機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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木星と地球。

往復するだけでも最短4年の距離。

通信するだけでも40分かかる距離。

遠く無関係にさえ思えるこの距離でさえ、人と人の情の間には関係ないのだろう。


パプテマス・シロッコとエグザベ・オリベ

 

「平和な時代なら良かったと、本当に思う。」

 

艦長室についてそうそう、エグザベ・オリベがこぼした言葉に思わず笑ってしまった。

私もそうだ。

このパプテマス・シロッコもエグザべと平和な時代で語り合っていたかった。しかし、戦乱の世だろうと、お前と私であれば、できることもある。

 

「お前と私で、それを作る。それでは満足できないのか?強欲なエグザべ。」

 

「そうかもしれない。僕自身はそう思ったことないけど。…そうだな、僕は強欲だ。パプテマス・シロッコと共に戦えるのに、欲張りすぎてた。」

 

「お前は価値のある人間だ。もっと望めばいい。」

 

ここまでのことを私に言わせるのだ、エグザべ・オリベ。お前も私に応えて見せろ。

 

「平和のために戦いたいっていう大望も、パプテマス・シロッコとなら叶う。僕は幸せ者だ。」

 

「お前が望めば。私の大望も叶うだろう。ジュピトリスと木星の安寧も。」

 

やはり、お前は私の友だ。地球の友。共に未来を切り開き、世界に平穏をもたらすことを野望にする。

強欲なお前と私こそ、世界を導くに相応しい。

 

「やっぱり、ジュピトリスはサイド2の造りかけのコロニーに?」

 

ジュピトリスのことを想ってくれていたか。この人類の未来のための船。地球圏に帰って来た今、大きな問題を抱えていた。

 

「ヘリウム3の保管設備にまで復興の手が届いていないとは、私でさえ思わなかった。復興予算を何者かが横領していたらしい。今は、このジュピトリスに保管させておく他はない。しかし、そのジュピトリスの補給元をティターンズに抑えられていては。…原隊復帰と木星船団公社を理由に今までは守って来られた。サイド2への移動の許可も飲ませることができたのは、フォン・ブラウン市攻略の功績だ。ティターンズの凋落とエゥーゴの連邦軍所属がジャミトフには、よほど堪えたらしい。このサイド2から、私とジュピトリスにエゥーゴを見張らせるなどと、ふざけたことを。…魂胆は見えている。エゥーゴごと、思い通りにならないジュピトリスと私を始末するつもりだろう。恥知らずのバスクとジャミトフには、必ずこの報いを受けさせる。」

 

そう、ジャミトフとバスク。互いに相容れない思想を持つ2人は、ティターンズの凋落において手を結んだ。互いに利用し合う関係だった2人が、だ。

フォン・ブラウン市攻略はジャミトフにとって致命的だった。ティターンズの下に地球連邦軍を組み敷く機会を逃した。頼みのエゥーゴも、ティターンズに対してはともかく地球連邦軍に反抗する理由が無くなった。

 

「僕もぜひ、そうしたいね。エゥーゴの発足にも増長にもジャミトフは一枚嚙んでいるよ。クワトロ、シャア・アズナブルの逃走にも。」

 

シャア・アズナブルか。国際指名手配になったことは、ティターンズ内部でも有名だった。奴が名前を偽り、子供を、カミーユを使って、ガンダムMK-Ⅱを強奪したことはティターンズ軍人ならば知っている。隠し通せる事件でもない。

そもそも、奴は自分の正体を隠していたつもりだったか?シャア・アズナブルの顔を知っていれば一目でわかるだろう。過去、ジオン公国の報道に何度か写真も出ていた。ふざけた写真だったが。

 

国際指名手配前からジャミトフがクワトロをシャア・アズナブルと呼んでいたことは、ティターンズだけではなく地球連邦軍上層部でも有名だ。

 

「あの愚物、なり損ないか。争いしか生み出せない小物だ。…軽い神輿にはちょうどいい、ということか。人の悪意が生み出した男。」

 

そういえば、奴がキャスバル・レム・ダイクンという与太話もあったか。信頼する副官ハイファンに集めさせた情報の1つではあるが、馬鹿馬鹿しい。本当にそうであれば、より一層の愚か者だった。1年戦争の間、ザビの犬として父の名であるジオンを汚す手伝いをしていたことにもなる。

 

「人の悪意を生み出す人間でもある。ホワイトベースを再現する気でいるよ。カミーユをアムロ・レイに見立てて。」

 

反吐がでるような話だった。品性など欠片もない。獣以下だ。

 

