走り屋たちの外伝集   作:下戸摺り半

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前回のうらすじ

 立花祐一のガソリンスタンドから、仁志をしばらく借りたいと連絡が入る。アルバイトリーダーの池谷浩一郎が秋名道路で自損事故を起こし、回復するまでガソリンスタンドに手伝いが欲しいとの要請であった。仁志は二つ返事で引き受け、そこでS市内の普通科高校に通う藤原拓海、武内樹の二人と出会った。藤原拓海は、政志の旧知の仲である藤原文太の一人息子であった。


義父子の食卓

 ガソリンスタンドへのヘルプの初日が終わり、仁志は政志の準備した夕食を囲む。

 

「で、どうだった?この工場以外で働くのは初めてだっただろ?」

接客業(客商売)ってやつは待ちの時間が長いからそこがしんどいよね」

「接客業か、そういえばそうだな。お前は基本的に無愛想だから、客が来たら来たで苦労しそうだがな」

「店長もある程度は目を瞑ってくれてたよ。俺何故か乙四持ってるから、ファミリー客の対応とかは同世代(タメ)のヤツ二人にやらせて監督すりゃいいってサ。そんで、一人は藤原拓海ってヤツだったけどあれが豆腐屋さんの息子だろ?」

「そうだ。ちなみにその同世代の二人ってのはあのスタンドでは一応お前の先輩になるんだ。『やらせる』じゃなくてせめて『やってもらう』くらいの気持ちは持てよ」

「わかってるサ。それに、出来る限りは自分でするしな」

「出来る限りは笑顔でな」

「今日はエクボの筋肉が痛えよ。目つきが悪い分、ジャック・ニコルソンばりに口角上げてたから」

「…あまり上げすぎないほうがいいんじゃないか?」

「かもな」

「二人ってことはもう一人いたのか」

「豆腐屋の息子の親友で、武内樹ってヤツ。能天気なヤツだよ。俺の顔を怖がらずに気さくに話しかけてきた」

「それはお前のクラスの西田淳二もそうじゃないのか?」

「武内樹は愛すべきバカってやつかな。シャーは恐怖心の基準が常人とズレてるんだと思う」

「そうか、微妙に違うのか」

「大して違わない気もするけどね。シャーが来て武内樹とずっと喋ってたよ」

「気が合うのかな、その二人」

「多分な」

「仁志も楽しかったようで何よりだ。俺の工場にばかりいちゃお前の世界が狭くなるんじゃないかと心配していたが、いい経験になったようだな」

 

 政志はずっと、自分の整備工場に閉じ込められた仁志の生きる世界が狭くなることを心配していた。祐一からのヘルプ要請に、内心丁度いいやと思っていたのは偽らざる事実であった。

 

「狭くなるだなんて別にそんなことないよ。俺はここでメカの勉強して、この工場を守るって決めてるし」

「お前はお前の好きなように生きたらいい。他のガキと同じようにな。恩義に厚いのはお前のいいところだが、それに縛られないでくれ」

「縛られるなんて思ってないよ。車を整備するのは好きだし」

「店を持ってしまえば、好き嫌いばかりで仕事はできないんだぞ。客の車に使う部品代に消耗品代、使う道具代、車検が切れていない中古車があれば自動車税、工場の固定資産税、その他諸々を払ったうえで自分や従業員を食わせてかなきゃならない。わかるだろう」

「それでオヤジや近所の人達に恩返しできるなら本望だ」

「この工場を守るつもりなら尚更、お前は広い世界で見識を広げなきゃいけないんだ。社会の仕組みと、自分と、どっちもわかってないと守れるものも守れないんだぞ」

「わかってるよ…。一旦置いとこう、この話は」

「とにかく、もっと自分の人生、大事にしろよ」

 

 仁志は食卓を片付け、工場に入る。苔を落とした白い車体が、エンジンとギアボックスが積まれるのを待ち焦がれるように、磨き上げられた円い双眸(そうぼう)で仁志を見上げていた。

 




 仁志にとって自分の整備工場が枷になっていないかと心配する政志。枷にはなっていないと明言する仁志。高校三年の初夏。人生の岐路はすぐそこにあった。
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