001
ざわざわ、と集まった元奴隷達、要するに元ウルサス鉱石病労働者たちだ。
彼らが集まった部屋の壁にはこう書かれている。
【自由よ、星条●に集うがいい】
【ア●メカのために命を投げ出すのが真の軍人である】
【ミニッツメンは皆のために!皆はミニッツメンを頼ろう!】
なんと堂々とした壁の文字だろうか、同時に星がいくつも書かれた青と赤のスチライプの旗、そして銃と銃剣がクロスされた旗も置かれている。
なんと書かれているのかは彼ら彼女らにはわからない、どこか堂々としたソレを見て生唾を飲み込む者も多い。
『ミニッツメン将軍の登場です!』
観客となった元奴隷たちの後ろに座っていたロボットが一斉に立ち上がり、拍手が巻き起こる。
『ミニッツメンバンザイ、バンザイ』
そのような言葉が連続して行われると同時に彼女がやってきた。
現ミニッツメン将軍であり、同時にこの移動都市サンクチュアリの代表、ガールである。
「座れ」
そのような言葉を話すと拍手喝さいであったのがスンと静まり返る。
まるでロボットのように、というかロボットなのだが、それが瞬時に、ズレもなく座るのは彼女のエンジニアとしての腕前だろうか、それともロボットの自由意志のなさによるものなのか。
これをレイルロードが見たら何を言うかわかったもんではないだろうが、彼女の中の優先度では四番目、つまり一番下なのだから仕方ない。
「さて、私がガールだ、君たち元ウルサス奴隷の新しいご主人様となる、いや、言い方が悪いな、雇用主、そう雇用主だ」
「あの、質問良いで、す、か?」
「どうぞ、お前は……レイサだったか?」
「雇用主ってことは俺らは何をしたら……?」
「ちょうどよい、それを今から説明しよう」
壁、その上から布が垂れ下がり、そこに映像が映し出される、気分は昔見た映画館のようだと元リッチな鉱石病患者は思うだろう。
「まず我々には何もない、食料は私が持ってきた野菜などが百個ずつあるだけだ、それも繁殖力だけはあるからそれを元出にこの世界独自の動植物を輸入していくこととなる」
「えーっと……?」
「つまり最初は食べるものを育てることから始める、人間による軍事などはそのあとだ、治療なども、君らの中にすぐ死ぬような者はいるか?」
「……すみません、わかりません」
「だろうともな、というか言えるわけないか、バトラー、もってこい」
『はい、ご主人様』
バトラーがピピピと音を鳴らすと先ほどまで後ろにいたメカたちが現労働者たちの横にたち、三つの野菜をトレーに差し出す。
「それは私の世界でよく食べられていた食べ物だ、テイト、トウモロコシ、マットフルーツだ、これが君たちのしばらくの主食となる、試食だ、まぁこの世界での取れたてだから生臭いかもだが」
レイサと呼ばれた労働者がテイトを食べる
「すっぱくてかたい……」
サイサと呼ばれた者はマットフルーツを食べた
「おにいちゃん!これおいしい!果物なんて久しぶりだよ!」
老人がゆでたトウモロコシを無我夢中で食べている。
「塩味が聞いててうまいわい!」
様々な労働者たちが各々差し出された果物と野菜を食べている、だがどの人物もテイトの味にはギョっとしているようだ。
「やはりテイトは不評か、この中じゃ一番育てやすいんだが」
「ほっほっほ、だが戦時中ならばこの味はむしろ上等といえよう、食ったからわかるがこれ単品でかなりの栄養を持つのだろう?」
「あぁ、おそらくはそうだ、よくわかったなご老人」
「これでも元ウルサスの元軍人じゃからな、先日までは奴隷じゃったがの」
白い長いひげをなでながら老人は語る
「ワシの名はシンドラギ、このテイトのいうのはどれほどの管理が必要なんじゃ?」
「それも語るか、画面を皆、見てくれ」
そこにはテイト、マットフルーツ、トウモロコシを育てる機械とその対応する野菜の育て方に対してのマニュアルが書いてあった。
