走り屋たちの外伝集   作:下戸摺り半

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前回までのうらすじ

 近所に住む優等生・白石の訪問をきっかけに、サニーのレストアが思うように進まない苛立ちから仁志は政志と口論の末、ドリーム50に跨り夜の帳へと飛び出したのであった。


野犬の脱走

 向かい風で目が乾くのも構わず、仁志はドリーム50を走らせる。60km/hまで刻まれた速度計はとっくに振り切って壊れ、沈黙していた。秋名道路を登り、秋名湖を囲む周遊道路に突入したことで、50ccのエンジンの足を引っ張る勾配は消え、危険な速度に達するまでさほど時間は掛からなかった。観光客でごった返す昼間と違い、夜更けの秋名湖畔には誰もいない。仁志は反対車線の端まではみ出しながらひたすら走り続けた。

 

「わかってるよ、俺だって本当は。このままじゃいけないってことくらい…!」

 

秋名湖を一周した仁志は、そのまま秋名道路を下り始める。

 

 料金所跡では、レッドサンズの高橋啓介がまさに上りの走り込みを終え、その夜最後の下りの走り込みを始めようとしていた。仁志のドリーム50が目の前を通過すると、啓介は追いかけ始める。

 

「出遅れたな。単車が前に入っちまった。クルマと比べるとブレーキも曲がりも遅いからどうにもならんな」

 

さっさと追い付いて抜こうと啓介はペースを上げる。ほどなくして、ドリーム50と仁志に追い付き、その背中がヘッドライトに照らされて浮かび上がる。

 

「原付だと…!?しかもコイツ、ノーヘルじゃねぇか!何考えてやがる…!?」

 

仁志は勢いのまま飛び出していたため、ヘルメットを忘れて来ていたのである。心理状態としては転んで死んだらそれまでと開き直っているとも言えた。

 

(コイツ…、なかなか鋭い突っ込みしやがる。原付だから真っすぐは遅いが、コーナーが速い…)

 

前を走る原付ライダーに俄然興味がわいた啓介はしばらく後ろについてみることにした。前を走る仁志は路面の凹凸や減速帯で車体が吹き飛びかけるのも構わず、道路幅をいっぱいに使いながら急勾配の連続カーブを抜けていく。内側に入ったときには擁壁やガードレールに髪の毛が触れるほどの鋭い切り込みに、啓介は内心舌を巻く。

 

(驚いたな。オレも昔は単車で随分とヤンチャしてたが、ここまでブチ切れた走りをする奴は見たことがねぇ。同じ原チャリで同じ走りができるかといえば、俺には無理だな…)

 

仁志は視界が明るくなったことで、後ろに先週見た黄色のRX-7がいることに気付く。

 

(コイツ…赤城山の珍走野郎が何の用で秋名に来やがった…?)

 

啓介は振り向いた仁志と一瞬目が合った気がした。

 

(おっかねぇ顔してやがるな。まさかアレがこの前兄貴が言ってたレビンの野良犬野郎じゃねぇだろうな?)

 

仁志は右へ左へ身を翻しながら連続するカーブを道幅いっぱいにクリアしていく。

 

(お前は確かに速い…しかし、俺とRX-7の敵ではない…!)

 

啓介は直線路で並びかけると、一気にインコースを取り、仁志を抜き去った。

 

(実に惜しいな。この前のレビンといい、マシンを仕上げれば手応え抜群のライバルになるんだがな…)

 

啓介はそのままドリーム50のノーヘルライダーを振り切り、秋名道路を下っていった。

 

(今はパンダトレノの幽霊だ。必ず落とし前をつけてやる…!)

 

 

 

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