機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
地球は神話で溢れてた。
人間は知りたがりだ。秘密を暴くのが大好きだ。
世界を暴きたかったから、神話が生まれた。
宇宙にまで人が溢れれば気にする奴もいなくなったが、俺はあいつらの気持ちが分かったよ。
「知る」ということは「支配する」ことだからだ。
だから、俺は神話が好きなんだよ、シャヴィ。
パプテマス・シロッコが接収したサイド2の造りかけのコロニーが3月ほど前に完成をした。ようやくだ。
アクシズ殲滅戦を終えた後も、僕とパプテマス・シロッコはお互いに忙しくて、満足に話す時間も取れていなかった。
ヴェルザンディの基地と隣接しているというのに、プライベートな時間が取れない。
僕の、僕たちの様々な問題がまだ解決していないというのが、僕が忙しい理由だ。
僕の護衛も外れるどころか増強されてしまった。
インターネット上で毎日のように殺害予告されてるし、軍の広報部と共同して作った平和祈念式典でのスピーチはジオン公国の栄光を忘れられない人々にとって毒だったらしい。地球連邦軍とジオン共和国軍の広報部の初の共同作業だったのに。
戦前と戦後の国内総生産と国民総所得とを比較したり、貿易赤字を指摘したり、戦後の失業率と企業の倒産数の高さに言及しただけで、ザビ家とダイクンにいまだ情のある人々は大騒ぎする。
若い世代が男女ともに大量に戦死してもいる。出生率も大幅に落ちているサイド3は、緩やかな滅亡に向かっている。国内外の需要も、労働力もロストして、地球連邦政府の支援なしでは現状維持さえ困難だ。
今から10~20年以内にジオン共和国が財政破綻する可能性が高いのは冗談でも嘘でもない。共和国民は、いい加減にザビとダイクンの失敗を認めて、敗戦と言う現実を受け入れてほしい、と僕は本気で思っている。
他にも共和国政府が抱えているか問題は数えきれないほどある。平和祈念式典のスピーチでは経済活動を中心に言及したけれど、コロニーの老朽化の問題もあるし、地球に残留している公国軍人の回収の問題もある。
その中でも僕たちに関わる最大の問題が、1年戦争時の拉致被害だ。
地球連邦政府とジオン共和国政府は、拉致被害者の処遇に関してまだ妥協点を得られていない。
そのせいで、僕は軍務もあるのに、グラナダや地球、ジオン共和国をグルグル回らせられている。拉致被害者の中でも僕が、だ。
マリア・イヴァンカ副隊長は僕が忙しくて部隊を留守にしがちな事について、諦め始めたようだ。自分の代わりにエリフ准尉を副隊長の座に押し上げようと、方々に根回しさえ始めている。少尉は出世もしたくないし、これ以上軍務が増えたら家族サービスの時間が無くなるので軍を辞める、とまで言い出している。
何かと頼りにしているマリア少尉に辞められると、僕は過労死する。確実に、だ。
アクシズで僕がやらかした1件もマリア少尉の行動に無関係ではない。
脅迫だ。
僕や共和国軍の上層部に対して、怒りを表明しているのは分かる。ただ、解決策というものが現状、見当たらない。身から出た錆だ。なんとかしなければならないが…
この忙しさも、ヴェルザンディのパプテマス・シロッコとジュピトリスのパプテマス・シロッコを兼務している彼に、僕は遠く及ばないだろう。
僕の疲れた愚痴を聞いてさえ、パプテマス・シロッコは笑って、
「それでいい。」
と肯定してくれる。力不足な僕の努力を肯定してくれる。今の僕にはそれだけでも、ありがたかった。
僕の上官たちも、共和国軍の参謀本部も、地球連邦政府も結構、無理難題を押し付けてくるからだ。
それから、拉致被害者たちも。共和国政府に損害賠償金は当然請求するけれど、あからさまに不可能な額を持ち出されたり、額に差をつける提案をされたりしては自分たちの命を危険にさらすだけだ。
相手はジオン公国だった人々だぞ。
