機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
終戦から7年経った今、アムロ・レイは再び『ガンダム』に乗り戦うことを求められた。
戦争を生き残った、かつての少年を逃がすつもりはない、とでもいうように。
アムロ・レイはなんのために生き残ったのか。
それは、何のために戦ったのか、を問う始まりでもあった。
最近、このアーガマに誘拐されて連れてこられた子供が3人いる。ブライト艦長とミライ夫人の2人の子供、ハサウェイ君とチェーミンちゃん。それから、カツ・コバヤシ。
カツは、ガンダムMk-Ⅱに乗る僕にとても、とても生意気に突っかかってくる面倒くさい奴だった。
「なんでガンダムに乗っているのに、戦場に出ないんですか?そんなに戦場が怖いんですか?あなたは臆病者なんですね!!」
挨拶もなく、初めて会った時の第一声がこれだ。僕はエグザべさんと訓練の帰りにアーガマの廊下を話しながら歩いていて、カツだけが突然廊下の角から飛び出してきて僕に掴みかかるようにしてこれを言ったのだ。
よく僕がガンダムMk-Ⅱのパイロットってわかったな。と感心してちょっと出鼻を挫かれてしまった。まぁ、クワトロ大尉辺りかな?と思ってしまったのは、実績からだった。
エグザべさんが来る前のアーガマはおかしい所だった、と今の僕には分かっている。
その場はエグザベ中尉と憲兵と、錯乱し憔悴しきったブライト艦長の泣き落としでお流れにしたが、次会ったらゲンコツくらいしても怒られないんじゃないかな。
いや、エグザベさんは怒るか。年下だもんな、カツは。
年下には優しくしてやらないといけないもんな。
そのカツ・コバヤシはここに来てはや3日、問題行動を起こし続け、とうとうブリーフィングの際にも話題になったらしい。既に複数回、無断でMSに乗って出撃しようとしている、らしい。
ここ、グラナダ港内なんだけどな。出撃ってどこにだろうか?1人で出撃?誰と戦うつもりなんだ?
ほんのちょっと前には自分もしていたことだったけど、それを棚に上げて、僕はカツを信じられないものをみる目で見ていた。
僕、カミーユ・ビダンは反省したから、もう絶対、二度としないから。本当、エグザベ中尉と約束したから。訓練は増やさないでほしい。
「憲兵もずっとカツを見張ってるのに?どうやって?」
誘拐されてアーガマに来た子供の1人なのだ、カツは。憲兵は彼やブライト艦長の家族の身の安全を考えて四六時中、護衛をつけてくれている。
憲兵は大変な仕事なんだなぁ。事件の捜査をしたり、護衛をしたりしている。エグザべさんが教えてくれたところによると、他には兵站や捕虜の管理なんかもしていたりするらしい。たくさんの色々煩雑な仕事が軍にはあるんだそうだ。
「困ったことに、あの子、人を撒くのが上手なんだよ。他人を殴るのも全く躊躇してないみたいだ。殴られた憲兵が言ってるのを聞いた。」
エグザベさんが弱ったように、そう言う。珍しいことだった。
整備士も他の艦載員もカツの突発的な行動には気をつけてはいるが、やはり拘束するしか無いと言う結論に落ち着きつつあるそうだ。拘束…でも、それでも、MSに乗って勝手に戦場に行ってしまうよりは、ずっとずっとマシなはずだ。
だって、人を殺さなくて済むじゃないか!
