機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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温泉~オオイタ地獄温泉回~

 

 

 

 

地球には、お湯が沸き出る場所があるというのは教科書で知ったことだった。ハイスクールの地球学講座の教科書に書いてあった。マグマの影響と地球のプレートの影響が地下水を温めて、地面からお湯が沸いて出てくる。そのお湯に浸かって心身を癒す文化がある、らしい。

 

宇宙育ちの僕には想像もできない話だった。

 

地面からお湯が出てくる?それって地面が熱いってことなのか?

そもそも、お湯に浸かるって?身体が浸かるくらいのお湯を用意するって、すごい贅沢なことだと思うんだけど。

 

この考え方自体が、宇宙移民らしい、と笑ったのはタナカ伍長だった。

 

僕は今、地球の日本、オーイタという地域に来ている。初めての地球ではないけれど、この前降りた地域と植物も建物も違っているから、何もかもが珍しく見える。目の前に見える町のあちこちから白い煙が上がっている。火事ではないらしい。

 

「ここ一帯は温泉地域ですよ。庭から温泉が出てる家もありますし、近隣の温泉から水道管をひいてお風呂に使っているところも。嗅覚が良い人は硫黄の匂いをかぎ分けるんですけど。いかがです?エグザべ大尉。」

 

タナカ伍長に言われて嗅いでみるけれど。

 

「言われないと分からないよ。少し、ゆで卵みたいな匂いがするんだね。」

 

僕は、今、ヌー曹長とタナカ伍長、それからダース規模の地球連邦軍の護衛と監視と一緒にこの地域にある駐屯地を訪問しにきた。

 

「温泉ね。宇宙育ちにはあんまり評判良くないよね。他人と一緒にね、風呂入るのが無理って奴ばっかりだからね。軍人のくせしてね。人生でシャワーブースしかね、使ったことないって奴ばっかりだよ。」

 

ヌー曹長が随分嫌そうに言うけれど、でも、宇宙ってそういう場所だし。水は貴重だし、上水道や下水道の設備を考えればシャワーブースだけでもありがたい。

 

この駐屯地には、陸軍の訓練を見学するために来た。

戦後に初めて知ったのだが、ジオン共和国軍は首都の治安維持にさえ、暗殺という手段を用いていた。警察組織も、それを見て見ぬふりをしていた。

 

大問題だ。

 

共和国軍上層部も共和国政府も、今後の方針を定められる程度の経験さえ無かった。ジオン共和国とは所詮、10年程度も歴史のない国だ。国内の混乱を治めるためとはいえ、警察と軍隊の違いさえ、曖昧になっていた。

 

警察組織の方は、向こうの幹部が地球連邦とコロニーの両方にアプローチしているらしいが、まあ、ジオンだ。色よい返事はもらえてないらしい、とヌー曹長が教えてくれた。

 

「裸が恥ずかしいとか、鍛え方の足りないヒョロガリ野郎の女々しい言い訳です。」

 

「タナカ伍長、後でまたお説教だからね。お前はね、言葉を発する前にね、AIに言っていい発言かどうか確認してもらいなってね、俺は前にもね、何度も言ってるんだからね。」

 

正直、共和国の警察組織のことを僕は笑えない。

僕がこうして、地球連邦軍の陸軍駐屯地へ、訓練の見学を許可されたこともジオン共和国軍が信頼されていたからではない。むしろ、僕しか許可されなかった。

MSパイロットが本職だというのに。上官は、良い機会だからしっかり学んで来い、と僕をまた書類だけ持たせて放り出してくれた。

 

仕方ない。

僕の複雑な立場は、地球連邦軍にとってもジオン共和国軍にとっても便利なのだろう。地球に降りられることは僕としては嬉しいし、陸軍での学びを生かせる立場を目指せなければ戦争は止められない。

 

「で、どうしますかね?エグザべ大尉は?」

 

タナカ伍長を叱責していたヌー曹長が唐突に僕に尋ねてきた。タナカ伍長は左手で口を覆っている。また、口を開くなって怒られたのかな?結構ジェスチャーが多い人だ。

 

「え?」

 

「駐屯地のお偉いさんが気を利かせてくれてね、8時間の自由時間作ってくれてるんですよ。案内人までね、つけてくれるそうですよ。豪勢なことにね。」

 

「初耳、何だけど。」

 

自由時間、なんて初耳だ。それもガイドまでしてくれるだなんて。

 

「俺もね、今さっき聞きましたよ。戦前はね、宇宙生まれの宇宙移民に、すごく人気の観光スポットだったらしいですよ。地球の地獄めぐりって奴はね。」

 

地獄めぐり。それも初めて聞いた。

このオーイタには地獄と呼ばれる温泉が7か所あったらしい。今は、4か所になっている。1年戦争の時、物理的に無くなった。

 

