オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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新25話 尻尾ポーション

イフ25話

 ロモス北の森の朝は、やけに静かだった。

 昨日まで滝と咆哮と悲鳴と電子音でわちゃわちゃしていたとは思えないくらいに。

 

 湿った石の匂い。

 廃祠の屋根を抜けてくる、かすかな朝の光。

 

 寝台の上で、レオナはゆっくりと目を開けた。

 

(……夢じゃないのよね)

 

 反射で、いつものように頭上を見上げる。

 

【レオナ】

 相馬 300/300

 

 真っ赤な数字が、落ち着き払った顔でこちらを見下ろしていた。

 

(落ち着いてるのは数字だけなんだけど)

 

 胸の中は、全然落ち着いていない。

 

 上限いっぱい。

 これ以上は増えない。

 減りもしない。

 

 だからこそ――重い。

 

 好き、という気持ちの全部が、ぎゅうぎゅうに押し込められて、3ケタの数字になって天井からぶら下がっているような感覚。

 

 なんとなくそんなことを考えながら、レオナは身を起こした。

 

◇ ◇ ◇

 

 廃祠の広間では、すでに朝の準備が始まっていた。

 

 ポップが火を起こし、

 マァムが簡単な朝食を並べ、

 ダイが元気よく素振りをしている。

 

 そして――

 

「おはよう、レオナ」

 

 振り向いた先に、いつものチャラい笑顔。

 

 相馬だった。

 

 完全に不意打ちの真正面。

 

 光の入り方は最高。

 距離は至近。

 視線はぴったり。

 

 ――顔イベント。

 

 胸の奥が、いつもの「ズギューン!」どころか、「ドゴォン!」くらい鳴った。

 

【電子音声:レオナ(甘々+諦め気味)】

『一晩寝ても大して落ち着いてない……

 顔を見ただけで心拍数が倍になるの、もう慣れたと思ってたのに……しゅき……』

 

【レオナ→相馬 300/300(変動なし/でも衝撃だけは増量中)】

 

(……そうだった。この数字、もう上がらないんだった)

 

 上がらない代わりに、内部の「好き」が密度だけ増していく。

 

 数字はそのまま。

 中身だけ、どんどん重く、濃く、甘く、面倒くさくなっていく。

 

 レオナは、軽くめまいを覚えながらも、なんとか平静な顔を装った。

 

「……おはよう、危険因子」

 

「おう、指揮官。生きて朝を迎えられたな。めでたいめでたい」

 

 軽口。

 でも、昨日の戦いの余韻が少しだけにじんでいる。

 

 そのやりとりを、少し離れた場所からマァムが見ていた。

 

(あ、今日もかっこいい……)

 

 レオナと話している相馬の横顔が、またマァムの視界に刺さる。

 

 ――顔イベント(マァム側)。

 

【マァム】

 相馬 114 → 116/150

 

【電子音声:マァム(照れ+現実的なツッコミ)】

『朝からその顔は反則なんだけど……

 こっちも心の準備ってものがあるのよ……』

 

「……なんか今、変な声しなかった?」

 

「気のせいだ、気のせい」

 ポップがそっと耳を塞いだ。

 

◇ ◇ ◇

 

 朝食のパンとスープが一段落したころ、テーブルの上に、昨日の戦利品がどん、と置かれた。

 

 ワニ革みたいな尻尾の皮。

 クロコダインの尾の先端から、慎重に「表面だけ」いただいてきたやつだ。

 

「改めて見ると、ほんっとに理不尽よね、これ」

 

 レオナが眉をひそめる。

 

「何が?」

 

「“これを煮込んで飲ませるとウイルスが治るかもしれません”っていう、

 好感度システムの雑すぎる処方箋よ」

 

 言いながら、彼女は指でテーブルをとんとん叩いた。

 

「一国の王女に、獣王の尻尾煮込みを処方箋として送ってくるシステムって何なの」

 

「まあまあ」

 

 相馬は、そのワニ革をつまみ上げて眺める。

 

「でも、せっかくこんだけ命がけで取ってきたんだし?

