オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

7 / 38
7話 好感度の意味

 デルムリン島の夕方は、今日も風が気持ちよかった。

 

 草原での特訓が一段落し、アバンの号令で「解散〜〜」となったあと。

 ダイはその場に大の字で転がり、ポップは木陰でへたり込み、魔物たちはそれなりに勝手に盛り上がっている。

 

 その少し外れ。

 火を焚くにはまだ早い時間帯の岩場で、レオナと相馬、それからアバンが地面に円を描くように座っていた。

 

 頭上には、いつもの“ソレ”が漂っている。

 

【レオナ】

 相馬 150/150

 ダイ  56/150

 アバン 23/150

 

【相馬】

 レオナ 70/150

 ダイ  58/150

 アバン 31/150

 

【アバン】

 ダイ  46/150

 ポップ 62/150

 相馬  35/150

 

(……見たくないわけじゃないけど、見たくないものね)

 

 レオナは、自分の「150」を見なかったことにしようと、わざと海の方へ視線を逃した。

 

(平均がどれくらいなのかすら分からないのに、“天井”に張り付いてるのはさすがにどうかと思うわ……)

 

 しかも、その意味すらまだ知らない。

 ただでさえ危険因子だらけの状況で、情報不足は致命的だ。

 

 そこで――

 

「それじゃ、そろそろやってみましょうか」

 

 アバンが、いつもの柔らかい微笑みで言った。

 

「“好感度表示システム先生”、自己紹介をお願いできますか?」

 

「あの、それ本当にそういう名前なんですか?」

 

 相馬が真顔でツッコむ。

 

 次の瞬間、彼らの目の前の空中に、薄いパネルが新たに一枚、スッと広がった。

 

 今まで頭上に浮かんでいたものと似ているが、表示される内容は違う。

 

《HELPMENU:好感度可視化システム》

 この世界における「好感度」は、0〜150(理論上は…それ以上)の数値で表されます。

 以下は、その目安です。

 

 レオナは思わず前のめりになる。

 

「……来たわね」

 

「説明書、的なやつですね」

 

 相馬も興味深そうに身を乗り出した。

 

 アバンが、教師らしく読み上げていく。

 

 

0以下 嫌い

0〜10 初対面

10〜20 知人レベル

20〜40 友人レベル

40〜60 “気になる”

60〜75 異性として明確に好き

75〜85 恋人、夫婦レベルの好意

85〜90 人生におけるラブラブ期

    (普通の人は一生で上がってもここまで)

90〜100 ストーカーになるレベル

100〜120 超越領域、その人のためならたいてい何でもできる

120〜  一言では説明語句が見つからない領域。

    ストーカーにも、夫婦にも、愛の虜にも――

    この領域になると何にでもなりうる。

※同性同士の好感度は友情的な意味を含みます。

 

 

「……………………」

 

 レオナは、しばらく声が出なかった。

 

 相馬も、珍しく言葉を失っている。

 

「えー、まとめるとですね」

 

 アバンが、教師らしい口調で淡々と続けた。

 

「40〜60が“気になってる”、60〜75が“異性としてはっきり好き”、

 75〜85が“相思相愛・恋人・夫婦クラス”、

 それ以上は――まあ、“人として危ない領域”ってことですね」

 

「丁寧にまとめないでください先生」

 

 相馬が即座にツッコむ。

 

(待って、待って。ということは――)

 

 レオナは、恐る恐る自分の頭上を見上げた。

 

【レオナ】

 相馬 150/150

 

「……………………」

 

 説明文を、頭の中で自動的に当てはめてしまう。

 

120〜 一言では説明のつかない領域。

    ストーカーにも、夫婦にも、愛の虜にも――

 

(……いやよ。説明はつけなくていいけど、そんな候補の中に放り込まれたくない……)

 

 顔から血が引くのか、集まってくるのか、自分でもよく分からなかった。

 

「レオナ姫。大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ」

 

 声が裏返った。

 

