機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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ミーム

ジュピトリスにある自室のモニタで、己が依頼した仕事の、その企画計画書を見て思ったことは、

 

「ちょっと、変じゃないか?予定と違う。」

 

と、言うことだった。本当に、本当に俺の予定とは違う。

仕事の委託先を間違えたのだろうか?こんな予定ではなかった、決して…

しかし、彼の実績は確かだったのだ。この6年間、売れ続けているネット記事『赤い彗星を語る!元カレ元カノが証言した赤い彗星の派手で破廉恥な性生活とは?!』を書いた記者だ。6年間も売れ続ける記事を書ける実力がある人間の企画計画書である。

 

その記者の彼は、俺の依頼に対して、

 

『前例がないと思われるほど完璧に遂行する。疑問はあるだろうが、1か月ほど世間一般の様子を観察していて欲しい。報酬はその後で構わない。』

 

と、メールで連絡をしてきた。実績のある人物の指示だ。従う、べきだ。いや、だが、しかし、これは、俺の予定と違い過ぎる。

本当にうまくいくのだろうか?こんな方法で?俺には判断がつけられない。

パプテマス・シロッコ大尉にも、相談できるはずがない。こんな……こんな…

 

 

 

 

 

 

大型資源採掘艦ジュピトリスで俺に与えられた仕事は、ジュピトリス艦長であるパプテマス・シロッコ大尉の補佐だ。誇るべきことに。パプテマス・シロッコ大尉は人類の存続と発展の為に、木星での過酷な任務を若くして任せられ、そして、それ以上の結果を我々にだって見せてくれた。

 

ジュピトリスがいつだって美しいのは、パプテマス・シロッコ大尉のおかげであった。

 

その、俺たちの誇るべき、人類最高の素晴らしい才能をもち、歴史に讃えられる立場であるはずのパプテマス・シロッコ大尉を不快にさせた奴がいる。敵がいる。

 

シャア・アズナブル。ザビの犬め。

 

ブライト・ノア。少年兵使いめ。

 

まぁ、ブライト・ノアに対してはまだ、手加減をしてやった。

彼自身が1年戦争当時、まだ未成年で、突発的トラブルに場当たり的対応をする程度の才能しかない人物だからだ。

そのブライト・ノアの不倫記事を書くように俺が指定したのは、ブライト・ノアの奥方がヤシマ家という名家のご令嬢だから、だ。これは地球圏に帰ってきてから知った。

1年戦争の英雄と言われているブライト・ノアの結婚と結婚生活は、戦後に長く報道特集されていた。それを見て、少し彼を哀れに思ったからでもある。結婚なんてプライベートなことだろうに。手加減するべきだ、と感じた。

 

だが、シャア・アズナブル!ザビの犬如きが。

許せることではない。人類の安寧と存続の為に許してはいけなかった。奴が何をしたか、木星にいた俺たちも、地球圏の人間もよく知っている。

人類の敵、ザビ家が掲げる選民思想を支持し、人類の半分が無残にも殺されたあの悲劇を支持した。

人殺ししか出来ない屑め。

1年戦争で戦死したふりをして、また人を殺せる機会を狙っていたか。

 

パプテマス・シロッコ大尉はグラナダへ1人で向かわれた。副官の俺はジュピトリスに残らされた。指揮官なら当然そうする。

しかし、無理にでもついて行っていれば。…パプテマス・シロッコ大尉のお立場を思えば出来なかった。出来るはずもなかったが、心はそうではない。常にお側で彼の邪魔を、彼に不快をもたらすものを排除したかった。

 

「……予定と大幅に違うが、パプテマス・シロッコ大尉ならば、俺が証拠を残さなければ気にされない、はずだ。」

 

実績のある記者の指示でもある。多少可笑しく思っても、専門外の人間が口出しをして上手くいくはずもない。たった1か月程度、様子を見るだけだ。

パプテマス・シロッコ大尉は懐の広い方だ。不快にまでは思われないだろう。大丈夫。大丈夫だ。

 

 

後に、件の記者が『ルウムの亡霊』と呼ばれるようになった事件。

その引き金は、俺が引いた。

 

 

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バスク・オムはこの地球圏で嫌われている。地球連邦軍の特殊部隊ティターンズに所属し、大佐の地位にいても。まぁ、恐らくティターンズ内でも敵は多いだろうし、民間からも嫌う人間はいるのだろう。サイド7グリーン・ノアを接収し、軍需工場化した事実は世間一般からも隠しようがなかった。

 