「シャア・アズナブルは強化人間を知っているのだろう。薬物と催眠とサイコミュで、人をなり損ないにするくだらん技術だ。ジオン公国時代から公国軍とフラナガン機関で研究されていた。エグザべ、フラナガン博士はお前の関係者だ。」

 

そう、これもハイファンが持ってきた情報だった。有能でなければ生き残れなかったジュピトリスの中でも、さらに有能で信頼できる私の大事な副官だ。

 

「逆だよ、僕がフラナガン博士の個人的な研究協力者だった。難民時代に、1年ほど。フラナガン機関が博士を永久追放処分にする直前に出会った。いわゆるニュータイプとして、博士の個人資産で雇われていた。」

 

「それで、食事の咀嚼回数まで数えられていたのか?」

 

私の言葉に、戦慄したような顔をする。

フラナガンスクールなどというフラナガン博士の個人的資産で運営されている研究所のことも当然、把握している。博士の研究論文も。

 

「知ってるじゃないか。そうだよ。雇われていたニュータイプは毎食、みんな数えられていたし、寝るときは頭に脳波測定器を付けることが義務化されていた。あの研究論文、フラナガン博士から取り寄せたのか?」

 

また、からかわれた、と知ったエグザべの表情は驚いた子犬のようだ。思わず笑ってもしまう。悪いとは思うが。

 

「まだ、フラナガン博士が生きているとは思わなかったが。」

 

「僕でも思うよ。全世界からニュータイプに関係する論文を、どうやってか取り寄せて、修正と反論を付けてネットにさらしあげるのが趣味の人だ。全世界の各研究機関からもザビ家の残党にも身柄を狙われている。」

 

フラナガン博士の気持ちはわからなくはない。ニュータイプ研究など、まるで一大研究分野のように愚物どもは語るが、奴らの言うニュータイプなど存在はしない。研究としても浅はかで、検体のデータすら改竄して、いたずらに軍の予算を食いつぶしているだけだ。そもそも、データの蓄積もなく、基礎研究ですら行われていない。生まれて10年程度の研究など、信用に値しない。無価値だ。

 

「フラナガン機関の後継組織にも狙われているらしいな。」

 

「フラナガン博士としては、ムラサメ研究所もNT研究所も破門しているつもりでいる。彼は研究にマッドなだけだ。いずれ、オリンピックを復活させてニュータイプ部門の放映がされることだけを願ってる。」

 

後継組織をエグザべが把握している。

やはり、お前がフラナガン博士に一番近い位置にいた研究対象だったか。助手や秘書に近いことをしていたのもエグザべ・オリベ、お前だな。

 

「オリンピックとは、また、随分と旧世紀的だな。だが、薬物と催眠とサイコミュにも反対する理由にはなる、か。」

 

オリンピック。旧世紀的ではあるが、かつて平和の祭典と呼ばれていたことは、知っていた。それが欺瞞であることも。

 

「強化人間に賛成する理由はフラナガン博士の中にない。でも、パプテマス・シロッコが強化人間を知っているのなら、どこかが研究を続けているのか。」

 

「すべての機関で行われている。なんだ、知らなかったのか?」

 

まだまだ、だな。エグザべ。お前にはパイロットのままで居てもらっては困る。私に相応しいお前でなければ、共に未来は切り開けない。

 

「恥ずかしいことに、ね。今、初めて知った。本国でもしているのか。ザビ家の残党がまだ、軍でニュータイプ研究機関を運営している?いや、違うか。僕が捕まっていない。人の悪意だ。軍なら、僕を、僕の部隊を研究に使わないはずがない。…もともと共和国軍は、地球連邦軍に勝てるビジョンを持っていないんだ。それなら、共和国政府のほうか。」

 

そう、そうでなくては、お前と私の勝利のために。お前は共和国軍を、共和国政府を御して見せろ。

 

「共和国と連絡が取れていないようだな。」

 

「連邦軍上層部にいる反戦派と共和国軍上層部の極秘作戦なんだ。連絡も僕がグラナダの領事館に直接赴かないと。…僕の担当教官によると、共和国軍はまだまだ素人軍人の集まりなんだ。連邦軍上層部の情けで何とか体裁を保っているようなものだよ。僕の身元に関しても連邦軍上層部が機密にして誤魔化してくれている。憲兵と情報部、後はパプテマス・シロッコしか知らないだろう。」

 

自分のことになると、途端に鈍くなるのはお前の悪い癖だ。エグザべ。

 

「私はティターンズから情報を取り寄せた。ジャミトフ、あれはお前も見逃させている。」

 

