がれる。

 

「えへへ……」

 

 ダイが、ちょっとだけ照れた。

 

「オレひとりじゃなかったし。

 レオナと、ポップと、相馬もいたから」

 

【ダイ→レオナ 72 → 74】

【ダイ→相馬 73 → 75】

 

 レオナは、その言葉を聞いて、

 少しだけ胸が温かくなった。

 

(そう。わたしたちは“みんな”で戦ってる)

 

 その「みんな」の中に、

 相馬がしっかり入っている現実が、

 嬉しくもあり、怖くもある。

 

 視線を横に滑らせると――

 相馬は、自分の焦げた袖をひょいっとめくっていた。

 

「お、思ったより焼けてないな」

 

「どこ見てるのよ!」

 

 レオナは駆け寄って、腕を掴んだ。

 

「ちょっと、火傷してるじゃない!」

 

「まぁ、このくらいは勲章?」

 

「勲章じゃない!」

 

 思わず、声が裏返る。

 

 すぐ目の前に、相馬の顔。

 真面目に心配されて、照れたように笑っている表情。

 

 ――顔イベント(超至近距離)。

 

【電子音声:レオナ(甘々MAX寄り)】

『近い……!

 こんな距離で笑いかけられたら、

 怒るに怒れない……

 本当は、“よく頑張ったね”って抱きしめてあげたい……好き……』

 

【レオナ→相馬 268 → 270/280】

 

 今日の最大上昇量、ほぼ使い切った実感。

 

(もう……これ以上上がったら、本当に壊れるわ)

 

 でも、視線を逸らせない。

 

「……ありがとな、レオナ」

 

 相馬が、ふっと真面目な声を出した。

 

「フバーハ、助かった。

 あれなかったら、多分ちょっとヤバかった」

 

「当然でしょう」

 

 レオナは、わざとそっぽを向く。

 

「勝手に死なないって約束したんだから、

 その約束守らせるのも、わたしの仕事よ」

 

「お、なんかカッコいいこと言った」

 

「うるさい!」

 

 それでも、

 口元はほんの少しだけ緩んでいた。

 

◇ ◇ ◇

 

 村人たちの応急処置と、簡単な復旧が終わる頃には、

 すっかり日が暮れていた。

 

「今日は、この村に泊めてもらいましょう」

 

 レオナが決める。

 

「明日、森に入る前に、

 体力と装備を整えておきたいし」

 

「そだな」

 

 相馬も頷く。

 

「酒場のお姉さんには、

 “忘れられない夜”の約束延期って伝えとくわ」

 

「延期するつもりなの!?!?」

 

 レオナがもう一度悲鳴を上げる。

 

「生きて帰ってきたらさ。

 それはそれで、“生きてる祝い”もしなきゃだろ?」

 

「その発想がもうチャラいのよ!!」

 

 頭を抱えながらも――

 レオナは、酒場の方角をちらりと見た。

 

 さっきの女は、

 入口の陰からこちらを見ていた。

 

 視線が一瞬合う。

 

 女は、

 「ちゃんと連れて帰ってきなさいよ」と言わんばかりの顔で、

 レオナに向かって小さく頷いた。

 

 レオナも、同じように頷き返す。

 

(……あの人はあの人で、

 彼の“今の姿”を好きになった人)

 

 それが、ちょっとだけ悔しくて、

 ちょっとだけ心強かった。

 

◇ ◇ ◇

 

 夜。

 

 レオナは、宿の天井を見上げていた。

 

(クロコダイン。

 尻尾の皮。

 ウイルス。

 チャラ相馬。

 元の相馬)

 

 全部ごちゃ混ぜになって、

 頭の中でぐるぐる回る。

 

「……好きって、ほんと面倒ね」

 

 ぽつりと、誰もいない部屋で呟いた。

 

 好感度パネルは、相変わらず真っ赤な数字を灯している。

 

【レオナ→相馬 270/280】

 

 一話あたりの上限は、ぴったり使い切った。

 

 でも――それでも、

 この数字では表しきれないくらい、

 彼女の「好き」は形を変え続けていた。

 

(チャラくなっても。

 女の人と森に行こうとしても。

 それでも戻ってきて、“一緒に戦う”って言ってくれるなら――)

 

 その全部ごと、

 受け止める覚悟を決めないといけない。

 

「負けないわよ、獣王……」

 

 レオナは、目を閉じる。

 

「あなたの尻尾、

 ちゃんと剥いでポーション作って、

 この危険因子、ちゃんと“飼い直す”んだから」

 

 自分で言っておいて、

 少し笑ってしまった。

 

 明日は、森で獣王と、尻尾と、

 そして彼の“ウイルス”と真正面から向き合う日になる。

 

 好感度システムも、恋愛も、ウイルスも、獣王も。

 全部ひっくるめて――

 

 王女と勇者と危険因子の物語は、

 さらにややこしく、さらに面白く、

 ロモスの北の森へと進んでいくのだった。

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