オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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22話 マァム初登場

 ロモス北の村に、朝が来た。

 

 昨夜暴れていたバトルレックスは、今はただの巨大な肉の塊になり、村の外れで布をかけられている。

 畑にはまだ爪あとが残っているが、人の声が戻り始めていた。

 

「ふぁぁ……」

 

 宿の二階。

 レオナは伸びをしながら上体を起こし、いつものクセで自分の頭上を見上げた。

 

【レオナ】

 相馬 270/280

 

(……おはよう、バカみたいな数字)

 

 自分で自分にツッコむところから一日が始まるのも、だいぶ慣れてきてしまった。

 

(でも、昨日はさすがに仕方ないわよね)

 

 バトルレックスの前に出た相馬。

 炎の壁を張ってブレスを受け止めた背中。

 

(あんなの見せられたら、顔抜きにしても上がるわよ……)

 

 顔は顔で、別枠だけれど。

 

◇ ◇ ◇

 

 階段を降りると、宿の食堂には、もう三人分の頭が見えていた。

 

「おはよう、レオナ!」

 

 ダイがパンをかじりながら手を振る。

 

「おう、お姫様。今日も数字真っ赤だな」

 

 ポップが、いつものように悪ノリ半分で指さしてくる。

 

【ダイ】

 レオナ 74/150

 相馬  75/150

 

【ポップ】

 レオナ 52/150

 相馬  48/150

 

(そこまで逐一見ないでほしいのだけれど)

 

 レオナはため息を飲み込みつつ、視線をもう一人へ向けた。

 

 ――相馬。

 

 焼きたてのパンを片手に、村の子どもと何やら話している。

 昨夜の軽口も、炎の中での真剣さも、全部含めた“今の顔”。

 

 視界に入った瞬間――

 

 ズギューン!!

 

 胸の奥で、いつもの音が鳴る。

 

【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】

『朝からその顔で子どもと話さないで……

 いい人そうに見えるの、ダメージでかい……しゅき……』

 

「おおっと、さっそく来たな」

 

 ポップが苦笑する。

 

「慣れてきた自分が怖ぇ」

 

「慣れないで!!」

 

 レオナは、パンを手にしながら即座に抗議した。

 

【レオナ→相馬 270 → 272/280】

 

(……今日も順調に上がっているわね、わたしの胃痛要因が)

 

「おはよー、王女様」

 

 相馬が、こちらを振り向いた。

 

 軽い笑顔。

 けれど、どこか昨日より“板についている”軽さだった。

 

「今日もかわいいな。よく眠れた?」

 

「寝たわよ。あなたのおかげで変な夢は見なかったわ」

 

「それ、褒めてんの? 貶してんの?」

 

「半々くらいね!」

 

 口では軽口を返しつつ――

 レオナは、相馬の頭上の数字をちらっと見た。

 

【相馬】

 レオナ 94/150

 宿の看板娘 50/150

 村の酒場女 50/150

 

(……昨夜の“忘れられない夜要員”と、しっかり並んでるのが腹立つわね)

 

 視線に気づいたのか、相馬がニヤッと笑った。

 

「お、もしかして嫉妬?」

 

「違う!!」

 

◇ ◇ ◇

 

 ひと通り朝食を終えたあと、村長との簡単な打ち合わせが行われた。

 

「昨夜は、本当に助かりました」

 

 年配の男が、深々と頭を下げる。

 

「森からの魔物は、ここ数日で急に増えましてな。

 バトルレックスまで出てくるとは……」

 

「原因は、獣王クロコダインでしょうね」

 

 レオナが答える。

 

「森の奥に陣取っているって話だったけれど、

 配下をここまで伸ばしているとは」

 

「今日のうちに、森の様子を見に行く」

 

 相馬が、さらっと口を挟んだ。

 

「バトルレックスが前座ってことは、

 本番の獣王さんがそろそろ“ご挨拶”に来る頃だろうし」

 

「物騒な、ご挨拶ね」

 

 レオナは眉をひそめる。

 

「でも、放ってはおけないわ。

 この村も、ロモスも」

 

「オレたち、行ってくるよ!」

 

 ダイが元気よく手を挙げた。

 

「絶対、負けない!」

 

【ダイ→レオナ 74 → 76】

【ダイ→相馬 75 → 77】

 

