走り屋たちの外伝集   作:下戸摺り半

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 今まで読む専門でしたが、どんなもんだろうと思って投稿してみました。生暖かい目で見てやってください。


ジュブナイル編
プロローグ


 群馬県。某・県立工業高校…。199X年。

 

 「トシ、相変わらずエンジン組むの早えな。もう組み上がったのか」

「何言ってんだ。口ばっかり動かしてたって勝手に組み上がったりしないんだよ。手を動かせ、手を」

 

実習棟では技術実習が行われており、今日は廃車を使って分解と組み立ての授業が行われている。分解したエンジンを洗浄し、タペットカバーのボルトを締め付け終えたところで話しかけられていたのは鈴木(すずき)仁志(ひとし)。隣の実習班の同級生から話しかけられ、至極まともな返事を返す。

 

「やっぱ親父さんが整備工場やってると自然に覚えるんかなぁ。羨ましいよ」

「それで覚えられたら技の継承も跡取り問題も解決だな。誰も苦労しねえよ」

「それもそうか…」

「いいかげん戻れよ、シャー。授業終わるぞ」

「ウゲッ、居残りだけはイヤ!そんじゃ!」

 

シャーと呼ばれた仁志の同級生、西田(にしだ)淳二(じゅんじ)は時計を見ると慌てて戻って行く。戻った先で同じ班員からしっかり怒られているのを見て、仁志はしょうがねぇな、アイツは、などと呟く…。

 

 「ただいま。オヤジ、仕事の方はどう?」

「あぁ、仁志か。お帰り。もうそんな時間か。これから四方(しかた)先生のスカイラインのオイル交換だ。カバン置いたら頼むよ」

「はいよ」

 

鈴木政志(まさし)の自宅兼自動車整備工場に、仁志が帰宅する。放課後、日没までは政志の整備工場を手伝うのが、仁志の主な日課である。今日は近所の内科医の自家用車が車検整備で入庫している。

 

「今日はオイル交換とブレーキの点検整備をしてくれたらいい。俺はその間にタイヤを組み替えておく」

「わかった。他には?」

「今日はそれでいいよ。それと、すまないが明日早起きして、学校行く前にそのスカイラインを走らせてくれないか。どうも最近、走行中の軋みが気になるらしい」

「いいよ。でもいいの?免許取りたての高校生にいきなりお客さんの車の試走なんて任せて?」

「まぁ普通はあり得んわな。でもお前さん、どうせ運転は慣れてるだろ?しょっちゅうバックヤードの売れ残りの中古車勝手に乗り出してたんだから」

「うっ…その節はどうもご迷惑をおかけしまして…」

「ま、免許取ったから時効だナ。まあとにかく頼んだぞ」

「かしこまり〜」

「タイヤも同時にやるから、オイル変えたらウマ掛けたまま置いといてくれ。横着してウマ掛けずにジャッキだけで潜ったりはするなよ」

「アイアイサー。じゃあ四輪上げとくよ」

 

 仁志は車体の周りの四隅にリジッドラックを並べ、ジャッキを取りに行く。政志の整備工場には二柱リフトが一基あるが、先客がいる場合にはタイヤ交換やオイル交換等の日常整備レベルの作業は隣のガレージでやってしまう。二柱リフトには、白と黒のツートンカラーで塗られたトヨタ車が一台上がっている。

 

 「藤原とうふ店…」

オヤジの知り合いだっけか、等と思いながら、すぐに意識はこれから使う油圧ジャッキに戻っていく。

「スロープは…要らないか。純正だし」

 

 「鈴木くん、ちょっといい?」

ドレンボルトを抜き取り、エンジンオイルが抜け始めたタイミングで少女の声が聞こえる。

「よぉ、委員長。制服でそこ立ってるとパンツ見えるぞ」

仁志が軽口を叩きながらオイル抜き取り中のスカイラインの下から姿を現す。

「セクハラよ、その発言は。気をつけなさい」

「へいへい、委員長。で、今日は何用で?いつもの気晴らしに付き合えってか?」

「そうよ。八時に来るから」

 

下校中に寄ったのか、県内の普通科高校の制服を着た少女が言う。委員長と呼ばれた、黒縁の眼鏡に三つ編みの、いかにも優等生といった風貌のその少女は、仁志が工業高校に進学するまでは同じ小学校と中学校に通っていた。そういや今更だけどコイツの名前、白石だれさんだっけ、と一人思いながら仁志は答える。

 

「わかったよ。オヤジに言ってみる。…また例の元サッカー部のヤツの件か?」

「そうよ。悪い?」

「別に。ただ俺にはこうやってグイグイ来れるんだし、そいつにもアピールしてきゃいいのにと思ってサ」

「そう単純なものじゃないわよ。…ところで、さっきから縦に動くのなんとかならない?おじさんに怒られるよ」

 

先ほどから仁志は雑談しながら油圧ジャッキの皿の部分に乗り、手が届く範囲でレバーを動かしながら上げ下げを繰り返し、白石からは仁志の身長が繰り返し伸び縮みしているように見えている。

 

「惜しいな、肩が震えてたからそろそろ笑うと思ったんだけど…」

「私を笑わせてどうするのよ…。じゃあ私はそろそろお暇するわ」

「うい。八時、な」

 

白石は踵を返し、自宅に向かって歩き始めた。

仁志は振り返り、スカイラインの下を覗くと、オイルが抜け、わずかな雫がぽたりぽたりと落ちるのみとなっていた。

 

「仁志、オイルは抜けたか?これ、新しいドレンワッシャーとエレメントだ」

「サンキュ。話変わるけど、俺今夜八時にちょっと出かけるヨ」

「あぁ、さっきの女の子と?」

「そうそう、白石さん家の娘さん」

「あんまり夜遅くに嫁入り前の娘さんを連れ回すもんじゃないぞ」

「向こうだって門限あんだからそれは守るよ」

「全く、いつの間にか色気づきやがってから」

「そんなんじゃないよ。大体フルネームを思い出せないのに?」

「それは…可哀想すぎるだろ…。何でそんなことに?」

「フルネームの件なら俺じゃなくてツゲノに訊いてよ」

「誰だそれは?」

「さぁ?この世界を作った神様的な何かじゃないの?」

「ほぅ、そりゃまたやべーやつの話が出たナ。あまり深く掘らないほうがよさそうだ…」

「いろんな意味で色気のある話にはならないと思うよ。ほかに好きなやついるみたいだし、クルマも俺の貧乏レビンだし。…っと、ドレン良し、エレメント良し」

「今日はオイルだけ変えてくれりゃいいし、明日起きてこのクルマの試走だけすっぽかさなきゃ何も言わんヨ」

 




 いきなりそこが絡むのかよ、と思った方も多いと思います。まぁ気長にお付き合い下さいよ。

 ちなみに作者本人、つまり小生というか拙僧というか私は工業高校出身じゃないので、実際の工業高校の教育カリキュラムと作中の授業風景とは違うかもしれませんがご容赦ください。
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