「少なくとも、“危険因子”がどこにいるかは、これでよく分かったわ」

 

「いや、人の頭の上指さして言わないでください」

 

 相馬が苦笑する。

 

 アバンは、少し申し訳なさそうな顔をしながらも、内容を確認するように続けた。

 

「ちなみに、レオナ姫の“相馬くんへの数値”は150。

 完全に“120超の何にでもなりうる領域”ですね」

 

「言わなくていいです!!」

 

 今度ははっきり叫んだ。

 

「じゃあ、相馬の方は?」

 

「いや、そこは見なくていいから!」

 

 レオナが慌てて止めようとするより先に、アバンはさらっと目をやる。

 

【相馬】

 レオナ 70/150

 

「ふむ。

 “異性として明確に好き”(60〜75)の真ん中くらい、ってところですね」

 

「先生!!!」

 

 レオナの悲鳴と、相馬の呻き声が同時に上がる。

 

【電子音声:レオナ】

『しゅきしゅきしゅき……でもそんなハッキリ言わないでぇぇ……』

 

【電子音声:相馬】

『……否定は、できない、のがまた面倒だな……』

 

 本人達の声が、微妙に小声で洞窟(※じゃないが)に響いた。

 

「おや、素直でよろしい」

 

 アバンは、いい笑顔で頷いた。

 

「レオナ姫の150と、相馬くんの70。

 数字だけで言えば、“明らかに釣り合っていません”」

 

「二度と言わないでほしいわ、その一文」

 

 レオナは膝を抱えてうずくまりたくなったが、王女のプライドがぎりぎりそれを止めた。

 

(……そもそも、これは“今の状態”の数字であって、“これからどうするか”の話とは別よね)

 

 そう自分に言い聞かせて、どうにか顔を上げる。

 

◇ ◇ ◇

 

「……で、先生はこの数字をどう使うつもり?」

 

 レオナが深呼吸をしてから、アバンに訊ねた。

 

「私としては、正直、このまま放っておくのは危険だと思うわ」

 

「主に自分の数値のせいで?」

 

「主に、って言わないで」

 

 アバンは笑い、指を二本立てた。

 

「まず一つは、“勇者の周りにいる人間の、本当の矢印を知る”こと。

 ダイくんを利用しようとする者、守ろうとする者、そのどちらも数字である程度は見える」

 

「……60を超えてると、“明確に好き”ってことは。

 敵対勢力が60以上を持って近づいてきたら、要注意ってことね」

 

「その通り」

 

 アバンの瞳が、一瞬だけ鋭くなる。

 

「二つめは、“自分自身の危険度を自覚する”ことです」

 

「自覚、ね……」

 

 レオナは、思わず自分の数字を見上げた。

 

【レオナ→相馬 150/150】

 

(自覚したくない……)

 

「超越領域(100〜120)は、“その人のためなら何でもできる”状態。

 普通は一生のうち一人いるかどうか。それでも危うい。

 

 それをさらに超えて120以上となると――」

 

「“何にでもなりうる”。ストーカーにも、夫婦にも、愛の虜にも」

 

 相馬が代わりに言った。

 

「ようするに、“本人次第で、どの方向にも暴走しうる危険な愛情”ってことですね」

 

「言い方!」

 

 レオナがジト目で睨む。

 

 だが、言い方を変えたところで意味は同じだ。

 

「……だからこそ、ですね」

 

 アバンが、今度は優しい声でレオナを見る。

 

「レオナ姫。

 その数字を恥ずかしいと感じるのは、人として健全です。

 怖がるのも、当然です」

 

「……」

 

「でも、だからこそ“王女として”自分に手綱をつけられるのは、あなたしかいない」

 

「“王女として”ね」

 

 レオナは、少しだけ目を伏せた。

 

(そうよ。

 危険なのは、数字じゃない。わたしの感情が、“王女”を食い破ること)

 

 そして、横目で相馬を見る。

 