(ほんと、まっすぐで眩しいわ)

 

 レオナが微笑んだ、そのとき――

 

「――じゃ、その前に一つ、確認」

 

 相馬が、ふと真面目な声を出した。

 

「クロコダインの尻尾の皮。

 アレ、どうする?」

 

 レオナの胸が、きゅっと詰まる。

 

(……ウイルスの治療)

 

 好感度システムからの「推奨対処法」。

 それを聞いて以来、レオナはずっとそれを前提に話を進めてきた。

 

「どうする、って……

 治すために、取りに行くんでしょう?」

 

「うーん」

 

 相馬は、曖昧に笑って頭をかいた。

 

「正直さ」

 

 少しだけ視線を横に逸らす。

 

「“この感じ”、わりと楽しいんだよな」

 

「………は?」

 

 レオナの思考が、一瞬止まった。

 

「いやさ、前の俺も嫌いじゃないんだけど?」

 

 相馬は、パンの欠片を指で摘みながら続ける。

 

「今の方が、なんつーか……

 やりたいと思ったこと、すぐやれるっていうか。

 

 “気を使って黙ってる”のが減って、

 そのぶん世界が騒がしくてさ。

 

 ……これ、これでアリじゃね? って」

 

「アリじゃね? じゃない!!」

 

 言葉が反射で飛び出した。

 

「あなた、自分の性格がウイルスにいじられてるのよ!?

 それを“楽しいからこのままでいいかも”って、どういう思考回路なの!?」

 

「いや、元の俺も中身はそんなに変わってねーからさ」

 

 肩をすくめる。

 

「理性で抑えてたブレーキが、ちょっと緩んでるだけ?

 だから“元に戻さなきゃ”ってほどじゃないかなーって」

 

「“ほどじゃない”じゃない!!」

 

 レオナは、ぐっとテーブルを叩いた。

 

「わたしが戻したいの!

 ……チャラチャラ女の人を口説きながら炎の中に突っ込んでいく相馬より、

 チャラチャラしてないのに炎の中に突っ込んでいく相馬の方がいいに決まってるでしょ!!」

 

「評価そこかよ」

 

 ポップが思わず吹き出した。

 

「どっちにしろ突っ込んでくのは変わんねーのな」

 

「うるさい!」

 

 レオナは真っ赤になりつつも、相馬を睨みつける。

 

「とにかく、治療法があるなら試す。

 それが王女としての判断よ」

 

「……はいはい、分かってますよ、殿下」

 

 相馬は、おどけて頭を下げた。

 

「“絶対治る保証があるなら”な」

 

 最後の一言は、小さく。

 

 その曖昧さに、レオナの胸の奥がざわりとした。

 

◇ ◇ ◇

 

 昼前、一行は村を出て森へ向かった。

 

 北へ伸びる山道は、だんだんと木々が濃くなっていく。

 鳥の声は少なく、代わりに時折、獣の唸りが遠くで聞こえた。

 

「なんか、空気が重くなってきたな……」

 

 ポップが肩をすくめる。

 

「魔物の匂い、ってやつ?」

 

「ポップ、匂いとか分かるの?」

 

「気配的なアレだよ、アレ!」

 

 適当なことを言い合いながら進んでいた、そのときだ。

 

「た、助けてぇーー!!」

 

 森の奥から、悲鳴が聞こえた。

 

「今の……!」

 

 ダイが目を見開く。

 

「人の声!」

 

「行くわよ!」

 

 レオナが叫び、一行は一気に駆け出した。

 

◇ ◇ ◇

 

 木々の切れ間の小さな広場。

 

 そこでは、数人の村人と数体の魔物が乱戦状態になっていた。

 

「くそっ、囲まれてる!」

 

「逃げろ! 森の外へ――」

 

 オーク、リザードマン、小型のドラゴン。

 村の男たちは棍棒や斧で必死に応戦しているが、多勢に無勢だ。

 

「ダイ! 正面から!」

 

「うん!」

 

 ダイが飛び出し、木剣でオークの腕を弾いた。

 

「メラミ!」

 

 ポップの火球が、敵の足元を爆ぜさせる。

 

「フバーハ!」

 

 レオナの防御魔法が、村人たちを風の膜で守った。

 

 そのとき――

 反対側の木陰から、鋭い破裂音が響いた。

 

 パンッ!!

