オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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23話 クロコダイン戦

 ロモス北の森・廃祠の朝。

 

 湿った石の匂いと、滝の低い轟音が、薄く開いた窓から入り込んでくる。

 

(今日よね、クロコダイン戦本番)

 

 寝台から身を起こしたレオナは、いつものように――いや、もう儀式のように――自分の頭上を見上げた。

 

【レオナ】

 相馬 280/290

 

(……安定のバカ数字)

 

 昨夜、「元の相馬も今の相馬も好き」とかうっかり言ってしまったせいで、上限値だけまた伸びたのだ。

 自覚はある。反省もしている。だが数字は容赦なく正直だ。

 

(しかもこれ、“顔だけで”ここまで来てるのよね……)

 

 中身ももちろん嫌いじゃない。

 でも、性格は今わりとチャラい。

 それでもこの値なのは、要するに――

 

(顔が、致死級にどストライクってことよね)

 

 自分で再確認して、朝から軽くダメージを受けた。

 

◇ ◇ ◇

 

 階段を降りると、簡素な広間でみんなが朝食をとっていた。

 

「おはよう、レオナ!」

 

 ダイがパンを大きくかじりながら手を振る。

 

「おう、姫さん。今日も数字真っ赤だな」

 

 ポップが、わざわざレオナの頭上を指さしてくる。

 

【ダイ】

 レオナ 76/150

 相馬  77/150

 

【ポップ】

 レオナ 52/150

 相馬  48/150

 

(朝から観察するなっての)

 

 レオナは心の中でツッコみつつ、視線をもう一人へ向けた。

 

 ――相馬。

 

 焚き火の上で鍋を混ぜながら、マァムと何やら話している。

 

 寝起きで少し乱れた髪。

 それでも顔面偏差値は相変わらず高い。

 

 視界に入った瞬間――

 

 ズギューン!!

 

 心臓が文字通り跳ねた。

 

【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】

『朝からその顔見せつけないで……

 こっちは戦の前で緊張してるのに、心臓が別の意味で忙しい……しゅき……』

 

「っっ!」

 

 自分の甘い声が廃祠の中にふわっと響き、マァムがきょとんとした顔で振り向く。

 

「また出てる……」

 

 ポップが頭を抱えた。

 

【レオナ→相馬 280 → 283/290】

 

(ちょっと上がったわね!?)

 

 レオナは自分にツッコむしかなかった。

 

「おはよ、王女様」

 

 相馬が、鍋からスプーンを抜きながら振り向いた。

 

 朝の薄暗がりの中、その顔は妙に絵になる。

 

 ――ズギューン!!

 

【電子音声:レオナ(甘々度さらに増し)】

『今の“おはよ”の声と顔の組み合わせ、反則……

 さっき上がったばかりなのに、まだ上がりそう……しゅきしゅき……』

 

「二連発やめて!!」

 

 レオナが叫ぶのと、

 ポップが「今日もうるせぇなこのシステム!」と叫ぶのがほぼ同時だった。

 

◇ ◇ ◇

 

 全員で朝食を終え、簡単に準備を整えたあと、

 一行は廃祠の外に出た。

 

 森の奥から、滝の音がはっきりと聞こえてくる。

 

「この先が、クロコダインの砦がある崖よ」

 

 マァムが地形を説明する。

 

「崖の上に石造りの砦、その下に大きな滝。

 足場も悪いし、魔物も多いから、気をつけて」

 

「いよいよかぁ……」

 

 ダイが、アバン先生にもらった木刀の柄をぎゅっと握る。

 

「オレ、絶対負けないよ」

 

「そりゃそうだ」

 

 相馬が、ダイの頭をぽんと叩いた。

 

「俺も尻尾の皮なんていう、とんでもないミッション抱えてるしな」

 

「あー……」

 

 その話を思い出して、レオナの胃がきしむ。

 

「そうだったわね……ウイルス治療用のポーション……」

 

 好感度システムのウイルスが出した、意味の分からない処方箋。

 

 ――獣王クロコダインの尻尾の先っぽの皮を煮込んだポーション。

 

 どう考えても理不尽だ。

 

「ほんとにそれで治るのかな」

 

 ダイが純粋に首を傾げる。

 

「治る“かもしれない”程度よ」

 

 レオナが渋い顔で言った。

 

「でも、その“かもしれない”に賭ける価値はあるわ。

 王女としては、エラー状態の恋愛システムを放置できないし」

 

「エラーって言うなよ、俺の性格」

 

 相馬が苦笑する。

 

