機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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シャア・アズナブルが行方をくらませた。

そのことはエグザベ・オリベになんの驚きも与えなかった。
カミーユ・ビダンにも。

だが、残されたエゥーゴ後援者のメンバーには大きな衝撃を与えた。

ウォンの拳が、今、奔る!


人類の敵

憲兵が険しい顔で、アーガマの艦長室に10名ほど詰めている。

 

グラナダに帰港してすぐのことだ。艦載員は一定のスペース、つまりデッキや会議室、整備士の詰め所などに集合させられ、アーガマ自体が憲兵と連邦軍に囲まれている。

 

他所から見たら、僕らがこれから連行されるように思えるかもしれないが、違う。

 

「クワトロ・バジーナが憲兵の追跡を振り切り、逃亡しました。容疑は、未成年者略取です。」

 

ブライト艦長が倒れ、残りのアーガマ艦載員は全員、声も出せなくなった。

そんなこと、とっくにクワトロはやっていた。カミーユに対してだ。

 

「ついでといっては何ですが、ブレックス准将の死を確認しました。准将の遺体は、ダカールの共同墓地に身元不明の死者として一時安置されていました。今は、ダカールの連邦軍人墓地に。」

 

憲兵のその口調から、少し怒りを感じる。ブレックス准将を共同墓地へ置き去りにしたクワトロへの怒りか。

 

そして、ブレックス准将、やはり、亡くなっていた。護衛だったはずのクワトロは何を考えて、准将を共同墓地に運んだのだろうか。

ブレックス准将の死をできるだけ隠したかったとでも?本当に隠せるとでも思ったのか?彼はクワトロの恩人で同志だったはずだ。

 

その恩人に対して正式な葬儀もせず、ただ、共同墓地に置いた。彼としては心の中で弔ったのかもしれない。

自分だけ、そうして満足して、恩人の遺体を隠して宇宙に上がろうとしたのか。

 

「これより、地球圏全域にクワトロ・バジーナを国際指名手配にかけます。あなた方には、まず供述調書を取らせていただく。エゥーゴ関係者すべてに、誰一人例外なく。」

 

憲兵は本気だな。

これは時間がかかりそうだ。

エゥーゴは既に憲兵にも地球連邦軍上層部にも、ティターンズのソーラレイについては通報している。と、いうことは、何かエゥーゴ以外に別の方策を試しているのか。

或いは、エゥーゴを動けなくした、とティターンズのバスクに見せて、油断を誘っている?

 

「エグザべ・オリベ中尉は別室へ。中尉から供述を取ります。」

 

仕方ない。ブライト艦長は気絶したため、僕を含め数人でベットに運んだし、クワトロに詳しい順とか、なんかそんな感じなんだろう。

 

 

 

 

供述を取られる部屋は、パイロット用の居住スペースの空き部屋だった。

憲兵が乗っていたアーガマだ。とっくに艦載員や戦艦の使用状況などの詳細は調べてあって本部に報告されていたのだろう。

 

中にも外にも3人ずつ憲兵が詰めていた。知らない顔ばかりだ。癒着を嫌ったのだろう。正規軍はこれだから、信用できる。

 

「クワトロ・バジーナはシャア・アズナブルだということは、艦載員全員が知ってましたよ。シャア・アズナブルがネットミームになったおかげです。」

 

部屋の椅子に座り、開口一番に僕はそう言った。

アーガマにおいて一番重要な情報だった。全員知っていた。憲兵もあのネットミームは把握しているだろう。とても、子供に見せられない、いかがわしい作品も含めて。

なんなら、最初の投稿者も知っているかもしれない。

いや、知っているか。憲兵だ。

 

「でしょうね。いえ、そうではなくて、エグザべ中尉、今回は助かりました。あなたのおかげで、テロ組織カラバを我々、憲兵で検挙できた。」

 

傷だらけの顔でニコニコ笑いながら年嵩の、いかつい男の憲兵が僕と目を合わせてそう言う。数多の苦難を乗り越えてきた、乗り越えるしかなかった頼もしい軍人の姿だ。まさしく軍人の鑑のような人なのだろう。

 

「僕としては、バスクとティターンズの暗部も早く検挙していただきたいものですが。」

 

真面目で頼りがいのある憲兵には、ついそんな愚痴のようなものが出てしまう。

 

クワトロの『アムロ・レイ』への執着心は並大抵のものではない。カミーユに対しても、そうだ。両者を護らなくてはいけないのに、身動きが取れなくては困る。

それならせめて、雲隠れしていないバスクくらいは、身柄を抑えてもらいたい。

 

「我々も、エグザべ中尉と同じ志です。バスクは、憲兵にとって仇なので。」

 

