機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

19 / 138
アーガマの中で変化が起きていた。

ブライト、アムロでさえもその影響からは逃れられない。

ニュータイプであってさえも。


宇宙に打ち上げられたアムロは、己の過去と向き合うことを余儀なくされた。

カツとブライトの姿がそう、させたのだ。


第一歩

エグザベさんの部屋にファと2人で出入りするようになって、ちょっと変わった事がある。エグザべさんの部屋に折りたたみ式のローテーブルと大きなクッション2つが置かれるようになった事だ。

その前の、エグザべさんの私物と言えば、チョコ味のお菓子くらいなものだった。あと、インスタント泥水。

 

部屋の扉はいつも開け放してあるし、人の出入りも多いが、居心地は良かった。静かで落ち着いている。学校の図書室のようだ。あまり、利用したことはなかったけれど。

 

エグザベさんの部屋にアムロ大尉が来たのは、あのカツによる大騒動の次の日だった。何人かの護衛を引き連れて、やけに疲れ切った顔でアムロ大尉は部屋の外からエグザべさんに声をかけた。

 

「こうして、ご挨拶するのは初めてですね。お互い、事情聴取やら何やらで遅れてしまいました。申し訳ありません。自分が、エグザベ・オリベです。」

 

僕たちは部屋を出たほうがいいかな、と思って片付けようとすると、エグザベ中尉はこっちを振り返って僕らを止めた。

 

「でなくていいよ。憲兵にも立ち会ってもらうから。アムロ大尉、貴方の立場を考えれば、そうした方が良いでしょう。まだ、貴方がたを、あの小型輸送船をグラナダ港に入れた人間がアーガマ近くにいるかも知れませんので。不快に思われるのは承知ですが、いざという時、身の潔白を証明できるものが必要です。」

 

つまり、僕とファを心配して、部屋を離れないでいいように手配してくれたのだとわかった。

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

エグザベ・オリベ中尉は俺より年上だったが、階級は下だった。

 

「自分は、1年戦争に参加していませんので。今の階級も人手不足が原因です。任に耐えられる自信はありますが、時折、不相応になってないか、不安にもなります。」

 

つまり彼は、普通の人間だった。

 

部屋の中には憲兵が2人。1人は立会で、もう1人は記録係りをしている。他にはカミーユ・ビダンとそのガールフレンドか。エグザベ中尉のベッドに2人して上がり、勉強しているようだった。戦艦の中で勉強。

自分があの年の頃、果たして、していただろうか。生き残る為のものではなく、生きて生きて、戦後でさえも生き抜いていく為の勉強を。

そんな機会は得られなかったか。いや、得られたとしても、それどころではなかった。

 

機会。その言葉が頭をよぎった。

 

この7年間、それが欲しかった。何のために欲しかったのか、分からないままだ。

ニュータイプが切り開く未来を夢見た?俺が、か?

 

ララァ・スンを殺してしまった。彼女の未来を奪った。俺が、ララァの未来を奪ったんだ。それが取り返しのつかない現実だった。

そんな俺が機会など…未来など…

 

「昨日は、カツが済まなかった。エグザベ中尉。」

 

エグザべ中尉は俺に椅子を薦めてくれた。代わりに折り畳み式の椅子に座っている。俺を気遣ってくれたのか。

 

「いえ、構いません。彼も急にグラナダまで攫われてきて、親と離れて焦っていたんでしょう。……戦場に子供を送り込む人でも、子供にとっては親なんです。こんな情勢でなければ、……1年戦争前なら対応してくれる慈善団体もあったのでしょうが。」

 

「1年戦争前か。」

 

その1年戦争ですら、遠いものになってしまった。そう感じるのは、俺が戦場から離れたせいか。いや、やはり、わからない。

 

「悪く言う人も多いですが、それでも、子供を戦場に出す事に忌避感を持つ人々は今よりもっと多かったはずです。…失礼しました。無論、自分も大尉のご苦労は知っているつもりです。」

 

「構わない。言いたいことは分かる。俺を責めている訳でもないことも。」

 

分かる。昨日、エグザベ中尉がカツに言ったことを覚えている。

ニュータイプは命令なく人を殺していいのか?軍の命令が何のためにあるのか。

エグザベ中尉は、恐らく教本通り、教官の教えの通りの言葉をカツに分かりやすく伝えたのだ。

 

一方、俺は香港までの道程でカツに何をさせた?カツに命令が出来る立場でも無い俺が。責任も義務もなく、俺はカツに香港へ行く手助けをさせた。人を、殺させたのだ。

 

フラウ・コバヤシ。幼馴染の、もうすぐ子供が生まれるフラウ。彼女の元から引き離してまで、カツに戦闘をさせた。フラウもハヤトも望んだことだから、と。カツを宇宙にあげ、ニュータイプの未来を切り開かせる、そのために。いや、それを言い訳にして、俺は…

 

「俺は、無責任な人間になっていた。カツは親元から引き離すべきではなかった。ついて来たがっても、君のように諭すべきだった。俺に代わって諭してくれたこと、感謝している。」

 

ララァ・スンを、ニュータイプを殺したのは、ニュータイプの俺だろう。

戦場に立つべきではなかった女性を、俺は殺した。ララァ・スンと俺は、殺し合った。

それは大きな、取り返しようのない過ちだと、分かっていたはずなのに!!

