機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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宇宙と海と ※「海獣の子供」にリスペクトをこめて

 

 

 

 

アングラード博士は驚くほど、若い男性だった。

25歳だとは聞いていた。僕より2つ年下。つまり、アムロ大尉と同じ年齢だ。こんなに若いのに、既に海に関係する研究者たちの間で彼を知らない人間はいないらしい。

 

「あなたが、宇宙からきた人?」

 

頷く。僕は宇宙生まれで宇宙育ちだ。

 

「エグザベ・オリベです。お会いできて光栄です。アングラード博士。」

 

でも、アングラード博士はいわゆる「博士」らしくはなかった。暗い亜麻色の長い髪を海風に棚引かせて、だらしなく羽織った大きめサイズの半袖のシャツもボタンさえ留めていなかった。全身に火傷の跡があるのさえ気に留めていない。隠していないから、それが分かる。

ファミリーネームすらないアングラード博士は、傍目には自由に見える。

でも、自由ではない人だ。僕は彼を見て、そう、感じた。

 

でも、アングラード博士がたった16歳でケンブリッジ大学からお呼びがかかったほどの天才だ、というヌー曹長から聞かされていたた事前情報に齟齬と不思議は感じなかった。僕がこういうことを言うと、カミュの奴は怒っただろうけれど、どこかアングラード博士はカミュに似ていた。…パプテマス・シロッコにも。

 

僕が今までに出会った、天才という言葉と違和のない人達に似ている。

 

1年戦争の直前に海洋学の博士号を得たアングラード博士は、コロニー落としの後、大規模に破壊されてしまった地球環境の観測をしている研究チームの主要メンバーを担っている、という。

 

僕に面会を申し込んできた理由も、宇宙移民に対して、特にサイド3の宇宙移民に対しての地球環境問題提議講演の打診だった。地球連邦環境対策委員会は大気汚染・土壌汚染・海洋汚染の3分野について講演会と宇宙移民との協議を行いたいという。僕、と言うよりジオン共和国としても有難い話だ。

宇宙移民の大半は地球とコロニーが繋がっていることを知らないままで生きている。知らないままで生きていけるように地球連邦政府が制度と公的機関と公的支援を整えたからだ。

 

それが、1年戦争に繋がってしまったことを思えば、大虐殺を繰り返さないためにも地球とコロニーが互いを必要としていることを強調していかなければならない。

 

「あなたは…隕石になれる人?」

 

アングラード博士は、そう言いながら、ヨットから僕のいる桟橋に飛び移ってきた。手際よく係船柱に係留用のロープを巻き付けるさまは、まるで手品のようだった。一瞬で複雑にロープが巻きつけられた。

 

「たぶん、違うと思います。」

 

そう答えたのは、直感だった。つまり、僕の思考が走ったからだ。アングラード博士に走らされた。

 

僕たちは今、サンフランシスコ港で会っている。直接の面会ができる機会がここにしかなかった。

地球のサンフランシスコ港にしか。

 

僕の故郷、ルウムの7バンチの基となった都市サンフランシスコには巨大な港があった。僕の故郷にはなかった海の港があった。

懐かしい故郷に似た街並みと、見慣れない地球の海の港が両方とも目に映る。

 

既視感と郷愁と異質感と違和感に吞まれそうな自分を感じて、油断してしまった。だから、アングラード博士の思考に飲まれるし、自分の思考が走ってしまう。

 

「隕石になれる人とは?」

 

僕は彼の言葉を繰り返していた。応えておいてなんだが、ちょっと意味が理解できていなかった。

アングラード博士は瞳がキラキラしている人なんだな。

 

「「ソレ」を確認してきてほしいって、ジムに頼まれてたんだ。」

 

「僕が隕石になれるか、どうかを?」

 

「そう。…僕のスポンサーの財団にもね。彼らは君たちに興味を持ってる。「ニュータイプ」に、ね。それでいて、確認を僕に頼むんだから、とんだ怠け者だよ。」

 

また、「ニュータイプ」か。つくづく、世界は「ニュータイプ」に呪われているな。

 

「ニュータイプが「隕石になれる人」だと?それは…」

 

僕は、違う、と言いたかった。

「ニュータイプ」は特別な人間ではない。他人や自分に振り回されているだけの、ただの人間だ。

 

僕の言葉を遮って、歯を見せて笑ったアングラード博士は僕の目を見ていた。

 

