機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
ギャンの開発系譜をご教示してくださったスレ民の皆様、ありがとうございました。
機体スペックは、お好きにお考え下さい。
俺では分かりません。
よろしくお願いします。
僕がやっと届いた新品のパイロットスーツの確認をしているところに、カミーユが低重力と強めの慣性に流されるように入って来た。遅れて、彼の幼なじみでガールフレンドであるファさんも入って来る。ここ、一応男性用更衣室だから、一声かけてほしいなとは思いつつも、既に慣れた風景だった。
「カミーユ、ファさん、おはよう!そんなに慌てて何かあったか?」
「何かって、有りましたよ。あるんでしょ?エグザベ中尉は僕に内緒にしてましたね?」
掴みかかられるのかと思うくらいの距離でカミーユが興味津々の顔で言う。もうバレたのか。艦長か大尉か整備士か、はたまた、昨日の補給で着任した新任か。犯人候補は数えられないくらいにいた。
「カミーユはエグザベ中尉さんの専用機が届いたって、さっき盗み聞きしたんです!」
「人聞きの悪いこと言うなよ!ファ!あの人たちの声が大きかっただけだろ。」
盗み聞きとは言うが、別に隠しているわけではない。後から、教えるつもりではいた。
「いいよ、別に隠していたわけではないからね。そもそも、ちゃんとテストしたら、君にも見せるつもりではいた。」
そう、アーガマの中では隠しようもない。ただ僕の専用機は変わり種とか特機とも言えるような使い勝手の悪さがある。ガンダム系列と比べるとそれは顕著だ。
「テストって、中尉の専用機なんですよね。なんで、テストする必要があるんです?こんな何もない宙域で。」
パイロットスーツを着込みながら、不思議そうな顔のカミーユを見た。ファさんは一応とばかりに背を向けてくれている。ありがたい。このパイロットスーツは身体にフィットするように作られている。
「カミーユにかっこ悪いところを見せたくなかったからだよ。いや、ふざけてない。」
僕がからかったと思ったのだろう、抗議の声をあげかけたカミーユを片手で制止しながら言う。整備士と打ち合わせた時間も近い。エアハッチまで移動しながら話すことにした。
「本来の機体に改造を重ね続けて、テセウスの船状態なんだ。ソフト面も。不思議と故障は起きてないが、君たちに見せるときにトチったりしたら恥ずかしいことこの上ないじゃないか。」
「型落ちなんですか?」
「いや、マグネットコーティングはされてるし、中身はリック・ディアスをブラッシュアップさせたものだ。リニアシートも。」
丁度エアハッチの窓からそれは真正面に現れた。白銀にカラーリングされた左腕に大きな盾のようなものを持った騎士の姿。金色のラインは変わらず優雅だ。
「紹介するよ、僕の愛機のギャン改-Ⅱだ。」
カミーユは早速窓に取り付いて身体と顔を動かしながら、ギャン改-Ⅱを見ていた。こちらからは見えないがおそらくキラキラした目で見ているのだろうとは、後ろ姿からもわかる。
「正面からでも分かるくらいにバーニアが大きい。武装は……左脚に装着されているのはビームライフル?盾が大きくてよくわかりませんよ、中尉。右腕のはアレは槍?ビームサーベルは付いてるんだよな?」
「カミーユ、そんなにいっぺんに聞かなくても、中尉さん時間無いのよ。」
カミーユの横にファが寄り添いながらそう言う。そう言いながらも興味津々にギャン改-Ⅱを見ているのは微笑ましい光景だった。
「左腕のは盾じゃない。片手持ちの推進機だ。右腕の武装はビームサーベルと言ってはいるが、ビームジャベリンの系統だ。」
「推進機?ドダイではなく?個別に装備を?」
カミーユが怪訝そうな顔をしているのが、窓ガラスに映って見えた。ハッチの出口に近づきながら答える。
「ゼータよりもトップスピードは早いぞ。まぁ、その分いろいろとお高いんだが。」
整備士がこっちに気づいた。カミーユとファに軽く手を振り、外へ出た。
整備士と管制室との打ち合わせが終われば、コクピットに収まる。新型のパイロットスーツとシートには互換性が必要で腰から伸びるケーブルを規定の位置に取り付けてから、火を入れることになる。久しぶりの愛機だが、作業は身体に染み付いている。コンソールを叩き、計器のチェックをする。機体にトラブルはない。推進機にもだ。
管制室にオールグリーンを告げれば、カタパルトへの進入の許可が出る。
「ギャン改-Ⅱ!エグザベ・オリベでます!」