 相馬は、妙に落ち着いた顔で海の方を見ていた。

 

(この人は、きっと自分の60〜70を理由に、わたしを振り回してくるタイプじゃない。

 それが分かるから、余計に危険なのよね……)

 

 頭の中で、“危険因子”のラベルが二重三重に貼られていく気がした。

 

◇ ◇ ◇

 

 視線の先。

 草原では、ダイとポップが、アバン不在の隙を見計らって休憩中だった。

 

「なあなあ、ポップ」

 

「なんだよ、ダイ」

 

「オレの数字、今どんくらい?」

 

 ダイが自分の頭の上を見上げて、少し首をかしげる。

 

【ダイ】

 レオナ 56/150

 相馬  58/150

 アバン 46/150

 ポップ 43/150

 

「お前、オレへのやつだけやたら高くない?」

 

「え、そうかな?」

 

 ポップは自分のパネルを確認する。

 

【ポップ】

 アバン 62/150

 ダイ  43/150

 レオナ 29/150

 相馬  26/150

 

「アバン先生62って、けっこうやべぇな、オレ」

 

「60から“明確に好き”なんだっけ?」

 

「うっせ! 尊敬だよ尊敬! 異性じゃねーからセーフだろ!」

 

【電子音声:ポップ】

『いやでも、先生に見捨てられんのはマジで嫌だし……』

 

「本音ダダ漏れだぞ、ポップ」

 

「うるせえ!!」

 

 ダイは笑いながら、ちょっと真剣な顔になる。

 

「でもさ……

 オレ、レオナと相馬に対して、どっちも“60近く”なんだよね」

 

「お前もなかなか節操ねーな」

 

「そうかな?」

 

 ダイは、自分なりに考えて言った。

 

「レオナも相馬も、オレにとって“守ってくれる人”ってだけじゃなくて、

 一緒に戦ってる感じがするんだ。

 

 だから、どっちも“すげぇ好き”なんだと思う」

 

 頭上の数字が、ほんの少しだけ明るくなった。

 

【ダイ】

 レオナ 56 → 58

 相馬  58 → 60

 

【電子音声:ダイ】

『二人とも、オレにとって大事な人だ』

 

(60……)

 

 少し離れた岩場から、その数字を見たレオナは、

 “異性として明確に好き”のラインに乗った数値を、複雑な気持ちで眺めた。

 

(ダイにとって、わたしと相馬は、同じくらい“大事”ってことね)

 

 王女としては、少し誇らしい。

 レオナとしては、ちょっとだけ胸がチクリとした。

 

 一方で、相馬の頭上の数字も、同じ60に達していた。

 

【相馬→ダイ 60/150】

 

(勇者の卵に好かれてんのは、悪い話じゃないけど……)

 

 相馬は、頭の片隅で苦笑する。

 

(60ってことは、俺の方も“かなり好き”ってことか)

 

 それは恋愛ではない。

 けれど、ダイの成長を見たいという気持ちは、数字で測っても高いらしい。

 

◇ ◇ ◇

 

「……ねぇ相馬」

 

 しばらく各々が数字を見て騒いでいたあと。

 岩場で一息ついた頃合いで、レオナがぽつりと声をかけた。

 

「はい」

 

「さっきの話。

 “60〜75が、異性として明確に好き”っていう説明」

 

 相馬は、内心で「あー」と思った。

 

「そういう仕様でしたね」

 

「ええ」

 

 レオナは、海を見たまま続ける。

 

「あなたの“70”って数字。

 ――それを踏まえても、“今のまま”でいいと思ってる?」

 

「“今のまま”というと?」

 

「パプニカの王女と、どこの国のものとも知れない危険因子が、

 この数字つけたまま一緒に旅に出るって話よ」

 

 言いながら、自分の「150」はあえて触れない。

 触れた瞬間、この会話は崩壊する気がしたからだ。

 

 相馬は、少しだけ考えてから答えた。

 

「……正直に言うと、“今のままでは良くない”と思ってます」

 

