機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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いつもと変わらない日常への帰還

 

 

 

「大丈夫だよ。カミーユ、ファさん。ちゃんと僕は帰るよ。」

 

僕とファにギュウギュウにされたエグザべさんは、そう言ってくれた。いつもの、エグザべさんだ。エグザベさんの優しい声だ。

 

ずっと、聞きたかったエグザベさんの声だ。僕を安心させてくれる声。

 

ふ、と力が抜けて、僕はグラナダのサイコミュシステムの中に戻っていた。

 

「エグザべさんは、本当に!もう!馬鹿だ!!大馬鹿野郎だ!!」

 

だけど、僕の喉から出てきた言葉はそれだ。本当に本当にあの人は、もう!

 

ファに頭をひっ叩かれる。

 

「カミーユ!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」

 

「分かってる!でも、エグザべさんは!本当に!!空気漏れのハザードが着いてた!ハマーンさん!!エグザべさんの、ギャン改-Ⅱの、コクピットで空気漏れが!」

 

マイネを抱きしめて、通信する。

うるさいだろうけれど、ごめんな、マイネ。もう、不安で不安で仕方ないんだ。

 

帰ってくるって約束はしてくれたけど、どこまで行ってるんだ?!いつ頃、帰ってくるんだ?!

 

というか、宇宙で空気漏れだぞ!エグザべさんこそ、もう少し焦ってくれよ!

 

『落ち着いていい、カミーユ。ギャン改-Ⅱの回収にヴェルザンディが動いた。パプテマス・シロッコ、人を道具にする男ではないらしい。』

 

ハマーンさんはそう言ってくれるけれど!

 

『ハマーン!!通信機は故障中にした、と言っただろう!』

 

アムロ大尉もなんかよくわからないことを言っているけれど!

 

「おちつきなさい、カミーユ・ビダン!」

 

マイネもそう言ってくれるけれど!

 

「どこにでも、エグザべさんがいる感じはしないから戻ってきたのは確かなんだ。それだけはわかる。でも、コクピットの空気漏れハザード、見落としてた!エグザべさんが!見落としてた!」

 

「落ち着け、カミーユ。何か策があるのかもしれないだろう?」

 

マシューもそう言って僕を宥めてくれている。

 

いや、僕がマイネを抱きしめたままでいるからか。慌てて膝から降ろした。

 

「ごめんな、マイネ。エグザべさんが帰ってきたら、いくらでも怒っていいから。」

 

僕たちと一緒にエグザベさんのこと叱ってくれよ、マイネ。あの人、年下には頭が上がらないから!

 

「お母様がわたしのかわりにしかってくれるから、わたしはきにしません。」

 

マイネのその言葉に、ハマーンさんに黙って勝手をしたことを思い出した。ファもマイネもセーラもマシューも一緒に、だけど。

これ、主犯は僕になるのか?

いや、でも、ハマーンさんも感覚で見守っててくれてたし…いや、きちんと許可を取らないで動いちゃったのは確かだ……僕は怒られたくない!

 

「カミーユ!しっかりしてよ!カミーユ」

 

ファに大きく揺さぶられて言われる。

 

「だって、ファ!」

 

「だっても、何もないでしょ、カミーユ!もう!エグザべさんが戻ってきてるんでしょ!準備してよ!カミーユ!」

 

「え?あ、そう、そうだよな。ファ。準備?準備って?」

 

パプテマス・シロッコ少佐がエグザべさんを回収しに行っているのなら、僕がすることって?できることって?

 

「ヴェルザンディが数隻の戦艦で、迎えに行ってくれているそうですよ。カミーユ、ファ。」

 

セーラがすかさず教えてくれた。僕の代わりにハマーンさんと通信してくれていたのか。

 

「カミーユ!それなら、戻ってくるエグザべさんの目印になってあげないとでしょ!」

 

「分かった!それならできる!…ゲーツ大尉!お願いします!」

 

『ああ、大丈夫だ。準備はできている。エグザベ中尉に呼びかけるんだな?』

 

「はい。援護、お願いします!」

 

声をかけ続けないと、名前を呼び続けないと!だって、エグザべさんだものな。本当に、もう!

