機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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僕が軍大学の医学部に進学するって決めたとき、最初に反対してきたのがパプテマス・シロッコ中佐だった。

僕が、死人に惹かれやすい、から。

次に反対してきたのが、ゲーツ・キャパ大尉だ。

災害派遣もある医官は精神的に負担が大きい、から。

ヌー曹長も反対してきた。

僕が生意気なクソガキだから、と僕には言ってたけど。本当は僕を情報部員にしたかったからだった。絶対に嫌だ、と断った。

ファは何も言わなかった。今まで、僕が目指してたものと、両親のような技術者と全く違ってたのに。何も言わない代わりに、僕を優しく抱きしめてくれたからキスした。なんでか即座に憮然とした顔で、頭をはたかれた。僕はしばらく、女心の分からない奴、として過ごすことになった。



エグザベさんは、「分かった。応援するよ。」と言ってくれて。
生物学の教科書と資料集とラテン語の辞書を贈ってくれた。

僕は贈られてきたそれの量を見て、ちょっとやっぱり止めようかな?と本気で思った。



やがて辿り着くヒポクラテスの誓い

 

 

エグザべさんのMS訓練は、やっぱりきついんだ。

それを再確認できたのは、大きな収穫だった。

僕が根性なしとか、体が弱いとかじゃなくて、本当に良かった!

 

アポリー中尉の悲鳴と愚痴を聞きながら、カミーユ・ビダンはとても安心できた。昨日4時間ほど、エグザべさんとアポリー中尉は合同訓練をしたらしい。

アポリー中尉のMS部隊の訓練を参考にしたい、と前から言っていたエグザベさんの発案だ。僕の訓練の参考にするために、そう、言ってくれた。

もしかして、少しだけ、ちょっとだけ僕の訓練が甘くなるかな。

 

だって、アポリー中尉の悲鳴はちょっとした騒ぎだ。ここまで来るまでも何人かで運んできてもらっていた。

 

「全身が筋肉痛で、痛くてトイレにも行けやしないんです。」

 

いま、アポリー中尉は僕の隣の病床で先生に訴えている。

新しくアーガマに来たおじいちゃん先生だ。いつも忙しなく、医務室でアレコレ作業をしている。他の人に訊いたら、いざというとき取り出しやすいように整理整頓をしているらしい。

 

「痛み止めが欲しいのか?いらんだろ。大の大人が情けない。」

 

「情けなくていいんです。痛み止めくださいよ!」

 

「全身に湿布は張った。問題ないな。ほら、さっさと行った行った。」

 

おじいちゃん先生はロボットのような動きでしか出来ないアポリー中尉の後ろ首を掴むようにして医務室から追い出した。容赦ない。

 

医務室の扉が閉まる前に大きな音とアポリー中尉の悲鳴が聞こえた。おじいちゃん先生が両手で、アポリー中尉の背中を突き飛ばしたからだ。

多分、中尉がおじいちゃん先生に抵抗しようとしたから…

 

「若い奴らは根性がない!」

 

そういうと、おじいちゃん先生はさっそく自分の仕事を始めた。アポリー中尉に使った湿布とか他の在庫の少ない医薬品をすぐに取り寄せるための書類を作るそうだ。僕は、病床で横になって書類を書いてる様子を見ている。

 

コンピューターの画面を見ながら、時々虫眼鏡みたいな、片眼だけの変なレンズを近づけたり遠ざけたりしてるのは何のためなんだろう。

暇そうにしてくれれば訊けるのに。

アポリー中尉が来る前も忙しそうに細々と道具とか薬の整理をしていた。じっとしてられない人なのかもしれない。

でも、アーガマで怪我人が出たときなんか、すぐに飛んできてくれるし手際よく手当てしてくれる。いつも元気なおじいちゃん先生だ。

 

僕が医務室の病床で寝ているのは、訓練のせいではなくて成長痛とおじいちゃん先生に診断されたからだった。

成長痛だからって、おじいちゃん先生は僕には痛み止めをくれた。薬の効き目が出るまで寝てていいと言われて、言われるまま甘えて僕は横になっている。

 

