機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
ティターンズによる宇宙移民への虐待や彼らの増長を、止めることができない立場に追いやられたのだ、と感じた。
ブライト・ノアは決意する。ティターンズへの反抗を。
彼らの魔の手から逃れたい人々をテンプテーションに乗せ、サイド7を逃げ出したのはその、決意表明でもあった。
だが、この宇宙のどこに逃げられるというのだろう?
宇宙が再び争いの舞台となったことの本当の意味を誰も知らない。
結局、僕がパプテマス・シロッコが退いた真意を悟ったのは、無事、グラナダ港につき、アーガマの格納庫で水分補給をしよう、とした時だった。へとへとの体で、コクピットに常備してある水分補給用のパックに口をつけた時に悟ったのだ。
赤ん坊の泣き声がした。
リック・ディアスのコクピットから身を乗り出して確認すると、小型輸送船テンプテーションから人々が、普通の服装の人々が30人ほど降りてきていた。人々は抱き合って、互いの無事を喜んでいる。着の身着のままであろう人もいる。避難民か、サイド7からの。
その中に、母親の腕の中で泣く赤ん坊がいた。
「パプテマス・シロッコは、命に敬意を払ったのか。」
つまり、彼は、ハラスメント中に小型輸送船の中を覗いたのだろう。
僕のライフルの囮にも掛からないくらいに、目も判断力もいい。だから、小型輸送船は傷一つ負わなかったし、グラナダ港へ収容されたのを確認出来たから去って行った。
「ふたつも、みっつも読み負けてたのか、僕は。」
もう、自分が情けなかった。これを思えば、自分はとてもパプテマス・シロッコに対して失礼な事をしてしまった。
こんな、簡単なことすら分からず…
謝る機会があればいいが。彼のような自信家でありながら、優秀な人間がこんな小型輸送船を追い回すなんて。任務だったのだろうが……避難民を襲う任務。
呆れるほど嫌な、それでいて無関係の人間には楽に見られるタイプの任務だ。バスク・オムが頭を過ぎる。
それを失敗に見せかけてまで。
僕はパプテマス・シロッコの気高さを知った。
それからは、まぁ、アーガマでのデブリーフィングが待っていた。
パプテマス・シロッコは機体の名前を語らなかったから、仮称アンノウン1と呼ぶことがまず決められた。デブリーフィングで話し合われたのは、彼と彼の機体に対する対処法だ。
増員したパイロットの代表や整備士、メカニックを交えて喧々諤々と話し合ったが、結局のところ、パプテマス・シロッコとアンノウン1が、エゥーゴのリック・ディアスや百式よりも速く強い、と言う、僕の戦闘記録映像を見ればわかる結論しか出なかった。
対処法はMS複数機で取り付いてビームライフルで動きを制限させる、と言う当たり前の戦法しか出てこない。1体多で叩く、という基本の戦術だ。
おまけに、今後、僕はパプテマス・シロッコとアンノウン1が出た宙域に即時派遣されることまで決められた。経験者が必要なのだそうだ。
リック・ディアスで?そう。リック・ディアスで、だ。
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エグザベ中尉は僕に、カミーユ・ビダンにそんな事を話してくれた。訓練中ではない。エグザべ中尉の部屋で、だ。
デブリーフィングが終わるまで中尉の部屋の前で待っていた僕を、エグザベさんは部屋に入れて、椅子に座らせてくれた。
僕の顔色を見てくれたのだろう、ドアも閉めてコーヒーまで入れてくれた。苦い泥水に僕の泣きそうな顔が写っていた。
僕は先程、テンプテーションに乗ってグリーン・ノアから避難してきたファ・ユイリィと再会できて、そして、彼女の抱えている問題を相談したかったのだ。解決したかった。
解決できると思っていた!エグザべ中尉の話を聞くまでは。
「ファは恐ろしい、恐ろしい思いをしたんですよ!!」
「そう。そうだよな。」
やるせない顔をエグザベ中尉がしている。
僕だって、何となくわかる。
パプテマス・シロッコとアンノウン1に追われたテンプテーションが無傷で月までテンプテーションはたどり着いた、という、その本当の意味がわかる。エグザべ中尉に言われなくたって分かる。
でも、アーガマの皆はブライト艦長の腕を称えている。ファはさっき別れてくるまで、怖くて泣いていた!
