機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
僕の初恋…それは、7歳の時だ。9年前だ。
今でも覚えているし、忘れられない。忘れさせてくれない。
目の前の女の子、同級生のシルヴィア・コルデーは、僕からそれを聞き出すと友人たちまで手招きして、
「どんな子?」
とだけ、言った。
シルヴィアはいつだって長い髪を見せびらかすように、右手や頭を使って揺らして話す。金髪が似合っていて綺麗だ。彼女の栗色の瞳はいつもキラキラしてる。
シルヴィアの友人は皆、長い金髪にしていた。お揃いがクラスの流行だからだ。来月には皆、赤髪にでもなっているかもしれない。でも、きっとシルヴィアが一番似合ってて美人なのは変わらない。
放課後、教室に残っていたのは別にシルヴィアのためじゃなかった。彼女の、僕の恋への関心を引くためじゃなかった。
チェーミンに頼まれたからだ。妹は今日、ジュニアハイスクールで吹奏楽部の入部テストを受けるらしい。僕には関係ないのに、アコーディオンを持って帰ることになったら、つまりテストに落ちたら1人で家まで持って帰るのが大変だから手伝ってほしい、と頼まれた。
落ちたときに慰めてほしいのなら、そう言えば良いじゃないか。いつも生意気なチェーミンが、軽く下唇を噛みながら頼んできたから僕も断れなかった。
それで、教室で時間つぶしに宿題をしていたら、麗しのシルヴィア・コルデーに話しかけられたのだ。彼女達、いつも恋愛と化粧の話で盛り上がっている。
おおかた、自分たちの恋愛話が尽きちゃったんだろうな。僕には嬉しいことだけど。
「ね、どんな子?」
僕にもう一度、シルヴィアが言う。
「7歳くらいの時の話だよ。面白くないかも。」
「いいよぉ!初恋の話って、いつでも素敵だもん。」
シルヴィアの友人のクドゥがニコニコ言う。
シルヴィアから聞きたかったな、と思いつつも僕も応えることにした。クドゥも悪い子じゃない。誰とでも話せるし、優しい子だ。
「名前も知らないんだ。話したことも無かったよ。亜麻色の髪の可愛い女の子だった。父の仕事関係の人の娘さんで……」
そう、グラナダ港のアーガマで彼女とはあった。彼女の名前は父も母も教えてくれなかった。ただ、両親とも見かけたら、彼女のお母さんに挨拶はしていた。彼女のお母さんは明るいピンク色の髪を軽く結んだ強い瞳の人だった。
当時、父は酷く体を壊していて戦艦内でもよく倒れていた。僕たち家族は何度か、戦艦内にお見舞いに行っていた。
母は父へ入院を勧めていたけれど、それができない事情が父にはあったらしい。父は僕らを、僕とチェーミンを泣きながら抱きしめて何度も、大好きだ、愛してる、と言ってくれていた。
僕は嬉しかった。もう、7歳で、チェーミンのお兄さんなのに、お母さんもチェーミンも守らないといけないのに、父に抱きしめられて本当に嬉しくて。だって、久しぶりだったんだ。会うのも、抱きしめられるのも。
父の体調が良ければ、抱っこしてもらって戦艦内を散歩してもらった。
そういうことをしている時だ。彼女に会ったのは。思えば、どうして彼女がアーガマに居たのか分からないままだ。
初めて会った時、彼女は白いドレスを着ていた。僕にはドレスの良し悪しとか分からないけれど、彼女が着ているとおとぎ話のお姫様みたいに見えた。
彼女はお母さんと手を繋いでニコニコしながら向かい側から歩いてきた。お姫様の前で、父に抱っこされたままの僕は、急に恥ずかしくなって降ろしてもらった。
「ごきげんよう!」
お姫様は本当にお姫様だった。父の腕から降りた僕にそう声をかけると、にっこり笑って通り過ぎて行った。
僕は何にも言えなかった。急すぎて、挨拶すら返せなかったのだ。お姫様の後ろ姿だけ見ていた。
「最高に素敵な初恋じゃん!」
「え?お姫様みたいな子がハサウェイ君のタイプなの?」
