機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
僕が、ルウムを生み出した。
あの日の、ルウムを。
いや、もっと、醜悪だ。アクシズに、アクシズにいる人間に全ての人類の憎しみを押し付けて彼岸へ送る。
僕が、そう、した。僕が具申した作戦だ。
子供も、もしかしたら赤ん坊もいるであろうアクシズを、ジオン公国を名乗るアクシズを、僕があの日のルウムにした。
復讐心で具申したわけではない。その方が、人間として何倍もマシだった。
その方が後々、楽になるからだ。それだけの理由で、アクシズ殲滅作戦を具申した。
アクシズに人間が居ると知っていて、彼らを殺すことが合理的だと判断した。
赤い巨人と、何も変わらない。
僕は、人類の敵に、なった。
俺の手の届かない、遥か彼方から、エグザべ・オリベの声が聞こえる。
囁き声だ。
何を言っているのか、分からないほど小さい声が、『良き生命体』を求める謎の声に紛れるようにして聞こえる。ハマーンが言う、木星からの声に、どうしてエグザベ中尉の声が紛れているんだ?
彼はアクシズの戦場に居るはずだ。俺の代わりに、シャア・アズナブルを討つために。
俺の隣で計器を見ていたハマーンが、大きく舌打ちをした。
俺が驚くほど、ハマーンは自分を気が強い女性に見せかけてくる変わった癖がある。良く通る声もそうだが、こういう舌打ちもそうだ。
「はい!何かご入用ですか?」
ハマーンのそれが聞こえたのか、ガルーダ一等兵が即座に開けたままのコクピット入口から顔をのぞかせて言ってくる。
「済まない、ガルーダ一等兵。ヴェルザンディと連絡を取れるか?エグザべ中尉と通信が繋がればいいんだが。」
咄嗟に、俺の口からでた要望はそれだった。
エグザべ・オリベの安否が知りたい。様子がおかしい。なぜ、あの囁き声を俺はエグザべ中尉の声だと感じた?何を言っているのかさえ聞き取れないくらいの小さな囁き声を。
ニュータイプ同士の感応とも違う。
ララァ・スンと俺が見たあの『刻』とも違う。宇宙が光らない。
異常が起こっている。俺の経験にない異常だ。
おそらく、隣で苛立たしげに左手のひとさし指で握った右手の甲を叩いているハマーンも経験したことのない異常。1年戦争以前からニュータイプだったハマーンでさえ、落ち着きを取り作れないほどの異常だ。
「はい、いいえ。アムロ大尉。現在、ヴェルザンディ旗艦ドゴス・ギアには連絡が取れません。予定では、掃討戦を開始している時刻です。アクシズ周辺はミノフスキー粒子の影響下にあります。」
当たり前の答えだ。俺だって分かっている。だが、この焦燥感は説明しがたいものだ。
他人と俺は違う。ニュータイプではないガルーダ一等兵が相手。それだけで、言葉に詰まってしまう。
こういう俺だから、道を誤ってしまったとわかった今でさえ、そうなってしまう。
「アムロ大尉。カミーユとゲーツ大尉に繋げ。ガルーダ一等兵、ドゴス・ギアの動きをグラナダ基地から観測できているのならば、中継衛星を介してでも良い。通信が繋がり次第、パプテマス・シロッコ少佐を呼び出せ。私が話す。向こうも、私の顔くらいは知っているだろう。」
強引なことを言い出すのも悪い癖だな。そんな風なことをするから、俺も他人もハマーンを誤解するんだ。
「はい、ハマーン様。通信班と観測班の尻を叩いてきます。」
ガルーダ一等兵は素直だ。だが、アーガマの情報部員には違いないと言動でわかる。ハマーンには『様』をつけるのか?エゥーゴの情報部の癖の強さはブライトが艦長を辞めたい、と言い続けている理由の1つでもある。
今も、俺への確認も取らずに、さっさと走っていった。これでも、大尉なんだが。ため息だって出てしまう。
「気にするな、アムロ大尉。私がしたことは全て、ゲーツ大尉とアムロ大尉のしたこととして処理される。」
ハマーンは何でもないようにそう、言った。
いや、俺が言いたいことはそういうことではない。ハマーンに言うべきことでもないから、言わないだけだ。
それより、自分より年下の女性の功績を横流しされることを俺は良し、としたくはない。あとで、あの情報部たちとの戦争を覚悟しなければならないな。
だが、先ずはカミーユとゲーツ大尉に連絡をしなければならない。
カミーユに、俺は何をどう伝えればいい?戸惑っている時間さえ惜しいのに、言葉が出てきそうになかった。俺はニュータイプ同士であってもこれか。
俺が躊躇している横から、ハマーン・カーンが言葉を発した。
「カミーユ、ゲーツ大尉。エグザべ・オリベが行方不明だ。」
「ハマーン・カーン!!」
思わず、強く名前を呼んでしまったが、見向きもされない。
ハマーン、子供には気を遣え!