「痛み止め、僕は飲んでよかったんですか?アポリー中尉とか、きちんとしたパイロットの人に飲んでもらった方が。」

 

寝ながら訊いてもおじいちゃん先生は怒らなかった。鼻を鳴らして、僕に向き直ってくれた。

 

「子供が馬鹿な事考えるんじゃない。こういうものは子供が優先だ!そもそも、きちんと訓練をしとらんから筋肉痛になるんだ!ああいう自分の怠惰が招いたもんは自分で責任をとるもんだ。きちんとしたパイロットならそうする!それを、なんで子供のお前が遠慮する?」

 

「僕だって、パイロットです。」

 

一応、そうなっている。クワトロ・バジーナ、いや、シャア・アズナブルは僕を中尉待遇の軍属にすると約束して、その後エグザべ中尉が僕の直属の上官になった。今は、訓練と勉強と休息の日々だけど、ちょっと前には実際、戦場にも向かった。

 

「馬鹿馬鹿しい!あの生意気なおしゃべりスピーカー陰険マンだってそんなことは言わん。おまえのような成長痛を迎えとるような子供をパイロットなどと、まったく馬鹿馬鹿しい。」

 

おしゃべりスピーカー陰険マンは、ヌー曹長のことだ。

最近、エマ中尉と揉めたらしい。エグザべさんが共和国軍の軍人だったことを隠していたこととは別に。エマ中尉とファに言わせると、ヌー曹長は全女性の敵になる。

つまり、見た目と足音で体重を当てて公言してしまうと全女性にとって唾棄すべき敵に変わるらしい。

 

「お前のような子供を戦場へ連れてきた屑どもはわからんのだろうがな、子供を頼りにする大人など、ろくな人間じゃあないんだ。自分が子供以下だと宣言しているようなもんだ。それを恥と思わなかった奴らの悲鳴なんぞ気にしなくてよろしい。」

 

そう言いながら、おじいちゃん先生はわざわざ僕の頭を撫でてくれた。

僕はそんなに子供じゃないんだけど。そう、言いたかったけど我慢したのは少し嬉しかったからだ。

 

僕にも当然、祖父と祖母がいたんだろうけど、何故か会ったことはなかった。おじいちゃん先生みたいな人だったのだろうか。僕の頭を撫でてくれる人たちだったのかな。

僕が覚えていないだけで撫でてくれた事も、もしかしたらあったのかもしれない。

 

それを思うと、なんだか嬉しくなった。よく分からないけれど、嬉しくて目頭が熱くなってしまった。

照れ隠しのつもりでおじいちゃん先生に尋ねた。

 

「先生、僕の身長、伸びますか?」

 

「成長痛と身長に相関関係はない!毎日ストレッチして患部をよく冷やせ。期待すると、がっかりすることになる。」

 

おじいちゃん先生は容赦がない。僕の感動の涙は引っ込んでいった。

 

「先生、今、僕は傷つきましたよ!すごく傷ついた。」

 

「医務室には怪我人しかおらんのだ。当たり前のことを言うな。ほら、暇ならこれでも読んで静かにしておくんだな。」

 

渡された本は、『緊急救命Q&A』と書かれていた。医学書じゃない、一般人向けの救命措置の方法が書かれた本。高校の保健体育の授業で習ったことが少し詳しく書いてある。

 

「…こういう本、読んだことなかった。」

 

そうだ。僕は、読んだことなかった。正式なパイロットでもないから、軍人でもないからとかに関係なく読んだことがなかった。…教えてくれる人もいなかった。

 

こんな一般向けの本の知識さえないまま戦場に行ってしまっていた。人と戦っていた。

それは、とても恐ろしいことだったのだ。

事故の例や死亡例がたくさん書いてあって、でも、この本の知識で助けられたかも知れないと思うと悲しかった。

 

「なんだ、読書は嫌いじゃないのか?絵本じゃなくてこっちにするか?」

 

おとなしく読んでただけで僕は読書好きの判定を受けてしまったらしい。枕の横に解剖学の本が置かれる。分厚い。仰向けで読んでうっかり落としでもしたら、たんこぶができそうだ。

 

「いきなり読んで分かるものなんです?」

 

「分かるようなら世の中に先生や教授、博士はいらん。」

 

なんだかな?