正直、今までも、パプテマス・シロッコにかなりの迷惑と心配もかけてしまっている自覚はある。というか、僕は何回か、共和国政府と共和国軍に代わって非公式にパプテマス・シロッコに土下座もした。迷惑がられたけれど。
ヤザン大尉にも謝罪したが、大笑いされた。
今、ヤザン大尉は主にヴェルザンディのMS部隊の教導を行っている。世話好きのヤザン大尉の訓練は、パプテマス・シロッコからも評価が高い。羨ましい。
僕の訓練プログラムは相変わらず、部下から、
「辛い。体がもたない。」
と言われてしまっているというのに。
基本が疎かなのは、軍人として恥ずかしいことだ。宇宙暮らしは体力が付きにくいのだろうか?専用の訓練施設を新設してもらえるほどの予算は無いのだから、筋力増強のトレーニングを増やすべきなのか、それとも、持久力向上の為に走り込みを増やすべきなのか、悩ましい問題でもあった。
そんな他愛のないことをパプテマス・シロッコに相談できるようになったのもサイド2のコロニーの完成式典に参加することができたからだ。部下にも上官にもギリギリまで反対されたけれど、僕にとって親友と会える以上に嬉しいことはない。休日などより断然優先すべきことだ。
そもそも、パプテマス・シロッコと約束もしていた。3か月ぶりの休日を被せようとしてきた共和国軍参謀本部は僕の行動なんてお見通しだろう。ヴェルザンディと木星船団公社への友好アピールとして使うつもりだ。共和国軍の次世代を担う人材は地球連邦と木星に対して友好的だ、と。
予算が無い共和国軍は、この程度のことしかできない。
僕の、というか、僕たちギャン部隊の国籍をどうするつもりでいるんだか?地球連邦政府と本気で話し合う気があるのかどうかさえ不安になってくる。
「正直、今マリア少尉に辞められると、ギャン部隊は解体されるしかない。ジオン共和国軍が新たな対テロリスト鎮圧部隊を創設するというのは予算的にも人員的にも厳しいよ。共和国政府が妥協してくれないから、僕も手の打ちようがない。」
式典の事前打ち合わせという名目で、プライベートな時間を取ってくれたのは感謝しかない。パプテマス・シロッコだって忙しいだろうに。
「ジオン共和国に、灸を据えてやろうと思ったことは、このパプテマス・シロッコでもあることだ。この2年間で何度考えたことか。ハイファンならば覚えてもいるだろうが。」
「結局、僕は仕事の話をしてしまっているな。ごめん、パプテマス・シロッコ。」
僕は少しでも、親友のパプテマス・シロッコの力になりたいと思っているのにこのザマだ。
「構わない。私とお前の仲だ。それに、こちらもそのことで、お前と相談したいと思っていた。エグザべ、この『ゼウス』に人手が欲しい。」
ジュピトリス艦載員にとっての新たな故郷となるコロニーに、パプテマス・シロッコは『ゼウス』と名付けた。ヘリウム3の保管施設も、当然有したオニール・シリンダー型のコロニーだが、発展の余地を残している、とパプテマス・シロッコは教えてくれた。
大規模なスタンダート・トーラス型のコロニーを後付けする予定らしい。
パプテマス・シロッコが地球圏帰還のまでの間に開発した素材があれば不可能ではないと、ハイファン少尉も熱く語ってくれた。現在のコロニーにも後付けできる、と。地球連邦政府も実験的コロニーとして、今は技術の実証段階に入っているようだ。
「地球連邦政府の最大の懸念事項は、拉致被害者を救済した後、彼らの生活基盤を整えるだけの資金が無いことだ。度重なるテロで地球の経済は弱っている。」
パプテマス・シロッコの言う通りだった。拉致被害者たちも地球連邦に戻れた後の生活を心配して、賠償金の話が統一できていない。
「僕もそれは分かってるよ。地球は今もまだ難民で溢れかえっているし、各コロニーもアクシズ殲滅戦から経済が疲弊している。共和国なんて、地球連邦政府の援助が無ければ、内乱を起こして、きっとジオン公国に逆戻りさえしていたよ。」
お互いに悩みが尽きない。
地球連邦政府としては、拉致被害者を救出して地球連邦の籍に戻したいが、生活基盤を整えるための予算が無い。
