機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
僕、カミーユ・ビダンは今日、20歳になった。11月11日だ。地球連邦北アメリカ方面支部がヒューストンに設立した軍大学の医学部の寮で20歳の誕生日を迎えたのだ。
普段は起きることも億劫になるような早朝から同期に引き留められるのも構わず、外出届を寮長に受理してもらい外に飛び出した。だって、エグザベさんとファが僕に会いに来てくれるからだ!僕の誕生日にお祝いをしてくれる!
日々大学で勉学と体力つくりに励んでいる僕の所に、宇宙からエグザべさんが来てくれるのは、本当に嬉しかった。
本当の本当に嬉しかった!ここの近くの陸軍基地内にあるハマーンさんのお屋敷で、通信教育を受けながらお手伝いさんとして働いているファも一緒に来てくれるって聞いて僕は歓声を上げた!だって、ファに会えるのは1か月ぶりだ。電話はほぼ毎晩してるけれど。
エグザベさんが来てくれるって電話で聞いた日の次の休日には流行のお洒落な服をわざわざ買いに行ったし、靴も昨晩の消灯前に鏡面磨きして、今日の朝には隅々まで鏡と同期たちの目で確認して、うきうきで出かけるくらいには嬉しかった。
死んだ魚の目でブーイングをしながら見送る同期たちに笑顔で両手を振り返せるくらいには僕はご機嫌だった。
待ち合わせ場所が退役軍人の経営するカフェで、ミリタリーバーを兼ねていて、おそらく護衛と思われる人たちがたむろしていたとしても!
嬉しかった!もう、2人に会えただけで嬉しかった。
だって、僕の誕生日だ!去年の誕生日、エグザベさんはヴェルザンディでアクシズの残党狩りかジオン公国の残党狩りか、何らかの残党狩りに参加していて、録音メッセージとプレゼントしかくれなかったから。いや、プレゼントの「スーツ仕立て券」も嬉しかったんだけど!すぐに近くの仕立て屋に行ったし、写真も贈ったし、同期にも自慢したけれど。
でも、やっぱり僕はファとエグザベさんの2人に会いたかった。会ってゆっくり話がしたかった。
だって、20歳の誕生日だ!毎年来る誕生日の中でも特別な誕生日だ!
旧世紀かその後かは知らないけれど、昔、20歳になると成人式をしてたって話は僕だって当然知ってる。
成人式には特別な服を着て、特別なパーティーを家族でしたかったんだ。
いや、でも、これは。
「……虹色の、ケーキ。」
目の前には、確かに特別なお菓子があった。これが出てきたのが、コース料理の後なのがいけない。落差で眩暈がしそうだった。
「近くのお菓子屋さんで、流行してるって聞いてね。」
エグザベさんは、微笑みながら、なんか言ってる。
「カミーユ、私は止めたのよ。でも、お店の人がこの辺りの学生さんは喜んで買ってくれるっていうから。カミーユ、本当なの?」
軍大学で虹色のワンホールケーキが流行しているのは間違いない。僕が寝起きしている大学寮では毎日誰かが1つ、買ってくる。
皆で食べるためじゃなくて、そう、自分の辛い勉強のお供に。
隣室の友人、シゲル・モトシゲとV・ビィト・ワンタンなんかはワンホールを半分に切って、夜食として手づかみで食べていた。寮の外で。寮長に見つからないように寮の暗い物陰に隠れて食べていたのだ。僕はランニングから帰ってきてそれを見て、悲鳴を上げかけた。医学部生とは思えない野性的な姿だったから。それを見て僕は有名な絵画を思い出した。『我が子を食らうサトゥルヌス』を、だ。
虹色ケーキは、つまり、そう。切羽詰まって、人の心とか余裕とかカロリーとか単位とかレポートとか、諸々を忘れそうになった人間が、頭と体を働かせるためだけに胃に押し込む食べ物だ。
確かに特別な食べ物なんだ、けれど。
「毎日、誰かが買ってくるよ。うん。日持ちもするんだ。うん。なんでかわからないけど。なんでかわからないけど、冷蔵庫に入れておけば1週間は平気で食べられるんだ。この、虹色のケーキだけは…」
本当になんでかわからないけど、異様に長持ちすることも出不精で日々の勉学に疲れ切った医学部生には重要な利点だった。
ついでに、舌が麻痺するくらい甘いことも、食べるとジャリジャリ音がするらしいことも、利点として挙げられていた。
「知らない誰かとの共同生活は、精神が疲れるからね。甘いものは大事だ。」
エグザべさんは、こいつを食べてる時の人間の表情を知らないから、そういうことを言えるんだ。
僕のことを心配してくれているのは分かるけれど!