機械は機械を修理する、その資材は各国のごみ捨て場から回収する、そしてスラム街から鉱石病患者を募集し、そして野菜を育てさせるという計画だ。
「ふむ、だが末期の患者はどうするつもりじゃ?」
「そう、そうだよ、末期のヤツなんて何するかわかんないんだぞ」
「お兄ちゃん……」
「それに対してはコイツを使う」
そうして画面に映し出されたのは一人の人間形のメカであった、ウェイストランドの見る人が見れば第二世代の人造人間だとわかるだろう。
「末期患者はこいつに脳波を移動し行動してもらう、味覚も触覚もあるから生身の代わりとはなるだろう、あくまで時間稼ぎだが」
「……脳波?」
「なるほどのう、これは異世界の技術かの?」
「そうだ、特許を申請したいくらいの技術だな」
ゴクリと科学に詳しかった者たちは生唾を飲み込んだ。
画期的すぎる、これがあれば無限の軍隊が作れるのだと認識した。
そして実際それは正しい、無論、ガールの力がなければごみからロボットなんて作れるはずもないが。
その技術、アーツともいえるものが伝えることができれば、まさしく世界征服も夢ではないだろう。
まぁ彼女にそんな気はないが。
そうしているうちにバトラーがやってきて耳打ちをする
『ご主人様、ロドスアイランドが合流しました』
002
「……」
アーミヤ、それはロドスアイランドの若きCEOである、表の代表であり、裏の代表である【doctor】は今はいない。
「……」
アーミヤには緊張が隠せていなかった、今は彼女たちは会議室にいる、護衛であるエリートオペレーターはいるにはいるが、口を出す立場ではない、本来この場にいるはずであったケルシーはウルサスから回収された鉱石病患者に付きっ切りだ。
これは小さな試練である、彼女はそう認識した。
「御待たせして申し訳ない」
扉が開けられ、そこにはガールが立っていた、将軍服、軍帽はいまない、紫色のショートカットが明らかになっていた。
「い、いえ大丈夫で……っ!」
アーミヤは彼女を見て驚愕することとなる。
一旦アーミヤの話をしよう、彼女には心を読むというアーツがある、それは相手に悟らせずに自身だけを有利にする彼女の特異な体質によるものも大きい。
そうして彼女はいつも通り、ガールの心を無意識化に読んだ、読んでしまった。
一つは民衆の英雄となり、巨大なる悪を撲滅し、連邦を民のモノとする英雄
一つは軍事の英雄となり、全てを力のもとに統一し、一本の兵士としてその人生を全うする兵士。
一つは民衆の影となり、息子ともども巨大なる悪を陰から撲滅し、秘密の組織の者となる影の者。
一つは息子から託された巨大なる悪を支配し、世界を巨大な実験場へとするという一人だけの親となるもの
その全てが悲しみに満ちていた、息子、夫、あるいは妻を亡くすという悲劇の英雄、その四つが一つとなった存在がアーミヤの目のまえにいた。
アーミヤは今まで見たことのない存在に圧倒されてしまった。
「大丈夫か?ロドスの代表よ」
「は、はい!大丈夫です!」
「ふむ、少々私の顔が怖かったかな?バトラー、緊張をほぐすための紅茶を彼女らに」
「え、あ、ありがとうございます!」
両者、椅子に座る、
「さて、では直球な話をしようではないか」
ニヤリ、とガールが不敵に笑う、その様はどこかアニメのようだが、ここは現実だ、笑顔とは本来攻撃的なもの、そんなことをアーミヤは思い出した。
「はい、よろしくお願いします」
アーミヤこれに応戦する、その様は小さいながらも組織の代表としての顔をのぞかせていた。
003
「まず我々は鉱石病の完治、という組織ではない、あくまで私という将軍を元にした巨大な傭兵組織だと認識してもらいたい」
「傭兵組織、ですか?ならなぜ感染者の受け入れを?」
「まぁそうだな、彼らに助けてくれと頼まれたからだ」
「……それだけですか?」
アーミヤは訝しんだ、助けてくれと言って助けてくれる者なんてものはテラにおいて貴重だ。
