機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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宇宙世紀に新たな風が舞い込んだ。

それを呼び込んだものは『ジュピトリス』と『ルウムの亡霊』。

ほんの僅かな心の迷い、「もう、どうなってもいいや!」という気分が宇宙に嵐を巻き起こす。

誰も、それを凶風などとは考えなかった。


打ち上げ

パプテマス・シロッコとしては、人生で初めてかもしれない困惑を味わっていた。

 

1月程前、副官ハイファンは例の無礼者達への報復措置について、私が確認する必要は無いし関わるべきでない、と言いきった。

何事も胸襟を開いて話し合ってきたハイファンらしからぬ言葉だったが、ティターンズとの交渉もあり、そのまま捨て置いた。彼ならば何の問題もなく、報復を遂行できると確信していたからでもある。

 

しかし、地球圏全体に報道されるまでの騒ぎになれば、私も知る事になる。それは、このパプテマス・シロッコでさえ、想定していない報復の方法であった。

長年付き合ってきた彼の、ハイファンの正気を疑う。あってはならない事だが。

 

ハイファンは苦渋の表情で、私に全てを打ちあけてきた。地球のアジア方面に住む記者に、シャア・アズナブルのゴシップを流すように依頼したのは己だ、と。企画計画書を事前に読み込んでいたにも拘らず、これほど反響が大きくなるとは想像だにしていなかった、と。

 

「パプテマス・シロッコ大尉。全ては私の責任であります。予測を、人の悪意を甘く見ました。貴方の副官としては、わたしは、俺は失格です。破廉恥な男です。」

 

「人の悪意、か。」

 

地球の友、エグザベも言っていた。人の悪意、それは予想外の事を引き起こすと。騙し、陥れる、人の悪意。

その悪意の発露が、このような形になるとは。確かに予想外、ではある。

 

ここ3日は連日、謎の動画に関する報道が続けられている、らしい。ハイファンが言うには動画の再生回数がランキング形式で紹介されるようにもなってしまった、と。

もはや当たり前に、事態はハイファンのコントロール下にない。委託した記者もコントロールする心算はない、と言っている。

人々の悪意の下に、無秩序に問題の動画は増殖を続けていた。

悪意もまた、人の意思か。

 

「エグザベ・オリベも、貴様と同じ言葉をいう。人の悪意は恐ろしいと。なるほど、よくわかる。」

 

品性と正気と良識と司法と治安と、様々な物が欠けている今の地球圏。そこに生きる人々がこのような動画に喜んで、そして拡散している。

 

私としては非常に嘆かわしいと思うが、これが現実、か。生きている人々の、生の感情の発露の形か。

まずは、この現実を受け入れる度量が無ければ、人類を導くこともできまい。

 

「この様なものが凡俗共の流行になるとは。人々は余程、未来に希望を得られず、争いの続く俗世に倦んでいるようだ。娯楽を与えるのもまた、施政者の役目かもしれん。気に病むな。ハイファン、貴様は良くやった。」

 

様々なものを飲み込み、そう、ハイファンに伝えたのは、このパプテマス・シロッコとしても少々、この騒動に小気味良さを感じたからだ。木星を世捨人の世界などと嘲笑う者共が、他人に敬意を払わない者共が、凡俗に笑い者にされている事を、大変俗っぽい感覚でそう捉えた。

 

「確かに、パプテマス・シロッコ大尉に仰せの通り、このような低俗な娯楽さえ必要とされる世の中です。人々の、この騒ぎようも異様に思えます。しかし、一方で、この騒ぎに心躍っている私もいるのです。品の無い言いようですが、ザマァ見ろ、と。いえ、言葉が荒くなりました。」

 

鼻で笑う。そう、忘れていた。私も、このパプテマス・シロッコも同じくそう思ったのだ。ザマァ見ろ、シャア・アズナブル、バスク・オム。

 

他に収穫もあった。ジオン共和国だ。

ここ最近、数多のネットミームが作られていた。数多の人間の肖像権が侵害されていた。

無論、ザビ家の者も例外では居られず動画配信サイトに無様な姿を晒すことになった。

 

その時に至って、ジオン共和国政府が異例の宣言を出したのだ。

 

「ザビ家は人類全ての敵であり、特に選民思想を前提にした宇宙移民、地球人に対する無差別虐殺は未来永劫許すべきではない。この様な動画を用いて、彼らの罪を軽く見せるような、コメディ化する真似をジオン共和国は激しく批判する。」

 

この発表が行われた当日に共和国政府施設全てが、ザビ家残党やサイド3国民により物理的に破壊されても、おかしくはない発言だった。

だが、共和国政府の発表はあって、今だ彼らは無事であった。

 

