機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
彼は7年間、地球に居た。
地球のアムロの屋敷へ、7年ぶりに幼馴染であるフラウ・コバヤシが、カツ、レツ、キッカの3人の戦友を連れて会いに来てくれた。ハヤトとの子供を妊娠していたフラウの姿は、アムロの心を激しく動かす。
停滞していたアムロ・レイを剥き出しにされたのだ。
アムロは戦場へ戻ることを決意した。
『戦場へ戻る』ことを。
ガンダムMk-Ⅱのコクピットにパイロットスーツを着た少年がいるのを見た。急に走り出したカツを追って、アーガマの格納庫に駆け込んだ時だ。1年戦争の、ホワイトベースの格納庫に似ているそこに、『ガンダム』に似せたMSがある。コクピットが開いていて、そこから少年が下の様子を覗き込んでいた。
ヘルメットをしていて、顔が見えなかったが、そうか、彼が、カミーユ、カミーユ・ビダン。
人をふん縛ってまで、月へ運ぶなんて、とても正気の沙汰じゃない。両手は縛られ、腕ごと身体をグルグル縄で巻かれて座席に固定されたんだぞ、こっちは。おまけに靴は脱がされ捨てられて、両足も椅子にガムテープで固定されて、人を何だと考えてるんだ。
手錠でないのは、まぁ、それで殴ったからだと知ってるが、ここまでされて、なんで殴らないと思う?
俺とミライ達を誘拐した犯人たちの目的地は月の裏側にあるグラナダで、そのグラナダ基地に停泊中のアーガマだった。ブライトが強襲用宇宙巡洋艦アーガマの艦長に着任したのを聞いたのは、香港に到着しミライ達と合流したときだ。ミライから、ブライトがエゥーゴに参加したことも聞かされた。
「アムロ……アムロ!!なんで、宇宙に!もう、もう、戦わなくて良い!アムロ、戦わなくていいんだ!!」
だが、そのブライトは俺の顔を見るなり、そう、言って過呼吸で倒れた。縛られた跡の治療をしてくれた医療班の1人が、ブライトが体調不良にある、とだけ教えてくれた。
あのブライトが?
あんなに来たくなかった宇宙なのに、そこに無理やり連れてこられたと言うのに、俺はもう、それを忘れていた。
ブライトの言葉と必死の表情が、俺にそれをさせた。
「宇宙に来たのに、戦わなくていい?」
宇宙に来たのに。敵が、ティターンズがいるのに。宇宙移民が虐待されているらしい、というのに。俺は戦わなくていいのか?俺が戦わなくて大丈夫なのか?
あいつらは、俺を『ガンダム』に乗せるために、グラナダまで連れてきたというのに?
困惑と安堵が、同時に胸に押し寄せてくる。
俺は、俺が分からなくなる。宇宙を想う時、そして、かつての戦いを思い出そうとするとき。自分の感情が分からなくなる。
俺は、何がしたいんだ?何をするべきなんだ?
シャア・アズナブルにも会った。彼はクワトロ・バジーナ大尉と身分も名前も変えたらしい。MSのパイロットは続けている。エゥーゴのMS部隊の総指揮を執る立場にある、と言った。
それを、ブライトが療養している艦長室の片隅で聞かされた。
「シャア、か。」
「もう、使えん名前だ。クワトロ、と呼んでくれ。」
何も答えなかったのは、俺にも良心があったからだ。例の動画を見たことも言わなかった。良心がそう、させた。
「俺を、いや、あの小型輸送船をグラナダにいれたのもお前か。」
「気に食わないか。親切心からしたつもりだが。」
飄々と言ってのける。
「ああ、気に食わない。が、ブライトの体調不良に気付かず地球でのうのうとしていた事
を思えば。…礼を言う。ありがとう、シャア。」
「クワトロ、でいい。アムロ、お前と私の仲ではないか。」
正直、1年戦争で殺し合いを続け、互いに取り返しのつかないことをしたさきに別れただけだ。
死んでいるとは思わなかったが、考えてみればシャア・アズナブルとアムロ・レイはただそれだけの仲なのだ。
俺に、返せる言葉はなかった。
そんな俺を見たのか見ていないのか、シャアは言葉をつづけた。
「グリーン・ノアで、カミーユ・ビダンという少年にあった。アムロ、彼はお前によく似ている。才能豊かで、将来が楽しみな少年だ。彼を見て、アムロ・レイにもう一度会いたいと思った。」
「グリーン・ノア。あそこはティターンズに。」
「帰る場所を無くしたことも、よく似ている。あの頃のアムロ・レイに。」
俺に似ている少年?俺をカミーユに会わせるためだけに、あんな大がかりな騒動を起こした?
いや、俺と会うためだけに、あんな手の込んだことを?
「俺はこの7年、地球で、重力の井戸の底に縛り付けられていた。お前が思っているような男じゃない!」
「だが、香港まで来たんだろう。連邦の監視の目を見事に欺いた、と。活躍は聞いている。」
「ああ、ハヤトやミライさんの危機だったからな。だが、香港から月まで輸送されるなんて思わなかった。なんだ、このやり口は?」
俺の苦情にもシャアは答えない。
「ここまで、お前についてきた少年。カツ・コバヤシだったか。彼もまた、ニュータイプの才能に目覚めていると見た。」
「…カツは、あいつには地球は窮屈すぎる。宇宙にあげてやりたかった。父親も希望していたし、な。」
俺の言葉を聞いて、シャアを含み笑いをした。俺を出し抜けたことを笑ったのか。重力の底に縛られ続ければ、他人を笑う気になどなれないだろうに。
それから一言二言話したか?
シャアは、カミーユの才能を伸ばしてやりたい、と言った。今その機会を握り潰されていると。ニュータイプを、新時代の可能性を重力に縛り付けようとする人間がアーガマにもいる、などと嘯いた。
機会。機会を握り潰される。それは、俺もこの7年間、感じていた。機会がないと。
だが、何をするための、何をしたいのか、何のための機会を俺は求めているのだろう。考えようとしても、考えられずに日々をやり過ごしてきた。
俺は、俺自身のことさえ分からないままで、ただ、機会がないとだけ頭の中に感じ続けている。
月にまで上がってきたのに、俺が思うのはララァ・スンの事よりもブライトの体調のことだった。戦わなくていいという、ブライトの必死の形相と言葉だった。
ガンダムMk-Ⅱのコクピットの中に1人の少年がいる。
『ガンダム』のコクピットに。
アムロ・レイがかつて居たそこに、今はカミーユ・ビダンが、いる。
普通の大人の軍人は、少年兵を使わない 編
シャアがアムロを誘拐するか否か。
俺はしないわけがない、と思った。スレでも、「シャアはそんなことしない」と誰も言わいませんでした。
経緯はそれだけです。某ゲームでシャアがアムロとブライトたちを誘拐したことは、X徘徊していて後から知りました。ここでは関係ないです。
ご承知おきください。