TSして承認欲求爆発しちゃった俺がガチ全能系クラスメイトに愛されて幸せになっちゃうまで 作:あるふぁせんとーり
人には誰しも、思い出したくない過去を思い出して「ああああああ!!!!」と叫びたくなる夜がある。
それはこの私、この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思えば系美少女の黑谷アメも例外ではない。
ふとした拍子で思い出しちゃうことがちょくちょくある。
そしてその中には当然、やたら詳細に思い出せてゴリゴリと魂を抉ってくるようなのも含まれている。
例えば──中学時代の記憶とか。
「黑谷さん、文化祭の打ち上げ──」
「行かない。帰って寝る」
そう言ってギターの入ったスーツケースを転がす水色のショートウルフ。
耳には見掛け倒しのイヤーカフがびっしりとセットされている。
あの頃の私は、本当に終わっていた。
なんというか、他人という存在に不信感を抱き切っていた。
人付き合いが億劫で仕方なかったのだ。
厨二病、反抗期、年頃の云々が重なったこの頃の黑谷アメは間違いなく歴代最悪。
良いところを挙げるとしたら成績だけは人生通してぶっちぎりで良かった……というか、今みたいに調子に乗ることは本当に無かった。
魔法も使えるだけで使わない、生まれは運だけ、顔もギターも全部含めて、自分が取るに足らないレベルの存在だと思い込んでいたんだから。
ありえないにも程がある。
クソバカ、ゴミ、ド阿呆。
未来から過去へ特大の冷笑を叩きつけてやりたいくらい。
「……ただいま」
「おかえりなさい。文化祭楽しかった?」
「楽しかったよ」
ま、それだって大嘘だし。
そもそも楽しそうな顔とか絶対してなかったし。
その日も確か、いつものように荷物をベッドに投げ込んで、いつものように防音室に籠もってギターを弾いてたと思う。
っていうかこの際認めちゃうけど、私、ギターの才能だけは絶対あった。
だからますます最悪。
「才能なんて話の前にまずは練習すれば?」なんてこの顔だから許されてるだけで、殴られたって仕方ないことを同級生にも後輩にも先輩にだって言っていた。
さっきの自認凡人との相乗効果で「私にさえ出来ることがなんで出来ないの?」なんてことを本気で思ってたと思う。
「……、──“Playing cops and robbers'neath Ginza signs”──」
こら、ギター以外にもちゃんとSNSとゲームをしないと駄目な女子高生になれないよ、私。
今なら爆乳美少女の彼女もついてくる……駄目、この頃の私に性欲という概念はない。
一体どうやって生きてたの? この頃の私。
……いや、本当にどうやったら今の私になるのこれ……?
「でも、現になってるよ」
そう言って、過去の私は今の私の方へ顔を向けた。
「……、……は、なんで?」
「何でも何も、何だって出来るのが『黑谷アメ』。あなたが私を思い出そうが思い出すまいが、あなたに出来ることは私に出来る。……もちろん、私は本物じゃないよ。あなたの中に形作られてる『あの頃の私のイメージ』。思い出したってことは、何か話したいことがあるんでしょ?」
「自分クールキャラです」みたいな顔をしながら、『私』はゲーミングチェアで体育座りをした。
「少しだけ話そ。聞いてあげるから」
「そんな上から目線だから友達出来ないんじゃない? 友達と寄り道とかしたことある? こってりラーメンにありったけのにんにくぶち込んで脳みそとかしたことある?」
「自分にマウント取るの? バカ女にも程があると思うけど」
「は〜、このガキ口悪っ。っていうかそっち年下だよね? 敬語使えば?」
「嫌。っていうかどうせ一晩だけの付き合いだし。6時にもなれば私も勝手に消える」
「じゃあ後3分くらい?」
「そう、後……待って、今5時57分?」
「うん。徹夜でVic3やってたから。何か文句?」
「一番最初に「夜」って書いてたのに、夜じゃないでしょ、その時間は……ああ、クソ、私だって聞きたいことあったのに」
「仕方ない、2年後の私が丁重に答えてあげる。この、2年後の私が」
「強調しなくて良い。時間足りない。……まだギター続けてる? ギターで食べていけそう?」
「それだけ?」
「それだけ。歌うくらいならやってもいいから。私、音楽で生きていきたい」
「じゃあ残念。そんな気なくなっちゃった。人生楽しいから。ギターは続けてるけどね」
「は?」
「多分後半年もしたら高校デビューしたくなると思うんだけど、高校で友だちが出来る。優しい先輩も、可愛い彼女も出来る」
「は? 恋愛? てか、そんなわけ……」
「なるの。なるんだよ、私は」
「は、ちょっ、待って、時間……」
「……あ、あと最後に」
「もう何!?」
「彼女、Mカップ」
「アイスの話?」
「ミルクの話。じゃあね」
そして時計の短針が6の字を指したと同時に、彼女は律儀に姿を消した。
私は少しだけ懐かしんだ後、彼女から送られてきた連絡を開いた。
『黑谷ちゃん、わたし、皆でバンドやってみたいんだけど……駄目かな?』
少しだけ、もう少しだけ考えてから、わたしは指を動かした。
『いいよ』