「隠しておけることではない。カミーユ、聞いているか?エグザべめ、ふざけているのか?この期に及んで、助けを求めてこない。お前の保護者は、おそらく宇宙で迷子になった。私たちに助けを求めてこないのは何故だ?」
「ハマーン!」
『ハマーン?』
ゲーツ大尉と声が被る。俺は制止するつもりで声をかけたが、向こうは状況を確認するための声かけだった。意に介していないハマーンとカミーユは会話を続けている。
『迷子?宇宙で?エグザべさんが、また?推進剤、切らしたのかな?』
信頼しているのはわかるが、もう少し、焦ってくれ、カミーユ・ビダン。あと、何度も推進剤切れなんて起こしていいはずがないだろう!
「悪癖だな。すぐに『修正』した方がいい。ドゴス・ギアのパプテマス・シロッコ少佐にはまだ通信が繋がらない。カミーユ、ゲーツ大尉、サイコミュジャックを一時中断する。だが、サイコミュシステムの中からは出るな。」
『ハマーン?アムロ大尉?ドゴス・ギアと連絡が通じないのならば、その情報はどこからだ?』
当然、出てくるであろう疑問を聞いてくれるのはゲーツ・キャパ大尉だけか。本当に、もう。
「ゲーツ大尉、説明……いや、感覚だ。サイコミュシステムの中には届かない異常な感覚が、外側ではあった。ニュータイプの感覚だ。ハマーンが言うには悪影響を及ぼすらしい。エグザべが宇宙で迷子になっている、自我を失っているというのも彼女の感覚からきた表現だ。」
言葉で説明すれば、俺でも自分で言ってて意味が分からなくなる。宇宙で自我を失うと、囁き声しか聞こえなくなるのか?ニュータイプなのに?俺には、分からないことが多すぎる。ニュータイプだって分からないことだらけだ。
分からないことだらけだが、自分の力不足を嘆いていてどうなる、アムロ・レイ。父を、テム・レイを思い出せ。それでも、できることをしていたはずだ。ブライトだって、身体に鞭打つように、この困難に耐えているじゃないか。
ハマーンもゲーツ大尉もそうだ。できることをしている。
カミーユも、エグザベ中尉を助けるために力を貸してくれている。
ゲーツ大尉が言ってただろう。分からないのならば、聞けばいい、と。アムロ、お前は独りじゃない。
「俺は、エグザべ・オリベを助けたい。ゲーツ大尉、ハマーン、カミーユ。俺は何をすればいい?助けてくれ。」
俺を、助けてほしい。
俺はようやく、その言葉が言えた。
誰かを、俺を助けてくれたエグザべを助けるために言えた。アムロ・レイは臆病な人間だ。
『分かった。アムロ大尉。今から一緒に考えよう。』
『大丈夫です、アムロ大尉。エグザべさんが、迷惑かけてごめんなさい。』
「当然のことを。」
ようやく、人と手を取り合えたのだ。
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「ヴェルザンディに!いや、ドゴス・ギアに救援要請をだせ!!光点滅信号でもいい!ありとあらゆる方法を試せ!!」
「マリア少尉!越権行為だぞ!」
甘いな!エグザべ隊長なら、俺にこんなことを言わせなかった。言わせる暇なく、俺をギャン改-Ⅱごとぶっ飛ばしていただろうよ!
そもそも!反逆っつーんだよ!これは!
