走り屋たちの外伝集   作:下戸摺り半

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前回のあらすじ

 日曜日に寝る間を削ってサニークーペの再生作業をした仁志。寝不足により帰りのバスを乗り過ごしたついでに藤原とうふ店へ偵察に向かい、期せずして週末に秋名道路で追い抜いたシルビアのドライバーの正体がガソリンスタンドのアルバイト店員・池谷浩一郎であること、そして藤原とうふ店の一人息子の拓海の顔を突き止めるのであった。


GSからのヘルプ要請

 水曜日の夜。仁志は営業の終わったガレージで日産・サニーのレストア作業をしていた。政志が上がり框に腰掛け、煙草を吹かしながら見守っている。

 

「エンジンはA12で、ミッションは四速なんだな。B110系はみんな四速なんだっけ?」

「GX5っていう五速のグレードもあった。ちなみにどちらもトップ直結のローバックだ」

「いいね。まさに走るためのクルマって感じだ」

 

仁志は手を動かしながら話し、政志が煙草を吹かしながら答える。サニーの再生作業が始まった日曜日から、夕食後の日常風景である。取り外したガソリンタンクからゼリー状に固まったガソリンを抜き、灯油で洗うところまでは火曜日までに終わっていた。

 そんな日常風景に、突如としてガレージと住居部の壁に掛けた電話が無機質な電子音の大合唱を奏でる。

 

「こんな時間に珍しいな…はい、鈴木自動車整備…あぁ、祐一か。こんな時間に珍しいな。…何?…それは気の毒に…」

 

どうやら電話の主は国道バイパス沿いにある行きつけのガソリンスタンドの店長、立花祐一らしく、政志は何事か話し込んでいる。仁志は(たがね)の代わりにしている使い古しの貫通マイナスドライバーをハンマーで叩き、ギアボックスの液体ガスケットを割りながら聞き耳を立てる。政志が、電話中だから静かにしろと手振りで合図をするのが視界の端に見えたので、そのまま手を止め、汗を拭いた。

 

「そうか…ウチの仁志?あぁ、いいぞ。明日からだな。言っておく。池谷にもよろしく。…じゃ、おやすみ」

 

どうやら何かしらの話がついたようで、政志は電話を切る。

 

「仁志、すまないが明日から祐一のスタンドにヘルプに行ってやってくれ」

「工場はいいのか?」

「あぁ、問題ない。お前が来る前(ワンオペ)に戻るだけさ。それよりすまんな、サニー弄る時間が減る」

「いいさ。オヤジの頼みだ。それより晩飯の支度どうしようか」

「それは俺に任せな」

「ところでなんでまた急に?」

「池谷っていう、祐一のとこの若いのが事故ったらしい。頭をしこたまぶつけたってんで今夜は検査入院。明後日からも身体が治るまではヘルプが必要だってナ」

「マジか…。でも池谷さんってあのスタンドのバイトリーダーだったよな?俺で代わりなんて務まるんかな?」

「バイトリーダーったってただのテゴだろ。頭数さえ揃えば何とかなる」

「まぁ乙種第四類危険物取扱者(オツヨン)持ってるから給油は出来るけど」

 

 翌日、仁志は学校から帰るバスを整備工場の最寄りの二つ手前で下車し、祐一のガソリンスタンドに向かう。

 

「エッソだから…ここだな」

 

仁志はガソリンスタンドの敷地に入ると、真っ直ぐ事務所に向かう。

 

「失礼します。今日から暫くお世話になります。鈴木仁志です」

「こちらこそ世話になるよ、仁志。すまないが、履歴書をくれないか」

「こちらです」

「準備がいいな。面倒かけてすまないね、形式上どうしても必要なんだ」

「いえ、お気になさらず。それと、これがオヤジの同意書です」

「政志に頼むと話が早くて助かるナ。…おっ。乙四持ちか。ますます助かるヨ」

「いえまぁ…。工業高校ですから」

「早速だが、制服に着替えてくれ。ウチのスタンドの説明するから」

 

仁志は、簡単にこのガソリンスタンドの設備について説明を受ける。途中で客の給油対応を挟みつつ、実質5分間の説明は終わった。

 

「まぁ普通のスタンドだ。難しいことはないだろう。ガソリンと軽油の間違いにだけは気をつけてくれ。去年それでやらかしたヤツがいてな」

「はい、気をつけます」

「それと、客商売だから笑顔…と言いたいところだが…」

「努力はします」

「…スタンドは声に張りがあって仕事が早くて確実なら何とかなる。声だけ張ってくれたらそれでいい。ファミリー客は最悪、今日これから来るお前と同い年のヤツにやらせればいい。乙四持ってれば監督できるはずだ。彼らにも話しておく」

