機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
言葉ってのは、大事だ。
頭で考えて、それで終わってる奴は損してるんだぜ?
人間が何で言葉を作ったのか、考えりゃ分かるだろ。
必要で便利だからだ。
同じ言葉が通じるか通じないか、それだけで民族ができる。社会ができる。
言葉があるから、自分の考えを他人や後世に伝えられる。
言葉で他人を説得出来りゃ、味方も増える。
誹謗中傷だって言葉でするだろ?敵を攻撃することも言葉で出来る。
かつて、言葉が通じない奴を排除することは許されていた。正義だった。
シャヴィ、分かるだろ?言葉は『力』を持っている。
世界を動かす『力』が宿る。
世界を解剖する『力』でもある。
言えよ、言葉にしろ。
でなけりゃ、何も変わらないぜ。
赤い巨人さえ倒せない。正体を言い当てなけりゃ、その資格さえない。
言葉にしろ、シャヴィ。お前は何と戦っている?
命は、生命は何と戦うんだ?
人間とは物質であると同時に聖なる空間である。と、かつて考えた大馬鹿野郎がいた。
笑えるだろう?シャヴィ。
聖なる、だぜ?
わざわざ、馬鹿が誤解するような表現を使ってやがるのが笑えるぜ。
『聖』
馬鹿を騙すには便利な言葉だ。騙されない馬鹿を炙り出すにも便利だ。
この、意味が分かるか?シャヴィ。
『聖』の逆にくる言葉を想像してみろよ。
『聖/正』なるもののために、「何か」をする。それだけで、優越感が得られるだろう?
まるで意味を持たない殺戮も、環境破壊も、選民も、扇動も、戦争も、盗難も、詐欺も、何もかも!『聖/正』により正当化できるように思える。
他人より己が優れた正しい人間のように思える。
思えるだけだ。幻想であり固定観念だ。
人間だけが生命体か?
精神とは人間だけが持つものか?
思考は人間だけがするものか?
世界に存在するのは人間だけか?
他者を慈しむのは人間だけか?
子を守り、命を育むのは人間だけか?死を悲しみ、喪失を嘆くのは人間だけか?
憎しみ合い、嘘を吐きあい、殺し合うのは人間だけか?
奪い合うのは人間だけか?
己の理解できないものを軽蔑し、踏みにじるのは人間だけか?
秩序、平和、調和だけで完結する生命体が、一つで完全無欠の生命体がどこにいる?
どうやって、生きていくんだ?そいつは。
『聖/正』は、どうやって生きていくんだ?
『聖/正』を絶対視するモノが納得できる『良き生命体』が本当に生まれると、本気で思っているのか?
お前たちの理想を完全無欠に体現する、都合のいい生命が宇宙に生まれるとでも?
宇宙のどこにも完全無欠なものはないのに?
なあ、地球も宇宙も理も、この世は人間だけのものか?
この世は生命のために生まれたと、本当に思っているのか?
そんな都合のいいことを想っているのか?
ただ、地球に、宇宙に生まれたというだけで、生命に特権があると、そんな傲慢を思っているのか?
人間では、お前たちでは己の都合のいいものだけで出来ている世界を作れはしない。
『聖/正』だけで生命はできていない。
生命は『聖』だけではない。
生きるということは「綺麗」ではない。「清浄」ではない。「美」ではない。
見ろよ!どんな生物だって、食って、糞尿垂れて、生殖して、死んで腐って、喰われていく!
そして、生まれ生きるものたちの足掻きこそが美しく、何よりも尊い。
分かるだろう?