そして、私がジャミトフやバスクに叛意を持っていることをも、見逃してもいる。全て、何のためか。お前は理解しているだろう。私も理解したことだ。

 

「ジオン共和国をも戦争に巻き込むには、悪い手ではないね。」

 

少し考えた後に、エグザべはそう結論を出した。そう。地球圏全土で戦乱を起こそうとしているジャミトフ。

だが、全てお前の思い通りにいくとは思うな。

 

「共和国軍も、それに気づくくらいのことはしてくれたようだ。グリプスのコロニーレーザー。あれの建設は大幅に遅れている。」

 

「僕もエゥーゴの情報部から聞いている。ギレン派閥の残党が、頑張ってくれているみたいだね。本当に今までどこにいたんだか?いや、共和国政府の誰かが隠し持っていたのかな?共和国軍に入ってから、ずっと残党狩りに従事していた僕が馬鹿みたいだ。」

 

「奴ら、グリプス2のコロニーレーザーを神聖視しているらしいな。ギレンの後継以外に使わせまいと、どこからかデブリを発射してきている、と。いまだに、ザビを神聖視する間抜けどもだ。共和国政府がザビ家を批判した時、政府関係施設が無事だったのは、残党狩りのおかげか?エグザべ、おまえだな。白いギャン改-Ⅱ。」

 

私の言葉に気を悪くしたか?顔をしかめて見せるな。だが、そういう姿はカミーユ・ビダンにも似ていた。逆だったか、カミーユはお前に似ている。

 

「白い死神って言われてるらしいよ。どの口が言うんだか、知らないけれど。共和国政府がザビ家批判をした時、サイド3宙域に白いギャンが出ていた。報道のカメラにわざわざ映るようにしたんだろう。僕の愛機だ。部下の誰かを乗せたんだと思うけど。」

 

「それで、共和国政府が無事なら、一つの収穫だ。ジャミトフの手は共和国までは届かない。」

 

「相手にもされてない、とも言える。道に置かれた小石みたいなものだよ、共和国は。うまく躓いてくれればいいんだが。」

 

共和国政府と共和国軍が意外と強かで、厭戦気味だということは大きな収穫だった。取るに足らない、かつてジオン公国を支持した愚物の集合体だろうと、戦乱を嫌うのならサイド3はジャミトフの思い通りには行動しない。

そこに、エグザべ、お前がいる。小石一つで人は死ぬ。人を殺すことができる。お前も私も、それを知っている人間だ。

 

「必要なら、小石はもう1つ。すぐにこちらへ来る。」

 

「ジオン公国残党の巣窟、アクシズか。…シャア・アズナブルはアクシズのことを知っていた。パプテマス・シロッコ、シャア・アズナブルは地球圏に居場所がない。例のネットミームのおかげだ。」

 

言われて、戸惑った。副官の素晴らしい仕事とはいえ、エグザべ、お前もアレを見たのか?未だにバスクミームとシャアミームは大衆の興味を掴んで離さないらしいが。

 

「自尊心の増大した小物だ。アクシズでなら、ジオン公国を信奉する者たちの前でなら、シャア・アズナブルを名乗る、か。悪くない。堂々と名乗れるように、追い込んでやろう。」

 

「アクシズに穏健派がいると面倒だろう。エゥーゴで引き離せないか、交渉してみよう。少し時間と、パプテマス・シロッコの協力が必要になるかな。頼んでもいいかい?」

 

お前と私だ。何も問題はない。

 

「わかっている。アーガマを危機に見せかけるのだろう。ドゴス・ギアには地球連邦軍のマークがついている。ジオン公国にとってはトラウマだろう?」

 

「助かる。アクシズにいる残党とシャア・アズナブルが繋がっていたのなら、エゥーゴと気づいた時点で僕らの加勢に来るはずだ。情報を欲して、積極的に交流しようともする。アステロイドベルトは孤独の帯だ。僕はそう睨んでいる。」

 

その孤独の帯の先に木星がある。私はお前とそこまで、手を伸ばしたい。

 

「お前と私だ。できないことがあるわけがない。」

 

そう、木星にすら手が届く。

 




陰謀 編

この2人を敵に回した奴がいるんだそうですね。へえ、大変だな!

フラナガン博士は捏造。しかし、研究者ならばこの程度の矜持は持ってほしいものだ。

アーガマの建造費用、木星船団用の予算をブレックスが横領してきた、という小説版Zガンダムの設定、借りました。スレの皆さんに教えてもらった知識。
シンバル叩くゴリラのおもちゃみたいな感じで笑った記憶。

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