機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
繁殖する地球
12月が始まる前にアドベントキャンドルを用意するのは、両親から教わって、僕が覚えているクリスマス行事の1つだ。
故郷のルウムで、宇宙のコロニーでも僕たち家族が続けていた貴重な宗教行事だ。
もちろん、本当の蠟燭じゃない。LEDライトだ。
そのライトは毎年、買い換えていた。買い換えることが大事だと、僕は両親に教わった。
毎年11月の半ばには4本のキャンドル型ライトを家族で買いに行った。テーブルの上へ、それをクーゲルという飾り玉を輪っかの形にしたものの上に置いて飾るのは母と僕の仕事だった。クーゲルも毎年新しいものを選んでいた。ガラス玉にしたときはライトが反射して眩しかったのを覚えている。
クリスマス前の日曜日のディナーは必ず家族全員揃ってから、だった。4週間かけて、夕飯前の祈りの時に1つずつ明かりを灯した。キャンドル型ライトの明かりだけで、僕ら家族は夕飯を食べた。懐かしいクリスマス。
本物の蝋を、僕は見たことが無い。多分、僕の両親も見たことなんかなかっただろう。
宇宙では酸素は貴重だ。コロニーで火を見る機会は、事故か事件か。
17歳になるまで僕は、火を見たことはなかった。
自分で、アドベントキャンドルに火を灯したのは、今が初めての経験だった。
パプテマス・シロッコが送ってくれた、ハイファン少佐謹製の小さなラベンダー色の蝋燭セットだ。本物の蝋だ。
火を美しい、と初めて思った。
ラベンダーの香りまで、した。
そう、去年のクリスマスだ。僕はそのアドベントキャンドルの話を、パプテマス・シロッコとヤザンにした。そういえば、あの時はハイファン少佐もいたっけ。
去年はアドベントキャンドルを買い損なっていたからだ。そして、とうとう買えなかった。
僕は、カミーユとファにも会えないし、両親との思い出にも浸れないし、忙しいし、で、自分でもどうか?と思うくらいに落ち込んでいた。
宇宙世紀になっても、人々はクリスマスを祝う。教会で洗礼を受けたこともないのに。もちろん、僕も洗礼を受けていない。故郷のルウムには教会が無かった。
でも、僕にとって、クリスマスは大事な思い出だった。両親との思い出。カミュとの思い出もたくさんあった。クラスメイトの皆ともカードやプレゼントを交換していた。
今は戦友たちや部下たち、親友、友人たちとの思い出もある。
僕にとって、クリスマスは大切にしたい行事だ。静かに、家族や友人たちと思い出や優しさを温めあっていたい大切な……。
しかし、去年のクリスマス、僕らは仕事だった。つまり、クリスマスにもかかわらずテロリスト鎮圧作戦を、地球連邦軍『ヴェルザンディ』とジオン共和国軍『ギャン部隊』は共同で行っていた。
アドベントキャンドルさえ買えなかった理由がテロだった。落ち込みもする。
テロリスト、つまりジオニズム主義者は伝統の宗教行事に対してでさえ敬意を払わないのが普通だ。宗教に関係する全ての行事、あるいは伝統、デザインでさえ駆逐すべきもの、と考えてもいる。他者への、過去の人類への敬意が欠片もない。
だから、よりにもよって首都ズムシティに、あんな、旧公王庁みたいなデザインの建築物を造ってもしまうのだ。
サイド2コロニー『ゼウス』で大規模養蜂の実験を行う、とパプテマス・シロッコから聞いたのは今年の初めだったか。テロリスト鎮圧作戦の後始末をしていた時だ。休憩時間に聞いた。
パプテマス・シロッコの副官ハイファン少佐が主導している計画だという。
「蜂?本物の昆虫の蜂?既存の農業ブロックでは受粉用ロボを使ってるんじゃなかったっけ?小学生の頃、社会見学で行ったことがあるよ。」
それを聞いた時、僕は疑問をそのままパプテマス・シロッコに尋ねた。養蜂は難しい、と教えられた。コロニーにも農業ブロックにも季節というものが無いからだ。
蜂蜜は地球でしか採取できない、高級な珍味の1つだ。
「高級果物を、特にベリー系とグレープを手始めに育てたいらしい。宇宙移民の富裕層向けに。ゆくゆくは火星に森林を、と。ハイファンは見た目通り、ロマンチストだろう?」