「ここら辺、観光名所としてもね、湯治っていう病気治療の場所としてもね、昔っから有名な土地なんですよ。人の出入りがね、多い地域ですよ。ここの地域の人もね、ジオンには思う所はね、たっくさんあるんでしょうけども、まあね、昔からの観光地としてね、地球文化への理解を促進する場所としてね、もう一度、宇宙移民と手を取り合おうと頑張ってるんですよ。」

 

もう一度、頑張ってくれている。ヌー曹長がそう、教えてくれた。

ここは、この土地は、ここの人々は戦争で酷く傷つけられただろうに、頑張ってくれている。

 

「理解を促進する場所?」

 

「地球が、楽園ではないっていう話ですよ。ね、ヌー曹長。」

 

タナカ伍長の補足は分かりにくいようで、僕には何となくだが分かった。

庭からお湯が出てくる土地なのだ。

 

過去、突如湧き出た温泉と地面の亀裂に飲み込まれて消えた人間もいると聞いたときは、生まれて初めて足元が恐ろしく感じた。

 

 

 

 

「あっちの池は青かったのに、こっちはこんなに赤いなんて。」

 

ほんの10数メートル離れているだけで、水の、いや温泉の色ってこんなに鮮やかに変わるものなのか?

 

「言っておきますけどね、これ、天然ですからね。着色とかしてませんからね。詳細は有料の解説本でもね、買ってください。写真は俺らが入ってなかったらね、大丈夫ですから。ご自由にどうぞ。」

 

僕は写真を撮るのが下手だ。カミュにはそう言われた。芸術の才能はない、とかなんとか。

代わりにポストカードを買った。ポストカードにも大きく『HELL:地獄』と書いてあった。この思い切りの良さがとても好ましかった。

 

「ワニに餌投げられるイベントも用意してくれているみたいですけど、行きます?」

 

タナカ伍長が戸惑いながら聞いてくる。まるで観光大使だな。1年戦争前は、地球やコロニーの観光地を紹介する有名人をそう呼んでいた。

 

「ワニは図鑑でしか見たことが無いって言ったら、笑われますか?」

 

「寧ろ、いい反応が撮れそうで喜ばれるのでは?なんかポスターに使うって、向こうさん言ってますよ。」

 

タナカ伍長が言う。ポスターの話なんて、今初めて聞いたけど。

 

「まあ、喜ばれるんならいいか。」

 

地球と宇宙の懸け橋になれるのなら、平和に繋がるのであれば僕は本望だ。

 

「そう言うこと言うからね、休日がますますね、なくなっていくんですよ、エグザべ大尉。…この際、高崎山に行こうとかね、駐屯地の皆さんも言い出してるんですよ。陸軍の行軍訓練でね、目的地を高崎山に設定されてもね、良いんですか?俺はね、勘弁してほしいんですけどね。」

 

「軍務なら従うよ。せっかく、もらえた良い機会を無駄にはしたくない。僕は、山も登ったことないんだ。」

 

そうだ。僕は地球のことを知らない。体感で知らないのだ。宇宙に住む人々も地球のことを忘れている。地球で生きるということを。

 

ある日突然、山が噴火することも、地面が揺れることも、人や建物を吹き飛ばす強風が吹くことも、空から落ちてくる雨粒も、光り轟音を奏でる雷も。

 

そう、地球で生きるということは、宇宙で生きているのと同じなんだ。

 

僕は、地球に生きる人にも、宇宙で生きる人のことを知ってほしい。

 

「僕から宇宙の話を聞きたい人もいるだろう?時間がもらえるのなら、僕はどこにだって行くよ。」

 

つい先ほどまで、僕は温泉が生物の命や環境を左右するなんて知らなかった。

 

でも、知った今、僕はわずかばかりでも、この事を誰かに伝えることはできるだろう。

僕から、宇宙の話を聞いた地球の人たちも、そうしてくれる人がいるはずだ。

 

それしかできない。

だけど、それを平和の始まりにしたい。僕は、そう、思った。

 




絶対に脱がない男エグザべ・オリベ 編


家族から『温泉でエモい』をお題にもらったので書いた温泉回…温泉???脱いでないな、エグザベ。
温泉イベント回避です。しれっと回避しました、エグザベ。
代わりに、この後、湯布院から高崎山まで行軍しました。無論、陸軍ほど体力が無いので、リタイア組です。本職MSパイロットだしね、30キロの荷物担いで行軍は無理だった。
連邦の陸軍も分かっててやった。
「藪漕ぎ楽しいね!オリベ大尉!」「?はい。」「飲み水がもうない?大丈夫!地図から水の湧いてそうな場所探せばいいだけだから!」「??はい?」「オリベ大尉!返事は「はい!」だ。」「はい!」


何事も一つ一つ段階を踏んでやっていこう。という話。エモ。
俺がエモって感じたからこのお話はエモです!!

大人の悪ふざけじゃ無くて、ちゃんと目的のある軍務だからパプテマス・シロッコもハマーンもアムロも怒らないよ。水どうとは違うのだよ、水どうとは!
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