 

 

 

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アーガマの艦長、ブライト・ノア大佐の精神的不調もようやく収まりそうになったという時にこの騒ぎか。

 

今日の訓練を終え、僕とカミーユがアーガマの格納庫で反省会をしていた時だった。最近はガンダムMK-Ⅱのコクピットで、一緒に映像記録を見ながら指導している。

 

カミーユにはこの所、模擬訓練のサーベルを盾で受け止める練習をしてもらっている。やはりコクピットも強く揺れるし負担が大きいようだ。少し受け止める練習を少なめにして、無手でサーベルを避ける訓練を入れるべきだろうか?いや、そこまで、彼を危険に晒す予定はないが。

 

でも相手はティターンズだしなぁ。

そんな事を考えながらカミーユの集中力と対応力の良さを褒めていた時に、アーガマに小型輸送船が着艦したのだ。ブリーフィングでは全く周知されていない、予定外の着艦だ。

 

慌てて、身を乗り出し事態を確認しようとしていたカミーユをコクピットに押し込み閉めさせる。自分の身を護らせるために。

 

誰が乗っている?何が乗っている?

 

自爆攻撃の可能性は常にある。艦橋からの連絡もない。どういうことだ?

格納庫にいた作業員には一時退避の指示を出した。

 

一応、僕はこれでも指揮官で戦闘員だ。状況を確認する義務がある。護身用の拳銃を抜いて、ガンダムMK-Ⅱの足の陰に隠れて様子を伺う。

直ぐに小型輸送船から人が出てきた。女性と3人の子供、それと割と強めの拘束を受けた男性が3人くらいの連邦軍人に守られるようにして。

 

「憲兵と医療班を呼んでくれ。」

 

取り敢えず、今の僕に出せる指示はそれくらいだった。

拘束された男性は、アムロ・レイ大尉だ。

 

地球連邦軍において最重要人物の1人。

地球に居るという噂は僕でも聞いてはいたのだが、何故か彼は今、アーガマに連れてこられていた。

 

 

 

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この戦艦アーガマにアムロ・レイ大尉が連行されてきた経緯は、まぁ、子供の僕には馬鹿馬鹿しいと思えた。

 

アムロ大尉は、ガンダムMk-Ⅱが、『ガンダム』がグラナダにあると聞いた在地球の反ティターンズ派閥によって香港で拘束され、何も聞かされないまま宇宙に打ち上げられたのだそうだ。ブライト・ノア艦長の家族と知人の子供と一緒に宇宙に打ち上げられてきた。

そう、何も聞かされないまま、アムロ大尉は『ガンダム』で戦わされる予定だった。反ティターンズ派閥の連中の、思惑の中では。

 

カミーユはちょっと考えた後、この話をしてくれたエグザベさんに聞いた。

 

「……犯罪ですか?」

 

「犯罪だよ。関係した軍人および関係者全て、軍事裁判行きだよ。」

 

特に主犯は死刑判決の可能性すらあると。つまり、ブライト・ノア艦長がこの騒動の主犯とみなされれば、アーガマ艦載員全てが関係者とみなされるかもしれないと、までエグザべさんは言った。

 

次いで、アムロ・レイ大尉は地球連邦軍にとって最重要人物の1人で、常に護衛に守られているはずだ、と教えてくれた。1年戦争の英雄だ、という理由でジオン公国軍の残党に命を狙われているのだそうだ。アムロ・レイに関する情報にさえ懸賞金がついてる、とも。

そのアムロ大尉が誘拐されて『ガンダム』のパイロットを強要されそうになっていた、というあり得ない異常事態にエグザべさんは頭を悩ませている。

 

「まぁ、ティターンズも搦め手を使ってきたのかも。軍の司法からエゥーゴを攻めてくるには充分な材料だ。」

 

最近、ティターンズは地球圏でも宇宙でも評判が悪い。僕としては、ザマァないぜ!と爽快な気分だけれど。

 

ジオン共和国は例のネットミームの流行に対して、ザビ家の罪業を軽く見せるような真似を許さない、と声明を発表し一定の理解を得た、らしい。ザビ家ミームは減少傾向にある。ネットニュースでそう書いてあった。

シャアミームは別だ。ザビ家ミームの代わり、とでも言うように増えている。

 

バスクミームもシャアミームと同じで毎日新しい動画が投稿されていた。シャアとティターンズは世間一般の理解を得られていない、らしい。

 

