機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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「あ、紅茶がない。後で、スーパーで買ってこないと。」

「コーヒーなら、俺の家にあるぜ。」

「僕、コーヒー飲んだことないし、淹れたこともないよ、カミュ。」

「まあ、何事も試し、だ。特別に、俺が淹れてやるよ。お前がホットケーキ焼いてくれたら、な。」

「別にそれくらいなら、何枚でも焼くけど。コーヒー飲めるの?カミュは。」

「飲んだことない。だから、試し、だ。駄目だったら、お前のホットケーキで誤魔化せばいい。」

「冷蔵庫にミルクあったから、それでも誤魔化せるかな。」

「いいアイデアだ。イケるイケる!砂糖も入れれば完璧だろ?」

「そうだね、完璧だ!で?カミュはコーヒーの淹れ方分かるの?」

「母さんが毎朝、淹れてるから知ってる。見て覚えたし、本でも読んだ。だから完璧にできる。」


僕が人生で、最初に飲んだコーヒーの味は……カミュと2人して大笑いするくらいに苦かった。11歳の、僕の誕生日の朝の思い出だ。




コーヒーと紅茶と家族の時間

 

 

 

コーヒーが好きなのかと、よく同僚に訊かれることがある。看護師にも事務員にも。そんなこと言われても、ちょっと答えに困る質問だった。僕、カミーユ・ビダンにとっては。

 

「好きとか嫌いとか、考えたこともありませんよ。」

 

「でも、いつもデスクにコーヒー置いてるよね。給湯室にはティーパックも置いてあるのに。」

 

僕のコーヒーカップをじーっと見ながら、言ってくるのは同じ外科医のリョウジュン・マツモト先生だ。僕の面倒をよく見てくれる頼りになる先輩だ。

 

彼は紅茶党というより、紅茶狂で紅茶警察な困った所があるから、僕を紅茶の世界に誘いたいのだろう。この前も新しい紅茶専門店を見つけたと言ってフォン・ブラウン市まで出向いていた。

給湯室に置いてあるティーパックはその時のリョウジュン先生からのお土産だ。

 

ここ数年、軍病院でも、こうやって嗜好品を楽しむ余裕が出てきた。本物の紅茶とコーヒーが手に入るようになってきた。

 

「紅茶も、飲まないわけではないですよ。知ってますよね?ただ、仕事中はコーヒーって気分なんです。」

 

コーヒーはそう、仕事の時に飲む飲み物だ。僕はそう思っている。

 

「仕事中こそ、紅茶の香りでリラックスするべきだと思うんだ。ここはコーヒー野郎が多すぎる。」

 

そう言いながら、リョウジュン先生は顔に近づけた紅茶カップから息を吸った。香りを楽しんでいるのだと、前に聞いた。

僕のコーヒーの香りも混じっているんじゃないだろうか?そういうところは働かない紅茶警察で、僕も皆も助かっている。

 

「昔、飲ませてもらったコーヒーは酷い味でした。おいしくはないよって、言われても好奇心で。香りも、こんないい匂いはしませんでしたね。味なんか、泥水みたいで、口と鼻から吐きそうになるのを堪えて飲み込みました。大人ぶってみたんです。本物のコーヒーがこんなにおいしいとか、あの頃は思ってもみなかった。」

 

「せっかく、紅茶を楽しんでいる時に。まあ、昔の安物コーヒーなんてそんなもんだよ。カフェインタブレットで我慢できない連中用に香料と化学調味料の組み合わせで作られた偽物だ。或いはタンポポ茶とか大麦茶とかチコリとか…そんな時代もあったっけな。」

 

そう、そんな化学調味料の偽物コーヒーを、インスタント泥水をエグザべさんはいつも飲んでいた。書類仕事をしないといけないときは、いつもデスクの脇に置いていた。僕の第2の部屋はいつもコーヒーの香りがしていた。

 

「紅茶は、外で、おしゃれなカフェとかピクニックで飲む飲み物だと思ってたそうなんです、僕の家族は。だから、僕も仕事場ではコーヒーしか飲みませんよ。」

 

本当は違うけれど、話すと長くなるしメンドクサイし、何より、言いふらしたいわけでもないから僕は大体こう、答えることにしている。特にリョウジュン先生は紅茶狂いだし。

 

僕の家族、エグザベさんにとって、紅茶は親愛の味だ。家族や友人たちとリラックスできるときにしか飲まない、特別な飲み物だ。それを教えてくれたのはそう、ファの誕生日の時だった。まだ僕たちがアーガマに居た時だ。

こういうお祝いの時は紅茶が一番良い、と笑って言ってた。それまで、僕はエグザベさんはコーヒー党だと思い込んでいたのに。あの人は、本当にもう。

 

「馬鹿な!!紅茶を屋外で?どうやって正しく淹れるつもりだ?汲みたての水の準備やお湯の温度管理も出来やしないのに?」

 

そうだった。口うるさい紅茶警察は水の管理からお湯の温度、ポットやカップの温度管理まで五月蠅かったんだった。

これさえなければなぁ、本当に何でも頼れる良い先輩なのに。

軟水か硬水か、まで口うるさいもんだから、余計に紅茶が淹れ辛い。

 

「別に、そこまでしなくても…いえ、今は充電式のポットとかあるんですから。別にいいでしょう。だって、コーヒーも紅茶も、偽物を飲まなくて、よくなってきているんですから。」

 

「まあ、うん。そうだね。本物の紅茶をまた楽しめるなんて。10年前にはとても考えられなかった。俺の墓にはチャノキを植えるように遺言してたんだから。」

 

真実、リョウジュン先生は紅茶狂だ。チャノキを植えてもらったとして、その後どうするつもりだったんだか?お墓に植えた茶の葉から紅茶を作ってもらったとして、誰が飲むんだか?