『サトゥルヌス』か『無表情』か。
いや、それならまだいいんだ。微笑みながら「美味しい、美味しい」と言って、これを食べていた生徒は病室送りになった。メンタルヘルスチェックで引っかかったから。
「こっちも、渡しておくよ。お誕生日おめでとう、カミーユ。」
エグザべさんは、小さな木箱を渡してくれた。白い木材の細長い銀色のリボンがついた木箱…?
「開けていいですか?」
「もちろん。気に入ってくれるといいけど。デザインは、ファが選んでくれたんだよ。」
白い箱の中に、白い万年筆が入っていた。僕の名前が入っている。『Kamille・Bidan』その文字が、銀色のラインで、書かれていた。
「日用品って、シンプルな物が使いやすいから。カミーユの名前が入ってたら、失くさないでしょ。お誕生日、おめでとう、カミーユ。」
ファが選んでくれた万年筆。だけど、僕はエグザべさんの今の乗機を思い出してしまった。白に銀ライン。
「万年筆は、3人でお揃いにしたのよ、カミーユ。嬉しい?かっこいいけど、綺麗だって思ったの。」
ファも僕と同じことを思ってくれていた。
悔しいけれど、エグザべさんが乗っているメッサーラ量産型は、かっこいいし綺麗だった。ヌー曹長が秘密だ、機密だ、見せるなんてとんでもない、て言いながら、僕とファに写真と動画を見せてくれたから知っている。
バケツとブラシを買ってよかったと、あの時は本当に思った。
ジオン共和国で、エグザベさんのメッサーラ量産型はブロマイドになって売り出されているらしいのに、地球連邦では手に入らない。密輸品を購入するしかない、とはシゲルの言だ。
シゲルに言わせると密輸品は正規価格の500倍くらいの値段に跳ね上がっているらしい。次世代の、しかもジュピトリス製の、可変機のMSで、アクシズ戦争で有名になったエグザベ・オリベの乗機だから、とかいう理由だった。訳が分からない。
僕の家族が乗ってるメッサーラ量産型のブロマイドを、どうして僕が入手できないんだ?それはここ最近の悩みの種だった。
でも、今、僕の手の中に白と銀の、カッコよくて綺麗な万年筆がある。
「本当に、お揃い?」
「持ち歩いてるし、使ってるよ。無重力区画でも使えるタイプだし、とても頑丈で壊れにくいから重宝してる。」
エグザべさんはジャケットの内ポケットから同じ万年筆を出して見せてくれた。
『Xavier・Olivette』と文字が入っている。同じ書体だ!
「私も、日記書くのとかレポート書くのに使ってるの。」
ファも同じ万年筆だ。『Fa・Yuiry』だ。え?『Fa・Bidan』じゃないのは少しショックだ。いや、まだ籍は入れてないけれど!これ、名前入れなおすサービスとかついてるのか?後で確認しないと…
白い万年筆が家族でお揃い。たったそれだけのことなのに。僕はとても嬉しかった。
家族だから、だって分かっているけれど。嬉しくて嬉しくて、世界がバラ色に見えるってこういう事なんだ、と分かる。
「ありがとう!ファ、エグザべさん!」
お誕生日おめでとう!カミーユ
11月11日にスレにあげたかったが間に合わなかった思い出…
正直、俺ならば任天堂スイッチ2を喜ぶが…カミーユ・ビダンはそういうプレゼントより、「家族」を感じられるものを喜ぶので「お揃いの万年筆」になりました。勉強、頑張れよ。
宇宙世紀は医者がたくさん必要なのに、1年戦争とか星の屑作戦とかで大幅に減ってしまっているので、かなり力を入れてガチガチに医学部生は教育されます。特に軍所属なので、激戦区や被災地、災害派遣も担当することになる医師という激務の職業中でも更なる激務です。
でも、人の命を救うための戦場なら弊SSのカミーユは行くよ。強い子だからな。
まあ、しかし、軍上層部の思惑とかパプテマス・シロッコ少佐の優しさがあってグラナダ軍病院に勤務になります。普段の患者は軍人や軍人家族や緊急外来のみ。
どこ行っても激務なのは変わらない。なら、せめて家族と一緒に日々を過ごせるようにしてくれました。ニュータイプに心の不安定は危険。連邦軍上層部、覚えた。
虹色のケーキに、エグザべが抵抗ないのはルウムの7バンチがサンフランシスコモデルだったから。高校時代に似たようなケーキをクラス全員で食べたことあるそうです。味は普通のケーキだったって。
ルウムのカミーユもクラスメイトも、食べて拍子抜けしました。罰ゲームにもなりゃしねえな、このケーキ…
この部分のSSを書かないのは、カミーユ・ビダンの誕生日SSだから。300文字くらいだし書いても意味ないからな。
お砂糖いっぱい入れると防腐剤代わりになるって、ミリオタさんから教わりました!