オーバーヒート(AI小説) 作:匿名希望
※※※ 作者コメント ※※※
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
以前「しばらく原稿を積む」とお伝えしていましたが、
本日からいきなり連日更新、というわけではありません。
スマホでの執筆ということもあり、
クオリティと執筆速度を両立しようとすると頭痛がぶり返してしまい、
あまり無理はできないと判断しました。
そのため、体調を優先しつつ、当面は
「5日に1話」くらいのペースを目標に、ゆっくり続けていければと思います。
※更新ペースは体調次第で前後する場合があります。
のんびりお付き合いいただけましたら幸いです。
パプニカ城の朝は、静かだった。
――少なくとも、城の外側は。
海からの風が瓦礫の上を抜け、崩れかけた塔の影を撫でていく。
昨夜まで戦場だった城に、ようやく「夜明け」の匂いが戻りつつあった。
だが、その頃。
客間のひとつでは、別種の緊張が、誰にも知られないまま育っていた。
◇ ◇ ◇
重い。
そして、あたたかい。
(……なんだ、これ)
相馬は、うっすらとした意識の底でそう思った。
胸のあたりに、しっかりした重み。
鼻先をくすぐるのは、布と髪の匂い。潮風とは違う、甘くて少し懐かしい匂いだ。
息が苦しいほどではない。
ただ、身体を起こそうとしても――動かない。
(縛られてる? ……いや)
片腕が、柔らかいものにがっちりホールドされている。
もう片方は、外側から誰かに巻きつかれている感触。
そこまで認識したところで、相馬はまぶたを持ち上げた。
視界いっぱいに、淡い金色が広がる。
自分の胸元あたりに、誰かの後頭部。
距離、ほぼゼロ。
寝癖で少し跳ねた髪。
規則正しく上下する肩。
昨日、炎と血の中で叫んでいた声が、今は穏やかな寝息になっている。
(……レオナ)
そこでようやく、少しだけ脳が目を覚ました。
レオナの匂いとともに、昨夜の記憶が、ぶつ切りで戻ってくる。
――ヒュンケルとの決着。
――城に戻ってからの報告と、今後の方針。
――自分の部屋に来たレオナと、遅くまで続いた話。
――テーブルの上で、力尽きるみたいに寝落ちした彼女。
そこまでは、ちゃんと覚えている。
(で、抱き上げてベッドまで運んで、毛布かけて……)
そのとき、「どこにも行かないで」と寝言みたいに言われて、胸元を掴まれた感触も思い出す。
(……で、仕方なく反対側に転がって――)
その先が、記憶がない。
一度はちゃんと距離を空けたはずだった。
「さすがにこれくらいなら大丈夫だろ」と高をくくったが……それは甘かったようだ。
レオナは横向きで相馬の胸元に頭を預け、腕をしっかり巻きつけている。
上から見れば、どう見ても抱きついている。
(どんな寝相だよ)
心の中だけで、控えめにツッコミを入れる。
それでも、想像していたようなパニックは来なかった。
目の前数センチにある後頭部。
昨日まで張りつめていた肩が、今は少しだけ落ちているのが分かる。
祖国を焼かれ、必死で立っていた王女の、力の抜けた横顔。
(……まあ)
相馬は、ゆっくり息を吐いた。
(こうして寝れてんのなら、いいか)
自分でも驚くくらい、思考が丸い。
眠気と、昨夜の戦いの疲れと、その両方のせいだろう。
ふと、手が動いた。
目の前の後頭部に、そっと片腕を回す。
髪を押しつぶさないように、包み込むみたいに支えてやる。
「……よく頑張ったな、お前も」
