機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
1年と8か月の長い地球連邦軍への派遣を終えたエグザベ・オリベを待っていたのは、ジオン共和国軍の陰謀だった。
平和とは次の戦争までの準備期間にすぎない、とかつて人々は言った。
その通りだ。
だが、その準備期間を延長することを端から諦めるほど、人類は潔くもなかった。
「本日、只今よりエグザベ・オリベは大尉へ昇進する。」
その言葉を告げられたのは、ジオン共和国軍中央参謀本部大会議室で、だった。
ジオン共和国軍の中央参謀本部はズムシティ中央官庁街にある。ギャン部隊がいくら参謀本部直属とはいえ、たかが中尉の昇進1つごときで中央官庁街にある国防省の共和国軍中央参謀本部にまで呼び出されるようなことはない。前例がない。
厄介ごとがあるからだ、と僕は悟らざる得なかった。
本来なら、僕らギャン部隊が駐屯しているズムシティ宇宙軍港基地司令のロト・ブロート大佐から昇進を告げられるはずなのに。
僕は2時間ほど前にズムシティ宇宙港に到着した。ヴェルザンディに派遣されていたギャン部隊と共に、そのまま宇宙軍港基地で帰投の報告と諸々の手続きを予定していたのだけれど、こともあろうにロト・ブロート大佐直々の出迎えがあった。
訳が分からないまま、僕は陸兵隊と憲兵に護衛されてまで、ジオン共和国軍中央参謀本部大会議室に召喚されたのだ。
いや、そこまで盤石の護衛がつく意味は分かっている。だってジオンだし、シャア・アズナブルは僕が殺した、という説が既に出回っている。それは分かっているけど、大げさが過ぎるのではないだろうか?
やはり、たかが昇進ではない、ということか。
会議室は満室で、上は大将から下は少佐まで参謀本部に配属されている軍人が揃っている。会議室の出入り口どころか、庁舎建物自体が陸兵隊によって完全封鎖もされている。
誰がどう見ても、ただ事ではない。こんなことしては、共和国政府も黙ってはいないだろうに。
「命令は一つだ。出世しろ。」
僕の心配もよそに、参謀本部はそう、簡単に言ってくれる。
だが、僕の希望通りでもある。出世しなければ、共和国軍をひいては共和国民を御しきらなければ戦争を防ぐことはできない。そんな立場と権限を持つために、僕は出世を目指さなければならない。
「はっ!必ずや、全身全霊をかけ、軍の期待に応えることを誓います。」
「無論、我々共和国軍参謀本部も地球連邦軍も支援と補佐を惜しまない。容赦なく、貴様の意向になんの関係もなく出世させる。この意味は分かるな。」
「はい。自分はより一層、地球連邦軍との協調路線を進めるためにジオン共和国軍の広報官の役目を負うものと愚考しています。」
ジオンに住む人間には『英雄』が必要だ。それは当然、地球連邦との協調路線を推し進める『英雄』でなければならない。
再戦派から『英雄』を出すわけにはいかない。シャア・アズナブルの復活なんて許してはならない。ジオニズムは宇宙から排除する。
そのために、僕はこれから共和国軍の『英雄』をする。それは既定路線だ。パプテマス・シロッコともヌー曹長とも約束してきた。
「少し、違うな。エグザベ・オリベ大尉。大尉への昇進と同時に貴様の身分は、地球連邦軍中央参謀本部所属特殊情報工作員に編成される。貴様の部下も1人残らず全員だ。無論、表向きはジオン共和国軍中央参謀本部付即応強襲MS部隊のままではある。が。…分かったな。そういうことだ。」
一瞬、言葉が出なかったのは僕の脳が理解を拒んだからだ。
まさか、共和国軍がそこまで画策しているとは考えてもいなかった。
「……共和国政府を、共和国民を敵に回されるのですか?」
反乱だ。軍が、政府の統制を拒んでいる。政府方針に真っ向から反逆している。中央参謀本部の会議室。満席だ。まさか、参謀本部の全員が…
「もっと踏み込んで言うのであれば、共和国政府自体が地球圏の、人類の敵だ。サイド3の人間が未だにザビやダイクンのテロリスト共に同情的で大なり小なり援助しているのは今更言うまでもない。国民が、人類を裏切っている。」
「我々、軍としては、滑稽なジオニズムなど捨てて地球連邦に再統合されたいわけだ。現時点で既に、サイド3は経済どころかコロニーの維持にさえ支障が出始めている。戦争を起こしたくない、というより、軍を維持する余裕もサイド3には微塵もない。いや、これも1年戦争以前から政府に訴えていたことだった。地球連邦に勝てるなどと幻想だと…言い訳にもならんな。」
「バハロ政権も本音は独立維持派ではなく、再統合派閥だよ。命惜しさに共和国独立と自治を美化して大衆に見せるだけしかできん男だ。まあ、奴らと手を結ぶことなど、今後一切あり得ん。テロリスト共と裏で繋がり、金銭的に支援していたなどと証拠を見せられては…。ザク改-Ⅲのバーニアの設計図までテロリストに漏洩していた議員がいる、と地球連邦軍から聞かされた時、我々が何を考えたか分かるだろう。実行するしかなかった。自治など、テロリストの巣窟であるサイド3では貴族趣味者の玩具にすぎん。」