過ちで切り開かれたのは未来ではなかった。人の革新の時代ではなかった。当たり前だ。

 

子供を戦場に立たせて、それを殺し合わせ、どうして未来が切り開かれるものか!

 

機会。未来を、子供たちのための未来を切り開く機会が欲しかった。

 

子供たちに、俺とララァのような辛い経験をさせない未来を切り開きたかった!

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「小型輸送船を、俺をアーガマまで連れ込んだのは、クワトロ・バジーナ大尉だ。昔、まだシャア・アズナブルと呼ばれていた頃の奴とは戦ったことがある。」

 

アムロ大尉のその言葉に、僕の部屋の誰も驚きはしなかった。カミーユ達も憲兵も。

クワトロ大尉がシャア・アズナブルであることは、シャアミームが流行して部屋から出て来なくなった彼の態度によって皆が察していて、アーガマでは公然の秘密になっていた。

 

「まぁ、そうでしょうね。クワトロ大尉はエゥーゴの代表、ブレックス・フォーラー准将とも出資者のアナハイムとも関係が深い。ここ、グラナダは元々、ジオン公国が占拠していた月面都市です。シャア・アズナブルにならば手を貸そうとする人も多いでしょう。」

 

「知っていて、放置するしか無いと。」

 

アムロ大尉が少し驚く。そう、気持ちはわかる。今は、クワトロ大尉の暴走を見て見ぬふりしか出来ない。

 

「証拠が掴めません。いえ、自分がではなく、憲兵の皆さんが動いてないことから、そう、勝手に判断しました。すみません。」

 

僕の言葉に憲兵が苦い表情をする。失礼な事を言ってしまった。彼らだって職務に忠実なだけなのに。もし、彼らがそうでなかったのなら、治安など守れはしない。

 

「クワトロ大尉は、ジャブロー、いえ、本当は地球に降りたかったんでしょうね。だから、ジャブロー攻略に執着した。アムロ大尉に会うためにそうしたんだと、あなたが来てから、僕はそう理解しました。」

 

「…ジャブローに降下するなんて正気の沙汰じゃない。」

 

アムロ大尉が吐き捨てるようにして、言う。

僕も、他の人もそう思った。だから実現しなかった。

 

「アムロ大尉はシャイアンにいたんでしょう?前に、エマ中尉が教えてくれました!」

 

と、突然、カミーユが会話に入ってくる。また、ファさんにマナーがなってないって怒られることになるのに。

 

「カミーユ!」

 

直ぐにファさんの鋭い叱責の声がとぶ。あとで、僕からも注意しておこう。後で、というハンドサインを送ると、カミーユは渋い顔をして教科書に戻った。全く。

 

「……シャイアンに、フラウ、幼馴染が突然来た。カツの養母だ。軍の監視が甘くなったので、日本へ行きたい、と。俺に日本行きの航空券を手配してほしい、と。カツを宇宙にあげて、ニュータイプの未来を切り開く力をつけさせたいとも、言っていた。」

 

気になる点はいくつかあった。日本行きのチケットの手配?ニュータイプの未来?わざわざ直接、アムロ大尉に打診しに来た?

いや、それらよりも気になることがあった。

 

「軍の監視?」

 

「ホワイトベースのクルーは全員バラバラにされて、軍の監視下に置かれていた。有名な話だろ?」

 

アムロ大尉はそう、教えてくれる。

監視?護衛ではなく監視、と感じていた?もしかして、アムロ大尉はジオン公国軍の残党に賞金を懸けられていることも知らないのだろうか?僕でさえ知っていることを?

