機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
かつて、サイド5ルウムに住んだ男は言う。
「ルウムは私の故郷。私が産まれ育ったコロニー」と。
そして、続ける。
「私の娘が産まれ、育っていくはずだったコロニー」と。
彼の手には、ピンク色のクマのぬいぐるみと指輪があった。
彼の妻と娘に渡すことができなかった、地球土産が。
エゥーゴがあまり、シャア・アズナブルの幼児誘拐に関する情報を拡散したくないのは、シャア・アズナブルの人望に傷をつけたくなかったからだ、と言えば、その通りだ。
シャア・アズナブルがアクシズに逃げ込んだ時に、アクシズから分裂する派閥を生み出したくない。
地球圏でいや、人類の生存圏で戦争を起こそうなどと考える人間は一か所に集めて殺すのが一番効率がいい。僕は、エグザべ・オリベはそう考える。
戦闘なんて、何度もするものではない。目標を決め、達成までの必要準備を行い、決行する。
口で言うほど簡単なことではないし、予定通りにいくとは限らない。人も死ぬ。そう、人間が死ぬことは、できるだけ減らしたい。
嘘偽りではなく、僕はそう、思っている。僕は軍人だから、そう、思っている。
コロニーレーザー壊しに今も勤しんでいるギレン派閥は、しばらくは、そのまま頑張ってくれてもいいけど。
そもそも、シャア・アズナブルが幼児誘拐犯と言われたくなかったのであれば、シンタとクムの2人を解放すればいいだけだ。最寄りのコロニーにでも小型輸送船で送り届ければいい。そして、シャア・アズナブルは捕縛されればいい。それも、本当にそう思う。
いまだ、幼児2人を解放しないシャア・アズナブルの異常性には怖気と吐き気を感じる。
アムロ・レイとカミーユに対する異様なまでの執着心の表れだ。
既に『ルウムの亡霊』により、シャア・アズナブル時代の写真もクワトロ・バジーナの写真や動画も、シャアミームに使用されて地球圏で性犯罪者の代名詞にまでなっているのに、2人の幼児を解放しない理由が、僕にはそれしか思いつかない。
吐き気を催す邪悪。シャア・アズナブルはまさしく、それだ。
他人からの視線を全く気にせず、己の欲望にだけ忠実な邪悪。他人の命や心を踏みにじることになんの喜びも痛痒も感じない邪悪だ。
人類史に名前すら残したくない。
ハマーンには申し訳ないが、心からそう、僕は思う。
なんで今、ハマーンに申し訳ないと、思ったんだっけ?まあ、そういうこともあるか。
「こちらは、シャア・アズナブルの件とは別で、ジオン共和国の報道と地球連邦の報道をまとめたものになります。急ぎ用意したので、直近一か月分になりますが。」
ブライト艦長が分厚い書類を渡す。800枚くらいかな?一つ一つの記事を、わざわざ其々紙に印刷したのは、情報分析に時間がかかるからだ。1枚ずつしかないので、コピーしようが、スキャンしてデータを読み込もうが、手間は手間だ。かなりの手間になる。
おまけに各記事に引用元とリンク先を添付してあっても通信ができる位置までアクシズが移動しなければ確認もできない、ただの嫌がらせ行為だ。この提案はヌー曹長から出た。地球連邦軍としては、その位置までアクシズを大人しくさせられればいい、と。
既にパプテマス・シロッコが掌握しているティターンズのパプテマス・シロッコ派閥は、シャア・アズナブルの乗った戦艦の動向を把握し追尾しているはずだ。
そう、包囲の準備は整いつつある。
ヌー曹長の意見に僕も賛成した。時間稼ぎさえできればいい。ハマーン達を救出できるだけの時間が稼げれば、問題ない。
久しぶりの地球のニュースだ。グワダンの幹部だけではなく、アクシズの関係者全員が貪るように読みたいだろう。訓練未了の兵士も多いなら、なおさら我慢もできないだろう。自分の役目を放り出してまでニュース記事に夢中になる兵士さえ出るのは間違いない。
その提案をしたヌー曹長は、今、部屋の片隅で見張りの兵士と怪しげな取引をしていた。ヌー曹長はハマーンから見えない位置だと思っているだろうが、ばれている。ハマーンは苛立たしげに指で示してまでくる。ちょっと女性には話しづらい分野のプロマイドの取引だから、そっとしてあげておいてほしい。
これも、兵士の気を逸らすのに使えるから。ヌー曹長はそう言って自分のコレクションを持ってきていた。戦艦グワダンに来てまで、どこに隠し持っていたんだか?
え?紙幣?兵士が紙幣でブロマイドを買った??アクシズの紙幣??いや、まさかジオン公国時代の??