バスク・オムは間違いなく、多くの人間に嫌われている。

それを再認識したのは、エゥーゴで行われるようになった定期ブリーフィングで、インターネットの動画投稿サイトにバスク・オムの動画が投稿された、と情報部から報告が挙げられた時だ。

 

「いや、こんなものを見せられても。」

 

それしか言えなかった。言いたくなかった。

 

エグザベ・オリベは今、困惑の中にいる。対応策は、ちょっとよくわからない。

 

問題の動画をブリーフィングで流したアーガマ情報部の言い分は、

 

「このバスク・オムの動画がティターンズの秘密暗号である可能性を完全には排除できなかった。新設の情報部である我々は上層部の判断を仰ぐしかない。」

 

だった。

まぁ、その言い分は分からないではないかな。僕だって新任の、配置されたばかりの頃は、上官や先任軍曹に報告と連絡と相談を繰り返していた。彼らも根気強く、未熟な僕に応えてくれた。

それを思えば、僕たちも彼らに応えるべきだった。当然の職務として。

 

しかし、ブリーフィングルームにいる全員は混乱していて、誰一人応えると言う前に、モニタに映る動画の実在と、己の正気と、動画製作者の正気と、を疑うしかできていなかった。

こんなものが世の中に存在する理由って、何なんだ?

 

「目が。目が腐る!!」

 

「はーははははははははは!ひゃー!」

 

「やめなさいよ、これ、セクハラよ!」

 

ブリーフィングに集まった人は口々に言うが、誰も建設的なことは言えそうにもなかった。

 

モニタのバスクは首から下を艶めかしい女性のものに挿げ替えられ、水着姿でダンスを踊っている。ベッドの中で変な雄たけびをあげているバスクもいる。謎のエスニックな音楽に合わせ、腰だけを動かさせられているバスクもいた。

なんなんだ、これは?

こんな動画を作って、一体、何になるというんだ?リスクと利益が釣り合ってるのか?これ?

 

もしかしたら秘密暗号かも知れない、と連絡してきた情報部は褒めるべきだ。可能性がゼロであるとは、まだ言えなかった。

あまりにも、意味が分からない動画が数々、配信サイトに挙げられている。

 

「取り敢えず、取り敢えず動画、止めましょう!」

 

僕の指示に情報部は素直に従ってくれた。ボケっと見てしまっていたが、もっと早く止めるべきだった。しっかりしろよ、エグザベ・オリベ!

 

ブリーフィングルームに集まっていた人々が落ち着くまで、更に15分は要しただろうか。情報部は真面目でいい軍人達だ。その間に、追加で動画に関する情報をくれた。

 

なんでも、動画は毎日のように地球のアジア方面から投稿されており、連日、視聴回数が増すばかりで、地球連邦軍が動画削除をさせても直ぐコピーを別のアカウントから投稿されるので、もはや放置されているに近しい状態である、と。

個人で行う嫌がらせの割には熱意が入りすぎていて、悪ふざけで済ませていいものであるかどうか、判断が難しい、と。

 

正直、僕らはアジア方面の地球の人々の正気を疑った。1年戦争での被害も大きかった地域だ。海岸部の都市は7年経った今も復興どころか、瓦礫の撤去さえできる状態にない、と聞く。

だが、どうして、ティターンズのバスク・オムに対する嫌がらせを動画配信サイトで行っているのか?と訊かれれば、分からない、としか言いようがなかった。

 

「まあ、今のところはバスクに対して個人的な恨みを晴らしている、と判断していいんじゃないかな?自分の身の危険も顧みずに、こんな手段を取るなんて、本当は止めるよう説得したいけど。」

 

というか、もしかすると、地球連邦軍もとっくに誰が最初の投稿者か掴んでいて、一度くらいは説得したのかもしれない。インターネットだ。できないことではない。だが、バスク・オム動画が溢れているという現状が、目の前にあった。

 

バスク・オムには敵が多い。連邦軍内であっても。そう、判断できる。

それは、収穫だった。情報部の大手柄だった。

 

 

 

 

 

 

バスク・オムはネットミームと言うものになったらしい。あれから2週間たった今も彼は、地球圏で肖像権を奪われ続けていた。

地球連邦軍は、イタチごっこのように動画削除をしていて、しかし、それも全力では行われていないようだった。この見解も情報部があげてきた。

 

バスク・オム、どれだけ周りに嫌われているんだろう。

 

何でティターンズが士気を維持できているのかすら、分からなかった。それが恐ろしい。

士気を維持できる『何か』がある。意見具申をした。

 

「グリプス宙域の観測を強化しましょう。バスク・オムが屈辱を受けても静かにしすぎています。ありえません。所属する技術士官2名を子供を傷つけるために殺し、更には知人であるという事だけで人質にしようと監禁までした人間です。」

 

異常な人間だ。

ガンダムMk-Ⅱを執拗に追わせたことも。だって、ガンダムMk-Ⅱは量産機のはずなのだ。グリーン・ノアには3機あった。もちろん、正体不明の組織に奪われて良いものではない。ないが、ならば、追手の戦力が合わない。もっと本気で追うべきだった。しなかったか?それとも、それより注力するべき何かがあって出来なかったか?