 

「ぎゃあっ!」

 

 リザードマンの肩に、小さな光弾が突き刺さる。

 魔法と物理が混ざったような弾丸が、正確に急所を撃ち抜いていた。

 

「なに!?」

 

 ポップが振り向く。

 

 木の陰から飛び出してきたのは――

 ピンクの僧服に、短いマント。

 手には、銃のような奇妙な武器。

 

「魔弾銃……?」

 

 レオナが呟く。

 

「ホイミ!」

 

 彼女――少女は、倒れかけた村人の傷を一瞬で癒やしつつ、

 魔弾銃をくるっと回して次の弾を込めた。

 

「戦える人は下がって! あとは私たちに任せて!」

 

 よく通る声。

 きっぱりした口調。

 

「なんだあの子……」

 

 ポップが目を丸くしたその横で――

 

 相馬は、一瞬で固まった。

 

(……おっと)

 

 視界に飛び込んできたのは、

 キリッとした目元と、健康的なシルエット。

 

(なるほど、これがマァムか)

 

 名前も知らないのに、

 なぜかそう思った。

 

【???(僧服の少女)】

 ダイ 58/150

 ポップ 40/150

 相馬 ――

 

 次の瞬間、彼女の視線が、ふとこちらに向いた。

 

 その目が、“異国の顔立ち”を捉える。

 

 ――顔イベント(マァム側)。

 

 少女の胸が、どくんと跳ねた。

 

(な、にこの顔……)

 

 優しそうなのに、どこか悪いことを考えてそうな目。

 戦場なのに、妙に余裕を感じさせる輪郭。

 

(……顔、めちゃくちゃタイプなんだけど!?)

 

 頬が、一瞬で熱くなる。

 

【マァム】

 相馬 90/150

 ダイ 60/150

 ポップ 42/150

 

(90!?)

 

 レオナが、その数字を見て思わず二度見した。

 

(初対面で!?)

 

◇ ◇ ◇

 

「グギャァァ!!」

 

 残っていた魔物たちが、一斉にこちらへ向かってきた。

 

「話は後!」

 

 僧服の少女――マァムは、魔弾銃を構える。

 

「メラミ弾、装填!」

 

 炎の弾丸が、一直線にオークの胸を撃ち抜いた。

 ダイの木剣がリザードマンを弾き飛ばし、

 ポップのギラが残りをまとめて薙ぎ払う。

 

「すご……」

 

 ダイが、戦いながら感嘆の声を漏らす。

 

「僧侶なのに、あんな戦い方……」

 

「戦う僧侶、ってやつだな」

 

 相馬は、口元をニヤリとさせた。

 

 戦闘は、ものの数分で終わった。

 

 魔物が倒れ、村人たちが安堵の息を吐く。

 

「ありがとう……命拾いしたよ」

 

「いえ、それが私の役目ですから」

 

 マァムは、ホイミをかけながら微笑んだ。

 

 その笑顔に、

 村人たちの好感度が一斉に跳ね上がる。

 

【村男A→マァム 60/150】

【村男B→マァム 55/150】

 

 だが――

 

(……やっぱり、あの顔)

 

 マァムの視線は、どうしても一人の男に向かってしまう。

 

 戦いのあと、

 村人に囲まれてもどこか飄々としている異邦人。

 

 軽そうなのに、

 さっき炎の中に飛び込んだという話を聞いたばかりの相馬。

 

(顔、ストライクすぎる……!)

 

【マァム→相馬 90 → 93/150】

 

◇ ◇ ◇

 

「助かったわ。ありがとう」

 

 レオナが、マァムに一歩近づいて礼を言った。

 

「パプニカの王女、レオナ=パプニカよ。

 こちらは、勇者候補のダイと、魔法使いのポップ」

 

「えっ、王女様!?」

 

 マァムが目を丸くする。

 

「私、マァムって言います。

 デルムリン島近くの村で、僧侶兼戦士をしていて……」

 

 そこで、視線がふと横へ滑る。

 

「で、そっちの――」

 

「はいはい、異国枠」

 

 相馬が手を挙げた。

 

「山田相馬。旅の魔法使い兼、勇者候補のお目付け役。

 あと、最近“危険因子”って呼ばれることが多い」

 