思わず2度見をしてしまった。馬鹿か、僕は!
セラーナ・カーンの護衛の男性に気づかれた。
「な、なにを、高貴なるレディ達のいる前で!!何をしている貴様ら!!こ、この恥知らずどもめ!!でていけ!!馬鹿ども!!」
まあ、そうなるよな。多分、ヌー曹長は部屋の外で平然と売り歩くのだろうけど。
それとも、既定路線かな?部屋が騒然となり見張りの兵士の眼が逸れた隙に靴底から小型煙幕弾を取り、右手の中に隠し持った。
いや、ハマーンには気づかれたか。ずっと、僕の動きを見ていたな。ハマーンは僕の右手を見た後、一度頷くと自分の右手を左手の人差し指で1度だけ叩いた。
分かる。ここから先はハマーン自身が行うと、そう、僕に伝えてきた。良いのだろうか?
彼女は特別な軍事訓練を受けているようには見えない。ミネバや妹などの重要人物を護衛をしながら、逃走経路を確保し、安全に戦艦を逃げ出すなんて訓練は、特殊部隊でさえもなかなかやらない。それを、任せきりにするわけには…
アーガマから連れて来た憲兵は戦艦内で犯罪組織の制圧戦を経験した数少ない2人だった。白兵戦にも長けているという。貴重な人材だ。
彼らを何らかの理由で、ハマーンの近くに置いていけないだろうか?
ハマーンが、もう1度、左手の人差し指で右手を叩いた。そうか、彼女がそう言うのなら、そう、したいというのであれば。同じ動作をする。伝わるだろう。
「では、一度、アーガマへ戻りたいと思います。必要であれば、エグザべ・オリベ中尉とヌー・ハーグ曹長を置いていきますが。」
ブライト艦長がハマーンに告げるが、彼女は首を横に振った。
「兵士など、いくらでも代わりはいるだろう。何の人質にもならん。連れて帰るが良い。ミネバ様のこのグワダンは、清潔に保たねばならん。特に、廊下の痴れ者は二度と、このグワダンに踏み入らせない。」
ヌー曹長は大喜びするだろう言葉を、ハマーンは言う。まあ、当然だ。グワダンの兵士に売った物がモノだ。
悪いことしたかな?いや、でもすぐに捨てる戦艦だし、大目に見てくれるとヌー曹長も僕も助かる。
なんせ、分厚い書類の一番下、『ルウムの亡霊』の最新記事がある。
どうせ、書類は手分けして確認に入るんだろう?手始めに題名だけ確認して分別するだろうから、気づかれるのはそれほど遅くはないはずだ。20分くらいかな?15分くらいかもしれない。ニュースを読みたいと志願してくる兵士も多くなるから、その選抜にも時間がかかる、と僕もヌー曹長も見ている。
それだけあれば、充分だ。小型輸送船のスピードでグワダンからアーガマまで5分くらいの距離だ。ほぼ真横でランデブーしているようなものだから。
残り時間10分もあれば、僕のパイロットスーツの準備も特別性マウスピースの準備にも多すぎるくらいだ。
そう、ギャン改-Ⅱの慣らし運転も先ほどの八百長で終えた。
準備はとっくにできている。
小型輸送船で戻る前に全員がハマーンと握手をした。ヌー曹長とですら。ハマーンは度量の大きさも示した。
どうか、友好の証のように見えていてくれ。僕は握手の際、ハマーンに小型煙幕弾を渡した。
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「ハマーン様!!!」
エゥーゴのブライトから渡された地球圏の報道記事、わざわざ丁寧に一つ一つ紙に印刷されていた。手間のかかる嫌がらせを。時間稼ぎとわかってはいても、この作業をさせられる側としては苛立ちしかない。
この案を出した人間は縊り殺してやりたい。
セラーナと経済分野の記事を手分けして読んで居た頃だった。
アクシズは資源の塊だ。これを生かすには、地球圏で必要とされる資源を詳しく調査する必要がある。アステロイドベルトへたまに来る木星人などとは需要が違う可能性は高い。
……すぐに捨てる場所だというのに、私は未練がましい女だ。
セラーナ。可愛い健気な妹。私を慕ってくれて、ミネバ様を大事に思ってくれてもいる。地獄へ共に堕ちてくれることさえ、厭わなかった。
セラーナ、このハマーンの手を放してくれるなよ。
妹と目が合う。伝わったのならばいい。
「何を騒いでいる。記事の仕分けは終わったのか?」
私に声をかけた兵士は、1枚の紙を持っていた。報道記事一つで、何を騒ぐ。
しかし、私の顔を見て、兵士の眼が泳いだ。
「いえ、ですが…あ、いや、申し訳ありません。先にマシュマー殿に確認していただいて。」
「記事一つで騒ぐな、と言っている。」
取り上げた記事。これはゴシップ記事か?これまで、ゴシップ記事が混じっていたという報告はなかった。わざと、これだけ、この記事だけを混ぜた。
エゥーゴの本命は、この記事だと言うのか?
