オーバーヒート(AI小説) 作:匿名希望
洞窟の空気が、一度静かになった。
さっきまでデルムリン島の幻影が広がっていた空間は、嘘みたいに消え、ただの岩の壁と床だけが残っている。
ダイの額には、まだうっすらと竜の紋章の痕跡が光っていた。
「……終わった、のか?」
ブラスがひげをなでながら呟く。
「試練としては、一区切りってところだろうな」
相馬はダイの肩に手を置きながら、周囲の魔力の流れを探った。
安心しかけた、その時だった。
洞窟の奥の壁に彫られたレリーフ――
ドラゴンにも獣にも見える三つ首の彫像が、ぐにゃりと歪んだ。
「なっ……」
レオナが息を呑む。
石だったはずのそれが、石粉を撒き散らしながら盛り上がり、
赤い目が、ゆっくりと開いた。
三つの頭。
灼熱の息を漏らす巨大な犬――ケルベロスが、封印から姿を現したのだ。
「これが、“番犬”……!」
ブラスの顔色が変わる。
ダイは木剣を握りしめて一歩踏み出した。
「相馬!」
「分かってる!」
相馬はすでに杖を構えていた。
◇ ◇ ◇
「くっ……!」
ケルベロスの右の首が、大きく息を吸い込む。
次の瞬間、洞窟の広間を焼き尽くさんばかりの炎が吐き出された。
「ベギラマ!」
相馬の詠唱と同時に、青白い光の壁が前に走る。
炎と光が正面からぶつかり、空気が悲鳴を上げた。
轟音。
熱風。
火花のように散る魔力の残滓。
そのすべての前に、相馬はただ立っていた。
その背中を、ダイとレオナが見上げる形になる。
「フバーハ!」
レオナが杖を掲げると、淡い緑の風がダイと相馬を包んだ。
熱がほんの少し和らぐ。
「助かる!」
相馬が短く礼を言った瞬間――
レオナの頭上に浮かぶパネルが、ぴこっと光った。
【レオナ】
相馬 128 → 132/150
ズギューン!!
胸の中で、心臓が派手に跳ねる。
【電子音声:レオナ】
『しゅき……前に立つの、かっこよすぎ……』
本人そっくりの声が、しかしどこか甘く、洞窟に染み込むように響いた。
「……っ!」
レオナは慌てて口を引き結んだ。
(落ち着きなさい、レオナ。今は戦闘中、戦闘中よ!)
「レオナ、右!」
「言われなくても分かってるわ!」
ケルベロスの右の首が再び息を吸い込む。
その動きに合わせて、レオナは杖を振りかざした。
「ピオリム!」
ダイと相馬の身体が、軽くなったような感覚に包まれる。
「ダイ! 右の首はお前の担当だ!」
「うん!」
相馬は左手で炎を受け止め続けながら、右手でメラを放つ。
火の玉がケルベロスの口元に飛び込み、ブレスの流れを乱した。
「今だ!」
「やぁっ!!」
ダイの木剣が光をまとい、右の首の顎を叩き上げる。
数本の牙が折れ、炎の軌道が逸れた。
「やるじゃない!」
レオナが叫ぶ。
ダイの頭上パネルが、元気よく点滅した。
【ダイ】
レオナ 45 → 49
相馬 43 → 47
【電子音声:ダイ】
『レオナも相馬も、すげー!』
素直すぎる感想が、ちょっとだけ空気を和ませた。
◇ ◇ ◇
「……やっぱり、この“番犬”、ただの魔獣じゃないな」
炎を押し返しながら、相馬は冷静に考えていた。
(攻撃魔法の扱いも、そこまで上手くはない。
でも、こいつの炎は桁が違う)
レオナのフバーハと、相馬自身の魔法制御がなければ、とっくに全員焼けている。
それでも、長くは持たない。
「相馬!」
背後から、レオナの声。
「右の首はダイに任せて。
あなたは左――あの視線を止めて!」
「指揮官の命令とあらば」
軽口を返しつつ、相馬は位置をずらした。
ケルベロスの左の首が、じろりとこちらを睨む。
次の瞬間、紫がかった炎が吐き出された。
「うわ……色が悪い……」
毒か、呪いか。
直感が「食らったらまずい」と告げている。
「レオナ、左は頼めるか?」
「任せなさい!」
レオナは即座に詠唱を切り替えた。
「ベギラマ!」
相馬の前に、彼女の光が走る。
炎と光がぶつかる位置が、微妙に前へ出た。
「……っ!」
レオナの額に汗が浮かぶ。
その肩越しに、相馬が見えた。
洞窟の光の中で、真剣な横顔だけがやけにくっきりと浮かび上がる。
(ああもう、この顔……!)