「ほら、前より楽しくない? 今の俺」

 

「楽しいかもしれないけど、心臓に悪いのよ!」

 

 レオナは即答だった。

 

「女の人ナンパしながら炎の中突っ込んでいく人、

 王女の公式お抱え危険因子にするわけにはいかないの!」

 

「評価軸そこ?」

 

 ポップが吹き出す。

 

「……ま、治すかどうかは、尻尾の皮取ってからだな」

 

 相馬は肩をすくめた。

 

「とりあえず、尻尾の皮“だけ”もらってくる。

 本体の命までは取らない方向で」

 

「そうね」

 

 レオナは、ほんの少しだけ安心する。

 

(クロコダインの命を奪ってまで治してほしいわけじゃない。

 尻尾の先っぽの皮だけで済むなら、それで……)

 

 そこまで考えて、ふと疑問が浮かんだ。

 

「……そういえば、クロコダインって“毛皮”じゃなかったわね」

 

「毛?」

 

 マァムが首を傾げる。

 

「ワニっぽい魔獣よ。

 硬い鱗とワニ革みたいな皮で全身覆われてるの。

 モフモフ要素ゼロ」

 

「え、尻尾の皮って、ふわふわのを想像してたんだけど……」

 

 相馬が、露骨にガッカリ顔をする。

 

「高級クロコダイルレザーに変更かよ。

 なんかポーションというよりブランドバッグの材料だな」

 

「例えが最低ね!?」

 

 レオナのツッコミが森に響いた。

 

◇ ◇ ◇

 

 滝の音が一段と大きくなったころ、

 視界が開けた。

 

 切り立った崖。

 その中腹から落ちる巨大な滝。

 滝の上には、石を積み上げた簡素な砦が見える。

 

「うわぁ……」

 

 ダイが目を丸くした。

 

「なんか、すごいところに陣取ってるね……」

 

「防御と威圧、両方兼ねてる感じだな」

 

 相馬が感心したように言う。

 

「戦略的には悪くない位置取りだ」

 

「褒めないで!」

 

 レオナが即ツッコミ。

 

「敵の砦よ敵の!」

 

「いやぁ、敵でも評価すべきところは評価しないと――」

 

「グオオオオオオオ!!」

 

 会話を遮るように、

 獣じみた咆哮が崖全体を揺らした。

 

 滝の水煙を割って、巨大な影が現れる。

 

 分厚いワニ革のような皮膚。

 鋭い牙と爪。

 片手には、常人なら持ち上げることすらできない巨大な斧。

 

「百獣魔団長――」

 

 マァムが息を呑んだ。

 

「獣王クロコダイン……!」

 

 崖の上から一歩、前へ。

 

 彼は、獰猛というより、むしろ堂々とした目で一行を見下ろした。

 

「ふん。アバンの弟子どもに、その仲間か」

 

 低く響く声。

 

「わしの縄張りで好き勝手暴れてくれた礼、

 きっちり返させてもらおうか」

 

【クロコダイン】

 ダイ 30/150(興味)

 相馬 32/150(警戒)

 レオナ 25/150(敵側の王女)

 マァム 27/150

 

(わりと冷静な数字ね)

 

 レオナは、頭上のパネルを見て小さく息をついた。

 

(でも、これからすぐ悪化するんでしょうね……)

 

◇ ◇ ◇

 

「オレたちは、好き勝手なんかしてない!」

 

 ダイが一歩前に出る。

 

「村の人たちを守ってるだけだ!

 あんたたち魔王軍が、好き勝手してるんだ!」

 

「ほう」

 

 クロコダインが目を細める。

 

「小僧が、大口を叩く」

 

「小僧じゃない! 勇者になるんだ!」

 

 ダイの頭上の数字が、じり、と揺れた。

 

【ダイ→クロコダイン 25/150(敵としての敬意)】

 

「ガハハ! 口だけは一人前だ!」

 

 クロコダインの笑い声が、滝の音にかき消される。

 

 その視線が、ふと相馬の方へ向いた。

 

「そっちのチャラついた人間はなんだ?」

 

「自己紹介どうも」

 

 相馬は、悪びれもせず手を挙げた。

 

「山田相馬。旅の魔法使い兼、勇者候補のお目付け役。

 あと、最近“尻尾の皮狙い”っていう、新しい肩書きも増えました」

 

「おい」

 

 レオナとマァムとポップの声が、きれいに重なる。

 

 クロコダインの片眉がぴくりと動いた。

 

「……尻尾?」

 

「なんでもないです」

 

 全力で首を振る三人と、

 ニヤリと笑う一人。

 

(この人、いま本気で怒らせるワード言おうとしたわね!?)