「自分で言うんだそれ……」

 

 ポップが呆れる。

 

「危険因子……?」

 

 マァムは眉をひそめかけたが、

 すぐにそれよりも先に、別の感情が勝ってしまった。

 

(名前も声も、普通なのに……

 顔だけ、ほんとにずるい……)

 

 じっと見てしまう。

 

 相馬も、マァムの顔をまっすぐ見返した。

 

 ――顔イベント(相馬側)。

 

(ほう)

 

 相馬の中で、何かがカチッとハマった。

 

(めちゃくちゃ美人、ってわけじゃないけど……

 真面目そうで、芯の強そうな目。

 “怒ったら怖そう”なタイプ。

 

 あと、母性というか、お姉さん感……)

 

 記憶の奥にある、「説教してくれる女友達」の枠に、

 すっと当てはまる感じ。

 

【相馬】

 レオナ 94/150

 マァム 65/150

 

「……彼女候補、追加だな」

 

 つい、口に出しかけた。

 

「なにブツブツ言ってるのよ」

 

 レオナが睨む。

 

「え、今なんて?」

 

 マァムも首を傾げる。

 

「いやー、なんでもない」

 

 相馬は、あえて軽く笑った。

 

「初対面からこんなこと言うのもアレだけどさ――

 マァム」

 

「え、はい?」

 

「顔、かなりタイプです」

 

「っっ!?」

 

 マァムの耳まで一気に赤くなった。

 

「ちょ、ちょっと、なに言って……!」

 

「率直なのはいいことだろ?」

 

 相馬はさらっと続ける。

 

「戦い方も頼もしいし、

 優しそうだし、

 さっきから村人の子どもたちにも丁寧だし。

 

 ――真面目に“彼女候補”として見ていい?」

 

「なっ……!?!?!」

 

 レオナとポップとダイとマァム、

 四人の声が同時に重なった。

 

【マァム→相馬 93 → 98/150】

 

(え、今の一言で増えるの!?)

 

 レオナが数字を見て頭を抱える。

 

 その頭上では、自分のパネルもちゃっかり動いていた。

 

【レオナ→相馬 272 → 275/280】

 

 ――顔イベント(照れながら告白する顔)。

 

【電子音声:レオナ(甘々+嫉妬)】

『初対面の人に彼女候補って言わないで……

 そんな顔で真面目に褒めないで……

 わたしだけの“好き”でいてほしいのに……しゅき……』

 

「レオナ、声、漏れてる声!!」

 

 ポップが慌ててツッコむ。

 

「知ってる!! 止められないのよ!!」

 

◇ ◇ ◇

 

 ひとしきり騒ぎになったあと、

 とりあえず落ち着いて自己紹介をやり直すことになった。

 

「……とにかく」

 

 マァムは、まだ頬を赤くしながらも咳払いする。

 

「この先の森は、本当に危険よ。

 クロコダインの配下がうろついてるって話も聞いてるし」

 

「だからこそ、行かなきゃならないのよ」

 

 レオナが真剣な顔で答えた。

 

「獣王を放置したままじゃ、

 この村も、ロモスも危険だわ」

 

「だったら――私も一緒に行く」

 

 マァムは、迷いなく言った。

 

「戦える僧侶として、勇者一行に協力する。

 治療もできるし、森の地形にも慣れてるから」

 

「マァム……!」

 

 ダイの目が輝く。

 

【ダイ→マァム 62/150】

 

「そりゃ心強いな」

 

 ポップも頷く。

 

「逃げ腰の魔法使いとしては、

 治療役が増えるのマジ助かる」

 

「ちょっと、逃げ腰って自分で言うのね……」

 

 レオナが苦笑する。

 

 その横で、相馬が手を挙げた。

 

「じゃ、正式にパーティ参加ってことで」

 

 ニッと笑う。

 

「夜は、同じ部屋?」

 

「は?」

 

「いや、ほら。

 戦いの前の夜って大事じゃん?

 

 命懸けの戦いの前に、

 ちゃんと眠れるように、添い寝とか――」

 

「なに言ってるんですかあなたは!!」

 

 マァムの拳骨が、即座に相馬の頭頂部に落ちた。

 

 ゴンッ!!