視線がどうしても吸い寄せられる。
顔イベント。
発動。
ズギューン!!
【レオナ→相馬 132 → 138】
【電子音声:レオナ】
『しゅきしゅき……危ないのに、前に出てくるところが……しゅき……』
声が、さっきよりほんの少しだけ早口で、息が混じっている。
周りの兵士がいなくて本当に良かったと、レオナは一瞬だけ本気で思った。
「……後ろ、任せてもいいか?」
相馬が振り向きもせずに言う。
「王女殿下」
「危険因子の前線支援ぐらい、やってみせるわよ!」
レオナは胸を張って答えた。
相馬の頭上パネルが、静かに点滅する。
【相馬】
レオナ 58 → 61
【電子音声:相馬】
『――頼りになる。
危険因子を見る目は確かだ』
「今の、わたしの耳には入ってないからね!?」
レオナが真っ赤になって叫ぶが、誰も拾っている余裕はない。
ケルベロスの中央の首が、大きく口を開けたからだ。
これまでで一番、大きな炎が来る。
◇ ◇ ◇
「――下がれ!!」
相馬はダイとレオナをぐっと後ろへ押しやり、自分だけ半歩前に出た。
溜めに溜めた炎が、洞窟の空間全体を飲み込もうと迫ってくる。
熱だけで皮膚が焼けそうだ。
「ベギラマァッ!!」
体の芯から搾り出すような光の奔流が、炎とぶつかる。
視界が真っ白になった。
「っ……!」
足が、石床に食い込む。
押し返されそうになるのを、根性でねじ伏せる。
「相馬!」
レオナの声が背中越しに飛んでくる。
フバーハの風が、さらに熱を削ってくれる。
「ダイ!」
相馬は炎の中で叫んだ。
「右と左の首は、もう封じた! 残り一つだ!」
「うんっ!」
ダイが横から回り込もうとした、その瞬間。
洞窟の奥から、嫌な音がした。
ゴゴゴ……と、岩の軋む音。
天井に、大きな亀裂が走る。
「……嫌な予感しかしないな」
「相馬!」
レオナが叫ぶ。
「このままじゃ洞窟ごと潰れる! 早く決めないと!」
「分かってる!」
相馬は炎をそらしながら、素早く状況を組み立てた。
(ケルベロスの真ん中の首を落とせば、あとは崩れるだけだ。
問題は、その前に天井が落ちるかどうか……)
「ダイ!」
「なに!?」
「お前に賭ける。――レオナ!」
「はい!」
「ダイに全振りでバフを!」
「言われるまでもないわ!」
レオナは杖を高く掲げた。
「バイキルト!」
赤い光がダイを包み込む。
筋肉の内側から力が湧き上がる感覚に、ダイが思わず息を呑んだ。
「すごい……!」
「ダイ。今の一撃は、“勇者”の一撃として届かせろ!」
相馬の声が、炎の轟音を突き抜けて届く。
「オレ……!」
ダイの額が、再び熱を帯びる。
竜の紋章が、今度ははっきりと光を放った。
「オレ――みんなを守る勇者になるんだ!!」
ダイが駆け出した。
バイキルトで強化された木剣が、炎を切り裂くように振り下ろされる。
ケルベロスの中央の首の頭蓋が、砕けた。
巨体が、どしん、と音を立てて倒れ込む。
◇ ◇ ◇
同時に、天井の亀裂が大きく広がった。
岩が崩れ、石の破片が雨のように落ちてくる。
「――出るぞ!!」
相馬の声で、全員が入り口の方向へ走り出した。
「ダイ、こっち!」
「は、はいっ!」
レオナがダイの手首を掴んで引っ張る。
相馬は一歩後ろから、崩れてくる石をバギで弾き飛ばす。
入口に近づいたところで、特に大きな岩が天井から落ちてきた。
「危ない!」
レオナが思わず足を止め――
相馬がその肩を掴んで引き寄せた。
彼女の頭を覆うように腕を回し、背中で石の破片を受け止める。
「っ!」
間近で、相馬の息が聞こえた。
ほんの一瞬のことなのに、時間が伸びたように感じる。
胸の中で、何かが爆発した。
顔イベント。
最大級。
ズギューーーン!!