 

 レオナは、頭を抱えたくなった。

 

◇ ◇ ◇

 

「まあいい」

 

 クロコダインが、斧を肩に担ぐ。

 

「目的はどうあれ、

 この森でわしに歯向かうというなら――」

 

 一歩、前へ。

 

 崖の上から飛び降りた。

 

 巨大な身体が、岩場にドンッと着地する。

 その瞬間、足元が微かに揺れた。

 

 近くで見ると、そのワニ革のような皮膚の厚さがよく分かる。

 

(……あれ切り取るの、相当大変よね……)

 

 レオナは、尻尾の先を一瞬見てから、慌てて目をそらした。

 

「戦士クロコダイン、全力で相手をしてやろう!」

 

「上等!」

 

 ダイが木刀を構える。

 

「行くぞ、みんな!」

 

「おう!」

 

 ポップ、マァム、相馬、レオナ。

 それぞれが戦闘態勢に入る。

 

◇ ◇ ◇

 

 先に飛び込んだのは、やっぱりダイだった。

 

「うおおおお!!」

 

 低く構え、一気に距離を詰める。

 

「ふん、小僧が!」

 

 クロコダインが、斧を横薙ぎに振るった。

 

 轟音。

 空気が裂ける。

 

 ダイはその一撃を木刀で受け止め――ようとして、僅かに体勢を崩した。

 

「ダイ!!」

 

 レオナが思わず叫ぶ。

 

「くっ……!」

 

 木刀が、クロコダインの斧と激突する。

 

 鈍い音。

 次の瞬間――

 

 バキィッ!!

 

「えっ」

 

 みんなの声が揃った。

 

 アバン先生にもらった木刀が、

 クロコダインの斧との衝突に耐えきれず、真ん中から派手に折れたのだ。

 

「……あ」

 

 ダイが、ぽかんと折れた柄を見つめる。

 

 クロコダインの分厚いワニ革と鋼のような筋肉は、

 木の剣など歯牙にもかけない。

 

「ガハハハハ!!」

 

 獣王の笑い声が轟く。

 

「そんな木の棒で、このクロコダインに挑むつもりだったのか!」

 

「そ、そんな……」

 

 ダイの頭上の数字が、がくっと揺れた。

 

【ダイ→自信 40 → 30】(※自己パラ・青色表示)

 

「あ、青くなってる!?」

 

 ポップが叫ぶ。

 

「自信パラメータまであるのかよこのシステム!!」

 

「初耳よ!!」

 

 レオナもツッコむが、笑っている余裕はない。

 

(まずい――ダイに武器がない)

 

 あのまま素手で突っ込めば、

 クロコダインの斧も、素手も、全部受け止めることになる。

 

 それはさすがに危険すぎる。

 

「ダイ!」

 

 レオナは、胸元に下げていたペンダントをぎゅっと握った。

 

 そこに収めていた、小さな宝。

 

「こっちに来て!」

 

「レオナ?」

 

 小さく後退したダイが彼女の元へ駆け寄る。

 

「アバン先生の木刀が折れたからって、

 あなたの戦いまで折れるわけじゃないわ」

 

 レオナは、ペンダントを外し、

 そこから一本のナイフを取り出した。

 

 蒼い宝玉がはめ込まれた、美しい短剣。

 刃は短いが、鋭さはただ者ではない。

 

「これは――」

 

「パプニカのナイフ」

 

 レオナは、ダイの手にそれを押しつける。

 

「本当は、もっと平和な記念のために渡そうと思っていたけれど……

 今、あなたに必要なのは“折れない覚悟”と、“折れない刃”よ」

 

「レオナ……」

 

 ダイの胸の奥が、熱くなる。

 

【ダイ→レオナ 76 → 80/150】(友情+尊敬)

 

【レオナ→ダイ 65/150(弟分+勇者候補)】

 

 レオナの頭上のパネルも、ダイに対する友情値を少しだけ上げた。

 

 その横で――

 

(いいシーンなのに、やっぱり顔がいい……)

 

 レオナは、ナイフを渡したあと、

 ふと視線を横にずらしてしまった。

 

 そこには、やっぱり相馬が立っている。

 

 真面目な顔で、そのやりとりを見ていた。

 

 ――顔イベント。

 

 ズギューン!!