 

「だが、分からないから、と言って読まなかったら一生人間は何もわからんままだ。まあ、悪い人生ではない。分からんまま終える良い人生もある。が、大人として子供に選ばせたい道でもない。」

 

「大人って皆、そうやって子供に自分の好きなものを教えたがるんです。勝手ですよ。ヌー曹長だって僕に体重の当て方教えたがるし、アストナージさんだってメカニックのイロハを教えるとか言って雑用任せたりしてくるし。」

 

ハマーンさん達がアーガマに乗ってきて以降、僕のパイロットとしての訓練も仕事も大幅に減っている。代わりに、僕の第2の部屋でハイスクールの勉強をしているけれど、あっちこっちの雑用の手伝いもすることになっていた。忙しいと言えば、忙しい。

 

「おしゃべりスピーカー陰険マンの言うことを真に受けるな。アストナージは、私がよく脅しておく。あいつの班員はよく痛み止めを取りに来るからちょうど良い。常々、もったいないと思っていたんだ。肩こりと腰痛で痛み止めなんぞ、贅沢を覚えたサルのすることだ、特に軍艦では、な。」

 

軍艦で、痛み止めは貴重品だ、とおじいちゃん先生は言った。製薬工場も物理的に少なくなって、本当に貴重品の中の貴重品なんだという。

僕は両親の伝手もあって、医者にも薬にも不自由したことが無くて、そんなことも知らなかった。気にしたことも無かった。

 

「最期の頼みの綱だ。日用品じゃあないんだ。痛い痛いと言いながら死ぬ人間のために私は使ってやりたい。医者の言うことじゃあないが、せめて痛みのない死を迎えさせてやりたい。」

 

「先生。」

 

「そもそも、自分で買って艦内に持ち込まない準備不足のうすのろ共に渡す痛み止めは無い!予算の無駄だ!」

 

おじいちゃん先生は机を叩いてそう、吠えた。

 

でも、僕には痛み止めをくれた。怪我人同様の優しい扱いをしてくれて、ベッドで寝てなさい、と言ってくれた。

 

「人間って複雑だ。」

 

解剖学の本、ぱらぱらと眺めてみても全く分からない。この全く分からないものが僕の身体の中にあることも実感が湧かない。

 

生物学はほとんど勉強したことないから分からないんだろうか?でも、身体って自分のものなのに、分からないまま僕は生きてきたし、生きてこれた。

どうして、僕はそういうことができるんだろう。

 

僕には分からないことばかりだ。世界には僕が知らないことが溢れている。

 

それも僕にとって、大きな収穫だった。

 




カミーユ・ビダンと医学の出会い 編

このままだと、カミーユくんの進路が技術士官になる、と思って書いたSS
別に技術士官で良くない??いや、良くない。他のSSで外科医ってもう書いちゃってるから!!
ぶっちゃけ外科医とニュータイプの能力って相性悪そうだし、そもそも、医者って職業向いてないと思う。
Zガンダム本編のカミーユ君だと、患者とか患者の家族とか『修正』しかねないから止めておいた方がいいと心底思ってるけど。
大丈夫か?患者って意外とわがままだぞ?医者の言うことなんか聞かないぞ?脅しても意味ないぞ?我慢できるか?忍耐の連続だぞ?外科医って本当に患者の死と隣り合わせだから、喪失の連続があるかもしれないぞ?家に帰っても呼び出しとか喰らって大変だぞ?カミーユに耐えられるか?
本当に平気か?外科医、より、整形美容外科とかの方がよくないか?



おじいちゃん先生は子供に優しい。そんな夢を持っている。

まあ、俺のSSのカミーユ君、外科だけじゃなくてニュータイプのメンタルケアもしてそう…逆シャアIF編でしてた。

ニュータイプってメンタルケアがしっかりできる信用できる医者が必要だよな。というか、ニュータイプ専門医が必要そう。でも、そういう医者は患者にめっちゃ依存されそう…
ニュータイプのニュータイプ専門医が病んだニュータイプと感応して、引っ張られて病みそう。……つらぁい!
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