誰に聞かせるでもなく、低くつぶやいた。
その瞬間、腕の中のレオナが、小さく「くきゅ」と鳴く。
(今の音なに)
鳥でも悲鳴でもない、妙な一音。
半分寝ぼけた頭でそこにだけツッコミを入れたところで、また眠気の波が押し寄せてきた。
(……続きは、起きてから考えよ)
後頭部を支えたまま、相馬はもう一度まぶたを閉じた。
◇ ◇ ◇
どれくらい眠ったのか分からない。
次に意識が浮かび上がったとき、最初にきた情報は――痛みよりも、眩しさだった。
(……光、さっきより強いな)
カーテンの隙間から射し込む朝日が、はっきりと瞼越しに刺さってくる。
それから、遅れて。
胸元の重さと、腕の感触を、改めてきちんと認識した。
(……あ、そうだ。レオナが……)
状況を思い出した瞬間、彼女のほうが先に動いた。
預けられていた頭が、もぞ、と小さくずれる。
それに合わせて、相馬の胴に絡んでいた腕の力が、ぎゅっと強くなった。
「……ん……」
喉の奥で、小さな声。
さらに数秒。
レオナの肩が、びくっと跳ねた。
「…………」
固まる。
全身がものすごく分かりやすく「今、思い出しました」と主張していた。
(起きたな)
相馬が心の中で小さく実況していると、腕の力がさらに強くなる。
そして――
ゆっくりと、レオナが顔を上げた。
距離、ほぼゼロ。
あと少し動けば額がぶつかりそうな場所で、茶色の瞳と目が合う。
「……おはよ」
「お、おはよじゃないでしょ」
言葉はそう言いながら、しがみついている腕はまだ離れない。
「とりあえず、落ち着いて深呼吸」
「落ち着ける状況に見える?」
「……それは、まあ」
相馬は視線をそらし、苦笑をこぼす。
レオナは自分の体勢を理解しているらしく、耳まで赤くなった。
相馬の胸元に頭を預けて抱きつく形。
さらに、相馬の片腕は、彼女の背中をきちんと支えている。
客観的に見て、言い訳しづらい距離だった。
⚪︎⚪︎⚪︎
「……ごめん、離れる」
レオナがそっと腕をほどこうとして、足元の毛布に引っかかる。
「きゃ」
前のめりに倒れかけたところを、相馬が反射的に腕を伸ばした。
「おっと」
背中から抱きとめる形になる。
結果。
さっきより距離が近くなった。
「…………」
「…………」
数秒の沈黙。
【好感度表示システム】
『バックハグ、心拍数急上昇中』
「……そういう報告いらないから」
レオナが、半分自分に向けて小声で抗議した。
◇ ◇ ◇
「……ちょっと、状況をまとめましょう」
ベッドの端で、レオナは膝を抱えて座り直した。
寝間着の上から羽織った薄いローブをぎゅっと握る。
相馬は毛布を整えながら、ベッドの反対側に腰を移す。
今度はちゃんと距離を空けて座っている。さっきまでの密着は、夢だったのかなと錯覚しそうなくらいだ。
「その、文句言われる前に言っとくけど」
相馬が、少しだけ真面目な声になる。
「昨日、お前がテーブルで寝落ちしたからさ。
そのままだと風邪ひくだろうし、ベッドに運んだ」
「それ、わたしもうっすらと覚えてるかも」
レオナは頬を押さえたまま、視線だけをそらした。
「で、腕つかまれたから、無理やり振りほどくのも嫌だったから。
しかたないから同じベッドで寝た。――ここまではセーフ判定でいい?」
「ーーわたしは別にアウトなんて思ってないわよ。
ここに来たのも、寝ちゃったのもわたしだし」
レオナは、恥ずかしそうに俯いた。
「問題は、人に知られた時よ」
「知られた時?」
「一晩、一緒の部屋で…しかも同じベッドで寝ちゃったのよ!