 

「いってぇ!」

 

「そ、添い寝って、初対面の女の子に向かって何言ってるんですか!!

 そういうのは、もっと、こう……」

 

 言葉に詰まる。

 

「ちゃんと、お互いのこと分かってからとか……

 そういう……っ!!」

 

 耳まで真っ赤にしながら、

 マァムは魔弾銃を持つ手をバタバタさせた。

 

【マァム→相馬 98 → 103/150】

 

「上がってる!!」

 

 レオナが絶叫する。

 

「なんで叩いてるのに好感度上がってるのよ!?」

 

「知らねぇよ!」

 

 ポップも素で叫んだ。

 

 一方、相馬の方は――

 

【相馬→マァム 65 → 70/150】

 

(……こういう反応、嫌いじゃない)

 

 頭をさすりながら、ほんの少し目を細める。

 

(ちゃんと怒ってくれるタイプ。

 でも、まんざらでもなさそうな数字。

 

 彼女候補って言った甲斐、あるな)

 

「相馬ぁ……」

 

 レオナのこめかみがピクピクしている。

 

「あなた、ウイルス治す気、

 ますますないでしょう……」

 

「まあまあ」

 

 相馬は、笑ってごまかした。

 

「どうせ尻尾の皮は取りに行くんだし。

 治すかどうかは“そのあとで”決めようぜ」

 

「……本気で言ってるの?」

 

「けっこう本気」

 

 ウイルスのせい、だけではない。

 

 “言いたいことを言ってしまえる自分”に、

 相馬自身が少しずつ中毒になりつつあった。

 

◇ ◇ ◇

 

 その日の午後。

 

 一行は、マァムを加えて森の奥へと足を踏み入れた。

 

「この先に、クロコダインの拠点があるはずよ」

 

 マァムが、地図代わりに頭の中のイメージを共有する。

 

「崖の上に砦みたいなのがあって、

 その下に大きな滝があるの」

 

「滝?」

 

 ダイが首を傾げる。

 

「そこ、足元悪そうだな……」

 

 ポップが顔をしかめる。

 

「落ちたらそのまま流されそうだ」

 

「落ちないようにすればいいのよ」

 

 レオナがさらりと言う。

 

「……言うのは簡単なんだよなぁ」

 

 ポップは肩を落とす。

 

「マァム」

 

 と、そのとき。

 相馬が、マァムの横に並んだ。

 

「さっきは、悪かったな」

 

「え?」

 

「添い寝の件」

 

 少しだけ真面目な声で言う。

 

「あれは、まあ、半分冗談だけど。

 半分は本気で、“命がけの前に一緒にいてほしい”って意味でもある」

 

「…………」

 

 マァムは、ちらっと横目で相馬を見た。

 

 炎の中に飛び込んだ男。

 村人の盾になっていた男。

 

 軽口の奥に、ちゃんと現実的な覚悟を持っているのを、

 さっきの戦いで見てしまった。

 

「……そんな顔で言っても、ダメです」

 

 結局、視線を前に戻す。

 

「“そんな顔”って?」

 

「“そんな顔”です!」

 

 頬の赤さは、隠しきれていない。

 

【マァム→相馬 103 → 106/150】

 

【相馬→マァム 70 → 73/150】

 

(やっぱ、今の性格も悪くないな)

 

 相馬は、心の中で苦笑した。

 

(前の俺なら、こんなこと絶対口に出さなかった。

 頭の中でこねくり回して、

 “言わないまま”旅を終えてたかもしれない。

 

 ――それって、ちょっと、もったいないよな)

 

 治療法がある。

 戻ろうと思えば戻れる。

 

 そう思うと、なおさら――

 今の「ざらざらした自分」を、簡単には手放せなくなっていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 夕方。

 

 森の中腹にあった、小さな廃祠を見つけ、一行はそこで一泊することにした。

 

「今夜はここで休んで、

 明日、滝の上の砦に一気に攻め込む」

 

 レオナが方針をまとめる。

 

「ダイはしっかり休むこと。

 ポップも魔力の回復を」

 

「ういー」

 

 ポップが伸びをして、寝床に転がる。

 

「マァムは……」

 

「私は、みんなの怪我のチェックと、

 夜の見張りを少しやるわ」

 