カタパルトの急加速はまだ良い。腹に力を入れれば耐えられる。始めの頃は慣れなくてうめき声をあげたものだったが。
ギャン改-Ⅱはいい機体だと言うのも扱いづらい機体というのもどちらも本当だ。
「欲しかった速さと距離がこれで手に入る。」
ギャン改-Ⅱの左腕の推進機【通称:パンジャンドラム】を起動する。カタパルトより強くかかるGには一生慣れることはないと思いたい。シートに身体が押し付けられ、両腕も肩も後ろに引かれそうになるのをマウスピースを嵌めた歯を食いしめて耐える。トップスピードは問題なく出た。計器にも不備はない。思った通りに、僕が望んだ通りに進む。流石、僕の愛機だ。
愛機だから、こいつの欠陥はよく知っている。高機動、急加速、急制動、つまりパイロットに負荷がかかりすぎるのだ。高Gによってパイロットはブラックアウトやレッドアウトしやすい。どうかすれば、機体は制御を失って宇宙のゴミとなる。
「だが、こいつがあれば。」
速さと距離が欲しかった。
カミーユやファ、カツを狙う敵を高速で引き離し、知覚できないほどの距離で倒すために。
速さと距離が必要だった。
子供たちに人殺しさせないために。
ギャンが、愛機が必要だった。
ニュータイプさえ追いつけないほどの速さと距離が欲しかった。
ギャン改-Ⅱの急加速と急制動、それはパイロットにとって酷い負担だ。内臓が脳がシェイクされる動きも慣れなどで対応できるものでは無いと聞いている。
僕は運が良い。ギャン改-Ⅱは思い通りに動いてくれる。いや、動かせる。
昔の【パンジャンドラム】は推進機ではなく、ミサイルの内蔵された盾だったとカミーユが聞いたらどんな顔をするだろうか?そんな事を考えられるくらいには、余裕もある。
「一通りのチェックは、済んだか。アーガマ応答ください。そちらでのデータ採取の進捗は終わりましたか?」
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こんなに楽しそうなカミーユ、久しぶりに見たのかも。ファは何やら整備士の休憩室で気持ち小さくなったつもりで、カミーユを見つめていた。
「ギャンってどこの機体なんです?聞いたこともない。」
休憩室には映像データが映されていて、大半の人は低重力の中でリラックスする体勢でおもしろそうに画面を見ている。カミーユも目を離すことなく、質問をした。もう、マナーがなってないんだから。
「ジオン公国末期の名機だよ。制式には採用されなかったが。…知ってるのなら、よっぽどのマニアだな。」
整備士のアストナージさんが答えてくれた。
カタパルトに入ったエグザベ中尉の機体は白銀に金色のラインが入っていて、一目で特別とわかる。男の子なら憧れるのも分かるなぁと思える機体だった。
「左腕の盾に見えるのは推進機だ。中尉から聞いたか?そうか。通称はパンジャンドラム。前進だけじゃないぞ。左右上下への機動を補助する機能が……お、発進したか。」
「バーニアもあんなに大きいのに?」
「ああ、航続距離を伸ばすのが主目的だからな。中の推進剤の量は中々のものだぜ。ギャン改-Ⅱはパンジャンドラムを使用するために左腕左肩の構造はかなり硬くされてる。つまり可動領域も狭い。パンジャンドラムから左脚のビームライフルに装備交換するのに、かなりコツがいるらしいな。マニュアル一辺倒の整備ができない機体だ。」
「AMBACはどうなるんです?ビームライフルの射角がかなり狭くなるのは戦闘に支障をきたしますよ!」
もう、私には分からない話になってきた。画面の中の中尉のギャンはバーニアを蒸かして加速していった。白い線が画面に走る。
「ちょっと、観測カメラ追いついてないよ、何やってんの!!」
誰かが声を上げる。あの機体、すごい速いんだ。私が動かすメタスよりもどのくらい速いんだろう。
「機体に付属してきたデータ通りの動きなんだよな?」
「観測できてないぞ、なんでだ?」
「どうせ観測班が甘く見積もったんでしょ。あ、ほら追いついた。」
「あーあー、パンジャンドラムの起動まであと5秒だ。再テストかかるかもな。」
「機体の進路と速さはブリーフィング通りだ。大丈夫だろう。それより、観測班だな」
「パンジャンドラム起動した!」
ふとカミーユの声が聞こえ無いことに気づいた。あんなにはしゃいで、楽しそうにしていたのに。
画面を見つめ続けるカミーユに近づき顔を覗き込んだ。
「また、画面から消えたぞ、ブリーフィング通りなのか、これが?」
「データはちゃんと渡してますよ。」
さっきまでのカミーユとはまるで別人だった。顔を驚くほど青白くさせて、目を見開いて恐ろしいものでも見ているかのように画面から目を離せないでいた。