 

「ビダン先生も明日、休日だろ?紅茶飲みに行かない?君のご家族も一緒にさ。ピクニックで紅茶って言うのも悪くないって思ったから。」

 

「明日は嫌です。家族がグラナダに帰ってくるので。」

 

エグザべさんを宇宙港まで迎えに行く許可は出なかったが、休日を一緒に家で過ごす許可は当然の権利として、もぎ取った。家族なんだから当たり前だ。愛息子2人もファもエグザべさんの帰りを楽しみに待っている。

 

「ああ、そう。それなら仕方ない。俺も、娘が紅茶に付き合ってくれたらなぁ。」

 

「反抗期で付き合ってくれないって、本当ですか?聞かされているこっちは、今から戦々恐々ですよ。」

 

リョウジュン先生の娘は、今、絶賛反抗期らしい。

顔を見るたびに舌打ちをされると相談されたときは眩暈がした。僕だったら耐えられなくて泣いてしまう。

 

「覚悟を、今から覚悟を決めるんだ。ビダン先生。反抗期は必ず、必ずやってくる。いや、子供の成長過程に、反抗期は必要なんだ。必要な試練だ。我々、親という生物は、それに耐えねばならない。子供が、大人になり、社会の一員になるために必要な成長過程なんだ。我が子が人道に背きさえしなければいい。そのためには親の我々は踏み台になろう。それくらいの心構えで臨まなければ耐えられない。」

 

そう言って、リョウジュン先生は、涙さえ流した。

 

ぞっとする。まさか、僕の可愛い愛しい息子2人が?人道を踏み外すかもしれないなんて、恐ろしい想像をしなければならないんだ!!あんなに可愛いのに?!

僕の一張羅のスーツで手に着いたケチャップを隠れてぬぐってる姿も可愛い愛しい息子たちが?!

 

ファとエグザべさんに相談しよう。ええと、後、誰に相談すればいいかな?

ハマーンさんとマイネとセーラは最近、僕が愛息子達の話をしだすと急用を思い出すようになってしまった。マシューは、MSの話に挿げ替えてくるようになった。サラとシドレ?論外だ。シドレは相変わらず旦那さんと娘の話とサラの恋愛の話しかしないし、サラはサラでパプテマス少将攻略の話しかしない。アムロ大尉は独身だけど、今はお付き合いしている女性が居るみたいだから、こんな結婚に不安を抱かせるような話は、僕はしたくない。

ブライト艦長に訊いてみるかな?ハサウェイ君もチェーミンちゃんも、もう反抗期を終えた年齢だよな。ああ、でも、2人とも一般的な生活をしていたかというと……

 

「ビダン先生、子供はいずれ巣立っていく物なのだよ。」

 

リョウジュン先生はそう言うけれど、僕たちは人間であって鳥類じゃないんだ。反抗期や自立は僕だって、我慢、いや、試練と思って耐えるけれど、断絶にはしたくない。

 

僕は家族が一番大事なんだ。何よりも、宇宙よりも。

 

そう、思っていい時代に、家族を大事にしていい時代に、僕は生きている。

 

カミーユ・ビダンは家族と、生きている。

 

 





時系列的には弊SS終了から7~8年後くらい。


戦艦の中での誕生日祝いについては
ガンダム初心者のミリオタ さんの (Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝の3話「Bon appétit」からお借りしました。すみません。

弊SSのカミーユ君は軍大学時代にファと出来ちゃった結婚(古)してます。(裏設定)
息子は4歳と1歳かな?多分、それくらい。息子のイヤイヤ期はすぐだな、カミーユ。心の覚悟の準備はできてるか?

まあ、カミーユ君の場合、あまりに家庭環境が酷すぎた&出会った大人たちが全員正気じゃなかった、のでカミーユ君の反抗期時代の経験は何の参考にもならない。
弊SSのカミーユ君はそれが分かっているので、息子たちのまだ来ぬ反抗期に戦々恐々している。

大丈夫だ、君の愛息子2人の周りの大人も友人たちも皆正気だよ。
君の息子2人もちゃんとパパ大好きっこだよ。カミーユ君が家のお外で赤ちゃん扱いしなければ。

リョウジュン先生は、娘さん育てた時代が戦中戦後の混乱期だったから……そのうち落ち着くよ。うん。
なお、リョウジュン先生の奥方は1年戦争の影響で産後の肥立ちが悪くて亡くなられてるという裏設定があります。医薬品と人手が不足していて間に合わなかった。
娘さんの反抗期が割ときついのはそれもある。男手一つで育てて来た。
リョウジュン先生は医者として奥さんを助けられなかったという負い目が娘に対してある。まあ、娘さんも内科医目指してるから、時間が解決してくれる。はず。

誰にとっても1年戦争の傷って深いもの。
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