これはーーぜったいに他の人に知られてはダメよ」
頭上のパネルが、ぴりぴりと震える。
【好感度表示システム】 【レオナ】
相馬 ――(将来設計。暴走、ダメ、ゼッタイ)
「もう茶化すのやめて!?」
レオナが枕をつかんでパネルに向かって投げる。
当然、枕は空中のウィンドウをすり抜けて、相馬の肩に当たった。
「いて」
「相馬も、もうちょっと危機管理を身につけて!」
「どの辺から?」
「昨日の夜から、全部!」
言葉だけ聞けば、いつもの調子に戻っているようにも見える。
ただ、声の高さも、語尾のトゲも、いつもよりほんの少しだけ過剰だ。
相馬は、枕を手で払いながら、小さく息を吐いた。
「……まあ」
「なに?」
「レオナに危機感を持つ理由が無いから」
短く、それだけ。
レオナの肩が、ぴくりと揺れた。
「私に何かあったら、あなたはきっと指名手配されるのよ」
「そこは、寝相のせいってことにしとく?」
「そういうこと決めるの私たちじゃ無いから!!」
頭上でパネルが、また小さく光った。
【好感度表示システム】
判定:寝相(以上)
「システムが相馬の肩を持ってる?!」
レオナが、額を押さえた。
◇ ◇ ◇
そんなドタバタを、扉の外の人間は知らない。
――はずだったのだが。
「……あれ? 返事ないな」
同じころ。
客間の前の廊下で、マァムは首をかしげていた。
ここは、昨夜の時点で「相馬の部屋」として案内された客間だ。
朝食の時間を伝えに回っていた侍女から「王女殿下も昨夜はこちらに」と聞き、マァムは軽く礼を言って扉の前に立った。
(“こちらに”ってどういう意味かは……今考えたら胃が痛くなりそうだから、後回し)
とりあえず。
ノックを三回。
「相馬ー? 起きてる? 朝ごはんだよー?」
返事はない。
代わりに、扉の向こうから微妙にくぐもった声が聞こえた。
『判定:寝相(以上)』
『システムが相馬の肩を持ってる?!』
「…………」
マァムは、ほんの一瞬だけ目を閉じた。
なぜか聞こえてくるレオナの声に、不安が募る。
【好感度表示システム】
高好感度ユーザーが、別高好感度ユーザーの“やばい空気”を検知しました。
深呼吸を推奨します。
「ごめん、入るね。何かあったら困るし」
マァムはノブをひねった。
鍵は、かかっていなかった。
◇ ◇ ◇
扉がきぃ、と音を立てて開く。
マァムの視界に飛び込んできたのは――
ベッドの上で向かい合って座っている、相馬とレオナだった。
だが、二人の間にある毛布やシーツはぐちゃぐちゃ。
レオナの髪は寝癖と慌てた動きでふんわり乱れ、頬はまだうっすら赤い。
相馬は相馬で、寝癖+片方の袖が少しずり落ちたシャツ姿だ。
そして何より。
「……………………」
マァムの時間が、一瞬止まった。
部屋の空気感……。
当事者は鼻が慣れてしまっているだろうけど、マァムには入った瞬間にほぼ正確に状況を理解していた。
【好感度表示システム】
状況:朝一番/共有ベッド/説明が必要そうです
「状況説明しないで……」
マァム本人が頭を抱えた。
相馬とレオナが同時にこちらを見る。
「あ」
「ま、マァム?」
タイミングとしては、最悪。
レオナは条件反射のように立ち上がろうとして、足元の毛布につまずき、再びベッドに座り込む。
「ち、違うのよこれは」
「できれば、もう少し詳しい説明が欲しいかな」
マァムの声は、妙にフラットだった。
怒鳴っているわけでも、泣きそうなわけでもない。
それが逆に、怖い。
「まず一つ、聞いていい? レオナ」
「……なに?」
「昨日の夜、“レオナの部屋”はどこだったの?」
「……ここ」
「だと思った」
今度は、はっきりと声に力が乗る。
ぱん、と音を立てて、マァムが扉を閉めた。廊下への音漏れを防ぐために。
「ちょっと、マァム、落ち着いて――」
「落ち着いてる、つもりなんだけどな!」
言いながらも、語尾だけは完全に怒っている。
「昨日の戦いのあとで、不安で眠れなかったとか、話し込んじゃったとか、そういう経緯は分かる。
でも」
マァムは、ベッドの二人を順番に指さした。