 マァムは、ホイミで擦り傷を治しながら答える。

 

「僧侶って、こういうとき忙しいのよ」

 

 準備が一段落したあと。

 

 相馬は、入り口近くで寝床を整えながら、

 ちらりと天井を見上げた。

 

【相馬】

 レオナ 94/150

 マァム 73/150

 

 頭上の数字は、ずいぶんと賑やかだ。

 

(……元の俺だったら、

 この数字を見て、

 ビビって距離を取ってたかもな)

 

 レオナの275/280。

 マァムの106/150。

 

 どちらも、彼の世界では“重い”数字だ。

 

(でも、今は――悪くない)

 

 あちこちで自分のことを好きだと表示されて、

 電子音で「好き」と囁かれて。

 

 それを「めんどくさい」と思いながら、

 どこかで楽しんでいる自分がいる。

 

(……戻るの、やっぱり後でいいか)

 

 ラフな結論が、心の中でひょいっと顔を出す。

 

 その瞬間――

 

「――相馬」

 

 入り口の方から、声がした。

 

 レオナだ。

 

「なに?」

 

 振り向くと、

 ランタンの光の中で、じっとこちらを見ていた。

 

 顔。

 目。

 王女の仮面と、少女の素顔が混ざった視線。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+不安)】

『……戻りたくないって思ってる顔してる……

 今のあなたが楽しいって思ってるのも、分かるけど……

 それでも、元のあなたも、ちゃんと好きだったのに……』

 

【レオナ→相馬 275 → 279/280】

 

「……なにその、すごく人聞きの悪い電子音」

 

 相馬が苦笑する。

 

「聞きたくなくても聞こえるのよ」

 

 レオナは、少しだけ唇を噛んだ。

 

「お願いだから、

 “戻るかもしれない自分”のこと、忘れないで」

 

「忘れてねぇよ」

 

 相馬は、あっさりと言った。

 

「元の俺も、今の俺も、

 どっちも俺だし」

 

「……そういうことじゃなくて」

 

 レオナは、一歩近づいた。

 

「元のあなたを好きになった人のこと、

 置いていかないで、って言ってるの」

 

 胸の奥が、またきゅっとなる。

 

【レオナ→相馬 279 → 280/280(カンスト)】

 

 パネルの数字が、ぴたりと上限に張り付いた。

 同時に、枠の外側がかすかに震え――

 

【レオナ→相馬 280/290(上限拡張)】

 

 上限だけが、静かに増えた。

 

「……大丈夫だよ」

 

 相馬は、少しだけ真面目な顔をした。

 

「元の俺を好きだったやつが、

 今の俺を嫌いになるなら、

 そのときはまた考える。

 

 でも――今の俺を好きになってくれるならさ」

 

 一瞬、言葉を探す。

 

「そいつらのことも、ちゃんと大事にするよ」

 

 レオナの胸に、

 怒りと安心が同時に湧き上がった。

 

 ――顔イベント(真正面)。

 

【電子音声:レオナ(甘々MAX)】

『そんなこと言う今のあなたを、もう嫌いになれない……

 元に戻っても戻らなくても、どっちも好きになっちゃってる……

 どうしてくれるのよ、本当に……しゅき……』

 

「……ずるい」

 

 小さく呟いて、レオナはくるりと背を向けた。

 

「明日、尻尾の皮、ちゃんと取りに行くわよ。

 治すかどうかは、そのあと――

 “わたしたち”で決めるから」

 

「了解」

 

 相馬は、軽く片手を挙げた。

 

 その背中を、

 少し離れた場所からマァムが見ていた。

 

(……レオナって、あんな顔するんだ)

 

 王女としての顔とは違う、

 危なっかしいほどの“少女の顔”。

 

【マァム→レオナ 58/150(友情+共感)】

 

(そりゃ、好きになるよね、あんな人)

 

 自分の胸の数字も、

 どうしようもなく上がっているのを感じながら。

 

【マァム→相馬 106 → 110/150】

 

 森の廃祠に、静かな夜が降りる。

 

 明日、獣王クロコダインの砦で、

 命懸けの戦いと、尻尾と、

 そして「戻る/戻らない」を巡る、

 ちょっと面倒くさい話し合いが待っていることを、

 まだ誰もちゃんとは想像できていなかった。

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