『衝撃!!赤い彗星のヒ・ミ・ツ!子供が見てなきゃイケないの?!シャア・アズナブルの元カノの語る!本当にあった超怖い話』
気が遠くなりそうだった。読みたくない!!ご丁寧に引用元とリンク先までついている。この案を出した奴は、もう殺すしかない。そう、思った。
セラーナが覗こうとするのも阻止した。マシュマーもだ。貴様、まだ17歳だろう!
プロパガンダだ。分かっている!
だが!!4年前、ミネバ様は4歳だった!!もっと、もっと子供だった!そう、シャア・アズナブルに攫われた幼児2人と同じに!
「セラーナ!!マシュマー!急ぎミネバ様に確認することができた!貴様らは、アクシズに先に帰還せよ。私もすぐに追うことになるだろう!格納庫にある私のキュベレイ、準備をするように指示しておけ!」
セラーナの眼を見る。私の眼をセラーナが見ている。
ニュータイプは便利な道具ではない。便利になれないから、私も、ハマーン・カーンも足掻いている。血が繋がっている愛する妹。
そう、セラーナとも仲違いしているようにも見せることすら、必要だった。でも、今だけは、今だけでもいい。
右手が、温かい。
シャア・アズナブルがアクシズに来る前、私とあなた、よく手を繋いでいたこと、地球に帰れなくて寂しくて、そうしていたこと、覚えていてくれていた?
セラーナが頷く。
私の、ハマーンの眼を見て。私も、同じ動作を返した。
私の服の下、さりげなく隠した小型の煙幕弾が3つある。エグザべ・オリベが握手に見せかけて渡してきた。護衛、いや、私の監視を欺くための武器。
何とも頼りない男だ。だが、これさえもありがたいのが、今の私たちか。
これがハマーン・カーンか!
1つを服を整えるふりをして手に取り、部屋を出るためのすれ違いの際、セラーナのスカートのポケットに入れた。
「急ぎ、ミネバ様の元に向かう!この下らん記事、本気にするわけではないが、間違いがあってはならん!!俗物め!!浅知恵を働かせおって!!これは、貴様らで処分しろ!二度と私に見せるな!」
兵に扉を開けさせ、会議室から出た。
エグザべ・オリベか、ブライトか、あの痴れ者か!それとも、アーガマの誰が!こんな悍ましい記事を書いた!この記事を読んで、ミネバ様の身を案じない人間はいない。
……いや、違う、居る。アクシズごと捨てられてもシャア・アズナブルを支持する者たちが、まだ居た。
ミネバ様とシャア・アズナブルを結び付けようとさえしている悍ましい俗物どもが!
だから、アクシズは地球圏に戦争を起こしに来たのだった。シャア・アズナブルさえ居れば、アクシズを一つに取りまとめ、ジオン共和国と連携し、地球連邦と戦争を起こして勝てると、浅はかに考える俗物がアクシズを支える基盤だった。
赤い彗星、シャア・アズナブル!ミネバ様の隣で、私の、このハマーンの隣でアクシズを支えるなどと抜かし、地球圏へ逃げた臆病者!!
エゥーゴからも逃げ出した痴れ者!!
父は何故、奴を信用した!私は何故、信頼した!!
アクシズには3万人しかいないのに!!民間人を含めて3万人だ!
たったの、3万人。私はそれを治められなかった。3万人が戦乱を望まないように出来なかった。
だが、仕方ない。このハマーンの腕はミネバ様とセラーナのためにある。
とっくの昔からそうだったのだ。
今なら、まだ今ならこれから未来もそう、できる。
私、ハマーン・カーンにはできるだけの力がある。
3万人しかいないアクシズはZガンダム本編での設定。
え?3万人で戦艦とMS部隊を維持できるんですか??
まあ、宇宙世紀だと兵士はミノフスキー粒子から生まれるのかもしれないし……そこんとこ明言されてないから…(苦しい言い訳)
ヨーロッパのモナコくらいの人口か。東京ドームも甲子園球場も埋められない人口……
山梨県山梨市とか、静岡県熱海市とか、長崎県五島市並の人口…
いまいち、人口規模が分からないな…
戦艦大和の乗組員の人数が3000~4000人くらい??
駆逐艦なら300人くらい??
米軍の空母だと5000人超くらい??