「この、二人とも同じベッドっていうのは、さすがに説明が欲しいかな。
王女と――ええと、その……色々と目が離せない人が、同室っていうのは」
「“目が離せない人”は、ちょっとだけかっこよく聞こえるな」
相馬の軽口が、見事に油を注ぐ。
レオナはレオナで、耳まで真っ赤にしながらも、一歩も引かない。
「へ、変なことなんてしてないわよ」
「その一言が、いちばん信用度ゼロなのよね……」
マァムのこめかみがぴくりと震える。
【好感度表示システム】
空気がピリピリしてる。
余計な一言は危険。
火種の持ち込みにご注意ください。
「それって私が原因ってこと?」
マァムが空中に向かって小さく吐き捨てる。
その怒りは、誰か一人にだけ向いているわけではなかった。
レオナに対しては――
王女としての立場を分かったうえで、それでもこうなってしまうくらい相馬を必要としている、その気持ちが分かってしまうから、強く責め切れない。
相馬に対しては――
自分がこの顔に弱いのを十分理解していながら、気づけばいつも一番近くにいる、そのずるさを、どうしても意識してしまう。
(だからって、朝からこの光景は反則でしょ)
胸の奥が、ちくちく、いやグサグサと痛む。
そんなマァムの内心を知ってか知らずか、相馬がようやく真面目な声を出した。
「悪かった。本当に」
ベッドから立ち上がり、きちんとマァムのほうを向いて頭を下げる。
「昨日の夜は、レオナがここで寝落ちしただけだ。
途中で腕つかまれて、無理やり剥がすとややこしいことになりそうだったから、そのまま寝た。
本当にそれ以上でも以下でもない」
「その“それだけ”で、朝まで同じベッドって結論になるのが、問題なんだけどね」
どう考えてもこの場を切り抜けるための方便のようにしか見えない。
「そこは……俺の危機管理能力が甘かったってことで」
「自覚あるなら、次から直して」
レオナが、横からぼそっと追撃する。
「おい、こらお前。今それ言える立場なのか」
「わたしも悪かったけど、あなたにも直して欲しいわ」
二人のやり取りを聞きながら、マァムはふっと息を吐いた。
「……分かった」
「え?」
「とりあえず二人とも、一回服整えて、顔洗ってきて。
朝食の席で変な空気出したら、そのときは怒るからね」
マァムはさっきより少しトーンダウンしていた。
相馬とレオナは顔を見合わせる。
「了解」
「分かったわ」
ひとまず、これ以上の修羅場は延期になったらしい。
【好感度表示システム】
修羅場:一時的に沈静化しました。
※後日、別の形で再燃する可能性があります。
「その予告はいらないなぁ」
マァムの低いひと言に、空中のウィンドウが一枚、そっとフェードアウトした。
◇ ◇ ◇
パプニカ城の食堂は、城の外の瓦礫からは想像できないくらい、きちんと片づいていた。
割れた窓ガラスには仮の板がはめられ、欠けた柱には補強の梁が渡されている。
それでも、テーブルの上には温かいスープと焼きたてのパン、簡素ながらも栄養を考えた料理が並んでいた。
ダイは、いつも通り元気にパンを頬張っている。
ポップはスープをかき混ぜながら、どこか上の空だ。
「しかしまあ……」
ポップがぼそっと言った。
「昨日のあの地獄みたいな戦いの翌日に、ちゃんと飯が出てくるってのが、いまだに信じらんねぇんだけど」
「それが“国”ってものよ」
「城の外壁がどれだけ傷ついても、食堂や医務室みたいな“生活の場所”は、できるだけ早く立て直す。
人の心を繋ぎ止めるために、一番大切なところだから」
その言葉に、ダイが素直に頷く。
「……すごいな」
「すごいのはレオナと、この城の人たちだよ」
マァムも、静かに言葉を添えた。
――と。
「おはよう」
少し遅れて、相馬が食堂に入ってきた。
髪は水でざっと整えられ、服もきちんと着直している。さっきまでのベッド騒動を知らない者から見れば、少し寝坊しただけにしか見えない。
その後ろに、レオナも続く。
さっきまでのドタバタが嘘のように、姿勢も表情もいつもの王女モードだ。
ただ、一歩だけ相馬から距離を取って歩いているあたり、本人なりの“距離感調整”の努力が見て取れた。
