機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
宇宙は広すぎて狭い。
地球で生まれた生物が宇宙に上がった。それだけでニュータイプ?人類の革新?
クソ笑える話だぜ。
テラリウムに移されただけの生物に夢見てんのかよ。
地球から水と空気もらってるテラリウムの生物に宇宙の広さと狭さが分かるわけねえだろ。
地球に降りたいのは、それが分かっていたからだ。テラリウムの外に出なければ、箱の外で生きて見せなければ、真実、世界を生きていく資格は得られない。
地球で生まれ、地球で生きる生物は好奇心を持つことで、それを自然に可能にした。
縄張りの外で、適応環境の外で生きる力を、身体を手に入れ世界中に広がった。
生物は多様に枝分かれして広がり、滅び、或いは生き延びてきた。
それを理解したときに、地球にしかいない生物に焦がれた。
地球で、生き延びた同胞たち。生命。
地球は惑星だ。自分からは光らない。
だが、地球には、そこには光る生物がいる。
恒星とは違う「光」を実現した生物がいる。
地球が光っているのだと、理解した。
シャヴィ、地球は光ってるんだぜ。
命が、光っている。
夜に、海が青く光ることがある。それは、カミーユが、カミュが教えてくれたことの1つだ。夜光虫というプランクトンがいて、遥か昔から海は青く光る、と。
「青く光る海を、生きているうちに見たいよ。」
「そんなにも地球に焦がれているのならば、早く降りて来ればいい。お前が望めば、誰もが手を貸すだろうに。」
ハマーンは呆れたようにそう、言う。
今回は毎年恒例になってきた地球連邦軍とジオン共和国軍の合同演習事前策定があって、地球に降りることができた。ついでに、軍人関係者が多く住む区画に住むハマーンを訪ねることができたのはヌー曹長と共和国軍情報部からの依頼でもあった。
ハマーンは有能だ。僕が悲しくなるくらいに。
彼女は地球に降りてからアマンダ・クランの名で、ヌー曹長の力を借りながらも軍や政府に人脈を広げてくれている。
100年の平和のために、彼女の青春の時間を使わせてしまっている僕らは、本当に無力でしかない。ジオン共和国も僕も彼女を頼ってしまっている。大の大人が情けないことだが、サイド3の人間は地球でもコロニーでも、相変わらず信用されていない。
即効性のある改善策も見つからない。恥ずかしい限りだ。
共和国政府がデラーズ・フリートもアクシズ戦争も何も知らなかった、テロリストの支援もしていなかった、と言っても信用はされない現実がある。どうしようもない現実が。本当に呆れるくらいに目を背けたくなる現実だ。
そんな話をしていれば心が疲れもする。
ハマーンにとってはどうでもいい話だろうが雑談にも付き合ってもくれるので、ついつい無駄話もしてしまう。
僕の周りは彼女のように優しい人たちばかりだ。
この、青く光る海の話をしたのは、ハマーンが初めてだった。
彼女達は地球に降りて、もう、6年ほどになる。地球については、僕より詳しいだろうに、ハマーンと会える際に話す無駄話は僕が地球に降りることができたら、という仮定の話だ。
遠い未来の話だ。
「…資料映像では見たことある。軍大学の資料室にあったんだ。海に関連する事だったからかな?驚いたよ。画面越しでも綺麗だった。ウソみたいに。…まあ、生きているうちに一目見られればいいんだ。まだまだ時間はあるからね。まずは、やるべきことをやらないと。」
「悠長なことを。パプテマス・シロッコか、ヌーに請えばいい。」
ハマーンの言うことは、いつも正しい。
パプテマス・シロッコとヌー曹長、いや、カミーユやファにも青く光る海の話をできない理由でもあった。
「そんなことしたら、明日にでも僕は正式に地球連邦軍所属になるよ。……せっかく、僕が考えていたより早く、ジオン共和国内でのテロリスト達の活動も収まりそうなんだ。後、数年したら僕もパイロット業は引退だろう?地球に自由に降りられる日も遠くはない。そしたら、世界中を旅してみるのも悪くはないかな?まだ、オーロラも流星群もこの目で見れてないんだ。世界を歩いてみたら、他にも、もっと好きになれるものが見つかるかもしれない。」
テーブルの上に置かれた紅茶の入ったカップを見ながら夢を見た。
白い緩やかなカーブを描く陶磁器。金色のライン。かつての愛機を思い出した。あいつも、兵器でなければ、兵器として生まれなかったのなら…僕と一緒に世界を。
いや、無理か。良い機体だった。そう、兵器だった。
「そろそろ、現実を見るといい。サイド3の人間が早々に変わるものか。共和国政府の役人どもも。…反連邦勢力の資金洗浄に協力しているサイド3の人間は腐るほどいる。共和国政府内部にも軍にも、だ。」
「夢くらい見させてほしい。」
渡されたレポートは悪夢に近い内容だ。本当に現実だろうか、これが?テロ支援国家ジオン共和国と言われても仕方ない。
確かに、1年戦争後とアクシズ戦争後の2度に渡り、壊滅的になったジオン共和国の経済を立て直す為、と言って共和国政府は法人税や所得税率を下げた。まあ、実際、それで外資系の工場も法人も入ってきたのだが…ペーパーカンパニーまで設立されて、資金洗浄に使われてしまっている。このままだと、ジオン共和国の中央銀行や銀行の信頼が無くなって大規模なインフレが起きるんじゃないか。