 試してみる価値はあると思うぞ」

 

「そうね」

 

 レオナは、ほんの少し真面目な顔になる。

 

「ウイルスのせいであなたがチャラくなってるの、王女としては見過ごせないし」

 

「人の性格に“見過ごせない”って言うなよ」

 

 苦笑しながらも、相馬は尻尾の皮をぱたんと戻した。

 

「で、どうやって煮込む? レシピとか書いてなかったよな」

 

「“適当に煮込め”って書いてあったわ」

 

「雑!!」

 

 ポップが全力で叫ぶ。

 

 その瞬間――

 

 空気が、ビッと張り詰めた。

 

 廃祠の天井近くに、半透明のウィンドウがずらりと展開される。

 

【好感度表示システム:羞恥モード Ver.4.9(医療拡張)を適用しました】

 

「出た……!」

 

 レオナが天井を睨む。

 

【アップデート内容】

・獣王尻尾ベースポーションの投与仕様を改訂しました。

・これまでの「とりあえず煮て飲ませろ」方式は、効果が不安定すぎるため廃止されます。

・恋愛パラメータを考慮した“効率的かつロマン重視”の投与方法を導入しました。

 

「最後の一文が余計なのよ!!」

 

 レオナのツッコミを無視して、システムの説明は続く。

 

【1.基本効能】

・尻尾ポーションをそのまま飲ませた場合の効果は、「気のせいレベル(約1%)」です。

・本気でウイルスをなんとかしたい場合は、以下の条件を満たす必要があります。

 

【2.投与条件】

・対象:相馬ユーザー

・投与者:相馬ユーザーに対し、恋愛好感度120以上の“異性ユーザー”

・投与方法:口移し

 ※医療行為です。やましい目的での使用は推奨されません(が、統計上よく発生します)。

 

「…………」

 

 レオナの思考が、一瞬まっ白になった。

 

「こ、口移しって、あんた……!」

 

「おいおいおいおい!」

 

 ポップが立ち上がる。

 

「なんでウイルス治療が、いきなり恋愛イベント付きになるんだよ!!」

 

「だよね!?」

 

 レオナが即座に同意した。

 

 ダイだけが、よく分かってない顔で首を傾げている。

 

「えっと……口移しって、具体的に……」

 

「説明しなくていいから!!」

 

 レオナとマァムとポップの声が、三重に重なった。

 

【3.効果量の目安】

・投与者の恋愛好感度が120~150の場合:

 ――1回の口移し投与で、十分な治療効果が見込めます。

 

・投与者の恋愛好感度が150を超える場合:

 ――“好き”が重すぎて、ポーション効果がやや薄まります。

 ――十分な効果を得るには、2回以上の投与を推奨します。

 ※ただし、1回でもそれなりの効果は出ます。ご安心ください。

 

「好きが重すぎるって何よ!!」

 

 レオナが真っ赤になって叫んだ。

 

「どういう医学理論なの、それ!」

 

【4.現在の候補者一覧】

・レオナ → 相馬 300/300(上限到達)

 → 投与回数目安:2回

・マァム → 相馬 116/150

 → 条件達成まであと4ポイント。がんばりましょう。

 

「がんばりましょうって言われても!?」

 

 マァムも思わず立ち上がる。

 

 頬が、真っ赤だ。

 

(ちょ、ちょっと待って。

 わたし、あと4ポイントで“口移し投与候補”になるの!?)

 

 頭上のパネルを見上げる。

 

【マァム】

 相馬 116/150

 

(いやいやいやいや)

 

 心の中で全力で否定しながらも――

 

 胸の奥は、妙に騒がしかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「落ち着いて。深呼吸」

 

 レオナは、自分に言い聞かせるように息を吸った。

 

「落ち着いてるようには見えねぇけどな」

 

 ポップが小声でつぶやく。

 

 実際、レオナの頭上の300/300は、さっきからピリピリと枠を震わせていた。

 

【電子音声:レオナ(甘々+限界オーバー)】

『……好感度が高すぎると2回って、なにその嫌がらせ仕様……

 でも、治さないと危険因子がもっと危険になるし……

 いや、でも2回も口移しなんて心臓が持たないし……しゅき……』

 

「内心駄々漏れだから!!」

 

 レオナが自分にツッコミを入れる。

 

 相馬はと言えば――

 

「なるほどなぁ」

 

 やけに冷静な顔で、天井のウィンドウを見上げていた。

 

「“好きが重すぎると薬が薄まる”ってのは、なんか分かる気がする」

 

「分からないでいいわよそんな感覚!?」

 

「だって、ほら」

 

 相馬は肩をすくめる。

 

「レオナの感情を口移しされたらさ」

 

「その言い方やめなさい!!」

 

「ウイルスより先に、俺の理性が死ぬ気がするだろ?」

 

「…………」

 

 図星すぎて、何も言い返せなかった。

 

 その横で、マァムがじっと尻尾の皮を見ている。

 

(好感度120以上だと、一回で十分な効果……)

 

 さっきの説明が、頭の中でぐるぐる回っていた。

 

(今、わたしは116。顔を見るたびに……)

 

 ちら、と視線を相馬に向ける。

 

 ――顔イベント発生。

 