「おー、おはよう」
ダイが手を振った。
「相馬、昨日の怪我、大丈夫?」
「まあな。レオナに治してもらったし」
相馬が軽く肩を回してみせる。
本当に致命的な傷は、ほとんど残っていない。全身のだるさと、ところどころじんと痛む筋肉だけが“昨夜の戦いは夢じゃない”と主張している。
「相馬が『まあな』で済ませるケガって…、アレ十分重症だったと思うけどな……」
ポップがぼやきつつも、安堵の吐息を漏らした。
マァムは、そんな彼らを見回してから、テーブルの端の席に腰を下ろす。
相馬は、ダイの斜め向かい。
レオナは、その隣。
自然な配置のようでいて、微妙に“マァムから見やすい位置関係”だと、ほんの少しだけ自覚があった。
(……ちゃんと見ておかないと)
パンをちぎりながら、マァムは自分に言い聞かせる。
レオナが相馬を見る、その視線。
相馬がそれを受けて、ほんの少し視線を返すタイミング。
そういう細かいところが、今の彼らの距離を物語っている。
胸の中で、静かに何かがちくりとする。
「マァム? 食べないの?」
隣のダイが首を傾げる。
「ううん。ちゃんと食べるよ」
マァムは笑った。
いつもの、みんなを安心させる笑顔。
でも、その笑顔の裏で、昨日までとは少し違う種類の感情が生まれている。
(わたし、ずっと半歩引いたところから見てただけだな)
相馬の顔を見るたびに、胸がざわつくのをごまかしてきた。
レオナが一歩抜けた位置にいるのを見て、「しょうがないよね」と言い聞かせてきた。
尻尾の皮から作った薬のときも。
昨日の戦いのときも。
(でも――)
スープの湯気越しに、相馬の横顔が揺れる。
ヒュンケルとの闘いの時、あの背中を見てしまった後は簡単には諦められない。
人を心から好きになって、それでも何も言わないまま身を引く――
(それ、きっと一番あとで後悔するやつだ)
マァムは、自分の拳を膝の上でそっと握った。
「なー、相馬」
唐突に、ポップが話題を振る。
「ん?」
「昨日さ。あの黒い鎧のやつに、最後なんか言ってただろ?
“ここから先は、自分で選べよ”とかなんとか」
「覚えてんな、お前」
「そりゃ覚えてるよ。
あそこでお前が変な説教ぶっ込んだおかげで、良かったのか悪かったのか知らんけど引いていったからな」
「変なって、言うな」
いつもの軽口。
だが、その会話を聞きながら、マァムの中で何かが、かちっと音を立てた。
(選べ、か)
相馬は、ヒュンケルにそう言った。
過去に縛られたまま“悪役”を続けるか、それとも何か別の道を選ぶか。
――なら、自分だって。
「ねえ、レオナ」
気がついたら、マァムは口を開いていた。
「なに?」
パンをちぎっていたレオナが、こちらを見る。
その視線には、ただの“親友”としての色があった。
それが、少しだけずるい。
「あとで、ちょっと二人で話せる?」
「……わたしと?」
「うん。レオナと」
その言い方は意味深だった。
食堂の空気が、ほんの少しだけ固まる。
ポップがスプーンを止め、ダイがきょとんとし、相馬が目を瞬かせた。
レオナは、一瞬だけ息を呑んでから――小さく笑った。
「いいわよ」
王女ではなく、“レオナ”としての笑顔だった。
「食後でいい?」
「うん。ありがと」
【好感度表示システム】
本日、レオナ様とマァム様による“心の距離調整ミーティング”が予定されました。
「おかしな名前つけるな」
相馬は、パンをかじりながら、どこか諦めたように息を吐く。
マァムは、その横顔を見て、改めて決めた。
(ちゃんと話そう)
レオナと、自分の気持ちのこと。
相馬のことをどう思っているか。
お互いにとって、一番後悔しない形は何なのか。
そのうえで――
(それでも譲りたくないって思ったら。
そのときは、ちゃんと正面から“好き”って言う)
それは、王女への宣戦布告になるかもしれない。
相馬を、もっとややこしい立場に追い込むかもしれない。
それでも。
(逃げるより、よっぽどいい)
マァムは、スープを飲み干した。
今日のパプニカ城の朝は、やっぱりどこか距離感がおかしい。