機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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「そういや、カミーユとエグザベさ、地球の資料映像持ってるってマジ?文化人類学のコーベナットゼミのレジュメ書くのに貸してくれね?大学のがさ、借りパクされてんだよ。」

「俺のじゃねえし、地球環境の映像だからお前の宿題には関係ねえわ。コーベナットに頭下げて許してもらえよ。コーベナットの論文に赤ペンで花丸描いて申し訳ございませんでしたってよ。」

「コーベナット教授も普段優しい人だから、謝ったら許してくれるよ。僕も一緒に行こうか?」

「いや、エグザベ、ちげぇわ!ぜってぇ頭下げたくねえからお前らに頼んでんだよ!」

「己の過ちを認められない器の小さい人間は俺達の友人に相応しくないな。そうだろ、オリベ。」

「ていうか、表紙にだけ描くとか、規模小さすぎてウケる。もうちょい、派手なことやれないの?ダサいんだけど。」

「うっせぇ!」

「俺らも、ゼミ生から話聞いてんだわ。お前、花火の論文だったからって、花丸描いたんだろ?単純すぎ。合コン続きで頭イカレたんじゃないか?どうせ彼女できないんだからもう諦めろよ。」

「うぜぇ!」

「花火、ね。黒色火薬が燃えてるだけじゃん。エグザベ、お前、隣のクラスの奴が呼んでるけど?」

「あ、そうだった。悪い。一緒に車校行く約束してたんだ。コーベナット教授に謝りに行くのはまた明日でいいか?ごめんな。」

「いや、謝らねえから!エグザベ、逃げんな!」

「お前が一番うるせえ。……アジア方面文化の慰霊で検索してこい、間抜け!」

「さすが!神様、カミーユ様!ありがとな!」






魂呼ばい

 

 

カミーユが泣いてる!カミーユが泣いている声がする!

そう思った瞬間、私は駆けだしていた。サイコミュシステムのコクピットの方に。

だって、カミーユが泣いてるんだもの!

 

「カミーユ!」

 

私は、マイネちゃんとセーラとマシュー、皆と一緒にサイコミュシステムの様子を見守っていた。ずっと。それくらいしか、ただのファ・ユイリィにはできないから。

それだけでもしていたかった。

 

サイコミュシステム。

よくわからない機械。カミーユやハマーンさん、アムロ大尉さんやアストナージさん、ゲーツ大尉さんやヌー曹長さんが一生懸命、毎日かかりきりになって作ってたけど、私にはよくわからない。

なんだか、ごちゃごちゃしていて、カミーユがまだジュニアハイスクールの時に作ってた光る目覚まし時計の巨大な物のように見えていた。あの目覚まし時計のよう、綺麗だから、カッコいいからと言う理由で作られていないのは分かっているけれど。

 

目の前で見せられても、本当に何もわからない。

MSから取り外されたコクピットと必要な分のコンピューターだけ繋ぎ合わせられているって、カミーユは私に教えてくれた。でも、なんだか私にはよくわからない。だって、光ってる部分もないし、時刻を示す数字だってないもの。

あちこちのケーブルは地面だけじゃなくて壁も這っていた。私の腕くらいの太さのケーブルだって使われている。

月の軽い引力のままの格納庫でなければ、こんな危ない配線はできないってアストナージさんが言ってた。

こんな危ないことまでしないと、味方が大変なことになるって。

 

サイコミュ兵器っていう恐ろしいものが、今、戦場にあって、その戦場でエグザべ中尉さんやパプテマス・シロッコ少佐やアドル曹長さんが戦っているから、カミーユもサイコミュシステムの中で戦っている。

カミーユも守りたいから、戦っている。戦っていた。

 

でも、カミーユは泣いてる。今、泣いている。

 

「カミーユ!」

 

カミーユがいるサイコミュシステムのコクピットの扉を叩いた。力いっぱい叩いた。だって、カミーユが泣いてるのに1人にしておけない。何度も、何度も叩いた。

 

コクピットが開いたのはマシューが外付けしてある緊急用の開閉装置を操作してくれたから。

皆、カミーユのことを心配してくれているのに、なんで一人で泣こうとするの!