実際、バスクミーム動画のコメント欄は常に炎上していて、ティターンズの評判を地に落とし、一般人との間に深い溝と争いを作っているようにみえた。

 

「どうにも、軍人が何も考えずにこんな手段を取るとは考えにくい。最悪のパターンは想定しておかないと。もちろん何も考えてなくて勢いで行動して、アムロ大尉を誘拐した可能性もなく……いや、ないか。」

 

エグザベさんは机に積まれた書類の厚さに向き直り、続きを読み始めた。なんでも、合法か最悪、事故扱いにできないか判例を探しているらしい。

暫くは訓練も休みだけれど、アーガマを絶対に離れないように、と指示された。ファも同じだ。搦め手を使う人間と自分は相性が悪いからと。

 

僕はこうなると特にすることもないので、エグザベさんの部屋で勉強する事にした。少しだけ。アーガマ艦内はどこもかしこも大騒ぎで、邪魔をするわけにはいけなかったからだ。

 

 

 

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アムロ大尉誘拐事件が解決したのは、憲兵と情報部とデッキクルーのお陰だった。僕は、とにかく出来る範囲で判例に使えそうな事例を探すしか出来なかった。あるわけがないのに。

僕は混乱していただけだ。情けないな、エグザべ・オリベ。

まあ、しかし、パンはパン屋と言うことなのだろう。プロは本当に頼りになるし、素晴らしかった。

 

どう決着がついたかと言えば簡単だ。

アムロ大尉とその他民間人4名を誘拐してきた連邦軍人は、グラナダ港内に停泊していたアーガマに許可なく無理やり着艦した。艦橋にはその通信記録と映像が残っていて証拠として提出され、誘拐犯は全員、エゥーゴの情報部により身元から過去の所属まで全て明らかにされ、憲兵はそれらを元にアーガマを無関係と判断した。

 

問題はどうやってグラナダ基地に停泊しているアーガマの場所を把握したのかと言うことと、どうやってグラナダ港内に入ってきたか、だ。

港の管制から許可なく、港内には入れない。そのはずだ。

 

総合して考えてみるとどうも、アーガマ内かその周辺に身元を明かさない協力者がいるようだった。

 

「かなりの異常事態だ。カミーユ、本当は君をこんな不安にさせること言いたくない。ファさんにも。…でも、まだ、しばらくは僕の目の届く範囲にいてほしい。衛生班にも話は通しておいた。誰かを通してカミーユとファに指示することは絶対にしない。僕が必ず直接連絡する。憲兵がダース単位で捜査に入るからそう長くかからない…かからないと良いけど。」

 

「僕とファは大丈夫です。エグザベ中尉の言っている意味わかります。心配してくれてるんでしょう?」

 

カミーユは、気丈にそう、返してくれた。ファさんも戸惑ってはいたが了承してくれる。

 

こんな子供たちを不安にさせるな、エグザベ・オリベ。カミーユを、ファさんを見ろ。彼らは頼りない僕でも、こんなに信頼してくれている。それに応えられなくて、何が大人だ。人間だ。

 

「私も、他の人に迷惑かけないのなら……カミーユが一緒なら良いです。エグザベ中尉さん。でも、ブライト艦長のこと、心配です。」

 

ブライト艦長のことは僕も心配していた。彼はこの事件の後、家族とアムロ大尉と面会し、その場で過呼吸を起こし前後不覚に陥った。

今も容体は安定せず、艦長室では彼の家族とアムロ大尉が交代しながらブライト艦長に付き添っている。

 

また、1つ腑に落ちない疑問を思い出した。その艦長室にクワトロ大尉が入り浸っていることだ。僕としては有り難いし、ずっとそうしていてほしいが、ブライト艦長と彼の家族、戦友のアムロ大尉の間にズカズカと入り込むのはどうしてなのか?そして、どうして、アムロ大尉たちは拒絶しないのか?

 

納得する理屈が思いつかなかった。




スレでは
「クソMADが流行る地球圏 クソMADに困惑して副官を呼び出すシロッコ クソMADについて己の破廉恥さを詫びる副官 クソMADにブチキレるジオン共和国
なにもかもコメディくさいのになにもかも真面目で草」というコメントを頂きました。

マジでそう。関係者全員、真面目にコレをした。結果、こうなった。

報告を打ち上げる、という表現は初めて聞いた。ので、使ってみた。




護衛と監視、それは表裏一体の関係です。

「恨みと過去は水に流して忘れる」と言う日本人の真面目で優しい精神は世界では通用しません。現代にいたっても。
ましてや、宇宙世紀です。宇宙世紀、なんですよ!と声を大にして言いたい。言った。
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