「そういえば、彼のサイン、イタリック体だったね。彼に似合ってる。…火星に森林、か。」
「1,000年は先の話だ。」
パプテマス・シロッコはそう言って笑うが、僕も同じ気持ちだった。
「火星の森林か。見てみたいよ、僕も。」
「悪くはないだろう?」
「火星の植物種子貯蔵庫か。いや、動植物貯蔵庫?」
1年戦争前、地球にもコロニーにも植物種子貯蔵庫があった。故郷ルウムにはコロニー最大の貯蔵庫があった。
地球にあった植物種子貯蔵庫も、だいぶ被害を受けた。人類の、いや、地球の財産が消えてしまうところだった。
消滅しなかった理由は単純だった。地上へ侵攻したジオン公国軍は、植物の種子に金銭的価値を見出さなかった。彼らに無価値とされ捨て置かれたから、植物種子貯蔵庫は無事だった。燃えてしまった貯蔵庫もあったけれど。それでも、美術館なんかより、ずっと無事だった。
ジオン公国軍人に教養がなかったことが、植物種子を守った。皮肉なことに。
「永続的に人類が存続し発展するには、地球と同じ環境が必要となる。宇宙移民から地球環境を引き離し過ぎた。人工の中に閉じ込めすぎた反省は生かさねばなるまい。」
パプテマス・シロッコの言う通りだった。
「火星の森林は木の集まりじゃなくて、生命の宿る所になるのか。コロニーにあるツクリモノではなく。…人に良いものも悪いものも全てを火星の森林では育む?」
「地球を広げるともあれば、そうせねばなるまい。エグザべ、お前と地球へ降りた私にはそう、思えた。コロニーは人類にとって快適すぎたな。」
僕とパプテマス・シロッコが地球に降りたのは、やはりテロリストのためだった。地球上で活動している彼らを宇宙と地上で挟み撃ちにできないか、検討するために僕とパプテマス・シロッコは地球の北米モントリオールに降りた。
僕は生まれて初めて、雪景色というものを体感した。パプテマス・シロッコも、だ。
つまり、そう。寒さで死ぬ、が真実、ありうることであると分かったのだ。
「コロニーを作るまでに、多くの犠牲と血と汗を払った。それを思えば、僕らも快適さを優先してくれた先人には感謝と敬意をはらえるけれど、ね。…快適なだけでは、未来を想う力さえ育むことができなかった。」
1年戦争。10年以上経っても地上と宇宙のデブリ撤去は終わらない。100年以上かかるだろう。深海に落ちてしまったデブリは、人類には回収できないかもしれない。
戦争の後片付けだけを、未来に残していくことはできはしなかった。
宇宙開発期における悲惨な記憶や過激思想だけを、子供たちに押し付けたことがジオン公国の虐殺行為につながったからだ。
希望が、人類に発展の方向を示せるものが必要だった。
「地球が繁殖する?」
そう、口に出してしまえば愉快な気分だった。そう、宇宙に地球が増える。人類を使って、地球は宇宙で繁殖する。
人類の故郷が、広がる。
「小麦やブドウ。或いはハイファンの蜂のように。」
1,000年より先、そう、1万年、10万年後。宇宙のどこか遠くに地球の子孫が産まれる。そこでも、きっと人類は命を育み愛し合うのだろう。
もしかすると、別の地球同士で殺し合うかもしれない。
宇宙は、こんなに広いのに。
だけど、地球で育まれた人類だ。別の地球同士だとしても、故郷の形が同じならば、共有できる「ナニカ」があるのならば。
希望を抱いて、人は生きていけるだろう。
アドベントキャンドルの美しい火は、そう囁いてくれた。
植物種子貯蔵庫とクリスマス。
え?コレ書くのに2日もかかった。筆が進まない。
火星テラフォーミング計画?予算が無い?
時間かけて予算積み立てればいい。あるいは前借すれば?(無責任感)
地元が無理、人類が無理って人も、地球か宇宙のどこかに行けば住みやすい土地とか見つかるんじゃないですかね、知らんけど。
その場を守るのも大事、新天地を作るのも大事。
焚火をした思い出ってずっと記憶に残る。
俺だけがそうかもしれないけど、火に関係する記憶って残りやすいと思う。例えば、そう。焼き芋を炭に変えた思い出とか、灯油かけても燃えない葉っぱとか。