 

「ファ…」

 

「カミーユ!」

 

カミーユがカタカタと震えて、泣いていた。涙を流して、歯を食いしばって…

 

「カミーユ、なんで、いつも1人で泣くのよ。」

 

身体がバラバラになりそうなくらい辛くて悲しいのに、1人で泣いてたら誰もカミーユを助けられないじゃない!

 

コクピットに座ったままのカミーユに抱き着いてもカミーユの震えは止まってくれない。

でも、分かる。

どうしようもないくらいに、辛くて悲しくて、全部が嫌になる。投げだして、誰かに終わらせてほしくなる。

 

でも、全部を捨てられるくらいに自棄にもなれなくて…ただただ苦しい。

 

「カミーユ!よびなさい!」

 

コクピットの入り口からマイネちゃんが叫んだ。振り返れば、身をかがめたセーラに支えられて、マイネちゃんがコクピットの入り口に立っていた。

マイネちゃんもセーラもカミーユのことを想って助けに来てくれた。

 

「あなたのお父様なのでしょう!エグザべ・オリベは!よびなさい、カミーユ!」

 

マイネちゃんが身を乗り出すようにして、カミーユを叱咤してくれている。

 

「…マイネ、でも、エグザべさん、は。」

 

そう、エグザべ中尉さんに、何かがあったのね。家族に何かがあったのなら、私にだって教えてほしい、カミーユ!

 

「よびなさい!お父様、とよぶのがはずかしいなら、なまえでよべばいいことです。カミーユ・ビダン。家族なのでしょう!いっしょにいたいとおもうのなら、よばなくてどうするのです!」

 

「カミーユ、そうよ。マイネちゃんの言う通りじゃない。エグザべ中尉さんなら、カミーユに応えてくれるわ。」

 

カミーユの震える右腕を抱きしめた。

こんなに震えているのに、1人のままでいたらだめじゃない、カミーユ。心だって、冷たくなってしまう。

 

「わたしもお母様にあいたいときはなまえををよびました!だだをこねて、お母様のなまえを、ハマーンをよんだのです。かならず、きてくれました。お母様だから。わかるでしょう!こわいのなら、わたしもいっしょによんであげます。」

 

マイネちゃんはそう言うと、カミーユの膝に座った。

セーラが困ったように、マシューと一言、二言話して。セーラもマシューも一緒に狭いコクピットに入ってきてくれた。

 

「私も一緒に呼ぶから。カミーユ、ここで、あなたと一緒にエグザべ中尉さんを呼ぶ。だって、私とカミーユの結婚式で、エグザべ中尉さんにエスコート頼むんでしょ?」

 

カミーユは泣きながら、何度も頷いてくれる。

 

「思えば、このマシューとしたことが勉強用のクッションの礼をしていなかった。無事に帰ってきてもらわねば、ハマーン様の騎士として、一生の恥になる!」

 

マシューは、こんな時でも優しい。持ってたハンカチでカミーユの涙を拭いてくれた。

 

「仲間外れは、私も嫌です。姉さんも分かってくれます。」

 

セーラだって、私の隣に居てくれてカミーユの背中を撫でてくれている。

 

私たちには、こんなに優しい友達がいるじゃない、カミーユ。

 

サラもシドレも、遠くから私たちを想ってくれている。分かるでしょ、カミーユだもの。

 

それにあの時、言ったじゃない、カミーユ。

1人じゃないカミーユなら、皆と一緒なら、どんなところにだって行けるんでしょ!

 

 

 

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苦しくて、悲しくて、惨めだった。

 

カミーユ・ビダンは、言い返すこともできないくらいに、自分を、あの時の自分を言い当てられて一瞬でズタズタにされた。

 

エグザべさんが、あいつらに連れていかれるかもしれないのに…こんな大変な時に、僕はただただ辛くて震えて涙をこぼしていた。涙を、堪えることができない。震える体を押さえつけるように抱きしめても、涙はとめどなく零れていく。

 

エグザべさんは僕のせいじゃなかったって言ってくれた。でも…でもそうじゃない!僕がガンダムMK-Ⅱに乗ったのは、乗ってバルカンの引き金を引いたのは……クワトロ・バジーナのエゥーゴについていったのは……

 

ママ…父さん…

 

震えが止まらない。

涙と一緒に、身体から力が、熱が抜けていってる。

 