ブライト艦長は大丈夫だろうか。ここ最近ずっとそれを思っている。地球に居ると思っていた家族はアムロ大尉と一緒に謎の軍人に誘拐されて、月のグラナダ基地にまで連れてこられてしまった。もしかしたら、ティターンズとの戦場になるかもしれない、グラナダ基地まで。
「彼らの協力者も、まだ見つかっていないのに。こんなありさまでは。」
と、慌てたようにエグザベさんは口を両手で塞いだ。
最近ちょっと分かってきたけど、エグザべさんは弱りきってるときに、ちょっとだけ口数が多くなる。それでも、本当に隠しておきたい事は慌てて誤魔化そうとするけど。
多分、そろそろグラナダ基地からティターンズへ攻撃を仕掛けないといけないのに、そう出来ないということを僕にぶち撒けそうになったんだ。
そういう話は、他の艦載員が言ってるから、僕だってファだって知ってるのに。
そう、僕とファの故郷グリーン・ノアが、ティターンズの軍需工場グリプスへと変わり果ててしまったことも、もう知っている。それ以上に不穏な何かがサイド7にある、という噂だって、アーガマに居たら嫌でも知ってしまう。
戦いが、近い。アーガマは戦艦だから。
カツ・コバヤシを拘束することに反対してるのは、まぁ、お馴染みのクワトロ大尉、だ。皆が言っている。クワトロ大尉1人の反対で、カツはまだ拘束されていないしアーガマの内部をあちこち歩きまわれている。それが許されていた。クワトロ大尉の判断だけで。
カツの護衛についている憲兵ですら、彼に対して思うところがあるようだ。憲兵ってアーガマ所属じゃなくて、地球連邦軍内の独立した部署なのに。カツとクワトロと聞けば、彼らは一様に顔を顰めるようになった。
だけど、僕には同情の視線までくれる。憲兵も最初、アーガマに来たばかりの頃はエグザベさんと僕に否定的だった。僕がアーガマで少年兵をしているからだ。でも、バスク・オムの存在が彼らを納得させてしまったのだ。
彼らは職務に忠実で、だからこそ横槍を通すバスク・オムが嫌いなのだ、とエグザべさんは言う。
「戦えない人はどいてくださいよ!」
いつも通りエグザベさんとの訓練でガンダムMk-Ⅱに乗り込む僕を、押しのけようとしたのはカツだった。
パイロットスーツも着ていない?!慌ててコクピットの入り口で揉み合いになった。だって、パイロットスーツも無しに何をする気だったんだ。僕だって慌てるさ。
僕とカツ、2人してコクピットから落ちそうになった時に、素早くカツの服の後首と右手を押さえ、コクピットから引きずり下ろしたのがエグザベ中尉だ。
ちょっと怒っていた。
ほっと安心したときに、撒かれたのであろう憲兵と一緒にアムロ大尉が格納庫に入ってくるのが見えた。
あれが、アムロ・レイ大尉。どこにでもいる、普通の男の人に見えた。
「エグザベ中尉!迷惑をかけた。カツ!!お前、ブライトが大変な時に!」
「だって、なんで皆戦いに行かないんです!モビルスーツもあるし、ガンダムだってあるんですよ!ティターンズを倒さないで遊んでるだけですか!大の大人が!戦うことさえ出来ないって言うなら!!ニュータイプの僕がやるってだけのことなんです!!」
「こいつ!!」
アムロ大尉が、カツを殴ろうとしたのを、エグザベ中尉は止めた。何をするか分かってたんだろうけど。
運のいいヤツめ。
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ガンダムMk-Ⅱに乗り込もうとするカミーユを追って、コクピットに近づくカツを見た時は本当に肝が冷えた。肝が冷えるってこんな時に使うんだな。
パイロットスーツも無しに、MSに乗るのは自殺行為に近い。だって、宇宙だぞ!例外はあるかも知れないけど、僕はまだしたことない。
特に、子供に、そんな無謀なことをさせるつもりもなかった。
アムロ大尉が、カツを殴るのを止めたのは彼が子供だったからだ。見た目よりも、年齢よりも、ずっと子供だからだ。
殴っても反発するだけで、殴られた自分を正当化するのにより必死にMSと戦闘に執着するだけで意味はないと分かった。
ここ数日、彼の問題行動を整備士やパイロット達、情報部と話し合って、少しだけ彼、カツの事が分かってきた。
彼はニュータイプである自分に特別感と優越感を感じつつ、ニュータイプは戦わなければならないという強迫観念に近い義務感と焦燥感に振り回されている。
「軍人が戦場に立って戦うのは、それが命令だからだよ。」
僕はカツに静かに語りかけた。
「命令?!命令がなきゃ動けないんですか?頭って何のためにあるんです。大人のくせに、じぶーーー!!」
カツの口を塞いだのは、整備士の1人だった。アストナージさんだ。彼もこの所、カツを気にしていた。心配してくれていた。アストナージさんは、MSは子供のおもちゃじゃない、と言うことを分かってくれている。
「軍人にとって『命令』は絶対だ。決して、軽視してはならないものだ。『命令』が無いまま行動するなんて許されてはいけない。軍人にとって『命令』は、本来、社会で絶対に許されない行為を許可するものでもあるからだ。……絶対に許されてはいけないこと。他人の人権を、生存権を、財産権を蹂躙するためにあるのが『命令』だ。許されないことを国が、政府が『命令』によって許可する。僕ら軍人はそれを確実に遂行する。国民を護るために考え抜かれて、対策をうてるだけうって、それでも仕方なく国からだされる最後の手段が『命令』だと信仰している。それが軍人は『命令』を絶対視する理由だよ。」
できるだけ静かに聞き取りやすいように気をつけて、大切な事を話した。
「君は、モビルスーツで戦いたがっているけど、モビルスーツには人間が、乗っているんだよ。人間が乗っている。僕が言っている意味は分かるかい?」
カツは僕の話を聞いても、体全部を使って暴れるだけだった。アストナージさんでさえも、振り回されそうになっている。だが、整備士は力持ちも多い。彼もカツ程度の子供は抑え込んでみせた。
そこへ、憲兵も遅まきながら加われば、カツも暴れず大人しくするしかない。
でも、彼は何人もの大人に押さえつけられながらも、僕の眼を見て啖呵を切ってきた。
「当たり前だろ!知ってますよ!敵が乗ってるんだ!ニュータイプの僕なら敵を殺せるんだ!僕はモビルスーツの訓練も実戦レベルで受けてる!地球でも戦ってきたんだ!!ティターンズなんて敵、今直ぐにでもやれるのに!!邪魔をして!!」
深呼吸をした。この年の子供が、14か15歳くらいであろう子供が、モビルスーツの戦闘訓練を受けている?地球では戦闘も行った?