何故なら、そう。全ては歪であるからこそ愛おしいのだから。
そうだろ?シャヴィ
無限のエネルギーを手にしても、光速にはまだ達せられない。カミュの声がまだ聞こえる。
この距離はまだ、ニュータイプが、いや、人間が追いつける距離だ。冥王星どころか、太陽系の端にまでも届いていない。
まだ、力を十全に使えていない。
赤い巨人の意識を地球圏から、人類から引き離せていない。僕の思考の中に、お前たちがいるというのに。赤い巨人が、僕に抗っているからだ。
僕に抗っている。僕と共に人類が滅びるまで、生命体が滅びるまで過ごすことを拒んでいる。
僕と、理解し合おうとはしない。妥協をしない。
「カミーユの声が、お前たちには聞こえないんだな。」
「カミーユの声?!」
赤い巨人にはカミュの声が聞こえていない。
あいつは今、赤い巨人を嘲笑った。馬鹿にした。
でも、それでも赤い巨人は僕の思考に掴まれたままだ。カミュの声には反応もしていない。怒りさえ見せない。
「お前たちは『聖』に囚われ過ぎている。人間に囚われ過ぎている。宇宙をありのまま見ることができていない。生命の尊さの本質から目を背け続けている。僕も同じだった。目を背けて、幻想と固定観念に囚われている。馬鹿になっている!」
カミュはそう言って人間の形に執着しているお前たちを否定した。
『良き生命体』。お前たちが存在する理由を、存在したい理由を無意味だと断定した。
「お前たちは優越感に浸りきって、なんとなくの正しさに縋りついているだけだ、と笑ったんだ。」
お前たちの存在する理由そのものを否定し嘲笑ったのに、お前たちはそれに反応もしなかった。
だから、お前たちにカミーユの声は聞こえていない、と僕は思った。
「今、僕は思った。考えた。僕が人間だからか?いや、聞こえたから、考えざるを得なくなった?声が聞こえたのならば、話しかけられたのならば、答えたくなる。人間は社会を築いて、社会の中で生きてきたのだから、当然そうなる。コミュニケーションは社会の基礎だ。なのに、お前たちは応えない。カミーユと僕の声も、お前たちの望む答えじゃないから聞いていない。」
赤い巨人は、社会を望んでいないのか?人間は社会で生まれ生きてきたのに?
「戯言を!ララァ・スンとアムロ・レイにも及ばないお前ごときが!」
「お前たちも、人間だった頃があるはずだ。社会を築いて、家族や友人と過ごしていた頃があるはずだ。人間と似た形をしているのなら、人間と同じように生きていたはずだ。かつて、人間だったはずの赤い巨人。誰かと手を繋いで過ごした記憶があるはずなのに。生きていた頃の記憶があるはずなのに。」
記憶。
記憶は、自分が自分であるために必要な、大切なものだ。忘れたくない。少なくとも僕は、忘れたくない。
だって、もう、それだけしか残っていない。家族や友人たち、親友たちとエグザべ・オリベを繋げるものはもう、僕の記憶しかない。地球圏から遠く離れた宇宙では、ルウムから8年も離れてしまった今では、僕自身の記憶しか残されていない。
溶け合ったお前たちは記憶を記録にしたのか?機械の身体は記憶を持つことができないから。
記録。
記録ならば誰かと共有できる。記録ならば、記憶よりも確かに残っていく。誰が知っていても可笑しくない。記録はそのための道具だ。誰かのために、誰かが遺すものだ。誰かの助けに、あるいは死にゆく己の慰めのために残すものだ。きっと、自分の死は無意味じゃなかったとも思える。記録さえ残れば、誰かの中で生き続けることができる、と。
それは、人類の為の財産にもなる。
でも、それは、
「結局、他人事なんだ。記憶が記録になってしまうと、皆、自分と関係ない『モノガタリ』として消費してしまう。『モノガタリ』を自分の記憶として、体験として活かせるような感受性は、他人との境界線がないのと同じだ。お前たちと同じなんだ!お前たちが否定している、お前たち自身と同じ程度の生命体が高次元の存在に成れるはずがない!」