通信は繋がっているから、歯だけは喰いしばった。

ハマーンさんやアムロ大尉やゲーツ大尉に心配をかけたくない。だって、だって、心配をかけてしまったら、言わないといけない。話さないといけない。

 

サイコミュシステムの中で僕にしか聞こえていない声がずっと聞こえていたのに黙っていたことも、僕が死ぬために、両親の心を傷つけるためだけにガンダムMK-Ⅱに乗ったことも。全部話さないといけない。

今まで、言わなかった理由も話さないといけない。

 

全部が惨めだ。

 

さらけ出したくない自分を、誰かにさらけ出させられるのは惨めなんだ。

その誰かが、大好きな人でも、信頼してる人でも変わらない。

無力な僕自身を認めるのが嫌だから、誰が相手でも変わらない。馬鹿な、惨めな自分を誰かに知られるのは、怖くて…苦しい。怖すぎる。

だって、怖い。

こんな嫌な人間を誰が許してくれるんだ?誰が愛してくれる?寄り添ってくれるんだ?

誰からも愛されないまま、認められないまま、それでも生きていかないといけないなんて、恐ろしくて、怖い。残酷だ。

孤独は、残酷なんだ。

 

エグザべさん。

 

エグザべさんに隣に居てもらいたい。初めて会った日のように、僕の隣に居てほしい。あの時みたいに暖かさを分かち合いたい。何もできなかった僕に、ただ自棄になってただけの僕に寄り添ってくれた、守ってくれていたのに。

 

こんな、どこにでも、エグザべさんがいたら、そんなこともできないじゃないか。

エグザべさんだって、僕に気づけないじゃないか!僕だって、今になるまで、エグザべさんに気づけなかった!

 

どうすればいいのか、わからない。エグザべさんが何をしているのかわからない。どこにでもエグザベさんが居て、でも、温かさを分かち合えない。

 

このままじゃ、本当にあいつらに連れていかれてしまうのに!

また、家族を失うかもしれないのに!

 

僕は、声を出さずに泣くだけしかできない。

 

ファやマイネ、セーラ、マシューが来てくれなかったら、僕はそのままだった。1人で泣いて、心も体も冷たくなるしかなかった。

僕がまた、1人で勝手に孤独になっていたことにファが気づいてくれなかったら、マイネがエグザべさんが僕の『父』だって気づいてくれなかったら、セーラとマシューが、皆が僕に暖かさを分け与えてくれなかったら、僕はまた冷たくなるしかなかった。

 

「さあ、カミーユ!エグザべ・オリベのなまえをよびなさい!」

 

僕の膝にお行儀よく座ったマイネが言う。

 

『カミーユ!なんで、そっちに子供たちが?マイネちゃんもそっちに居るのか?ハマーンに叱られるぞ!』

 

通信機から、アムロ大尉の声が聞こえた。応えたいけど、この泣いている声では答えたくない。

ハマーンさんは今、パプテマス・シロッコ少佐と通信をするために席を外している。みたいだ。なんとなく、それが分かった。遠くから、感覚でマイネと僕らのことを見ていてくれている。

優しく、温かい何かが僕ら皆を撫でてくれている。ハマーンさんの思考だ。落ち着いてやりなさい、と僕らに伝えてくれている。

 

「わたしのことはよいのです、アムロたいい。しらなかったふりをしなさい。カミーユとわたしたちは、カミーユのお父様をここから、よぶだけです。」

 

『名前を呼ぶのは対処法として合っている。賢いな、マイネ。流石、ハマーン・カーンの娘だ。カミーユ、俺の通信機は故障したようで、そちらの音声がよく聞き取れない。どうやら、アムロ大尉の通信機も同じようだ。』

 

マイネの言葉にそう答えたゲーツ大尉の声は少し明るかった。そうか。僕らを見守ってくれているんだ。

 

『ゲーツ大尉、勝手なことをして…ハマーンに何と言えばいいんだ?パプテマス・シロッコ少佐からの情報を待った方が…』

 

「姉さんなら分かってくれています。マイネの母で私の姉さんです。自慢の姉です。カミーユやマイネが必要だって思ったのであれば、どんな行動でも許してくれます。」

 

セーラが自信たっぷりに言ってくれる。その言葉にアムロ大尉は深くため息を吐いた。

仕方ない、と分かってくれたんだ。力を、僕たちに託してくれている。

 