目の奥が痛い。苦しかった。
「カツ、君が本当にニュータイプだって言うなら分かるはずだろう。モビルスーツに、人間が乗っていることを。その、本当の意味だって。だって皆、知ってることだ。」
MSに人が乗っている。カツは分かっている、と言うが、彼は正しい意味を教えられていない。
人は、1人で生きてはいない、ということを。MSのパイロット、敵だろうが味方だろうが、誰にだって家族や友人、戦友たちがいるということを。
敵にだって大義と事情があって、感情があって、生きているということを。
教えられていないまま、戦闘訓練まで受けさせられたのか。誰に?
「エグザベ中尉、その辺で、勘弁して、やってくれ」
後ろからアムロ大尉に声をかけられるが、悪いが無視する事にした。ちょっと声が震えているような?
しかし、今は子供を、カツを優先しなければならない。
「ニュータイプは、ニュータイプなら『命令』もなしに人を殺して良いって君に教えた人、誰だい?君にモビルスーツの操縦を教えて、戦場で頑張ってほしいって言ってくれた人を教えてほしい。」
僕の問いに、カツは応えた。大人に押さえつけられたままでも、元気に、カツが本当に心から誇りに思っていることが見て取れた。
「養父です。ハヤト・コバヤシです!ホワイトベースのクルーで、一年戦争の英雄の1人です!」
僕は、カツを抱きしめてやるしか出来なかった。
怒りで震える自分の腕と奥歯をごまかすために、そうした。
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僕とファはエグザベさんの部屋に居た。
あの格納庫での大騒ぎの後、カツは営倉入りになった。アムロ大尉は崩れるように床に座り込んで、そして声も出さずに泣いていた。整備士なんか、口を押さえてトイレに駆け込んでいく人もいた。皆、辛かった。僕も悲しかった。
彼は、カツは父親に兵器にされた。
エグザベさんの部屋にいるのは、僕とファがそうしたかったからだ。そうするべきだ、と思ったからだ。
彼は、営倉まで憲兵と一緒にカツを送り届けると、格納庫に戻ってきて今日は申し訳ないけど休もうと言ってくれた。白い顔に無理やりに微笑みを張り付けて、僕にそう、言ってくれた。
だから、この部屋にいる。ファも付き合ってくれたのは、それ程の大騒動だったからだ。艦内で知らない人間は居ない騒動だ。
部屋で何をしているかと言うと、僕らは2人してエグザベさんに抱きついていた。ぎゅうぎゅうにしてやった。力が強いとか、アバラが痛いとか言ってたけど、気にせずにした。やがて、エグザベさんはため息をつくと、
「ありがとう、カミーユ。ファさん。」
と言って、僕たち2人を抱き返してくれた。温かかった。ファとエグザベさんと抱き合っているのは温かくて、安心できた。きっと2人もそうだ。
忘れて欲しくないし、忘れたくない。温かいと言うことを。支え合うということは温かいと言うことを。僕はファとエグザベさんとずっと、ずっと支え合っていたい。
アムロ、フレンドリーファイア喰らう 編
息できてる?アムロ?大丈夫?アムロ?
ブライト、大丈夫?生きてる?大丈夫?まだ生きてる?
頑張れ頑張れ!アムロ!ブライト!
俺だったらとっくにあの世へGOしてるような状況だけど
頑張れ!!アムロ!ブライト!
頑張れー!頑張れー!