【マァム→相馬 116 → 118/150】

 

【電子音声:マァム(照れ+現実的)】

『そういう真面目な顔されると、また上がるんだけど……

 ちょっと待って、今は落ち着きたい……』

 

「また変な声が!?」

 

「聞かなかったことにしとけ」

 

 ポップが、もう疲れた様子でスープをすすった。

 

◇ ◇ ◇

 

「とにかく!」

 

 レオナは手をパン、と叩いた。

 

「この話は、いったん整理しましょう」

 

「整理できるのか……?」

 

 ポップのボヤきはスルーする。

 

「まず、尻尾ポーションはちゃんと作る。

 方法は――ロモスに戻って、城の研究室を借りましょう。ちゃんとした設備で煮込んだほうがまだマシよ」

 

「野戦病院じゃなくて、王宮ラボ行きか。安心感あるな」

 

 相馬がうなずく。

 

「で、投与方法は?」

 

「…………」

 

 レオナは、そっと視線を落とした。

 

「システム曰く、あのやり方が一番効くらしいけれど」

 

「らしい、って言い方やめろよ。さっきばっちり表示されてたじゃねぇか」

 

「黙りなさいポップ」

 

 きっぱりと言い切ったあと、レオナは軽く息を吐いた。

 

「治すかどうかも含めて――」

 

 ふっと、相馬を見る。

 そのせいで、言葉が一瞬詰まる。

 

 ――顔イベント。

 

【レオナ→相馬 300/300(数値変動なし/衝撃+3)】

 

【電子音声:レオナ(甘々+覚悟入り)】

『元に戻っても戻らなくても、

 “好き”は減らないって、もう分かってる……

 だからこそ、一緒に決めたい……』

 

 電子音声のほうが本音を先に喋ってしまう。

 

「勝手に代弁しないで!!」

 

 レオナは即座に怒鳴りながら――それでも言った。

 

「――あなたと、二人で決めるわ。

 治すのか、今のままで行くのか。

 そのとき、必要なら……」

 

 さすがに「口移し」とは言えなくて、言葉が途切れる。

 

 相馬は、少しだけ真面目な顔でうなずいた。

 

「了解。

 王女レオナの責任の下で動くって約束、まだ有効だからな」

 

「……ええ」

 

 胸の奥で、300の数字がじわりと熱を帯びる。

 

(本当にこの人、ずるい)

 

◇ ◇ ◇

 

 そんな二人のやりとりを、マァムは複雑な気持ちで見ていた。

 

(300って……“その人のためなら大抵なんでも”ってレベルじゃなかったっけ)

 

 好感度システムのヘルプを思い出す。

 

 普通なら上限が150。

 そこを突破してさらに上限を伸ばして、今は300で天井。

 

(尻尾ポーション2回コースでも普通にやるでしょうね)

 

 妙に納得してしまった自分に、マァムは小さくため息をついた。

 視線が、自然と相馬のほうへ向かう。

 

 さっきまで笑っていた横顔。

 今は真面目に、尻尾の皮を見つめている。

 

 ――顔イベント。

 

【マァム→相馬 118 → 120/150】

 

 数字が、しきい値を越えた瞬間――

 

 世界が、すこしだけ甘く歪んだ。

 

【電子音声:マァム(120オーバー仕様/甘々+現実感)】

『恋愛面の要望:

 ――もうちょっと、自分の身体のこと大事にしてほしい。

 ――“女たらしモード”のときでも、ちゃんと仲間として見ててほしい。

 治療時の希望:

 ――もし、わたしが投与することになったら……

   医療行為として、ちゃんと真面目に受け取って。

   変な茶化し方したら、ほんとに怒るからね……』

 

「っっ!?!?」

 

 マァム本人が、一番驚いて固まった。

 

「今の声、マァムだよな!?」

 

「本人そっくりだったな!」

 

 ダイとポップが、半分パニックで振り向く。

 

「ちょっ……ちょっと待って! 聞かなかったことにして!!」

 

 マァムは真っ赤になって頭を抱えた。

 

【システム補足】

・マァム→相馬の恋愛好感度が120を超えました。

・これにより、「恋愛的不満・要望読み上げモード(しゅきしゅきボイス)」が解禁されました。

・尻尾ポーション投与候補リストを更新します。

 

【更新された候補者一覧】

・レオナ → 相馬 300/300 (投与推奨回数:2)

・マァム → 相馬 120/150 (投与推奨回数:1)

 

「ちょっと待ちなさいシステム!」

 

 レオナがビシッと指を突きつけた。

 

「誰に断って候補リスト更新してるのよ!」

 