【レオナ→相馬 138 → 145】
【電子音声:レオナ(125オーバー仕様/舌足らず)】
『しゅきしゅきしゅき……! ぎゅってされちゃった……!
このまま、手、にぎって……頭もなでて……
ずっと、そばにいてほしい……っ』
「~~~~~っっ!!!???」
レオナは顔を真っ赤にしながら、ほとんど悲鳴に近い声を出しそうになり――
ギリギリのところで飲み込んだ。
「悪い。痛くなかったか?」
「い、痛くないわよ! 問題はそこじゃないけど!!」
レオナの抗議にも、相馬は「?」という顔をしている。
だが、相馬の頭上にも、しっかり数字は出ている。
【相馬】
レオナ 61 → 64
【電子音声:相馬】
『……守る価値があるって思うぐらいには、大事だ』
その言葉に、レオナは一瞬だけ動きを止めかけた。
だが、洞窟の崩落は待ってくれない。
「レオナ! 立て!」
「分かってる!」
相馬に肩を支えられながら、レオナは入口へ向かって駆け出した。
◇ ◇ ◇
外の空気は、ひどく冷たく感じた。
洞窟の入口から飛び出した瞬間、全員が一斉にその場に座り込む。
「ふぅ……助かったわい……」
ブラスがひげをなでつつ大きく息を吐いた。
ダイはまだぜいぜい言いながらも、どこか誇らしげな顔をしている。
「やったな、ダイ」
「うん……! オレ、ちゃんとやれたかな」
「十分だ」
相馬がそう言うと、ダイの頭上の数字が嬉しそうに跳ねた。
【ダイ】
相馬 47 → 52
【電子音声:ダイ】
『相馬に褒められると、やっぱり嬉しい……!』
レオナは、そんな二人を見ながら、自分の頭上をちらりと見上げる。
【レオナ】
相馬 145/150
(……高い)
それだけで、顔が熱くなる。
だが、ここで取り乱すわけにはいかない。
レオナは姿勢を正し、立ち上がった。
「ケルベロスの討伐、勇者の紋章の覚醒。
そして……」
彼女は、相馬と自分の頭上に浮かぶパネルを見上げた。
「この“好感度表示システム”。
危険因子は、一つじゃ済まないようね」
「俺も含めて、か?」
「ええ」
レオナは真面目な顔で頷く。
「あなたの力も、この頭上の数字も。
王女としては、どちらも“ちゃんと調べておくべき危険因子”よ」
「やっぱり危険因子扱いなんですね、俺」
「当たり前でしょ?」
レオナは、わずかに笑みを含みながらも、きっぱりと言った。
「でも――」
少しだけ声を落とす。
「レオナとしては、その“危険因子”に命を救われたことも、忘れないわ」
頭上の数字が、静かに一つだけ増えた。
【レオナ→相馬 145 → 146】
【電子音声:レオナ】
『しゅき……それでも、好き……』
相馬は、その電子音を聞きながらも、敢えて深追いしない。
「じゃあ、王女レオナ。
危険因子の取り扱いは、今後ともお任せします」
「ええ。覚悟しておきなさい」
レオナは胸を張る。
「一人の王女として、一人の指揮官として。
あなたみたいな危険な戦力を、ちゃんと使いこなしてみせるわ」
その宣言に、相馬の頭上パネルがまた控えめに光った。
【相馬→レオナ 64 → 67】
【電子音声:相馬】
『面倒見のいい指揮官だ。
……嫌いじゃない』
レオナはその言葉を聞きながら、魔物たちとパプニカ兵の方へ振り返った。
「さあ、洞窟から離れましょう。
ケルベロスは倒したけれど、崩落の危険はまだ残ってるわ」
「了解!」
「おう!」
ダイと相馬が声を揃える。
頭上には、まだしつこく好感度パネルが浮かんだままだ。
電子音も、場の空気を読まずに時々「しゅき」とか呟いてくる。
それでも。
レオナは、その全部をまとめて前を向いた。
(危険因子も、勇者も、好感度システムも。
――全部ひっくるめて扱ってみせるわ)
王女としての覚悟と、少女としての揺れる気持ちを両方抱えたまま。
デルムリン島の洞窟から、彼女たちは新しい一歩を踏み出した。