「多くの神話が宇宙と海と生命の繋がりを語っている。僕の解釈だけどね。空から落ちてきた精液が海に落ちて空へ昇る羅刹を生んだ、というインドネシアの神話がある。このシバ神の精液は隕石で……あなた、鈍いんだね。ありていに言うよ。太陽や月や空に女性器を晒すと妊娠するっていう俗信は世界中にある。空からやってきた「モノ」によって、生命が生まれる神話を知ってる?」

 

ふと、気づいた。カミュの奴と似ている瞳をしてるのか、この人は。

 

「……飛んでいる燕が産み落とした卵を飲んだ女性が、古代中国の帝を生んだ話なら。」

 

これもカミュから聞かされた話だ。あいつが集めてたちょっと変な神話の1つだった。

 

「意外と「モノシリ」なんだ、宇宙の人なのに。」

 

でも、アングラード博士はカミュとは違う。

「似ている」は結局「違う」と言うことだ。同じではない。

 

アングラード博士は、何でもないように桟橋をフラフラ歩いて近くのカフェに入っていった。僕は彼の後ろを着いていくだけだ。

僕に、いや、人間に横を歩かれるのをアングラード博士は嫌がっている。横を歩こうとすると、目で制された。多分、後ろを歩かれるのも嫌なんだろうけれど。

 

カミュは…あいつの横にはいつも、僕や友人たちが居た。

 

「マスター、コーヒー2つ!……と、ハワイとキリバス周辺の。」

 

僕が着いてきたのを確認して、博士はカフェのカウンター席に座るとマスターから変わった木製品??か何かを受け取って触り始めた。細い枝?と小指の先くらいの大きさの小さな白い貝殻の……

僕は、「ソレ」を知っていた。カミュが欲しがっていたものだったからだ。細い枝で海流を、小さい貝殻で島を表している地図だ。エンジンのない船で海を渡っていた時代の必需品だ。

もっとも、今はもっと精巧で分かりやすく紙に印刷されたものが主流だし、GPSと自動運転で事足りるけれど。

 

でも、星と海流と風の流れだけで船の進む先を決めていた時代の地図をカミュは欲しがっていた。

 

「…地図。海流の地図ですね、それ。」

 

僕の言葉を聞いて、振り返ってきた博士は深く深く笑っていた。その、目を見て分かる。

ああ、そうか。彼は笑っていないのか。ずっと、笑ってなかったのか。威嚇だ。博士にとって笑顔は威嚇の表情なんだ。

 

「隕石になれる人じゃないって言ったのはあなただよ。ミスター・オリベ。」

 

それだけ言うと、彼は手元で地図の枝を組み替え始めた。貝殻の位置を変えずに。博士は器用だ。

たぶん、現在の海流を地図に反映していってる。博士はヨットに乗っていた。きっと、実際にハワイ諸島ややキリバス諸島をヨットで旅をして、頭に海流地図を覚えてきていた。

自分の体で感じたのと同じようにヨットで感じたこと、つまり海の流れを覚えて、それを図にしていっている。

 

「財団はどうでもいい。彼らが求めているのは詰まるところは利益だ。僕の直接のスポンサーは、とある海運業の大企業なんだけど困窮している。コロニー落としの後、深海海流も永久流も季節流も変わってしまって、おまけに海はデブリだらけだ。あれから、まともな海上輸送がかなり滞ってしまっている。輸送船は修復できても、航路の修復ができていない。海上輸送が止まって、住民が植物も動物も道連れに餓死した孤島もある。海底ケーブルがズタズタにされて、あちらこちらで連絡が途絶えたままだ。絶滅した生物も、絶滅が確定した生物も多すぎる。」

 

そう。その通りだった。

僕は地球のことは何も知らないけれど、博士は僕に嘘を吐いていない。

だって、世界中が、人類の生存圏がその状態にある。

 

「博士のスポンサーをしてくれている海運業者は、宇宙で輸送業をしてくれています。宇宙でも同じです。既存の航宙路は宇宙デブリに妨げられたままです。戦前よりも輸送費が大幅に上がっています。」

 

アクシズ戦争の後、博士のスポンサーの大企業や財団はジオン共和国の輸送業を担ってくれた。輸送船全てを戦争で使い切った共和国の企業を吸収して輸送船の貸与や雇用までしてくれた。おかげで、共和国と共和国民は生きて居られる。その、アングラード博士のスポンサー企業が僕と博士を繋いだ。

 

博士には不本意なことだったのだろうけれど。

 