「ありがとうございます。…へィらっしゃい!」

「仁志、ここは寿司屋じゃないぞ!」

 

説明が終わり、仁志は早速来た客に挨拶しながら駆けていく。挨拶が少しぎこちないが、それなりに様になっていた。

 

 それからしばらくして、自宅に鞄を置いてから出勤してきた藤原拓海と武内樹は、いつものように暇を持て余して顔を出していた健二から池谷の事故を知らされる。

 

「えぇーっ!?池谷先輩が事故ったぁ!?」

「本人は無事らしいんだが、シルビアの方がナ。しばらく走れないって」

「じゃあ週末の交流戦どうなるんすか」

「最悪、俺と誰かが走るしかないだろう」

「ヤバいよ〜」

 

樹は健二と共に頭を抱えている。それをぼうっとした目で見やりながら拓海は仁志に近づく。

 

「それで、今日はお兄さんが代わりにヘルプ入ってるんですね。藤原拓海です。よろしくお願いします」

「敬語は要らん。こう見えて同学年(タメ)の鈴木仁志だ」

 

沈黙が流れる。あまり踏み込んでは来ないな、やりやすくて丁度いいやと仁志は今だに向こうで喋り続ける樹と健二に目を向ける。向こうの奴は騒がしそうだ、と仁志は内心呆れる。丁度、ダンプカーが一台入ってきたので仁志は応対に出た。

 

 しばらくして、ひとしきり頭を抱え終わった樹が仁志と拓海の立っている一角に寄ってきた。

 

「初めまして。俺、武内樹って言います。高三の十八歳です。よろしくお願いします」

「鈴木仁志、こう見えてアンタと同学年(タメ)の十八だ。敬語は要らん」

「えぇーっ!オトナに見えた…」

「イツキ!…ごめん、コイツこんなんだけどいいヤツだから…」

「構わん。いろんなところで言われる」

「だと思った〜!」

「イツキ、ちょっと黙れ」

 

 夕方5時過ぎ、帰り際に給油をするため殺到したダンプカーや2トントラック、ワンボックスの波も落ち着いた頃、呑気な排気音と共に見知った顔が現れる。仁志は目一杯口角を上げかけるが、何を悟ったのか渋い顔をする。

 

「いらっしゃいませ…ってシャー、お前か」

「俺一応客だぜ、トシ」

「客?何しに来たんだ。給油か?それともバイトの邪魔か?言っとくがツケは効かんぞ」

「つれねぇな〜。レギュラー千円分だけ入れてちょ」

「何だそのビンボくせぇ注文は…レギュラー千円入りま〜す!…っておい、どこ行くんだ?」

 

ホンダ・ジョルノを改造したモッズスクーターで現れた西田淳二。給油は単なる口実で仁志をからかいに来たであろう級友に悪態をつきながらも仁志は給油を始める。何故か淳二はスクーターを降り、近くで見ていた拓海と樹のもとへ向かう。

 

「どうも、初めまして。俺は西田淳二。あの鬼瓦みたいなヤツのマブダチで〜す」

「聞こえてるぞ!誰が鬼瓦だ!」

「…藤原拓海です。渋高の三年です」

「俺は武内樹!同じく渋高の三年で、拓海とは中学からの付き合いなんだ」

「お〜、渋高か。しかも同級(タメ)じゃん。俺とトシは工業高校行ってんだよ」

「マジ?じゃあ朝のバスで一緒になるかもね」

「残念、バスは多分逆方向だ」

「イツキ、本当に初対面なのか?」

「何ていうかソリが合いそうって感じ?」

「それな」

「シャー、給油終わったからジョルノここに置くぞ。千円な」

「ハイヨ」

「丁度だな。伝票は?」

「捨てといて」

「せめて次から給油終わったら自分で給油機前から乗り物どかしてくれ」

「あれ、今日は鬼が優しい…」

「どうせ帰れって言って帰るお前でもないだろ」

 

 仁志と拓海、樹の三人は高校生ゆえ、午後六時に退勤する。淳二のマシンガントークは退勤時間まで続いたのであった。

 

「早く帰れお前は!」

 




 池谷浩一郎の事故により、図らずも藤原拓海・武内樹の渋高コンビと面識が出来た仁志と西田淳二であった。
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