いや、共和国政府が地球連邦と満足に交渉できていないから、か。しかし、ジオン公国軍の残党は今も地球で、武装盗賊団やテロ行為をしている。地球連邦軍が知らないわけがないんだが。

 

そうか。1年戦争の終戦当時、彼は今のカミーユと同じくらいの年だった。確か15か16歳?正規訓練も受けていない天才パイロットで戦争の英雄である少年兵。そして、彼と同じ歳くらいのホワイトベースクルー達。つまり、ほとんどが子供だったのだ。

戦場から生きて戻れた子供たちに、大人は伝えることを戸惑ったのだろう。戦場の英雄は恨まれ続けることを、伝えることを戸惑った。

 

あの頃の地球連邦軍は、確か、正規教育課程を受けかつ前線の現実に理解のある将校たちを多く戦死させてしまっていた。後方の将校には短期教育で任官させられた将校も多かったと聞く。上層部も混乱している中の戦後7年間、アムロ・レイとその戦友達は振り回されるばかりだったのだろう。

 

護衛と信頼関係を築けなかったのも、仕方がない。

 

後々、アムロ大尉には憲兵から、現状の説明があるだろう。どっちにしろ、こんな異常事態だ。彼の護衛は増強される。

 

「軍の監視が甘くなったから、シャイアンのアムロ大尉の元に来た?接近禁止命令も出ていたんですか?」

 

そう尋ねるとアムロ大尉は否定した。よくわからない。アムロ大尉もフラウ氏も監視を受けていた。お互い、それを知っていたのに、フラウ氏は会いに来た。

日本に行くために?カツ少年を宇宙へあげるために?お互い監視を受けている立場なのを承知で?

 

そもそも、軍の監視が甘くなったとは誰が、彼女に教えたと言うのか?

 

「クワトロ大尉の手も、思ったより長いみたいですね。」

 

「まさか、信じたくはないが。」

 

アムロ大尉は本当に心から、それを信じたくないのだろう。悲しい目をしていた。かつての戦友を裏で操る人間が、それも、アムロ大尉に会うためだけに、それをする人間がいるなど、あまりに彼の置かれた状況は悲惨すぎる。

 

彼には休養が必要だろう。暫くは、自分の感情と向き合う時間が。それにカツ・コバヤシ。

 

「とにかく、今のアムロ大尉のお立場は誘拐事件の被害者です。軍事裁判もありますし、先ずはそれに備えて体と心を休める事が肝要ですよ。…もし、余裕が出てこられたら、カツ・コバヤシ、彼と話をしてあげてください。7年、離れていた間の話を聞いてあげてほしいですし、カツ君もあなたから聞きたいでしょう。互いに上手に話そうとしなくてすむのは、戦友達に与えられた特権ですよ。」

 

僕でも、時間をかければカツの孤独に寄り添うことは出来るだろう。しかし、彼はまだアムロ大尉以外を望まない。

 

アムロ大尉のほか、カツが必要としている人はそれこそ、実の両親か。

 

クワトロ、シャア・アズナブルはカツに似ていると思った。

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「7年間、地球で俺は何もなせずに暮らしていた。」

 

そうだ。1年戦争が終わってから、ずっとシャイアンで、偶にブライトやその家族との面会が出来るくらいで、ほとんど孤独に過ごしてきたのが、アムロ・レイだ。惨めな俺だ。

 

「7年では、1年戦争の傷を癒すためには短すぎます。」

 

エグザベ中尉は俺と目を合わせてそう言う。

 

「傷を、癒す?」

 

「地球連邦にとっても、宇宙移民にとっても、まだ短すぎるんです。戻ってこないものがあることを受け止めるには、まだ時間が必要なんでしょう。」

 

「しかし、俺は。」

 

「自分は宇宙産まれの宇宙育ちです。地球へは一度も行ったことはありません。でも、分かることはあります。地球は2度もコロニーを落とされ、戦場にもなり、海流や大気までもが激変したと。まだ、地球が1年戦争の傷から回復出来ていないように、人の傷も。…地球に縛られたのではなく、傷ついた地球に寄り添っていた、と考えられてはどうですか?」

 

アムロ・レイは傷ついた地球に寄り添っていた?ただ、地球で連邦軍に不満を抱き、与えられた屋敷と監視を兼ねた使用人と日々をやり過ごすしか無かった、この俺が?

 

だが、傷ついた地球という言葉が宇宙移民のエグザベ中尉の口から出るのは不思議だった。

 

「まだ、短すぎるんです。…僕の手も同じです。短い。ならば、届く範囲から始めればいいと、昔の友達の受け売りですけど。」

 

「今はカツが俺の手の届く範囲か。」

 

あの1年戦争、あの後別れて再会した時には面と向かって俺への失望を露わにしていたカツ。可哀想なカツ。

両親から引き離したのが俺なら、責任をとるのも俺の役目か。

 

カツを戦場から連れ戻す。あの、1年戦争から。

 

それが、子供たちのための未来切り開く第一歩になるはずだ。

 

 

 

 




アムロ覚醒

やはり、アムロ。アムロしか勝たん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。