誰かの記憶を、自分の記憶と同じように扱える生命体を目指せばおのずと人間の形になったのだろう。言葉を使い、道具を使い、記憶を記録に替える生命体が人間だっただけの話だ。
『良き生命体』を人間の形でしか想像できなかった赤い巨人。
違うか、赤い巨人は、そんな生命体を人間しか知らないだけか。
「知ったふうなことを!ニュータイプの時代を否定する、地球の重力に魂を引かれたオールドタイプ!!」
シャア・アズナブルのその叫びは、赤い巨人が初めて僕に言葉を返してきたように思えた。
「地球?惹かれる?」
地球は生命が生まれる星だ。生命体の、人類の故郷だ。母なる地球に惹かれることを僕は悪いことだと感じたことはなかった。
コロニーはまさに地球を模して造られて、そこで僕は生まれ育った。地球とコロニーはありとあらゆる意味で繋がっていた。経済でもインフラでも血筋でも重力でも繋がっていた。切り離せるものではない。
「地球が嫌いなのか。今も生命が生まれ生きている場所を、お前たちは嫌っている。人類以外の、『良き生命体』になれる可能性が今も地球で生まれているかもしれないのに?生きているかもしれないのに?いや、嫌っているから地球を壊しもできるし、殺すこともできる、ということか。」
赤い巨人が、地球ではなく木星で眠っていた意味が分かる。
生命の可能性を嫌っていた。
人間以外に『良き生命体』の可能性を見ることを嫌っていたから、地球から遠くもなく近くもない木星で眠っていた。
人間以外を嫌って、いや、他の生命体の価値を認めたくなかったのか。
『良き生命体』を望みながらも、それが人間の形以外を持つことを厭うのは記録との共感性を著しく欠くからだ。膨大な時間とエネルギーと犠牲を払ってまで保存していた記録と精神を存在させ続けた意味を、存在していく意味を失うからだ。
「妬ましいのか。肉体を持って、懸命にあがきながら生きている生物が羨ましい。カミーユが言ったとおりに。だから、地球を嫌うし、簡単に殺しもする。因果地平の彼方へ導こうとする。……無意味に生きていることさえも肯定できるのは、生きている肉体だけだから。生きている肉体のないお前たちは、与えられたロボットの身体を枷として目的を果たすための行動をしなければ自己の存在を肯定できない。目的を果たせば、『良き生命体』に出会えば、お前たちはお前たちの存在、エネルギー、記録、全てを『良き生命体』に託して消滅するしかない。死、だ!死にたくないお前たちは、決して目的を達成しない!」
赤い巨人の悲鳴が聞こえる。
宇宙は真空なのに、音が届くわけがないのに、僕の身体の芯を揺さぶる低音も高音も、男の声も女の声も老人の声も子供の声も全てが交じり合った悲鳴が聞こえた。
断末魔のようだ。
そうか。僕に応えておいて、僕に否定されれば。今まで、宇宙に他者がいなかった赤い巨人は、他者に否定されれば、傷つくしかなくなる。存在を否定されれば、精神だけの存在は脆く儚い。生きていないのだから。
僕に抗えなくなる。これ以上、傷つきたくないからだ。
視界に光るものが見える。たくさんの、光が、瞬いて…
宇宙に虹が見えた。
知らないけれど、分かる。これが、光の速さ…
ニュータイプすら、追いつけない速さ…
待たせたな!皆の衆!!
え?待ってない?
本当に申し訳ありませんでした。はい。確定申告も風邪もはい。無事終わりましたんで。
はい。反省してます。体調には本当に気を付けます。
ごめんなさい。
聖なるかな/宇宙の虹 編
邪悪だなぁ、赤い巨人。こんな邪悪にする予定じゃなかった、本当に。
光の速さに到達しました!太陽系の端まで何時間だ?冥王星入れて良いのか?
飛び出していけ、宇宙の彼方!目の前に広がる宇宙の虹!ドップラー効果で変異した星々の光!
こわ…