共和国政府としては、僕を始め重要な役職についている人材を手放したくない。1年戦争時に2万8000人も拉致しておいていう言葉ではない。が、現状、ギャン部隊のようにジオン共和国から取り上げてしまっては拙いことになる役職についている被害者は多くいる。
共和国の労働者不足はそこまで深刻化していた。まあ、僕が言うことでもないが、元々サイド3はあまり治安が良くなかった。教育機関の不足もある。マリア少尉の息子さんの話を聞いたことがあるが、戦後になった今でも教育レベルは高いとは言い難い。
専門知識や高等教育の必要性がサイド3では意識されていないから、こうもなる。
高校卒業してない僕に負けて恥ずかしくないのか?ジオン生まれの軍人は。
「ハイファンが面白い提案をしてきた。後付けするスタンダード・トーラス型を実験農場にしたい、と。火星を木星とアステロイドベルトに対する食糧補給基地にするための下地にしたいようだ。今後の木星の発展を思えば、悪い手ではない。」
「ここはサイド3とも月とも遠くはないから被害者たちを受け入れてもらえるのなら嬉しいよ。引越しの負担が減るし、家族と一時、別れるにしても動きやすい。選択肢が増えた。僕らこそ、助かる。でも、農業を下層民の仕事だと思うのが宇宙移民だ。地球連邦と共和国の同意が得られても、果たして本人たちが乗ってくるかどうか。」
「実験農場は、私の管轄だ。ジュピトリス艦載員以外には触らせるつもりもない。ハイファンの言い出したことでもある。」
「なるほど。シリンダー型での仕事を任せたいのか。木星のための工場が必要になるから?…僕はだいぶ鈍っているな。思考が走ってない。」
「不安か?」
「パプテマス・シロッコの力になれないことは不満だよ。まったく、僕を振り回すだけ振り回しておいて。ニュータイプなんてものは本当に…」
本当に厄介なものだ。思考が走ることに慣れてしまった僕は、以前ほど走らなくなった思考に振り回されている。あの時は宇宙の果てまで見えていたような気もするのに。
「そうか。僕が、火星にいるジオン公国の残党を説得に行ってくればいいのか。現状なら、共和国軍の予備役の寄せ集めで、何とかなるかな?共和国政府は、火星の人員を収容して、僕らが抜けた後の労働者不足を埋めればいい。地球連邦はこの『ゼウス』で2万8000人を受け入れればいい。このコロニーは地球連邦と共和国の懸け橋にもなれる。」
そもそも、僕の今の役職が多すぎるのが問題なのだ。
マリア少尉が軍を辞めるというのなら、拉致被害者の代表を彼女に任せるのもいい。度胸もあるし、共和国国民の治安と教育レベルも彼女は詳しい。少尉の息子さんはエレメンタリースクールに通っているのだ。
サイド3にはヴェルザンディもいてくれる。ジオン共和国政府が、とちくるってジオン公国に戻ろうとしても、パプテマス・シロッコとヤザン大尉がそれを許さない。
そうであるならば、僕は火星に行ってパプテマス・シロッコと木星の為に一働きしてくればいい。人類の未来の為に、できることがある。
「1年もカミーユに会わないつもりか?また、私に苦情の連絡が来る。」
言われてしまえば、バツが悪い話だった。僕はカミーユとファに会うたびに言われていた。いつ、グラナダへ帰って来れるのか、と。カミーユが医者になるまでにはグラナダで生活できるようにしたい、という叶わぬ願いは口にしているのだけれど、当然納得はしてもらえていない。
「グラナダ基地のアムロ・レイ大尉からも、このパプテマス・シロッコ宛にテストパイロットとして、お前を指名した連絡が来ている。ブライトは言わずもがな。」
アムロ大尉とブライト艦長にはグラナダへ行った時にお世話になっている。エゥーゴは戦後に『ロンド・ベル』へと組織名を変更した。まあ、当たり前だ。
今はグラナダ基地を拠点に各サイドの治安維持と臨検、デブリ除去などを行っている。武闘派のヴェルザンディと棲み分けを図った結果、そうなった。共和国軍も臨検とデブリ除去は共同して行っている。
