オーバーヒート(AI小説) 作:匿名希望
ロモス北の森から響いた轟音は、村の空気を一瞬で変えた。
犬が吠え、子どもが泣き、
大人たちの顔から血の気が引いていく。
「魔物だ!」「森の方角だ!」
「全員、家に入って戸を閉めて!」
レオナが即座に怒鳴った。
王女の声は、この小さな村でも不思議とよく通る。
村長もすぐにそれに続いた。
「子どもを中に入れろ! 男は武器を持って集会所に!
女衆は中で傷の手当ての準備を!」
「ダイとポップは?」
相馬が短く問う。
「もう宿から武器取りに走ってるわ!」
「なら――」
彼は、ちらりと森の方を見やる。
「先に“様子見”行こうか、王女様」
「行くわよ、危険因子!」
レオナは杖を握りしめ、
二人で村の外れへ駆け出した。
◇ ◇ ◇
村の北側。
畑と木立の境目あたりで、
すでに戦いは始まりかけていた。
森の入口から、
武器を持ったオークやリザードマンがわらわらと押し寄せてくる。
「ギギギ……!」
「人間どもを蹂躙しろ…!」
村の若者たちが必死に抵抗しているが、
数も力も段違いだ。
「くそっ!」
一人の青年が、リザードマンに押し込まれて膝をついた。
「ベギラマ!!」
そこへ、鋭い炎の刃が飛ぶ。
リザードマンの武器を弾き飛ばし、その体勢を崩した。
相馬だった。
「おっと、レディの前であんまりカッコ悪いとこ見せんなよ?」
「れ、レディって誰のことだよ!」
青年が叫ぶ横で――
「フバーハ!」
レオナの防御魔法が、
矢や火の粉から村人たちの身体を包み込む。
風が渦巻き、熱を和らげる。
「戦える人は後ろへ下がって!
ここから先は、わたしたちが前に出るわ!」
指揮官モードの声。
でも、その視界の端には、やっぱり相馬の横顔が映る。
炎の中で魔法を撃つ姿。
真面目な目。
――顔イベント。
胸の奥が、また「ズギューン!!」と打ち抜かれた。
【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】
『やっぱり、戦ってるときの顔が、一番好き……
真面目な目で魔法撃ってる姿、何回見ても心臓に悪い……しゅき……』
【レオナ→相馬 260 → 262/280】
(この状況で増えないで……!)
自分の心臓にツッコみつつ、
レオナはさらに前へ進んだ。
◇ ◇ ◇
「ギャオォォッ!!」
畑の奥から、巨大な影が現れた。
虎のような体躯に、
刃のような牙を持つ獣。
バトルレックス――
ドラゴンの血を引いた、獰猛な魔物だ。
「まずいわね……!」
レオナが舌打ちする。
「村の中まで入ったら、被害が出るわ」
「じゃ、ここで止めるしかないな」
相馬が、さらっと言う。
「ダイたちが来るまでの前座としては、ちょっと重いけど」
「前座って言うな!」
そう言いつつ――
彼は一歩前に出た。
「おいで、でっかいの」
わざと挑発する声。
バトルレックスの目が、ぎらりと光った。
次の瞬間、巨体が突進してくる。
「レオナ、後ろ!」
「分かってるわ!」
レオナはすぐさま下がり――
その瞬間、相馬が地面を蹴った。
「ラピッドステップ!」
身体強化系の技――
魔法というより、技術の延長。
彼の足元が、軽くなったように地面を滑る。
「うおぉっ!」
バトルレックスの突進を紙一重で横に流し、
肩口にベギラマを叩き込む。
爆ぜる火花。
巨体が悲鳴を上げた。
「グギャァァ!!」
「今よ!」
レオナが叫ぶ。
「村の人たち、下がって!