麻薬取引もある。コカや大麻や芥子は究極的には、空気と水と光と栄養剤があればできるから。サイド6や月面都市の麻薬カルテルがサイド3で廃棄されたコロニーとその汚水を利用して栽培されたそれを、コロニーデブリ回収業者が副業ついでにあちらこちらに密輸している。
おまけに福祉団体を装ったジオニズム啓蒙団体やダイクン信仰宗教法人まで…こちらは資金洗浄のために寄付金集めをしてるのか。いや、どうせテロリスト候補者の選抜と養成も兼ねてるんだろう。
…本当にウソであってほしい。こんな、どうすればいいんだ?たかが中佐に何ができる?そもそも何から手をかければいいんだ、これらは。
…いや、まだ間に合う。間に合うか?間に合わせるしかない。1億5000万人だ。この悪夢の道連れにさせるわけにはいかない。
取り合えず、軍による臨検を強化して……コロニー落とし対策として廃棄コロニーを目標にした艦砲射撃訓練でもして不正利用できないくらいにはコロニーを破壊しておけばなんとかなるか?どうかな?パプテマス・シロッコと中央参謀本部に掛け合ってみないとわからないか。
資金洗浄とかペーパーカンパニーあたりは僕にはどうにもできないから、金融庁と外務省あたりに通報かな。本当に、軍だけだとどうにもできない。まあ、ジオン共和国は「民主的な手続きで軍事政権」になったから多少の無茶は通してもらえるけど。
それで、相変わらずのジオニズム信者は、……本当に彼らは何も変わらない。
「ニュータイプによるニュータイプのための国家、か。ニュータイプの保護と健全な育成支援を目的とした民間の非営利福祉団体?誰が設立を許可したんだ?こんな怪しい目的で。」
間違いなく悪夢だった。厚生労働省か、文科省か、それともコロニー自治庁か知らないが、確実にまだ役人の中に或いは政権の中にジオニズム信者がいる。ザビかダイクンか知らないけど、まだ残党がいる。
ニュータイプ。人類の革新。
アクシズ戦争やその後に続く数多のテロリスト鎮圧を経ても、まだ僕らはこんなものに縛られている。
「厄介で呪わしい話だ。ヌーでさえ主要人物が掴めない。もちろん、私も、だ。」
苛立たし気にハマーンは言う。
「ハマーン、何度も言うけど危ない橋を渡るような真似はしないでくれ。二度と!本当に頼むよ。マイネちゃんやセーラさん、マシュー君にも心配をかけて…僕もパプテマス・シロッコもここまでの負担をかけたくはないんだよ。」
「100年の平和に付き合わせているのは私だ。エグザべ、私は愛する家族のためならば何でもする。お前と私は似ているのだから、分かることだろう。」
「そうだけど!しかし、いくら君の顔が知られていないからと言っても、ウィッグと化粧だけで誤魔化せるわけがないだろう!ヌー曹長が止めてくれて本当に良かった!」
今回の目的の一つは、ハマーンの無茶な行動への釘さしもある。彼女はよりにもよって、この怪しげな組織に単独で接触しようとしていた。地球上にある支部に、赴くつもりだった。
これを共和国軍の情報部から聞かされた時は、眩暈がした。ヌー曹長に会って事実だと言われた時は、心臓が凍るかと思った。
今日はずっと、僕が彼女に何度も説教をしてしまっている。いつもとは、逆だ。
いや、待て。なんで僕はいつもハマーンに叱られているんだ?…うん、まあ、でも、確かにハマーンは間違ったことは言わないから…情けないな、僕は。
「僕だって、戦後にパイロットだけしていたわけじゃないんだよ、ハマーン。共和国軍の情報部も育ってきている。ヌー曹長だっている。君だけが無茶をする必要はないんだ。家族のことを想ってくれ。」
「6年前のエグザべ・オリベに聞かせてやりたいものだ。」
「からかわないでくれ、ハマーン。」
「できることをしようとしただけだ。あの時、そう言ったのは誰だったか?…エグザべ、私は無力な女ではない。お前の目の前にいるのは100年の平和を謡った人間だ。」
「だけれど、ハマーンに苦労をしてほしくはない。」
「していないさ。…エグザべ、お前に貰った薔薇も順調に育っている。切り花でさえ助けと機会を得られれば、大地にも根付く。それを苦労とは言わない。」
顔を赤くする僕に、ハマーンは笑いかける。彼女の誕生日に渡した花束のことだ。
「花言葉なんて、店員に聞かされるまで知らなかったんだ。失望してくれ。」
「かわいらしい男だ、エグザべ・オリベは。」
薔薇とチューリップと百合くらいしか花の種類が分からないから、店員に言われるままに包んでもらった、と言った僕を許してくれる女性はハマーンくらいだ、と自分でも思う。
「また、薔薇を選んでくると良い。渡してくれる日を待っている。」
「……僕は青く光る海を、ハマーンと一緒に見られる日が待ち遠しいよ。」
僕はカミーユより子供だな。それを言うのが精一杯だった。
ニュータイプ同士の恋愛ってめんどくさそう…と思いながら書いてました。 編
少女漫画の知識を総動員しても俺に書ける恋愛ものはこの程度。
エグザベ……こいつ、恋愛とかそういう感情あるの?まあ、あるか。
ハマーン、弊SSではマイネちゃんのお母様だから自分の恋愛は二の次っぽい…恋愛への憧れはありそう。
ルウムのカミーユの一番子供っぽい所が「光り輝くモノに惹かれる」
ま、当たり前に17歳の少年なんでね、ルウムのカミーユも。
青く光る海も、蛍も、ツキヨダケも、ヒカリゴケの洞窟も、花火も。兄弟と親友たちとクラスメイト皆で見に行きたかったのは確かなんですよ。