バスクが仇、ということは、そうか。過去にバスクを検挙しようとした憲兵たちは。

 

「すみません。恥知らずなことを言いました。」

 

「いえ、彼らもあなたのような若者でした。きっと、同じ思いです。」

 

こんな立派な人に、僕は気を遣わせてしまった。こんなに人を思いやれる軍人に。

 

「ですが、今の問題はクワトロ・バジーナです。まだ、憲兵としても未成年者略取の別件逮捕で手を打つしかできませんでした。」

 

優しい人だ。話題を本題に戻してくれた。

そう、未成年者略取の容疑とは何か気になっていた。カミーユに対してではなく?いや、カミーユを軍属として扱うように書類を手配したのは僕だけど、それとは別に?

 

「5歳の幼児を2人、武装組織カラバのシャトルに乗せたようです。シャトル自体はサイド1のスウィート・ウォーターで捕縛できたのですが。クワトロは航宙中に予備の救命艇で別れたらしく、幼児2人を連れて行方不明です。」

 

5歳?5歳の幼児?2人?

 

「クワトロは、地球の周回軌道上でアーガマかラーディッシュに乗り込む予定でいました。ブライト艦長を始め、エゥーゴの総意として戦略上の必要を感じなかったため、フォン・ブラウン市に正規の手段で入港するように連絡をラーディッシュのヘンケン艦長が行いました。連絡のため、グラナダに帰港する前に一度、短時間だけ周回軌道上に出たことは報告書にも上げています。…幼児のことも、同伴者がいることも僕らは聞いてません。その連絡の時すら、何も言わなかった、報告がなかったんです。情報部と憲兵の立会いの下で、クワトロに指示を出したので記録音声がとってあります。」

 

クワトロ、アーガマに幼児を乗せようとしたのか?!何のためか、もう、わかる。怒りで手が震えている。憲兵も気づいているだろう。

 

クワトロ、シャア・アズナブルはアーガマでホワイトベースを再現するつもりだった。本気で。

 

ブライト艦長、守るべき幼馴染、ハロ、そして幼児。

 

知っていて、揃えたのか?偶然か?僕には、そこまでわからない。

シャア・アズナブルは逃亡を決める直前まで、そのつもりだった。あるいは逃亡してからも機会を、こちらの動きを伺っているのか。

確実にそうしている。まだ、狙っている。それが、分かった。

 

「まだ、クワトロは機会を伺っています。アムロ大尉かカミーユか。両方かもしれない。彼らの身柄を狙っています。幼児2人を解放していない。それが根拠です。」

 

間違いなく、盗んだ戦艦に幼児を乗せているだろう。

 

誰が戦艦一隻と艦載員を奴のものにするために手を回した?資金だって必要だ。

 

敵がいる。人類の敵が、いる。分かるだろう、エグザべ・オリベ。

 

己の欲望のために、子供を戦場に連れて行く人類の敵。

 

誰かが、脳にささやくように、そう呟いた。僕の声だった。眼を閉じる。17歳の僕が、僕にそう呟いていた。

 

 

幼児を乗せた戦艦が戦場に出るかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憲兵の供述調書取りという名の情報交換が終わり、僕は自室で考え事をしていた。扉は開け放しているが誰も来ないだろう。全員待機だ。

カミーユとファも護衛付きで自室にいる。憲兵からの厚意だった。

 

ブレックス准将は射殺されていた。宿泊していたホテルの一室で。現場の清掃はされていたが、痕跡は見つかった。

憲兵の努力の結果だった。

ホテルの廊下の監視カメラには暗殺者も廊下の護衛1人が射殺される様子も映っていたという。もちろん、数名の目撃者も。ホテルと目撃者たちは、クワトロに金を、インゴットをつかまされて黙っていたようだ。犯行の全ては、クワトロがホテルにいない間の出来事だった。

 

護衛をするつもりは無かった、と、憲兵も僕も判断するしかない。

 

クワトロ、シャア・アズナブルが宇宙のどこかに逃げだした、ということは驚きではない。いつかは、そうするだろうとは思っていた。

思い通りに動かない手足はいらないと考える人だ、と感じていた。そうでなければ、僕を殺そうとはしない。意味がない。

 

ブレックス准将にも、それを感じたのか?己の手足のように動かせないと考えたから、殺した?いや、死んでもいい、と考えた?だから、護衛を放棄した、と考えるのが自然か?

いや、でも、クワトロは生きている。殺されていない。無事だった。ブレックス准将の暗殺の裏にクワトロがいる?