 

 

 

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「クソが!!!」

 

僕はまだ、あいつらのところにいけない。いきたくない。

気付けばギャン改-Ⅱはアクシズと月のちょうど中間に居た。

 

あいつらの仕業か!僕になんも言わないで、何の相談も説明もしないで、こういう訳の分からない勝手な事するのは、あいつらしかいない!!

 

変わらず、空気残量を警告するアラームが点滅している。目に痛いくらいに、眩しいくらいにキラキラと光が瞬いている。何色にも。

 

「酸素が足りなくったって、空気が漏れてたって、まだ、いくわけにはいかないだろ!!凄く馬鹿にしてくるぞ!」

 

間違いなく確信だった。思考が走ったわけではない。当たり前の確信だった。

 

ギャン改-Ⅱの進路、とりあえずで月のグラナダ基地を目指しているけれど、クソが!推進剤も空気もギリギリ足りなさそうだ。

 

コントロールシステムにも異常が出ている?!機体に負荷をかけすぎたか?いや、当たり前か!

 

「ガァアッ!!アアッ!!」

 

ヤバい、と思った瞬間、身体に電流が走った。咄嗟にレバーから手を放して良かった、けど。よりによって、脳波測定用のシステムも壊れてるとか!

 

「ッヅゥ!!!」

 

ケーブル、抜く前に痛みで死ぬんじゃないか、僕は!

より一層笑われるだろ、そんなもの!!

 

このシステムを開発した連中の頭をぶん殴るくらいしないと、割に合わない。電流は断続的に流れるようになっている。脳波が通常になるまで、は0.5秒おきに。

合間に、パイロットスーツのケーブルを力いっぱいに握った。

 

「帰るって、言っているんだ!ッアア!!」

 

本当に、冗談じゃない!この状態からケーブルを抜いたことを、僕自身褒めてやりたい。

痛みで、頭がくらくらする。視界もキラキラだ。粉々に割れたガラスに太陽光をあちこちから当てたら、こんな風にキラキラして見えるんじゃないだろうか?

何色もの光の瞬きに気が散って、気絶さえできない。気になりすぎる。

 

ああ、カミーユとファさんが、僕の名前を呼んでくれているな。ハマーンもアムロ大尉もゲーツ大尉も、マシュー君もセーラさんもマイネちゃんも。

名前を呼んでくれている。グラナダ基地から。

 

グラナダ基地。助けが呼べればいいんだが距離の問題もミノフスキー粒子の問題もある。

光点滅信号は、こんな遠くでは意味がない。

ミノフスキー粒子下で役に立つ救難信号があるのなら、とっくの昔に実用化している。

ギャン改-Ⅱの推進剤も尽きかけている。

ビームサーベル?いつの間にか失くしてた。あっても役に立たない。

 

視界もヘルメットの中に浮かんだ水滴が邪魔で、イライラする。キラキラ、光が反射して、綺麗だけどうっとおしい。

涙か、汗か分からないけれど、光の反射をこんなにうっとおしく感じるなんて、僕は相当、疲労しているんだろうな。こんなものに苛立っても何にもならないのに、そう感じるように人間の身体はできている。こんなときですら、疲労しているから喉は乾くしお腹もすく。

 

「生きているから、か。」

 

僕が生きているから、カミーユの、ファさんの声も聞こえるんだ。グラナダから僕を呼んでくれている。答えてはいるつもりだけれど。

 

いや、僕を呼んでくれているなら。

 

「生きていける、か。」

 

とにかく、視界を確保しよう。コクピット内の気圧も下がってるんだ。

 

こういうのは、単純にすればいい。

つまり、バイザーを割ればいい。単純だ。単純でいいんだ、人間は。

 

シートベルトを外し、固定したレバーに思いっきりバイザーの右部分を上半身を振ってぶつけた。

割れたバイザーの破片と、水滴?いや、何かよく分からない煌めく小さな細かい光の粒がコクピットの1点に吸い込まれていくのを、身体を傾けたまま見た。

 

吸い込まれていく?ああ、そうか、そこから空気が漏れていたのか。

 

緊急補修用のパテをコクピットシートの下から取り出した。

これを本当に使うときが来るとは思いもしなかった。取り扱いが難しいからモニターの電源を落としてから使用しないといけない、という最悪の欠点はどうにか早期に改善してほしい。要望書、書かないとな。

 

まあ、今はいいか。

 

グラナダ基地の方向は、皆が教えてくれているんだから。

 

 

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宇宙を漂うギャン改-Ⅱを見つけたのは、アドル曹長だった。俺のにらんだ通り、月に近い位置に居たか!