「僕にとって、そんなことはどうでもいいんだ。勝手にやればいい。……ミスター・オリベ、視力、どれくらいある?」

 

「10です。本当はもっと上の可能性がありますけど。」

 

「ああ、そうなんだ。指を目に近づけてみて。どのくらい近くまではっきり指紋が見える?」

 

目が良いのは僕の自慢の1つだ。まあ、MSのパイロットには必要な能力だ。視野の広さも動体視力の良さも。

 

「瞳に指が触る直前くらいまで、ですね。」

 

言われるままやってみて初めて知った。自分の身体なのにまだ知らないことがあるんだな。

 

「僕も、大体同じくらいかな。…裸眼でも水中の物が良く視えるよ、きっとあなたも。僕と同じに……いや、あなたは僕らと違うね。」

 

地図とコーヒーを交換して、博士は僕にコーヒーを渡してくれた。ヌー曹長に言われたから僕は飲食できないんだけれど、マスターと博士に感謝して受け取った。

最悪の場合、解毒も検出もできない毒を使われる可能性がある、とまで言われている。地球も一枚岩ではないからだ。

彼のスポンサーとジオン共和国は悪い関係ではない。なんせ共和国内の輸送業を担ってくれている。それはつまり、もしかするとジオニズム主義者と繋がっている可能性もある、ということだ。

 

今の共和国政権は共和国軍に友好的な政権だ。だけど当然、共和国も一枚岩ではない。まだまだ残党はのさばっている。

 

「ニュータイプ…のことですか?」

 

「違うね。あなた、本当に鈍い人なんだ。そんなに鈍いのに、僕らと同じ性質を持っている。きっと水中視力も良いだろうし、言語に因らない世界も見ているし、人間社会には馴染めない。なのに、違う。似ているだけ。……似ていることには意味がある。」

 

アングラード博士はコーヒーに少しだけコーヒーに口を付けて、今度はカフェのマスターにサンドイッチを注文した。

僕の方はもう見ていない。

 

「違うから、似ているんです、アングラード博士。」

 

「そう、違う。でも、似る。別々のモノが似た性質を必要とするのは同じ環境にあるから。似てしまうことには意味がある。」

 

そして、僕のことを気にも留めずに思考を走らせている。そうか、この人も思考が走る人か。

 

相変わらず、僕は鈍いな。

コーヒーに映った僕は歪んで、哂っているようにも見える。

 

「似ていることに着目する?違うことに着目する?そもそも、僕らのこれは「NEW」じゃない。人間の、あるいは動物の古い性質だ。大脳辺縁系の帯状回や扁桃体が強く作用する性質。それが宇宙でも必要となった?大脳辺縁系と前頭葉は対立する関係ではない。本能と理性は相反するものではない。むしろ、強く関連している。当たり前だ。どちらも同じ体の一部……必要となったから大脳辺縁系が発達しだした?それとも、たまたま生まれた先祖返りが「NEW」と見做された?…陸の生物にとって海と宇宙は似ている環境だから。」

 

分からないわけではない。これも、カミュが知っていた。

なんでだろう?カミュは地球も宇宙も知りたがっていた。人間も人間でないものも、全部を知りたがっていた。言語の世界も言語に因らない世界も、見ていた。

 

「昔、ニホンでは宇宙を「うみ」と呼んでいたそうですね。」

 

その感覚は否定したくなかった。宇宙を「うみ」と言いたくなる感覚は。

実際、地球の海運業者は宇宙での輸送業も兼業している。

 

「そう、僕らは海のことも海で起こるほとんどの事象も知らないし、分からない。暗黒物質で満たされた宇宙と同じに。」

 

マスターから渡されたサンドイッチを一口齧って、アングラード博士はその断面を見た。

ハムとチーズとレタスだけの簡単なサンドイッチだ。

 

「銀河の分布図。その立体地図はこのパンと同じだ。いくつもの泡が重なったパンの切り口と似ている。人間の海馬の神経細胞層も似ている。……宇宙と人間が似ている。生物も地球も、宇宙というシステムの1つ。それなら、地球の外からやってきて決定的に地球環境に影響を与える隕石の役割は?」

 

「地球に変化をもたらす人が隕石になれる人?」

 

「いい意味でも悪い意味でも、ね。恐竜は隕石によって絶滅したって説がある。原始の地球も隕石から受けた影響は大きい。コロニー落としもそうだよ。これから、50年、100年先まで現在の生態系が保てるかどうか。全生物の絶滅もありうる。動植物、細菌、微生物まで含めてね。……新しい生物が誕生する機会になるか、ならないか。」