 

【電子音声:レオナ(甘々+誇らしさ)】

『ダイの武器が折れた瞬間、真っ先にこっちを守る動きしてたの、ちゃんと見てた……

 そういうところも、ほんとに好き……しゅきしゅき……

 戦い終わったら「よくやった」って抱きしめたい……頭なでなでしてほしい……』

 

 最後の一文から、急に要望モードになった。

 

【レオナ→相馬 283 → 288/290】

 

 パネルが真っ赤に点滅し、

 周囲に甘い電子音が重なる。

 

『頭なでなで要求、履行まだです……

 戦いのあと、ぎゅっとしてあげてもいいのよ……?』

 

「今そんなの流さないで!!」

 

 レオナが悲鳴を上げる。

 

「タイミング選んで!!」

 

 マァムも、「こんなときに何流してるのよこのシステム!」と頬を赤くしていた。

 

◇ ◇ ◇

 

「ほう……」

 

 クロコダインは、そのやりとりをじっと見ていた。

 

「人間というやつは、

 戦いの最中でもよくそんな甘い空気を出せるものだな」

 

「空気じゃないです! システムの嫌がらせです!!」

 

 レオナの反論は、獣王にはよく分からなかった。

 

「ダイ!」

 

 気を取り直して、レオナが叫ぶ。

 

「そのナイフは、パプニカでも特別なものよ。

 大事に使いなさい!」

 

「うん!!」

 

 ダイは、パプニカのナイフを構えた。

 

 木刀とは違う、手に馴染む重量感。

 短いが、鋭い。

 これなら、ワニ革のような分厚い皮にも通じるはずだ。

 

「うおおおお!!」

 

 再び、クロコダインへ向かって走り出す。

 

「さっきと同じことを繰り返す気か!」

 

 獣王が斧を振るう。

 

 だが今度は、ダイの動きが違う。

 木刀のときと違い、重心が低く、無駄が少ない。

 

 アバン先生の教え。

 アバンストラッシュの構え。

 

 それらが、ナイフという新しい武器に少しずつ馴染んでいく。

 

◇ ◇ ◇

 

「さて――」

 

 その隙に、相馬も動いた。

 

「バイキルト」

 

 低く詠唱し、ダイの身体に力の光を纏わせる。

 

「身体の負担は増えるけど、

 今は“通す”こと優先だ」

 

「ありがとう、相馬!」

 

 ダイの攻撃力が、目に見えて跳ね上がる。

 

【ダイ→相馬 77 → 81/150】

 

「ポップ!」

 

「おうよ!」

 

 ポップは、いつものように前線から少し下がった位置で杖を構えた。

 

「メラミ!」

 

 中火球が、クロコダインの腕を狙って飛ぶ。

 獣王はそれを無造作に受け、ワニ革のような皮膚で大半を弾いた。

 

「効きが悪ぃな……!」

 

「レオナ、頼める?」

 

「分かってる!」

 

 レオナは、杖を掲げた。

 

「ルカニ!」

 

 守備力低下の呪文が、クロコダインの身体を淡く包む。

 厚いワニ革の装甲が、ほんのわずかだが柔らかくなった。

 

「ほう、身体が軽く……いや、違うな」

 

 クロコダインが眉をひそめる。

 

「守りを削りに来たか」

 

「当然よ」

 

 レオナは言い返す。

 

「こっちは、村を守るために“全部乗せ”で行くんだから!」

 

 その声に、マァムも頷いた。

 

「ホイミ!」

 

 前線で細かい傷を負ったダイの腕が、瞬時に癒える。

 

「ダイ、もうちょっとだけ無茶していいから、

 でも死ぬのは禁止だからね!!」

 

「う、うん!?」

 

 条件がよく分からない激励に、ダイが戸惑う。

 

◇ ◇ ◇

 

 戦いは激しさを増していく。

 

 ダイのナイフは、確かにクロコダインの装甲に傷をつけ始めた。

 だが、獣王の反撃もまた苛烈だ。

 

「グオオオオ!!」

 

 斧の一撃。

 地面を砕く蹴り。

 岩をも割る拳。

 

「くっそ、タフすぎだろワニおじさん!」

 

 ポップが叫ぶ。

 

「おじさん言うな!」

 

 その最中――

 相馬の視線が、ちらりとクロコダインの尻尾へ向かった。

 

(……あの先っぽの皮を、ちょっとだけ。

 ほんのちょっとだけ、切り取ればいい)

 

 戦いながら、そんな不謹慎な計算をしている自分に、

 相馬は内心苦笑する。

 