深刻な疑問だった。

 

 

 

 

 

それから、1週間も立たないうちだったと思う。今度は、シャア・アズナブルがネットミームになった。

彼はジオン公国の軍人だったので、誰も動画を削除しようとはしなかった。当然、ジオン共和国も、だ。

この情報も、ブリーフィングで情報部から知らされた。また、動画を流したのだ。

 

「この動画が、ジオン共和国或いは、ザビ残党の秘密暗号であるか否か、上層部の判断を仰ぎたい。」

 

などと、殊勝なことを言っていた。

そんな、もっとも風なことを言いながら、ブリーフィングルームで流している動画は、シャア・アズナブルが……いや、思い出すのさえ止めておこう。バスクミームと同じくらい、酷かった。

クワトロ・バジーナ大尉がブリーフィングに参加することが少ない、とはいえ情報部も随分と大胆な手段をとるものだ、と僕は感心した。

 

 

 

動画配信サイトからシャアミームを削除しなかった代わりに、ジオン共和国政府は、

 

「戦死者への敬意を忘れないでほしい。」

 

と、シャア・アズナブルの名前にさえ言及しない程度の発言を行った。

 

共和国にとって、ザビ家とその関係者は戦争責任と人類虐殺の全ての罪を負い、未来永劫糾弾されるべき敵であった。だとしても、この発言を全世界に向けて行った。共和国政府としては異例のことだ。

この7年間、共和国政府は、ザビ家とその関係者を執拗に糾弾し排除することしか出来なかった。事実として、かつて、国民はザビ家を支持していたからだ。国民を護るために、そうしていた。

 

この異例の発言。シャア・アズナブルを庇ったと見れば良いのか、それとも、切り捨てたと見れば良いのか。微妙なラインだ。仮にも、僕の本国であるというのに。

 

 

 

 

 

「いいかい?カミーユ、ファさん。ちょっとね、これは、こういう動画は未成年の教育に良くない、本当に良くないんだ。まだ、君たちには意味が分からないヘンテコなだけの動画に見えるのかもしれないけど、本当に良くないよ。だから、頼むから保護者フィルタをかけさせてほしい。」

 

僕の部屋で勉強しているはずの2人がそれを見ていたことに気づいた時は血の気が引いた。どうも、無音で視聴して僕がいつ気づくか試していたような感じはするが、それでもバスクミームとシャアミームは、大人として先ずは視聴を止めるよう説得するに値した。

 

特にシャアミーム。知った時は、パプテマス・シロッコが本当に周囲に慕われている事と彼の周囲にいる人々の怒りの深さを知った。

 

ちらっとだけ、パプテマス・シロッコも怒っていたのかもしれない、と考えたが、まぁ、彼ならシャアミームはしないだろう。怒りで暴走する周囲に任せて何も知らされていない、と言うところかな?

実際にはパプテマス・シロッコに聞いてみないと分からないけど。

 

「エグザベ中尉、でも、改めて見るとシャアってクワトロ大尉に似てるんですよ。ほら、ここ、耳の形とか!」

 

カミーユが生意気にもこう言う。精神的に余裕が出てきた証拠と思えば喜ばしい事だったが、バスクミームとシャアミームは大人として視聴を止めるように説得すべきものだ。

 

「エグザベ中尉、私はカミーユを止めたんです。でも、カミーユが。」

 

「ファ、裏切るのかよ!ファだって昨日したじゃないか!」

 

汚染と言うものの深刻さを知った。

 

 




ジュピトリス艦載員暗躍編

ブライトの話暗すぎたからね。ちょっとだけ、ひとつまみだけコメディーしようって。

そしたら、こんなことになってしまって。カミーユとファに可哀想な事をしてしまった。

俺は罪人だ。酷い悪人だ…子供に、幼気な子供にネットミームを見せるなんて。なんて酷いやつなんだ。許されていいはずがない。…自分が、憎い。
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