ムサイ改級軽巡洋艦リヨンの艦橋に、消しているとはいえ大型ビームサーベルの柄を突き付けてるんだぜ。ギャン部隊は。
「知るか!!救援要請を出すか?名誉の戦死か?選べ!今すぐに、だ!」
「マリア・イヴァンカ少尉!軍法会議を覚悟しろ!」
「それがどうした?!」
生きて戻れたのなら、軍法会議とやらをやってみせろ!俺も、お前らも、生きて戻れたのならな!
「それが!どうしたっつってんだよ!」
接触回線で通信できる距離に俺達がいる。
現実に今、てめえの艦橋の目と鼻の先にギャン部隊がいるんだろ!この意味が分からねえとは言わせない!
「きゅ、救援要請は、ドゴス・ギアで、良いのか?」
「急げよ!俺は気が短い!エグザべ・オリベ中尉の救援に向かう戦力を乞え!エリフ准尉!隊長の居場所は?」
「…エグザべ隊長、は…。いや、俺達の隊長が追う程の相手ならば、分かります。分かりました。マリア副隊長、シャア・アズナブルです。敵の場所は分かります。」
また、意味わかんねえこと言いやがって!だが、便利な名前が出てきたじゃないか!
「喜べよ、艦長!大手柄の機会までついてきやがった!大金星だぜ!」
「ほ、本気で言っているのか?シャア・アズナブルだぞ!赤い彗星だぞ!!」
「ビビッてんのか?ええ?!地球連邦軍を出し抜いて、共和国軍を救った英雄艦リヨンに成れるぜ!わかるか?俺達がお前らを英雄艦にしてやるって言ってんだよ!笑え!英雄だぜ?笑えっ!!」
艦橋から笑い声が聞こえねえな!それでも、艦長か?指揮官か?兵の上に立つ人間は、いつでも笑うんだよ!
余裕を見せて、兵士を安心させるのが士官の仕事だろ!俺らの隊長がいつもしてることが、どうしてできねぇんだ?
「ど、ドゴス・ギアに連絡は、繋がりません、でしたが、ドゴス・ギア艦載MS、ハンブラビのヤザン・ゲーブル大尉が接近許可を求めています、艦長。」
「すぐに呼べ!やめろ、マリア・イヴァンカ少尉!」
艦橋にビームサーベルの柄が当たったくらいでビビッてんじゃねえぞ!そもそもここは戦場だ!戦場でビビるな!
「シャア・アズナブルを捕縛し、ギャン部隊のエグザべ・オリベ隊長を救援する。これ以上の名誉があるか?この先、2度とない最高の機会じゃねえか!エリフ准尉、カント軍曹、先に補給を済ませろ!」
俺達の隊長を助ける機会なんて、最高の戦場だ。
戦友を助けに行けるなんて最高の戦場だ!
戦友を、敵から守るなんて最高の戦場だ!
「笑え!俺達は戦友を守る戦いができる!」
俺の口角は勝手に上がっていく。そうだろ!戦争なんて非生産的だ!何にもならねえ!敵も味方も死ぬんだ。
だが、戦友の為なら、人を守るための戦いの為なら俺は何度でも立ち向かっていける!
守るためならば!
アムロ、再び 編
アムロ大尉は、今後一切、戦闘はしないよ。ガンダムからようやく降りられたアムロ・レイ。
ゲーツとはマブダチになれるんじゃないか?ハマーンとは喧嘩友達だろうな。ニュータイプとMS技術の話ができる友達だぞ!やったな!
アストナージさんもいるし、ヌー曹長もいる。
ヌー曹長に口で勝てないな…アムロ。グーでいけ!グーで!!ボディにしとけよ、ボディだぞ!
ようやく『助けて』が言えたな。ここからも長いだろうけど、助けてくれる人たちも助けを求められる人もできた。
アムロの人生は再び輝くさ。
ギャン部隊のマリア副隊長は口と手が早い人間なんで、なかなか出世できないし。本人も出世する気が無い。再びジオン共和国が公国に逆戻りしないように見張って、懲罰するのがギャン部隊の役目だと心得ている。サイド1出身。すげー波乱万丈の人生。
旦那も同じサイド1の人。養子も訳アリだが、溺愛している。愛の人。