(命までは取らない。

 でも、尻尾の先をちょっともらう。

 

 ……冷静に考えると、かなり嫌がらせだよな、これ)

 

 とはいえ、ウイルスを治すには必要な素材でもある。

 

 クロコダインの尾が、大きく振り回される。

 地面に叩きつけられた場所が、えぐれていた。

 

(硬っ……)

 

 ワニ革どころか、ほとんど鉄の鞭だ。

 

「相馬!」

 

 レオナが、戦いの合間に叫ぶ。

 

「今、尻尾狙うのはやめて!!」

 

「心読まれた!?」

 

「顔で分かるのよ!」

 

 レオナの頭上のパネルが、真っ赤に点滅する。

 

【電子音声:レオナ(甘々+説教モード)】

『尻尾の皮は欲しいけど、命がけの戦いでそんな余裕見せないで……

 まずは生き残ることに集中して……

 治療は、あなたが生きてからの話……しゅき……』

 

【レオナ→相馬 288 → 290/290(カンスト)】

 

 上限に到達した瞬間、

 パネルがぶるぶる震え――

 

【レオナ→相馬 290/300(上限拡張・数値据え置き)】

 

 またしても、上限だけが伸びた。

 

「もうやめてぇぇぇ!!」

 

 レオナが、自分の数字に悲鳴を上げる。

 

「どこまで行くのよこれ!!」

 

「システム的には“未知の領域”ってやつだな」

 

 ポップが遠い目をした。

 

◇ ◇ ◇

 

 クロコダインは、そんな人間たちのやりとりを、

 どこか楽しそうに見ていた。

 

「面白い奴らだ」

 

 獣王の目には、

 単なる獲物以上のものが映り始めている。

 

「アバンの弟子、パプニカの王女、

 戦う僧侶、魔法使い――そして尻尾狙いのチャラ男」

 

「最後のだけ雑すぎません?」

 

 相馬が抗議する。

 

「だが――」

 

 クロコダインの顔が、獣のそれに戻る。

 

「だからこそ、全力で叩き潰す価値がある!」

 

 彼は斧を大きく掲げた。

 

「獣王会心撃!!」

 

 巨大な一撃が、滝の光を浴びて軌跡を描く。

 

「やべぇ!」

 

 ポップが悲鳴を上げる。

 

「これ、真正面から受けたら死ぬやつ!」

 

「ダイ!!」

 

 レオナが叫ぶ。

 

 ダイは、ナイフを構えたまま、一瞬だけ躊躇した。

 

(受ける? 避ける?

 でも、避けたら――)

 

 後ろには、レオナたちがいる。

 そのさらに後ろには、森と村。

 

「ダイ!」

 

 そのとき、後ろから肩を叩かれた。

 

「真正面は任せろ」

 

 相馬だった。

 

「お前は、その隙に“通せ”。

 このナイフが、どれだけのものか――

 獣王に見せつけてやれ」

 

「相馬……!」

 

【相馬→ダイ 85/150(頼れる後輩+勇者候補)】

【ダイ→相馬 81 → 86/150】

 

 ダイの頭上の数字が、ぐっと跳ね上がる。

 

 相馬は、肩を回しながら一歩前に出た。

 

(……戻るのがちょっと惜しくなるくらいには、

 今の性格も悪くないな)

 

 ウイルスのせいで軽口が増えた。

 でも、そのぶん「やりたい」と思ったことを、

 素直に行動に移せるようになっている。

 

(戦う理由も、守りたいものも、前と変わらない。

 なら、今の俺でやれることをやるだけだ)

 

「レオナ!」

 

「分かってるわ!」

 

 レオナは杖を掲げた。

 

「フバーハ!!」

 

 炎と吹雪に強い防御の風が、一行を包む。

 

「マァム!」

 

「ホイミの準備はできてる!

 でも死ぬつもりで前に出たら、怒るからね!!」

 

「はいはい」

 

 相馬は、笑いながらも目は真剣だった。

 

「ポップ、援護頼む」

 

「はいはーい! やれるだけやるわ!!」

 

 全員の視線が、クロコダインの巨大な斧へと向かう。

 

 獣王会心撃が、振り下ろされる――。

 

 滝の轟音と、獣王の咆哮。

 人間たちの叫びと、好感度システムの電子音。

 

(尻尾の皮も、恋愛も、命がけの戦いも。

 ぜんぶ、まとめて引き受けるしかないわね)

 

 レオナは、心の中でそう呟きながら、

 迫り来る獣王の一撃を睨み返していた。

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