 

「トップスピードではありません、ヤザン大尉。ハンブラビの性能ならランデブーできるかと思います。ギャン部隊にはまだ。こちらで回収するなら今しかありません。」

 

「よくやった!アドル曹長!その目の良さ、これからも役に立つぞ!」

 

パプテマス・シロッコ艦長の『頼み』ならば、終わりかけの戦場にこだわる必要もない。ジオンにも恩を押し売りできる良い機会だ。

 

散々にチェスで負けが込んでいるのだ。1度も勝てていない。

 

このヤザン・ゲーブル相手に勝ち逃げは許さねえぞ!エグザべ・オリベ!

 

アドル曹長のマラサイを始めとする3機の部下に周囲の警戒を任せ、ギャン改-Ⅱに接近する。ミノフスキー粒子のせいで碌に通信が使えないのだから、仕方がない。

 

ハンブラビの速度をギャン改-Ⅱの速度に合わせてランデブーを行う。

 

ギャン改-Ⅱはボロボロだ。装甲は高熱で溶けかかった痕や細かい傷でボロボロだ。これは、……ご自慢のイマニュエル伍長ですら、どうにもできねえだろうな。オーバーホールどころか、新品にした方が早い。まったく、整備士泣かせの戦い方をする!

 

エグザべの奴め!全く、手のかかる野郎だ!

 

「よぉ!生きてるか、エグザべ中尉!」

 

ギャン改-Ⅱを掴み通信をすれば、すぐに答えがあった。

 

「ヤザン大尉!助かりました!空気が無くて、ハンブラビに同乗お願いします!」

 

言うや否や、ギャン改-Ⅱのコクピットが開くと同時に、エグザべが宇宙に飛び出した。

 

「今か!この速度で!」

 

いくら、ランデブーしているとはいえ!

いや、この度胸、間違いなくエグザべ・オリベか!

 

ハンブラビの手で包むようにして、頭を抱え体を丸めたエグザベをコクピットへ運んだ。ジュピトリス製のハンブラビは高性能でパイロットの生存性を極限まで高めている。流石は、パプテマス・シロッコ少佐だな。空気は1秒満たずに充満できる。

 

「ったく、デブリに当たったらどうする!注意欠如じゃないか?」

 

俺の言葉に、エグザベは大きく深呼吸を3回してから答えた。息が上がっているのは初めて見たな。

 

「申し訳ありません。助かりました。ヘルメットも割れてて…死んだかと思いましたよ。」

 

そう言いながら、エグザべはヘルメットの右後ろ部分を指さした。バイザーに罅が入って、欠けていた。

手で頭を押さえていたのはそれか。その状態でよく、飛び移ろうと思ったもんだ。

 

無重力の宇宙空間に生身で飛び出すなんぞ、前例も少ないんだぞ。

パプテマス少佐に報告してでも身体の精密検査を受けさせねえとな。

 

「さて、パプテマス・シロッコ少佐が何と言うかな?怒るか怒らないか、賭けるか?」

 

「賭けになりませんよ。間違いなく、ドゴス・ギアで怒られるんで。いや、地球連邦軍でもジオン共和国軍でも怒られるな。」

 

その言葉に、察せられるものがあった。エグザベ・オリベの、その発言の仕方が俺に知らせてくるものがある。

 

「赤い彗星を殺さなかったのか。」

 

「破廉恥漢ですよ、僕は。正気でない人間を、楽にしてやらなかった愚か者です。」

 

そうか、赤い彗星は、まだ生きているか。

 

俺は、それが嬉しい。俺が、ヤザン・ゲーブルが赤い彗星を討つチャンスが、まだある!