相馬、畑の方に誘導して!」
「了解~」
相馬は、軽口を叩きながらも、
きっちり魔物の進路を外へ向けていく。
(チャラくても、こういうときの動きは本当に頼りになるのよね……)
思わず、その背中を見つめてしまう。
――顔は見えない。
でも、振り返りざまに一瞬こっちを見る目は、やっぱり危険だった。
――顔イベント(振り返り一瞬)。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『“任せろ”って目でこっち見るの、ずるい……
背中だけでも好きなのに、顔見たら余計に好きになる……』
【レオナ→相馬 262 → 264/280】
◇ ◇ ◇
そこへ、遅れて二人の少年が駆けつけた。
「レオナ! 相馬!」
ダイとポップ。
「遅くなっちゃった!」
「なんかでっけぇのいるじゃねーか!!」
「説明は後! ダイ、正面から止めて!」
「うん!」
ダイが木剣を構え、
バトルレックスの前に立つ。
「うおおおお!!」
竜の紋章が、うっすらと額に反応する。
木剣が、魔物の爪を受け止め――
そのまま押し返した。
「すげ……」
村の青年たちが、思わず息を呑む。
「ポップ!」
「分かってるって!」
ポップが前へ出て、杖を構える。
「メラゾーマ――
……は無理だから、メラミ!!」
中級の火球が、バトルレックスの脇腹に炸裂した。
炎が鱗を焦がし、巨体がよろめく。
「よし、効いてる!」
「ダイ、今のうちに体勢を!」
「うん!」
連携が、はまった。
レオナは、その光景を見ながらも、
視線を横に滑らせる。
相馬は、いつの間にか村人たちの盾になっていた。
魔物が投げた石。
散ってきた破片。
それらを、バギや小さな防御呪文で捌いている。
(前線でも後方でも、
ちゃんと“足りないところ”を補う動きをする……)
王女として評価したい部分と、
レオナとして見てしまう部分が、胸の中でぐちゃぐちゃになる。
――顔イベント(横顔凝視)。
【電子音声:レオナ(甘々+誇らしさ)】
『ほんと、危険因子のくせに、
一番“支えてくれてる”のがあなたなの、ずるい……好き……』
【レオナ→相馬 264 → 266/280】
◇ ◇ ◇
「グギャァァァ!!」
バトルレックスが、
最後の足掻きのように大きく吠えた。
口の中に、赤黒い光が集まっていく。
「やば、ブレス来る!」
ポップが叫ぶ。
「ダイ、下がれ!」
「でも――!」
「ダイ!!」
レオナの声が、鋭く飛ぶ。
迷いながらも、ダイは一歩下がった。
その瞬間――
「じゃ、代わりに俺が」
相馬が前に出た。
「危険因子、行きます」
「ちょっと!?」
レオナの心臓が止まりかける。
(何やってるのよ!!)
バトルレックスの口から、
灼熱のブレスが吐き出された。
「フバーハ!」
レオナが、全力で防御魔法を重ねる。
だが、それだけでは足りない。
「ベギラマ・シールド!」
相馬が、ベギラマを“壁”のように展開した。
炎と炎がぶつかり合い、
ブレスの威力を削いでいく。
「くっそ、熱っつ!!」
相馬の腕が焦げる匂いがした。
「相馬!」
反射的に、レオナの足が前に出る。
――顔イベント(火の中で振り返る顔)。
【電子音声:レオナ(甘々+恐怖)】
『そんな顔で、そんなことしないで……
また勝手に死のうとしたら、本気で怒る……
生きて。生きて。生きて……』
【レオナ→相馬 266 → 268/280】
「死なねぇって!」
相馬が、炎の中で笑う。
「尻尾剥ぐ前に死んだら、
システムのやつに怒られるだろ?」
「システムなんかどうでもいいのよ!!」
レオナは、叫ばずにいられなかった。
◇ ◇ ◇
ブレスが収まり、
バトルレックスの体勢が大きく崩れる。
「ダイ!」
「うん!」
ダイが、一気に前へ飛び込んだ。
「うおおおお!!」
木剣が、竜の紋章の力を借りて輝き――
バトルレックスの首筋に、強烈な一撃を叩き込む。
巨体が、地面を揺らして崩れ落ちた。
「やった……!」
村人たちから、安堵の声が漏れる。
レオナも、胸をなでおろした。
(終わった……)
「――いや」
相馬は、まだ前を見ていた。
「これは、前座だろうな」
森の奥に、気配がある。
ただの魔物とは違う。
重く、鋭く、獣の匂い。
「グオオオオオオオオ……」
低い咆哮が、
森の木々を震わせた。
獣王クロコダイン。
その存在が、
確かにそこまで迫っていた。
◇ ◇ ◇
戦いの後。
村人たちは、倒れたバトルレックスを遠巻きに眺めていた。
「と、とんでもねぇ……」
「こいつ一匹で村がやられてたかもしれねぇのに……」
「勇者サマたち、すげぇ……!」
尊敬と畏怖が入り交じった視線が、
ダイたちに注がれる。
「えへへ……」
ダイが、ちょっとだけ照れた。
「オレひとりじゃなかったし。
レオナと、ポップと、相馬もいたから」
【ダイ→レオナ 72 → 74】
【ダイ→相馬 73 → 75】
レオナは、その言葉を聞いて、
少しだけ胸が温かくなった。
(そう。わたしたちは“みんな”で戦ってる)
その「みんな」の中に、
相馬がしっかり入っている現実が、
嬉しくもあり、怖くもある。
視線を横に滑らせると――
相馬は、自分の焦げた袖をひょいっとめくっていた。
「お、思ったより焼けてないな」
「どこ見てるのよ!」
レオナは駆け寄って、腕を掴んだ。
「ちょっと、火傷してるじゃない!」
「まぁ、このくらいは勲章?」
「勲章じゃない!」
思わず、声が裏返る。
すぐ目の前に、相馬の顔。
真面目に心配されて、照れたように笑っている表情。
――顔イベント(超至近距離)。
【電子音声:レオナ(甘々MAX寄り)】
『近い……!
