機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
序章
「カミーユ?なんだ…人違いか。」
たった一言だった。それが僕たちの出会いだ。
変な日だ。今日はいつもよりずっと、変で嫌な日だ。
カミーユ・ビダン、僕はそんな名前だ。両親から僕はカミーユと名付けられた。ここ、グリーン・ノアでの僕の知り合いは皆、ビダンではなくて、『カミーユ』と面と向かっては呼ぶ。陰では口にしたくもないような呼び名で呼ぶくせに。
それが分かったのは、分かるようになってしまったのは2年前くらいからだ。父さんが浮気していると知ったころくらいからだ。父さんは隠し事なんかできない人だ。いや、本人は隠しているつもりなのが、僕は一層悲しかった。母さんは、父さんのそんなところを僕よりも分かっているだろうに!!
父さんと母さんに怒りが沸いて、急にゾッとするような怖気が走る。こんなに自分で自分のことが分からなくなるほど、今日は変な日だった。誰かが遠くからこっちを見ているような気もする。僕が見られているわけじゃない。だけど、見られている。狙われている、気がする。
頭の上の空はコロニーの空だ。分厚いガラスで四角く区切られた空だ。それを空と言えるのであれば。見えないだけで、僕の足の下にも同じ空が広がっている。宇宙が広がっている。
ここは宇宙だ。サイド7グリーン・ノア。1年戦争後に復興したこのコロニーの中で僕は生活しなくてはならない。教室の窓から少し外を見れば、四角い空と都市が見えた。コロニーの、いつもと何一つ変わらない光景が見えた。広がらない空。筒の内側に詰め込められた都市。
ふ、と悲鳴が聞こえたような気がした。いや、断末魔?ここは学校なのに?遠くから誰かに見られているような感覚も無くならない。怖気が止まらない。訳が分からなくてイライラする。
変で嫌な感覚だ。誰にも相談できない。誰も分かってくれるわけがないからだ。
幸いなのは、今日が、地球とグリーン・ノアを結ぶ直行便テンプテーションがこのグリーン・ノアに来る日だということだろうか。ブライト・ノア艦長に会える。
ブライト艦長はニュータイプだ。軍関係のアングラ雑誌愛好家の間では有名な話だった。ブライト艦長なら、1年戦争の英雄なら、僕のこの変な感覚も分かってくれるだろうか。或いは、この嫌な感じを同じように感じてくれているかもしれない。対処の方法を教えてくれないだろうか。前にサインをもらった時はこんな話をできる時間もなかったけれど、今日こそは…
僕のこの淡い期待は、今日最後の授業を担当した国語教師の無駄話で押しつぶされた。
それでも、もしかしたら、と思って空手クラブをサボタージュして、クラブのキャプテンに見つかっても後でどやされるような嘘と勢いで押し通ってきたのに。僕は、キャプテンに殴られもした!
「間に合いやしないわよ!カミーユ。」
学校からついてきたファが、宇宙港口行のリニアカーの中で言う。ファの言う通りだ。グリーン・ノアにテンプテーションが到着する時刻はとうに過ぎている。ブライト艦長だって、もうグリーン・ノアの地球連邦軍の基地に移動しているだろう時間だ。テンプテーションか、他の宇宙船が大幅に遅れでもする事故が無い限り、僕はブライト艦長に会えない。分かっている。僕はブライト艦長に会えない。でも、宇宙港口くらいは行きたい。ファにも言いたくないことだった。
こんな嫌な日は、せめて他の嫌なことからは離れたい。いろいろな嫌なことから。
ファからも逃げ出すように宇宙港口に到着したリニアカーから降りた。急ぎ過ぎたせいか、無重力帯なのに磁力靴を作動させるのを忘れてしまって、体が空中に浮く。
「カミーユ!」
咄嗟に口うるさいファに言い返そうと思った。頼んでもいないのに、僕についてきて!地面につくのを助けてくれたのには感謝するけれど、僕がどこへ行ってもついてきて!僕がカミーユだって周りに言いふらす!!こっちの気持ちなんか考えやしないんだ!
言わなくて済んだのは、男の人の声が僕を遮ったからだ。
「カミーユ?なんだ…人違いか。」
人違い?僕と誰を?僕と同じ名前のカミーユ?落胆する声が何度も頭の中で響く。人違い。
目を向けると、そこに立っていたのは普通の男の人だった。僕と目が合うと去っていくところも普通だ。
だけど、だけど、なんでこんなに悲しいんだ?辛いんだ?痛いくらいに寂しいんだろう?
思わずファの手を握った、離れないように。
「カミーユ?どうしたの?あの人、知り合い?」
ファが去っていく男の人を見ながら訊いてくる。僕だって知らない男の人だ。
「いや、ファと僕が一緒に居られるのは当たり前のことじゃないんだって思って。……戦争なんか、あっちゃいけないんだよ。」
そう、戦争なんか駄目だ。戦いたがる連中がいるから、その連中の為に母さんは仕事に夢中になって、父さんが母さんの仕事に嫉妬して浮気なんかしてみせたりするんだよ。
地球連邦軍がティターンズなんか作り出して、そのティターンズが宇宙移民を虐げて小さなコロニーに押し込めて、押し込められた連中はこんな息苦しい世界でお互いの嫌なところをあげつらって見下し合うようなことをするんだ。
ああ、嫌なことを思い出してしまった。忘れるためにここに来たのに。
ブライト艦長は、まだ改札口に居てくれるだろうか?
戸惑うファの手を放して、僕は改札口に向かった。
そう、手を放してしまったの僕だ。
だから、僕は……
自分が書いた部分だけを上げると話が繋がらないし、スレでの「何故なに君」さんの補足説明は本当にありがたかった。
出来るだけ、Zガンダムを視聴していない方にもわかりやすく、そしてZガンダムを見てみよう、と思われるように頑張って加筆修正していくつもりです。
なにとぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。