【電子音声:レオナ(甘々+嫉妬マシマシ)】

『……“口移し候補が二人です”ってしれっと言われると、

 心臓が二つぐらい要るんだけど……』

 

「本音だだ漏れやめて!!」

 

「いやでもさ」

 

 相馬が、困ったように笑った。

 

「候補が増えたのは、ありがたいっちゃありがたいだろ?」

 

「どの口が言うのよ」

 

 レオナの視線が、じとっと鋭くなる。

 

「自分のウイルス治療の話なのに、“ありがたい”って言い方おかしくない?」

 

「いやだって」

 

 肩をすくめながら、相馬は言う。

 

「これで、レオナ一人に全部押しつけなくて済むじゃんか」

 

「…………」

 

 一瞬だけ、言葉に詰まった。

 

 確かに、その通りだ。

 二回も“アレ”をやることになったら、本当に過呼吸で倒れる自信がある。

 

(でも)

 

【電子音声:レオナ(甘々+メンヘラ気味)】

『“押しつけなくて済む”って言われると、

 寂しくなるの、なんでかしら……

 面倒な役でも、独り占めしたいって思っちゃうの、ほんとに面倒ね……』

 

「…………」

 

「今のは、だいぶ面倒な本音だな」

 

 レオナは、両手で顔を覆った。

 

「知らない!!」

 

◇ ◇ ◇

 

 結局、その場の結論はこうなった。

 

「ロモスに戻る。

 尻尾ポーションは、王宮の設備を借りてちゃんと作る。

 投与方法とタイミングは――」

 

 レオナは、少しだけ息を吸い込んだ。

 

「相馬と、わたしたちで改めて決める。

 誰が投与するかも含めて」

 

「“わたしたち”って、オレも入ってる?」

 

 ポップが恐る恐る手を挙げる。

 

「場合によっては、あなたが目隠し役とかするかもしれないわね」

 

「そんな役やだぁぁぁぁぁ!!」

 

 広間に、朝から元気な悲鳴が響いた。

 

 その横で、ダイが真面目な顔で頷く。

 

「でも、ちゃんと決めなきゃ」

 

「ダイ?」

 

「相馬、今のままだと楽しいけどさ」

 

 ダイは、正面から相馬を見た。

 

「危ないこともするから」

 

「まぁ、否定はしない」

 

「だから、その“危ないの”を少し減らせるなら……

 オレは、ウイルス治療してもいいと思う」

 

【ダイ→相馬 77 → 81/150】

 

【電子音声:ダイ】

『今の相馬も好きだけど……

 ちゃんと生きて、一緒に旅してほしいから……』

 

「お前なぁ」

 

 相馬は、少しだけ目を細めた。

 

「そういう素直なこと言うの、ずるいぞ。

 レオナと同じで」

 

「えっ!? お、オレ、レオナと一緒なの!?」

 

「そこは喜んでいいところよダイ」

 

 レオナが笑いながら言う。

 

 その笑顔を見て――

 

 また、頭上で300/300が柔らかく瞬いた。

 

◇ ◇ ◇

 

 準備を整え、一行は廃祠を後にした。

 

 ロモスの城下へ向かう森の道。

 

 先頭を歩くのはダイ。

 その横に相馬。

 少し後ろに、レオナとマァムとポップ。

 

「……ねえ、マァム」

 

「なに?」

 

「その……」

 

 レオナは、ちらっとマァムの頭上を見た。

 

【マァム】

 相馬 120/150

 

「……120、おめでとう」

 

「お祝いの言葉が重いんだけど!?」

 

 マァムの視線が、前を歩く相馬の背中に吸い寄せられた。

 

 ――顔は、やっぱり、どうしようもなくタイプ。

 

【電子音声:マァム(甘々+現実)】

『治療のとき、本当に茶化したら許さないからね……

 でも、ちゃんと治っても、今のあなたのこと、忘れないから……』

 

「だから! 勝手に喋らせないで!!」

 

 マァムの悲鳴が、森にこだました。

 その後ろで、レオナはため息を吐く。

 

 今の感情は自分一人で抱えるには重すぎて。

 でも、誰かに分けるのは、それはそれで嫌で。

 それでも結局――

 

(“危険因子ごとまとめて面倒見る”って決めたの、わたしだし)

 

 ロモスの森の風は、そんなややこしい感情ごと、一行の背中を押していく。

 

 獣王の尻尾の皮。

 恋愛システムのウイルス。

 チャラ相馬と、300/300のレオナと、120/150になったマァム。

 

 勇者と仲間たちの旅路は、ますます賑やかに――

 それでも確実に、次の舞台へと向かっていた。

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