「いざとなれば、このマシューが全ての泥をかぶろう!なに、ハマーン様ならば、全てお分かりくださるはず!」

 

「マシューのたわ言は聞き流してください。アムロ大尉。ゲーツ大尉。カミーユはただ、家族を呼ぶだけです。ここで、私たちと一緒に。私とマイネとマシューとファと一緒にカミーユは家族の名前を呼ぶだけ。大したことはしません。」

 

セーラがマシューの頭を平手で何度も叩きながら、そう、言っているのが可笑しかった。こんな大変な時なのに。

可笑しくて温かい。

 

「カミーユ、カミーユはまだ、自分の名前嫌い?エグザべさんに呼ばれたくない?」

 

ファは僕の頬を両手で包んでくれて、僕の目を見て聞いてくれた。ファの手のひらが、僕の涙で濡れていくのに何故だか暖かかった。涙も、ファの手のひらも温かい。

 

「嫌いじゃない!ファには言っただろ。僕はとっくに好きになってた。」

 

そうだ。僕は、カミーユだ。カミーユ・ビダンだ。

ファはいつも、僕の名前を呼んでくれていた。カミーユって。

 

女みたいな名前だと自分でも思っていたけど、嫌いではなかった。ファが、呼んでくれる名前だから好きだった。両親が、愛し合っていた頃の父と母が、僕に贈ってくれた名前だから好きだった。サラもシドレもマシューもセーラもマイネも、友達が呼んでくれる名前だから一層好きになれた。

 

エグザべさんも、そうだった。僕をカミーユと呼んでくれた。

 

カミーユっていう僕の名前が、僕とエグザべさんを引き寄せてくれた。

僕が、カミーユだったから。

 

僕の名前が、僕を助けて支えてくれる人たちと引き合わせてくれた。僕が助けたいと、支えたいと思える人たちと引き合わせてくれた。

 

「僕は、エグザべさんに会いたい。ここに、グラナダに帰ってきてほしい。エグザべさんに会いたいんだ!!」

 

父と母を想った。幼いころと変わってしまった両親。でも、僕にとっては両親だった。ずっと両親だった。会いたいって言えば良かった。家族で一緒に過ごしたいって、寂しくって悲しいって。一緒に話をして、ご飯を食べて、父さんと母さんの仕事だって、ガンダムの設計だって僕も一緒にしたいって言えば良かった。

浮気なんか止めて、家族に戻ろうって言えば良かった。

言っても何も変わらなかったかもしれない。

 

でも、

 

「会いたい。今すぐ、エグザべさんに、会いたい!」

 

両親にそれを言わなかった後悔を、今、僕は願いを声に出す勇気に変えた。

 

 

 




カミーユ・ビダンは、家族に会いたい 編

ファがいないとカミーユは本当に地に足がつかないな!
ファが居なかったら俺のSSのカミーユも、ちょっと悪霊からつつかれただけでフワフワして困る。

自分の後悔を勇気に変えることは難しい。あの時、ああすればよかった、こうすればよかった。なんでできなかったんだって後悔しても、それを自分の力に変えるって難しいよ。
でも、カミーユ・ビダンは、ファも友達もいるから、それができた。やればできる子。

ゲーツ・キャパ、爽やかで良い奴だな……お前、本当に良い奴だな。俺のSSで1番女にモテるのはきっとお前。でも「仕事と私、どっちが大事なの?」ってフラれるのも、お前が1番だろうな…

この時点で、マイネちゃんはカミーユのことを手のかかる『弟』認定しました。以後、ずっとマイネちゃんにとってカミーユは弟です。マシュー?言わずもがな、弟です。




Zガンダム本編でカミーユが『人の心を大事にしない世界』とは言うが、人の心だけを大事にしてもね…法と道徳と倫理とその他諸々も大事にしてもろうて…それも全部人類が長い時間をかけて作り上げてきた財産なんだし。
『人の心を大事にする世界』の欠点は、Xを見れば分かるじゃないですか!修羅の国だよぉ!!


前書きについて。
コーベナット教授は本当に運が悪かった。講義室に論文忘れてきたら、次の講義聞きに来てた馬鹿が赤ペンで花丸描いててぶちぎれた。それだけなんです。
停学にもゼミを首にもできず学生課に宥められて、レジュメだけ科した理性的な教授です。
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