 

「僕は、隕石にはなりませんし、なれません。僕の友人たちも。人類の生存圏の維持と拡大のために地球環境の安定が必要です。乳児が母乳を必要とするように。宇宙に進出した、と言えば聞こえはいいですけど、人類はまだ地球という子宮から離れただけで地球を離れて生きていくことはできない。」

 

「そう。なら、ジムにも財団にも、そう、伝えるよ。」

 

アングラード博士はサンドイッチもコーヒーも完食して、席を立った。

 

「それに、僕と友人は火星のテラフォーミングを計画しているんです。1000年かけて地球を繁殖させようと。僕らが隕石になるとしたら、それは火星に対してでしょうね。」

 

僕の、口もつけてないコーヒーを取り上げて、面白くもなさそうな無表情でアングラード博士は僕を見下ろした。

笑っていないのが答えだった。

 

「勝手にやればいい。僕は宇宙に上がれないし、あなたたちともこれ以上繋がりを持たない。…話してて思ったんだけど、僕は予想していたよりあなたが嫌いみたいだ。では、お元気で。」

 

アングラード博士の言葉は本心だ。博士の拒否感を分かってしまう。言語に因らない世界は便利なようでいて曖昧で不確実だ。だから、人間は言語を作った。必要だったから。

 

博士が笑顔で威嚇しなかった、と言うことは敵対しない意思表示なんだろうけど。僕は鈍い自覚があるし、できれば言葉で確かめたかったな。

 

しかし、博士は僕を振り向くことなく、カフェから出ていった。

食事代は僕がまとめて払う。まあ、僕の方が年上だし…

 

カフェの出入り口には、ヌー曹長と憲兵隊が待っていた。

 

「いかがでしたかね?地球のニュータイプってね、いわれてる方は?」

 

僕が聞かされていない、アングラード博士の情報だ。アングラード博士が地球のニュータイプと言われている?

サプライズのつもりじゃないだろうな?ヌー曹長はまったく。

 

「アングラード博士は古い生物の性質だ、と言ってた。僕も同じ意見だよ。僕らは「NEW」じゃない。…きっと誰かの理想に似ていただけだ。」

 

「似ている、は違うから、でしたかね?」

 

そう。僕らはニュータイプとは違う。ダイクンのニュータイプとも、赤い巨人の理想とも。誰かの理想ではないし、そんなものに成れはしない。

 

「でも、そこに意味がある、と博士は考えている。実際、例の『中の彼』は「新しい可能性」だと思い込んでいたから、誤作動を起こしたんだ。」

 

そう、木星の赤い巨人の中にいた彼は言語に因らない世界を全人類が共有する時代を夢見ていた。そこに「解脱」とか「涅槃」のような概念の実現がある、と信仰していた。

全ての生物がそこに至らなければ、過去も未来も救われない、報われないと、信じていた。

 

そんなことを信じてしまうのは、言語のない世界を持っている数多の動物や植物たちを知らないからだ。彼は生きていた時代、人間が生物の霊長だと無邪気に信じていたんだろう。

 

生物は人間だけじゃないのに。

 

「アングラード博士は僕とも似ている、とは思う。直感と思考に振り回されているところが似てるよ。でも、僕と違って、博士はそれを肯定的に捉えているんだろうな。だから、人間社会の不自由さに辟易している。…そうだね、ヌー曹長。例えていうなら、未知の情報を前にした曹長にも似てるよ。パプテマス・シロッコとは相性が悪そうだ。カミーユとは……無理か。ゲーツ大尉とアムロ大尉は真面目だから、博士に煙に巻かれるだけだろうね。彼の知恵や見解を知りたいのなら……アドル少尉とか僕の部隊のエリフ中尉のような素直で他人の話に耳を傾ける人物が良い。博士、あれでいて喋りたがりなんだ。気の合う人になら、色々教えてくれるよ。」

 

「ご協力、感謝しますよ、エグザベ大尉。アングラード博士はアレでいてね、地球環境の研究チームの代表的存在なんですよ。今一部の学会は博士が白と言えばね、カラスも白くなるって塩梅でしてね。あちらこちらに敵も味方も多いんでね、出来れば早いうちに政府の協力者になってほしいんですよ、俺ら情報部としてもね。」

 

相も変わらず調子のいいことを言うヌー曹長だ。考えたのは連邦軍の上層部か、連邦政府の官僚辺りなんだろうけれど、自分勝手なことだ。

地球環境に関連する研究結果を連邦政府にとって都合のいいものに誘導したいのか。それとも、政府の方針に合わせて論文の発表でもしてほしいのかな。

 