 

「いいぜ!またいずれ、宇宙のならず者共が、あいつを担ぎ上げて戦いを挑んでくると思えば、腕を磨く甲斐が、新兵どもをしごき上げる甲斐があるってもんだ!」

 

この宇宙には火種があちこちに燻っている。

クソッタレなジオン公国のように、人を殺してでも、てめえの願望を叶えたいクズ共がいる。

このアクシズ戦争で、だいぶ間引きできただろうが。

 

「まさか!正気も失くして、ニュータイプでさえなくなったのに。」

 

「ハハ!甘いぜ、エグザべ中尉。人間の悪意って奴に対して、お前は甘すぎる!たるんどるぞ!!」

 

エグザべ・オリベ、お前の甘さが新たな戦場を作ると思えば、俺は許せる。

 

「殺しておくべき、だったか…」

 

エグザべが言った時、視界の端、ハンブラビから離れた宙域で爆発が見えた。

 

ギャン改-Ⅱ、か。よくパイロットを守った。

 

「良い機体だったな、ギャン改-Ⅱは。」

 

「ええ、良い機体でした。僕にはもったいないくらいに良い機体でした。」

 

ドゴス・ギアも見えた。掃討戦が終わって動けるようになったか。あるいは、パプテマス・シロッコ艦長自ら、お叱りに来たか?

 

艦橋から光点滅通信で着艦許可が下りていた。

 

「パプテマス・シロッコ艦長もお待ちのようだぜ。」

 

「動くMSがあれば、今からでも殺しに向かいます。場所も、まだわかります。」

 

「ガキみたいに逃げてんじゃねえぞ。大人しく、艦長の処罰を待つんだな!」

 

どいつもこいつも、ガキのまんまか!子供みてえなことしやがって。

仕方ねえな。後で、パプテマス・シロッコに進言でもしておくか。

 

まあ、戦争を生き残った有望な戦士だ。これからも働いてもらわねばならん。地球連邦軍に戻って来た時に任せたい仕事もある。

 

新兵をしごく教官はいくらでも必要だ。

 

「掃討戦は終わっても、まだまだ仕事はある!無駄な時間を使えると思うな!エグザべ・オリベ!」

 

困ったように笑ってもな、俺もパプテマス・シロッコも逃しはしない。お前のご自慢のギャン部隊まで欺いて確保したんだぜ。

軍務を、書類仕事をできる人間を逃がすほど、俺は甘くない。

 

 

 

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結局、僕は補給艦と合流する予定で月近くまで一時後退してきたドゴス・ギアに収容されて、パプテマス・シロッコにとても、とても怒られた。

単独行動したことも、シャア・アズナブルを地球圏のどこかへ送ったことも。

 

宇宙に溶けかけたことに関しては、後日、時間を取って再度、身体の精密検査と訓戒の時間を設けるとまで言われた。

 

全部、全部、僕が悪いのは間違いない。それはそうなんだけど、何も艦長室でパプテマス・シロッコ直々に怒るのは…いや、僕が悪いんだけれども!艦の指揮とか士気とか時間とかを考えれば、…………まあ、パプテマス・シロッコしかいない、か。当たり前だ。

 

ギャン改-Ⅱは、僕をここでも助けてくれた。電気ショックの痕の治療だ。思ったより酷かったようだ。

パプテマス・シロッコに報告がてらに、傷を見せたら医療班が呼ばれて即時グラナダ基地送りにされた。

 

ドゴス・ギアの医療班は優しかった。痛み止めをくれた。だから、なんとか歩いている。

 

歩いて、カミーユとファさんに会いに向かえている。会いに行けている。

 

やっぱり、パプテマス・シロッコは優しい。カミーユとファさんに知らせてくれていた。グラナダ基地の宇宙港に2人がいた。アムロ大尉とゲーツ大尉も一緒だった。

 

「エグザべさん!!」

 

走ってきた2人を受け止めて抱きしめた。抱きしめることができた。生きているから。

温かい。そうだ。人は温かいんだ。

 

「カミーユ!ファさん!…ただいま。」

 

「おかえりなさい、エグザべさん。」

 

 






お話の終わりは、いつもいつでも、

めでたし!めでたし!
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