ティターンズやバスクの手口と違う。まさか。

 

アムロ大尉が心配だ。シャア・アズナブルはアムロ・レイに異常な執着をしている、と僕も憲兵も見解が一致している。可哀そうに、アムロ大尉の自由はますます無くなることだろう。

彼が気を病まないといいんだけど。

まだまだ活発に物事に取り組みたい年齢だろうに、身の安全のためにそれを諦めなければならないなんて、どれだけ無念だろうか。

 

アムロ大尉は戦いたくない、と考えているように見えた。

当然だ。誰にとっても一年戦争の傷は深い。

 

軍に関係する大学の工学科とかMS開発とか、軍人であっても戦場に出ないで済む進路はある。経理や情報将校もそうだ。まだ若いアムロ大尉には様々な希望を持つだけの権利があるのに、シャア・アズナブルのために潰されるだなんて、惨すぎる。

 

憲兵を通して、アムロ大尉に提案してみるのも悪くないかもしれない。だが、今ではないか。

 

「シャア・アズナブル。宇宙に動乱を起こして、何がしたいんだ?」

 

分からないのはそこだ。何がしたい?

アムロ大尉を見つけるためだけに、彼を戦場へ引きずり出すためだけにテロ組織を作った、というにしてはエゥーゴは小規模だ。

 

ホワイトベースを再現するつもりでいたとしても、カミーユを始め全てが行き当たりばったりで計画性があるとは思えない。

運よく見逃されただけで、初期の頃に全力でティターンズが潰しにかかってきたら、とっくに終わってた。

 

そうか、見逃された。エゥーゴは見逃されたのか、誰に?

 

怪しい動きをしていた奴がいる。思い出せ、エグザべ・オリベ。

シャア・アズナブルの他にも、僕に理解できない動きをしていたジャミトフ大将。バスク?まあ、バスクもそうか。ジャミトフとバスクがわざとエゥーゴの増長を見逃した。

 

ジャミトフ大将。彼はティターンズの総統の立場にありながら、コロニー落としの蛮行もG3ガス使用も止めなかったし、その後、関係した軍人を守る行動も何一つしていない。むしろ、積極的に手駒であった彼らを軍事裁判で切り捨てているという。

情報部はこんなニュースも僕に持ってくる。パイロットってなんだったかな?

 

それから、ソーラレイとアクシズと本国とジュピトリス、か。彼らの情報もわざわざ持ってきてくれた。僕をブライト艦長と同席させてまで。

実に、丁寧な扱いをされている。しなくていいよ、と言えたらいいが、ブライト艦長の体調は一進一退だ。まあ、気長に付き合っていくしかない病だ。心の傷はそうだ。僕で力になれるのであれば、やるべきことをやるだけだ。

 

やるべきことの一つ、というかやりたいこともあった。ジュピトリスのパプテマス・シロッコに会いに行きたい。

難しいことに見えて、今となればそうでもない。適当に理由を作れば、何とかなるだろう。理屈がつけば、予算も人員もつくのが軍だ。

 

そして、僕もパプテマス・シロッコも地球連邦軍の管轄にいる。ティターンズとエゥーゴ、敵味方であっても地球連邦軍の管轄だ。

 

幸い、ジュピトリスも不可解な動きをしてくれている。これは、パプテマス・シロッコも僕を誘ってくれているのかな?

ジュピトリスはサイド2コロニー群のほうへ移動し始めていた。サイド7のグリプスから離れて、月周辺のサイド2へ。ティターンズから離れて来た、というのは僕の欲目かもしれない。

 

加えて、そう、アクシズも月周辺を目指して、アステロイドベルトから向かってきていると言う。

アクシズは、戦中戦後の10年未満の月日をかけてジオン公国とその残党が開発した小惑星だ、とシャア・アズナブルは把握していたらしい。

何故、黙っていたのか?シャア・アズナブルが失踪した今、これはウォン氏がアーガマに伝えてくれた。

 

ウォン氏はとうとう、アナハイムエレクトロニクスの会長を『修正』したらしい。ニュースで見た。『修正』現場を目撃されて、その場で緊急逮捕された、とのことだが、即日保釈された、と報道は言っていた。警察も『修正』したのだろうか?

 

ともかく、ティターンズとジュピトリスとアクシズとエゥーゴの四つ巴の戦闘になるのは絶対に避けるべきだ。

 

特にジュピトリス。あれは、人類のための船だ。人々が生きていくための船。僕の友人であり、命に敬意を払うパプテマス・シロッコの船だ。

僕の手が届くのなら、守りたい船だった。

 




簡単な現状



ジュピトリスのパプテマス・シロッコは、ドゴス・ギアを借りパクしている状態です。

シャア・アズナブルは地球圏を逃亡中です。

ウォン氏は即日保釈されました。
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