問題は、『ロンド・ベル』所属の僕の顔見知りは何故か、僕が地球連邦に戻った時『ロンド・ベル』に入る、と思っていることだ。今の時点で、何かしらの頼まれごとをする時がある。軍規に厳しいゲーツ大尉までも個人情報に抵触しない程度の部下に対する相談をしてくる。まあ、ヌー曹長のことだ。当たり前に分かる。
特に僕の出身地をヌー曹長を始めとする連邦軍タカ派が喧伝し始めてから顕著になった気がする。
「…とうとう全部嫌になって火星に逃げ出した、と?」
「ヌー・ハーグは、そう言って回るだろう。考えずとも分かることだ。人を煽る悪趣味な人間だ。」
僕が逃げ出した理由にはジオン共和国が使われるんだろうな。ヌー曹長は相変わらずのジオン嫌いだから。今はロンド・ベルの情報部で戦争、ではなくて殲滅を謳っている。また何かしら、危ない任務をさせられているんだろうな。
「地球圏に帰って来れなくなりそうだ。」
本当にそうなりそうだ。
1年も連絡が取れなくなると言ったら、カミーユが今までにないほど怒りそうだ。
ヌー曹長なら、僕の一番のウィークポイントを突いてくる。怒ったカミーユ相手に僕は強気に出られない。アクシズでのアレが、まだ知られていないからこの程度で済んでいるんだろうけれど。
「そもそも地球圏を出られると思うのが、お前の間違いだ。エグザべ。」
「火星は今のうちに処理、じゃなかった、説得しておきたいよ。武装強盗になれば、パプテマス・シロッコにも木星にも迷惑がかかる。共和国の一部の資産家が支援しているのは確かなんだ。証拠が揃わなくて共和国政府さえも説得出来てない。」
「それこそ、ヌーを使えばいい。エグザべ。奴は物も話も分からぬ人間だが、無力な人間ではない。」
そう言うとパプテマス・シロッコは書類を渡してくれた。今話していた資産家たちの資料だ。最後にヌー曹長のサインが入っている。
「いつになったら、僕はパプテマス・シロッコに追いつけるようになるかな?自分が恥ずかしいよ。」
本当に、そうだ。僕はパプテマス・シロッコだけでなく、皆に助けられてばかりでいる。
もっとできることがあるはずだ、と焦って藻掻いて、皆を巻き込んでばかりだ。
カミュの奴ならもっと上手くできたんだろうな。そう思ってしまえば自分を止められなくもなっていた。
「エグザべ、神話を知っているか?神は、人間に石とバナナを選ばせた、と言う。」
パプテマス・シロッコの言った話は聞いたことがある。
「昔、聞いたことがあるような…人間に寿命があることの回答だったはずだ。人間はバナナを選ぶんだ。」
カミュから聞いた話だった。エレメンタリースクールの時、あいつは地球の神話ばかり集めて、僕に教えてくれた時期があった。人類が作った神話をも愛していた。
「それは、多様な人間がいることへの回答でもある。人間が、子孫を残すことを肯定した神話だ。エグザべ。お前は私でなくていい。」
確かに、僕はカミュではない。あいつみたいに性悪になれない。
「僕がパプテマス・シロッコの力になれるのは、違う人間だから、か。」
助け合い、支え合う。それは1人ではできないことだった。
「先ずは、私の『ゼウス』を助けてくれ。エグザべ・オリベ。」
その信頼を、嬉しく思うのも人類が神話を信じる時代から、大切に育てて来た何かが僕にもパプテマス・シロッコにもあるからだ。
きっと、それはこの宇宙を支える力だ。こんなにも温かいものなのだから。
リアル兄弟からもらったお題『バナナ』
なんか、火星にジオン公国の残党がいると聞いて…
何で火星にいるのか、生き延びれているのか、まだよくわからない。多分このSS世界ではだいぶ弱体化してる。
火星に農業基地でも作れれば、アステロイドベルトも木星も治安が安定するだろ、くらいの考えで書いた。俺は浅はか。
公転周期のズレ考えたら別に火星開発しなくてもいいけど、ジオン残党いるなら潰しとかないとなぁ…面倒だなあいつら。と思いながら書いてました。
前書きで本文のエモを台無しにしていくストロングスタイル!!フゥー!!
俺がエモと感じたからエモ。