むしろいるのか?というレベルだ。
それが事実ならば彼女、ガールはかなりのお人よしということになる。
だがそこで安心しきらないのはアーミヤだ、だがここにそんなお人よしがいた。
「……ん?不思議か?」
「そ、それはそうですよ!」
護衛達もうんうんとうなづいている、それはまるで信じられないものを、信じたかった理想を見ているような目をしていた。
「何もただとは言わないぞ?労働者にはなってもらうぞ、家畜や農作物を一部徴収し、給料を払う、どこでもやっていることだろう?」
「それは……普通のことですね、ですが鉱石病というのは……」
「その普通から遠ざかる、そういう病気なのだろう?それの解決策とはいわないが延命策もある、これだ」
「ちょっとごはいけーん」
「どうぞ」
護衛役と思われた紙を二房、左右から生やしたヘアカット、赤い目をした女が紙フォルダを確認する。
「……こりゃ私達だけで秘密にしないとダメだね、戦争が起こる」
「そ、それだけのことが書いてあるのですか!クロージャさん!」
「ケルシー先生にも聞かないとダメだね、もう実行しちゃってる?コレ」
「似たようなことはな、少なくともAIというのはあるんだろう?それを人間の脳味噌が動かしているだけだが」
「んー、なら大丈夫なのか……な?その脳波をコピペして量産とかできないよね?」
「確実にバグが出るから無理だ、生身の脳味噌をそのままロボットに繋がないだけマシと思っていただきたいもんだ」
「なにその人の倫理を外した機械!」
クロージャがガールのいた世界のロボット談義に花を咲かしているなか、アーミヤはフォルダを確認していた。
脳味噌以外を冷凍休眠させ鉱石病を遅延、その間の体は人型のロボットを経由し行動する。
無論飯も食える、トイレにもいく、睡眠は好きにすればいいと大盤振る舞いだ。
むしろ普通の人間でもこれになりたいというヤツはいるだろう、少なくとも寿命というのが莫大に伸びるのだから。
アーミヤは手に持ったファイルを重く感じた、それは責任感か、秘密という重要性か。
「こちらとしてはそちらに重病な鉱石病患者を分析代わりに送り、そのデータをこちらでも研究したい、無論、人道に配慮したうえでだ、あと食べ物を買い取ってもらいたい」
「食べ物、ですか?」
「サンプルを持ってこよう、バトラー!例のものを」
『承知しました』
ブオン、と透明化を解除したバトラーが現れ、護衛達はあわや武装に手を伸ばすが敵ではないと判断し、手を伸ばすのみにとどまった。
そうしてやってきたのはゴード、スイカ、テイト、トウモロコシ、ニンジン、マットフルーツ、レイザーグレインだった。
ダンボール数箱分のそれを一つずつ取り出して机に並べる
「畑からとったばかりの新鮮なものだ、味はほどほどだが栄養価は高い、レーションのようなものだと思ってほしい」
「こちらを、ですか?」
「アーミヤ、毒見は?」
「……それは」
「何、ガールとやらの目を見ればわかるもんさ、こいつに敵対心はない」
「では私も毒ではないということを信頼してもらうために食べよう、バトラー、切り分けてくれ」
エース、と呼ばれている男はバトラーが切り分けたソレを食べた。
「ふむ、どれも普及品よりかは少し下か?だが栄養価は高いと思う」
「ありがたいな、ではこれくらいの値段でどうだ」
「どれどれー?」
クロージャが値段を確認すると、驚嘆に目を見開くこととなる
「やっす!もっと高くていいよ!?」
「ふむ、そうか?ならこれくらいで」
「えー、それでも相場よりかなり安いんだけど……アーミヤはどう思う?」
「さすがに安すぎるのは、相場崩れを起こすのも大変です」
「なら相場の三分の二程度でいいぞ、すぐ育つから安くていい」
「ならそれくらいでお願いします」
ちなみにアーミヤもクロージャも、それに護衛達もまさか数日で数個取れるレベルで育つとは思っていない
「では、次は鉱石病患者について話そうか」