「っ」

 

 それが、思ったよりも真っ直ぐな言い方だったので、

 レオナは心臓を撃ち抜かれたような気分になった。

 

【レオナ→相馬 150(MAXのまま/点滅パターンが一瞬乱れる)】

 

【電子音声:レオナ】

『しゅきしゅきしゅき……そんな言い方ずるい……』

 

「ただ」

 

 相馬は続けた。

 

「数字を“下げる”方向に調整するつもりは、今のところないです」

 

「……どういう意味?」

 

「60〜75が“明確に好き”。

 だからって、それを全部なかったことにした方が、

 たぶん旅先で余計にややこしくなる」

 

 レオナは、ゆっくりと彼を見た。

 

 相馬の目は、妙に穏やかだった。

 

「俺は、レオナのことを“異性として好きだ”という自覚ぐらいは持つ。

 その上で、“王女としてのレオナ”と、“一人の女の子としてのレオナ”の両方に、

 できるだけ誠実に付き合う。

 

 ――その線を、自分で引いておきたい」

 

「……ずるい言い方ね」

 

 レオナは、苦笑にも似た微笑を浮かべた。

 

「“数字を下げない”って言っておきながら、“線は引く”なんて」

 

「危険因子ですから」

 

 相馬は肩をすくめる。

 

「ただ、さっきアバン先生も言ってたでしょう。

 この“数字”の一番危険なところは、“自覚してないのに高くなっていく”ことだって」

 

「……そうね」

 

「だから、少なくとも俺は自覚しておく。

 “王女レオナが好きだ”って。

 

 その代わり、“好きだからこそ勝手に振り回さない”って約束も、自分に課しておく」

 

 レオナの頭上で、「150」が、いつもより柔らかく瞬いた。

 

【電子音声:レオナ】

『しゅき……そんなふうに言われたら、もっと好きになるに決まってるじゃない……』

 

「……王女としては」

 

 レオナは、少しだけ意地悪い口調で言った。

 

「自覚した危険因子を放っておくのも、どうかと思うのだけれど」

 

「手綱はお任せしますよ」

 

 相馬は真顔で返した。

 

「王女としてのレオナに、ね」

 

 そのひと言で、

 レオナの中の「王女」と「少女」の境界線が、少しだけ楽になるのを感じた。

 

◇ ◇ ◇

 

 そのとき、丘の下からダイの声が響いた。

 

「レオナー! 相馬ー!」

 

「はいはーい!」

 

 レオナが立ち上がる。

 相馬も腰を上げた。

 

 見下ろすと、草原ではすでに

 アバンとポップと魔物たちが、夕飯の準備を始めている。

 

「今日のメシ、ポップが手伝ってくれるってよー!」

 

「なんで勝手に決めるんだよダイ!!」

 

 にぎやかな声が、風に乗って届く。

 

 レオナはふっと笑って、相馬に向き直った。

 

「――危険因子も、好感度も、勇者も全部。

 まとめて面倒を見る覚悟は、もう決めたわ」

 

「頼もしい限りです」

 

 相馬も笑う。

 

 頭上の数字は、今日も勝手に点滅を続けている。

 0〜150のスケールに、彼らの今が乱雑に割り振られている。

 

 好き、嫌い。

 信頼、不信。

 友情、恋情、その他なんとも言えない感情たち。

 

 その全部を、レオナは王女として、少女として見届けようとしていた。

 

(……120を超えた“何にでもなりうる領域”?)

 

 自分の「150」を見上げながら、レオナは少しだけ肩をすくめる。

 

(だったら、その可能性の中から“まっとうな選択肢”を引き当ててみせるわ)

 

 危険因子の魔法使いと、勇者の卵と、家庭教師と、その弟子と。

 そして、世界のどこかでこの数字を眺めて笑っているかもしれない、“観察者たち”ごと。

 

 デルムリン島の空は、今日も少しだけ高く、

 そして、明日へ続く色に染まり始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。