「亜麻色の髪のお姫様!ダンスとか誘えば良かったのに!」
女の子たちは大盛り上がりだ。アーガマとか戦艦とか基地の話は省いて話したけれど、それでも凄い大騒ぎになった。
「7歳だよ!ダンスなんて…誰か踊れるの?」
「それって、誘ってる?」
シルヴィアの微笑みは、思わず肯定したくなるくらいに蠱惑的だった。膝まづいて、手にキスしたい。
「やだー!シルヴィアと踊るのはあたしなんだから!」
ピシカがシルヴィアに抱きついて、ケラケラ笑いながら言ったからしないで済んだけど。
「私が1番よ。あんたは2番目!」
クドゥがシルヴィアとピシカを両方抱きしめて言う。羨ましい。
ダンスに誘えば良かったのにって言ったのはクドゥなのにさ。
「じゃあ、ハサウェイ君は何番目に私と踊りたい?」
顔が赤くなったのが自分でも分かる。きっと、びっくりするくらいに真っ赤っかだ。
シルヴィアも含めて女の子たちに囲まれて、笑われていても。
「……ラストダンスが、…僕と!ラストダンスを踊ってください!シルヴィア・コルデー!」
僕は今度こそ、答えを返した。
僕の初恋。亜麻色の髪のお姫様。
忘れられないのは当然だ。僕は7歳の子供だった!なんでか、子供だったんだ。
僕は、時々アーガマの中ですれ違う彼女の気を引きたかった。お姫様と、仲良く話したかったんだ。手を繋いで一緒に歩いてみたかったし、一緒に飛行機のプラモデルで遊びたかった。かくれんぼも鬼ごっこもしたかった。
友達が少なかった僕は、お姫様の友達になりたかった。
だから、僕が楽しいと思えたものを教えたかったんだ。
まあ、つまり、子供って、僕って大馬鹿野郎だった。大馬鹿野郎すぎるから、父も母も、アムロおじさんもアストナージさんもあの頃のことを持ち出して、懐かしそうに思い出話にしてくる。
お姫様のことを忘れられるわけがない!!チェーミンだって覚えちゃいないのに、知ってるんだ、7歳の大馬鹿野郎ハサウェイを。
7歳の僕は、お姫様の気がひきたくて、いつも大声でアーガマの中を歌って歩いたのだ。当時、大人気だった『歌のキャスバル・レム・ダイクン』作の「うん、ちっちはどこから来るの?」の歌を!!
思い出すたびに、自分の頭を殴りつけたくなるし、叫びだしたくなる!奇声をあげたくなるし、自分の首も絞めたくなる。
大馬鹿野郎!!ハサウェイ・ノア!お前は大馬鹿野郎だ!
何が「うん、ちっちはどこから来るの?」だ!頭がおかしいんじゃないか?歌うな!
お姫様が振り向いてくれるわけないだろうが!!
子供って頭おかしいんじゃないか?いや、僕がおかしいだけか?だって、チェーミンは歌わなかったもんな!僕がおかしいだけか。
でも、あの歌、ミュージックランキングで1位も取ったことあるし…言い訳は良くない。7歳の僕は頭おかしかった!
「いいよ、ハサなら。ラストダンス。」
シルヴィアの微笑みは、僕を正気に戻してくれた。
その後の女の子たちのからかいなんて、気にもならなかった。
世界はバラ色だ!
まあ、子供ってそういうもんだよ。ハサウェイ、全然大丈夫。普通だよ普通。
それはそれとして、大人が定期的に語りだすのは良くない。可哀そうだろ!もっとやれ。
ハサウェイ君は元気に恋をするし、元気に反抗期もするし、大学にも進学します。
シルヴィアちゃんとは大学進学を機に円満に別れます。進学先が違った。
SNSフレンドくらいにはつながってる感じ。
でもハサウェイ君は、これから先ずっと、こういう女と惹かれ合うんだろうね。頑張れー!
元ネタの歌はあるけど、黙っておく。歌に失礼だ。
チェーミンは吹奏楽部の入部テストに受かりました!やったぜ!
体力育成をガンガンやる系部活なので、兄に負けないくらい強い子になります。
お兄ちゃんが落ち込んでたら、代わりに私がやるわ!お兄ちゃん泣かせたの誰よ!くらいのこと言い出すくらい強い子に。