何人か、アクシズ戦争の裏で強盗に殺害された、と報道されていた官僚や議員の名前が浮かんだ。
「諸君、暗い話ばかりでは呼び出した甲斐もないというものだ。我々の立役者に失礼だ。まずは出世したばかりのエグザベ・オリベ大尉と貴様の部隊に餞をやろう。喜べ。陸兵隊との共同任務だ。ダルシア・バハロの息子、モナハン・バハロの屋敷と関係施設を強制家宅捜索せよ。父親と違って、モナハン・バハロは公国再興派だ。」
ギャン部隊を、家宅捜査に?いや、強制?というのもよく分からない。軍にはそんな権限は…そもそも現首相の息子だぞ。政権との関係を悪化させては後々軍の不利になる。
そんな無法な任務を陸兵隊とギャン部隊に押し付けたくはない。
言葉に詰まった僕は軍人としては破廉恥漢だ。いつになれば模範的な軍人になれるんだろうか。こんな事ではパプテマス・シロッコどころか、ブライト艦長にさえ顔向けできない。
「戸惑うのも無理はないか。オリベ大尉。モナハンは私兵集団を組織している。無論、MSも所持している。恥ずべきことに強化人間の実験さえ行っているそうだ。詳細はこの後宇宙軍基地でロト・ブロート大佐から聞くと良い。我々の要望としては、ヴェルザンディの『聖都』がサイド3に到着する前に、モナハンも含めて『適当』に処理してもらいたい。今後、二度と問題を起こさないように。」
『適当』。その言葉の重みを軍人は知っている。軍で『適当』と言われたら、完璧に不足なく行え、と言う意味だ。
僕は今、どんな手段を取ってでも、モナハン・バハロの殺害を完遂しろ、と命令された。
軍が、現首相の息子を強制捜査し、殺害する。
いや、モナハン・バハロがMSを保持しているのも強化人間の実験をしているのは目も当てられないくらいの大問題ではあるけれど、捜査権も逮捕権もない軍が、裁判も無く殺害して良いわけではない。
「地球連邦軍には感謝しかない。よく、貴様のギャン部隊を返してくれた。戦功もたっぷりつけてくれた。おかげで、現政権に対して多少以上の無理を押し通せる。」
よく言う。僕のギャン部隊をアクシズ戦争で酷使したくせに。首都防衛や最前線でのフィラデルフィアの直掩なんて、本来の部隊運用想定から外れている。
僕はこれ以上、部下に泥を被せたくない。が、そういうわけにもいかないのか。
分かるしかない。サイド3はジオンに呪われている。軍も政府も国民も。
部下には、マリア達にも整備士達にも苦労を掛けてしまうな。だが、そうしなければ、サイド3はいつまでもジオンの呪いに囚われ続ける。
「現政権も軍の行動に口を噤まざるえない。奴らの後援者も支援者も、我々の政敵も、アクシズ戦争の陰で死んでもらった。軍が手に入れた情報は全て、地球連邦軍に売り渡した。政府はしばらく我々に手出しできない。」
「貴重な時間だ。有効に使わせてもらおう。エグザベ・オリベ大尉。貴様には真実、共和国の『英雄』となってもらう。失敗は許されない。ザビはシャア・アズナブルを許したが、我々は貴様に失敗を許さん。」
ここにいる全員が共犯者、か。或いは人類の生存圏全てがジオニズムを殺すための共犯者だ。
「はい。自分も、許されるなどと考えておりません。必ずや、任に堪えうると確信しております。」
『英雄』エグザベ・オリベの仮面は、どのくらい分厚く作られることになるかな?僕はその重さに耐えられるか?
まあ、大丈夫か。僕ひとりで被る仮面じゃない。僕ひとりで作る仮面でもない。
仮面を脱いだ、本当の僕を知っている人たちはたくさんいる。
僕を支えてくれる人たちの顔を思い出した。カミーユ、ファ、パプテマス・シロッコ、ハマーン。家族や友人たち。
それに。
会議室を見渡した。この人たちもそうだ。僕たちは共犯者だから。
「以上だ、エグザベ・オリベ大尉。武運を祈る。」
「は!ありがとうございます!」
人類を未来に生かす為に、僕らは間違った道を行く。
過ち続ける。正しいことだけで、正解だけの世界で生きていけない。
生きているからだ。
生きているのだから、生きていくのだから。
生きてきた僕らは、生きることが絶望だけではないことを知っている。
ヴェルザンディの『聖都』は、ティターンズの『ゼダンの門』のことですね 編
『ゼダンの門』の前身はジオン公国がかつて保有していた要塞『ア・バオア・クー』です。
現在、ヴェルザンディは『聖都』ごとサイド3へ引越し中。ジオン共和国にとってのGHQになります。やったぜ!
パプテマス・シロッコはジオン共和国に対して皮肉と嫌味で『聖都』と改名しました。
共和国側の報道機関とか、どう報道するんだろうね?「ギャン部隊、『聖都』訪問!」?
字面ヤバいな!
文民統制?本編内で速やかにお亡くなりになったでしょう。可哀そうに。
共和国軍「再統合派」VS共和国政府「独立維持派」
いつだったか、黄金拍車さんからかな?「ゾルタン・アッカネン」君を助けてほしいと要望があったので…はい、ナラティブRTA、GGでした!!おめでとティート君。カミーユ・ビダンと同年齢だね。頑張ってリハビリしてください!