サイド7から、いや、テンプテーションから、飛び出してアーガマに居た僕を見つけてくれたファ。幼馴染のファ・ユイリィ。
ファは恐怖と悲しみで震えて、僕は彼女を抱きとめるしかできなかった。体を震わせて泣いているファに対して、それだけしか、できなかった。
彼女は両親と共にティターンズに捕らえられ、ガンダムMk-Ⅱのパイロットであるカミーユ・ビダンへの人質となっていた。
ティターンズが、そこまでするだなんて…
僕相手に、そこまで…
ファとファの両親まで、巻き込むだなんて…
可哀想に、ファは命からがら両親に逃がされて、たった1人でテンプテーションに乗り込んだのだ。たった1人で。
「ごめんな、カミーユ。」
エグザベ中尉はそう言った。初めて聞く、泣きそうな声だった。
「僕は、薄情になっていたんだな。」
言ってほしい言葉はそうではない。僕がエグザベ中尉から、エグザベさんから聞きたい言葉はそういうことではなかった。声が喉から弾け飛びそうだった。
「本当に、ごめん。ごめんな。ファさんと言う人にも、申し訳ないと思ってる。たかが中尉には、エグザベ・オリベにはどうにも、グリーン・ノアまで手が届かないんだよ。君と託された彼女を、ここで、月で護るくらいしか、勇気ある彼らの願いを護る。それしか出来そうにない。」
助けに行ってほしいと、そう、僕が願った事は伝わっていた。切実な願いだったからか。
悲しさに身体から力が抜けていく。いま、ここで崩れ落ちてしまいたい。
「…ファが泣くと、悲しいんですよ。エグザベさん」
無理を願ってしまった。無理だと分かっていながら、願ってしまっていた。それを言わずに済んだのは、言わなくて良かった、と僕が思えたのは、きっと、エグザベ中尉は僕と一緒にファを護ってくれると分かったからだった。
僕は、子供のように大声で泣くしか出来なかった、エグザベさんの部屋で。当たり前に僕は、ようやく、自分が子供でしかない、ということを分かったのか。
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8年の時を経て地球圏に帰って来たパプテマス・シロッコにとって、不本意なことが続く。木星から地球圏に、帰ってきたはずだった。ジュピトリスを無事に地球圏まで。
与えられた任務は全て完了し、いや、それ以上の成果をだし、MSの新体系まで作り、己で作り上げた新技術さえ、組み込んでみせた。
しかし、現状は、不本意で不快でしかなかった。地球圏まで帰還したジュピトリスの艦載員に与えられるはずの当然の感謝や労いの言葉、軍規に規定されていたはずの地球での長期休暇、名誉を称える褒章、何一つ地球連邦は与えなかった。
地球連邦に予算が、資金が無いという。なんという、あり得ない、馬鹿げた言い分だろうか。あげくに、木星船団公社までもが、地球連邦軍の1派閥に過ぎないティターンズと直接資金交渉をするように、と命令を下してきた。
自分はいい。このパプテマス・シロッコの価値を真に称える事が出来るものなど、あるはずがない。自分が価値を決める側なのだ。
しかし、ジュピトリス。そして、木星。想いが合った。情が。
だからこそ、不本意で不快で下劣な品性の全く感じられない無意味で無価値の極みであろう任務でさえも請け負ってみせたのだ。
本当に、呆れるくらい、地球圏への帰還を後悔するほどの任務を早々に与えられるなど、思いもしなかった。この屈辱はジュピトリスの事を思えば耐えられるが、しかし、パプテマス・シロッコは己のプライドを激しく傷つけられていた。
私が、直々に開発したこのメッサーラでやる事が、たった一隻の小型輸送船を撃墜する事だと?!
バスク・オムに対して激しい敵意と軽蔑を感じた。名前を聞くことすら一瞬で不快になった。奴は、この私をパプテマス・シロッコを侮っている。つまり、ジュピトリスをひいては木星を侮っていると言うことだ。
更に撃墜する前に、小型輸送船を軽く覗いてみれば、中には赤ん坊が乗っている事を知った。
バスク・オム!!恥をしれ!!
小型輸送船の艦長もベテランではあるのだろうが、当たり前に焦りがある。船の動きで分かる。怯えが出るのだ。品性のある行動ではないが、舌打ちの一つもしたくなる。
救難信号を出してはいるが、怯えがある者が握る操縦桿だ。船の往来がある航路から外れてしまっている。民間人を満載にしたことが、焦りと不安を増加させたか。いや、それとも、私のメッサーラか。
ただ、怯えるだけであれば、脅し方次第で適当な航路にも戻せるが。だが、それでは、私の、パプテマス・シロッコの、この不快感をどうすればいい?こんな不本意な任務に駆り出され、失敗して帰ってきたなど、物の分からぬ輩に侮られる屈辱まで受けねばならないというのか!!
しかし、全ては私に味方した。
ティターンズから、敵MSのデータは出させてはいた。最初は渋っていたが、ティターンズも地球連邦軍の組織の一つでしかない。遠く、小型輸送船の進路に2機のMSが居た。
分かる!訓練中のガンダムMk-Ⅱとそれを指導するリック・ディアス。見れば分かるものだ。
まだこちらには気づいてないのだろうが、小型輸送船には気づいたか?ならば、私が、このパプテマス・シロッコが望むことも分かるだろう!地球圏のニュータイプ!
誘いに一瞬吹かしたバーニアにリック・ディアスが気づき、一気に距離を詰めてくる。ガンダムMk-Ⅱは小型輸送船の直掩か。良い。良い判断だ。
「私を知ったな!ニュータイプ!」
あぁ、全ての憂いも晴れそうだ。私は帰ってきた地球圏でニュータイプに出会ったのだ。
そのニュータイプ同士の戦いも長くは続けなかったのは、エグザベ・オリベの機体が彼に合っていないと感じたからだ。己に合わない機体で、私と戦われても、こいつの膝を屈させても不愉快だ。こんなところで倒しても何の意味も見出だせない。
私のメッサーラに傷をつけてみせた、エグザベ・オリベ。本来はどんな機体に乗るのだ?どの様な策を取る?私に対して。興味がわいた。
だから、退いた。
ティターンズと言うやつは愚鈍だったが、まぁ、地球連邦軍として軍人の個人情報を完全に保持していた。例え、エゥーゴに参加していようとも。
「エグザベ・オリベ。中尉。ルウムの生き残り、ジオン共和国からの義勇兵か。」
私は、お前を知ったぞ。
結局、何故ブライト艦長がわざわざサイド7から月まで来たのか、よくわからないままだった。
スレの皆にも相談しながら書いてました。
なんで、一番遠い月を目指してきたのか?その道中、パプテマス・シロッコ以外の追っ手は何故なかったのか?
小説版の内容を解説してくださる方もいたけれど、やっぱりよくわかんないなとスレのみんなも言っていました。ので、俺解釈で進みます。