「カミーユ?……どうしちゃったの?カミーユ?」
「……とめて、止めてください…」
カミーユは戦慄くように、いや実際にカミーユが恐怖しているのが分かってしまった。何に?カミーユに教えてほしかった。
「止めてください!こんな、機体を止めさせて!誰か!テストの中止を!止めて!管制室に誰か連絡してくださいよ!エグザベ中尉に中止を!」
大声をあげても画面から目を離さずにいるカミーユを落ち着かせるように抱きついて休憩室のソファに押さえ込む。アストナージさんや他の整備士の人も何人か寄ってきて手伝ってくれた。
「止めないと、こんな機動、中のパイロットのことは!人が、エグザベさんが乗っているんでしょ!止めて!」
整備士の一人が軽くカミーユの肩を押さえながら声をかけてくれた。抱きついている身体の震えは、私にも伝わるくらいになっていた。
「大丈夫だよ、坊主!ブリーフィング通りの動きだ」
「慌てるようなことはないさ。付属された映像データとも大きな相違はないよ。」
そんな普段の整備士達からは聞けないような優しげな声がカミーユの恐怖を煽ったことは私でも分かった。分かっちゃった。
「これ、エグザベ中尉さんの機体って危険なもの、なんですか?専用機って言ってたのに?」
「実際、専用機だよ。見ての通り中尉には動かせてる。」
「えぇ?私にも動いてるのが見えます。」
画面の中では白い線が走っては消えるのを繰り返していた。人が白い線になる速さ。
「馬鹿、馬鹿言わないでください!貴方方は!整備士なんでしょう!分かるはずだ!あんな速さで動いたら中の人は!息だって出来なくなる!!」
そんな速さだったのも気が付かなかった。カミーユはソファに座らせられても画面を観ようとしていた。白い線はまだ走ってくれている。
「そういう機体だってエグザベ中尉からは聞いてるよ。艦長たちからも大尉からも許可の降りた機体だ。」
「そんなバカなことが、あってたまるものかよ!息ができないってことの意味、わかりますか?!?!」
「中尉はいい機体だと。新型のパイロットスーツはコクピットに接続されて、気絶したら電気ショックが走ることになっているから安全性も確保されているって言ってた。」
気絶したら電気ショックが走る??整備士さんがそう言ったのは本当なのかしら?私の聞き間違いじゃなくて?カミーユを盗み見ると青白い顔からさらに血の気が引いたようだった。
「そんな、そんな事って……そんな事したらどうなるか、分からないわけないでしょう!!あの速さでいきなり機動がブレたら、制御を失ったら!!人は!エグザベさんが、…死んでしまう!!!」
引きつった声をカミーユがあげている。私は実感がわかなかった。それはそうね。メタスで戦場に出たってだけだもの。
「あんな速さ!僕のゼータでも追いつけない!!取り返しがつかないんだぞ!!」
『一通りのチェックは済んだか。アーガマ、応答ください。そちらでのデータ採取の進捗は終わりましたか?』
どのくらい経ったんだろう。エグザベ中尉さんの声が聞こえて、休憩室には安堵の溜息が溢れた。無事で良かった。
「管制室からエグザベ中尉に着艦の許可が出たぞ。良かったな、坊主。」
「………なんで、エグザベさんはあんな機体を使うんですか?!命を捨てるような機体を!あの人はそんな人じゃ、そんな事していい人じゃないのに。」
整備士の人は誰もカミーユの問いかけに応えてくれなかった。私も知りたかったのに。
設定借りたエグザベ専用機ギャンMk-Ⅱお披露目編
この世界線がアニメになったところで、テレビの前の良い子たちには、実際こいつが戦うところはほとんどみえません。
首狩り戦法特化機体 ギャン改-Ⅱ。
敵の頭狩って、残敵を降伏させる戦法を取りますが、Zガンダムをご視聴の皆様ならお分かりの通り、あの世界では意味がありません。残念です。
コクピット降りた後?まぁ、体中青痣だらけなのでは?知らんけど。
これくらい機体盛っとけば死なんやろの精神が大事。
なお、このIF時空では「ルウムのカミーユ」がエグザべの幼馴染の女の子になります。
そのため、自分の名前が女性の名前という偏見をカミーユ・ビダン自身が捨てきれなかった世界です。カミーユ・ビダンは男らしさへの憧れと未練を抱きづつけ、それから自分の優しさと真面目さ、繊細さを女性っぽい性格だと受け入れられずに戦闘へ出続けます。
グリプス戦役までは大丈夫ですが、第一次ネオ・ジオン蜂起でエグザべ中尉は少年兵を殺せず戦死するため、この時空と設定は破棄しました。