まあ、連邦政府にとっては必要な事か。それはアングラード博士にとって不自由で不本意な事だろうけれど。

 

「アングラード博士の頭の中にある海流の地図なら、研究の費用を支援すれば融通してくれるだろうね。」

 

「……大尉のそう言うところはね、アングラード博士のおっしゃる通りですよね。こっちが欲しいのはね、ニュータイプ幻想の否定なんですよ。博士がさっきおっしゃった通りに、「NEW」ではないってね、あちらこちらで言って回ってもらえればそれで十分なんですよね。敵も味方も多い博士の発言はね、無視されがたいんですよ。」

 

「博士の身の安全には気を配って上げてほしい。博士の全身の火傷の跡、あれを治療せずに残したままにしているのは牽制とか威嚇の一種だ。一定以上に踏み込まれることを嫌う人だよ、アングラード博士は。僕がしているような広告塔には向いていない。他の宛を探した方が良い。」

 

博士の全身の火傷の跡は、古いものも新しいものもあった。襲撃を何度も受けて、そのたびに生き延びて見せた、と物語ってもいた。

 

「政府の保護下に入ってもらった方がね、博士にとっても利益があるでしょうよ。まあ、そのあたりはね、引継ぎする部隊に情報共有しておきます。アングラード博士の気を惹ける人間って言うのが世界に少なすぎるのがね、難点ですよ。」

 

「僕は嫌われたけれど…」

 

アングラード博士と僕が話していた時間はほんの30分にも満たなかったのに嫌われてしまった。思考が走る者同士でもそういうことがあるんだ、と僕は初めて知った。

また僕は、世界には僕が知らないことがあるのだ、と分からされた。

 

「以前にアングラード博士と喧嘩になった学会の権威者はね、荷物にジュゴンの糞を詰められてますよ。そういう博士の逸話を総合して考えますとね、嫌いだけれど無害って判定になったってところでしょうね、エグザベ大尉に関しては。」

 

博士にとっても害がないなら、僕はやっぱり隕石にはなれないな。何の影響力も持てない、ただの通りすがりなんだろう。でも、博士はそれを許せる人だ。

 

「世界に自分が嫌いなモノがあっても構わない、ということか。まあ、分からない、ではないかな。違うモノがあるから、生態系なんだし。」

 

「そういう、大尉の直感による見立ては今のところ外れたことないんでね。頼りにしてますよ。」

 

「そういうのを止めるのが君とアマンダの目標じゃなかったっけ?」

 

ニュータイプ幻想を幻想で終わらせるというのが、当面のハマーンの目標だ。そのために、彼女は政治の世界に踏み込む覚悟をした。僕は止めたけれど当たり前に無視された。まあ、仕方ないか。

せめて、できる限り、彼女の力に成れるように努めよう。

 

「それはそれ、これはこれ、ですね。便利なものは使いますよね。誰だってね、そうするんですから、俺だってそうするんですよね。大尉の直感はただの取っ掛かりですよ、取っ掛かり。後は正攻法で取引するんでね、問題ないです。」

 

ヌー曹長は気楽にそう言うけれど、問題ないのかどうか。僕には分かりはしない。本当に役に立っているかどうかも分からない。世界は知らないことだらけだし、他人は当たり前に僕とは違う。

 

違うことに意味がある。似ていることにも意味がある。

アングラード博士は僕を嫌ったけれど、そう、教えてくれた。

その意味が分かるようになるまで、どれくらいかかるだろうか。大した意味なんかないかもしれない。

でも。

 

「幻想を生きるよりいいか。」

 

思考が走る世界よりも、僕は現実の世界を選んだんだから。




リハビリに書いた小噺

「うちゅうとうみと」
「そらとうみと」
「うみとうみと」
いろんな読み方ができます。浪漫があるね!

五十嵐大介先生の作品「海獣の子供」漫画とのクロスオーバーです。

俺としては、弊SSのアングラード博士の見解と同じように、いわゆるニュータイプ、特にカミーユ・ビダンは古い生物の性質が強く出ているんじゃないかな?と思ってます。
感情とエゴを重視する世界って、行きつく先は野獣の世界では?(※野獣先輩ではない)

でも、感情とエゴをすべて無視してもね、人間は生物なんで上手くいかないんです。上手に両立させないとね。

難しい。
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