こんな距離で笑いかけられたら、
怒るに怒れない……
本当は、“よく頑張ったね”って抱きしめてあげたい……好き……』
【レオナ→相馬 268 → 270/280】
今日の最大上昇量、ほぼ使い切った実感。
(もう……これ以上上がったら、本当に壊れるわ)
でも、視線を逸らせない。
「……ありがとな、レオナ」
相馬が、ふっと真面目な声を出した。
「フバーハ、助かった。
あれなかったら、多分ちょっとヤバかった」
「当然でしょう」
レオナは、わざとそっぽを向く。
「勝手に死なないって約束したんだから、
その約束守らせるのも、わたしの仕事よ」
「お、なんかカッコいいこと言った」
「うるさい!」
それでも、
口元はほんの少しだけ緩んでいた。
◇ ◇ ◇
村人たちの応急処置と、簡単な復旧が終わる頃には、
すっかり日が暮れていた。
「今日は、この村に泊めてもらいましょう」
レオナが決める。
「明日、森に入る前に、
体力と装備を整えておきたいし」
「そだな」
相馬も頷く。
「酒場のお姉さんには、
“忘れられない夜”の約束延期って伝えとくわ」
「延期するつもりなの!?!?」
レオナがもう一度悲鳴を上げる。
「生きて帰ってきたらさ。
それはそれで、“生きてる祝い”もしなきゃだろ?」
「その発想がもうチャラいのよ!!」
頭を抱えながらも――
レオナは、酒場の方角をちらりと見た。
さっきの女は、
入口の陰からこちらを見ていた。
視線が一瞬合う。
女は、
「ちゃんと連れて帰ってきなさいよ」と言わんばかりの顔で、
レオナに向かって小さく頷いた。
レオナも、同じように頷き返す。
(……あの人はあの人で、
彼の“今の姿”を好きになった人)
それが、ちょっとだけ悔しくて、
ちょっとだけ心強かった。
◇ ◇ ◇
夜。
レオナは、宿の天井を見上げていた。
(クロコダイン。
尻尾の皮。
ウイルス。
チャラ相馬。
元の相馬)
全部ごちゃ混ぜになって、
頭の中でぐるぐる回る。
「……好きって、ほんと面倒ね」
ぽつりと、誰もいない部屋で呟いた。
好感度パネルは、相変わらず真っ赤な数字を灯している。
【レオナ→相馬 270/280】
一話あたりの上限は、ぴったり使い切った。
でも――それでも、
この数字では表しきれないくらい、
彼女の「好き」は形を変え続けていた。
(チャラくなっても。
女の人と森に行こうとしても。
それでも戻ってきて、“一緒に戦う”って言ってくれるなら――)
その全部ごと、
受け止める覚悟を決めないといけない。
「負けないわよ、獣王……」
レオナは、目を閉じる。
「あなたの尻尾、
ちゃんと剥いでポーション作って、
この危険因子、ちゃんと“飼い直す”んだから」
自分で言っておいて、
少し笑ってしまった。
明日は、森で獣王と、尻尾と、
そして彼の“ウイルス”と真正面から向き合う日になる。
好感度システムも、恋愛も、ウイルスも、獣王も。
全部ひっくるめて――
王女と勇者と危険因子の物語は、
さらにややこしく、さらに面白く、
ロモスの北の森へと進んでいくのだった。