機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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ヘンケン・ベッケナーは己の幸運に感謝した。

ブレックス准将やシャア・アズナブルことクワトロ・バジーナ大尉に出会え、宇宙移民の為に戦う機会を得られたのだから。

それを幸運だと心から思えるヘンケン・ベッケナーは正しく幸せな人間であった。


アンマン港防衛戦 2

アンマンに無事入港出来たのは、本当に幸運だった。

月面までアーガマを追ってきたティターンズの追っ手を何とか退けアンマン市に着けば、エゥーゴの幹部としての仕事もある。

だが、先ずは俺のハンバーガーショップ「マグダニエル」だ!俺が留守の間に、まさかハンバーガーの味を変えちゃいないだろうな?

この俺、ヘンケン・ベッケナー中佐は忙しい。エゥーゴの幹部であり、アーガマの艦長であり、ハンバーガーショップの店長でもあるのだ。

 

もっと人手が欲しいと思うのは当然だ。そもそもエゥーゴ自体が新設の秘密結社だった。地球連邦軍にも反ティターンズの志を持つ人間は多いが、公に募集をかけられるものでもない。

そんななか、特に喉から手が出るほどに欲しいMSパイロットを紹介されるなど、破格の幸運だった!かつての戦友はアーガマがアンマンに到着して2日後には、紹介してくれたそいつをアーガマのMSパイロットとして登録までしておいてくれたのだ。

書類仕事が苦手な俺にとって、これ以上ない願ってもいない最高のプレゼントだった。

 

 

 

 

 

新任の挨拶に来た時は、間抜けなお坊ちゃん士官だと思ったが、なかなかやるじゃあないか。ガンダムMk-Ⅱの動きをブリッジの画面で見ながら内心歓声をあげる。

 

アンマンでの潜伏が敵にバレる可能性は考えてはいた。だが、アナハイムエレクトロニクスのウォン・リーは真剣だった。あれでいて、真面目で実直な人間なのだ。

地球にあるティターンズの本拠地ジャブローを月から攻略しようなどという作戦は一見、出資者の横暴に見えるが、ティターンズの凶暴さを恐れていたからこそ出たものだった。

アナハイムはエゥーゴを裏切らないだろう。少なくとも、ジャブローを叩くまでは。

 

「アーガマは既に敵に捕捉されています。私のミスです。本艦は既に敵の監視下にあり、いつ攻撃を受けてもおかしくありません。」

 

デッキに駆け込んできたエマ中尉の目は真剣だった。

 

「昨日、アンマン近くのコロニーデブリでカミーユといたところを、ティターンズのカクリコンに襲撃されました。クワトロ大尉に報告はしましたが、ヘンケン艦長には報告が遅れていました。申し訳ありません。」

 

そのエマ中尉の後ろからついてきたのは、若造だった。いけ好かないな。エマ中尉と2人でいたのか。

 

「先程、エマ中尉と意見交換を行いました。愚策ではありますが、敵をアンマン港に誘引するべきかと。」

 

これだから素人は。敵をアンマンの港に入れてどうする。実戦なんざしたこともない、お勉強だけのエリートか?

 

「敵の一撃目のタイミングをこちらでコントロールしましょう。こちらが何も気づかずMS部隊も出撃したと油断させ、アーガマと反転させたMS部隊で挟み撃ちにします。一考下さい。」

 

俺の顔色を伺うこともなく、軽く微笑みながら若造、エグザべ・オリベ中尉は言う。

 

「このアーガマをおとりに使うか?」

 

「ティターンズはルナリアンが敵対していると知らないでしょう。アンマン及び港に大きな損害は出せないはずです。我々はそれを利用します。」

 

月のアナハイムエレクトロニクスとの密約を知っているのか?エグザベ中尉が?いや、ウォン・リーを知れば分かることか。

 

「アンマンを盾にする。」

 

こんな青二才の意見を聞くのは癪だったか、代案が無いのが現実だった。

 

「ありがとうございます。付きまして、本作戦においてガンダムMk-Ⅱの搭乗者を自分にしていただきたい。カミーユ・ビダンには同意を得ています。」

 

「子供を庇っているつもりか?」

 

「本作戦には先発隊であるクワトロ大尉への速やかな情報開示と反転のタイミングが鍵となります。大尉の部隊にはグラナダを攻略してもらわねばなりません。」

 

俺の許可をもぎ取っていったエグザベ・オリベ中尉の搭乗したガンダムMk-Ⅱは2機のジム改を連れて出撃した。ジム改2機はグラナダまでは行かず、道中で潜伏し、30分後に反転してくるはずだ。

 

今から30分以内に、敵に気づかれないように直掩のMS部隊をアンマン港内に展開し防御を固めなければならない。

 

「一撃目は賭けになるか。」

 

エグザベ中尉は若い。先程はああ言ったが、アンマンは果たして盾になるか?

 

敵の一撃目がエンジンの停止したアーガマに致命的ダメージを与えずに済むか?

 

反転攻勢は間に合うか?

 

クワトロ大尉は果たしてこの情報を冷静に受け止められるか?彼もまだ若い。自分より若い者を見れば眩しく思うし、うっとおしくもなる。冷静で大胆かつ優秀なクワトロ大尉だが、彼には彼のこだわりがある。他者との折合いをつけることを覚えてもらえば、近い未来、彼は人類を導くに相応しい指導者になれるだろう。それが楽しみだった。

 

「MS部隊には必ず盾を持たせろ。港口に向かい、屈ませて待機だ。アーガマはアンマン港を出ない。港湾入り口に怪しまれない程度にバリケードを築かせろ。違う!!MSにやらせるな、怪しまれる。プチモビにさせろ!」

 

エマ中尉は、直掩のリック・ディアスに乗る。勇敢な女性だ。できれば、彼女のような人に若者を支えて欲しい。…支えてもらいたいものだ。

 

「カミーユ・ビダン、リック・ディアスで出ます!」

 

デッキに子供の声が届く。カミーユ?

 

「カミーユ!リック・ディアスは慣れていないだろう。大丈夫なのか?!」

 

やれやれ。子供は大人の思惑通りには動いてくれないか。エグザベ中尉もやはり若造だ。

 

「MS部隊は出せるだけ出すんですよね?エマ中尉と艦長の指示、聞いてました。行けます。」

 

「…大した奴だ。エマ中尉、カミーユ機の援護を頼む。」

 

「無論です。カミーユ、私が合図を出すまで反撃は待てるわね。」

 

打てば響くような声がエマ中尉から返ってくる。やはり頼もしい。

 

 

 

 

 

防備を固めたアーガマに襲ってきた敵を全滅まで追い込ませた理由は、ルナリアンへの示威行為を含んでいれば当然だった。

ルナリアンとて1枚岩ではない。アナハイムエレクトロニクスも、だ。彼らは金と口を出す。それ以上はない。ジャブロー攻略までは、ティターンズへの恐怖で我々にも協力しようが、エゥーゴひいてはアーガマに力が無いと見ればザビ家残党や、どうかするとティターンズにもつきかねない。

己の利益があるかないか。彼らルナリアンにとっては、それだけが行動の指針なのだ。

 

そんな信頼できない者たちが、エゥーゴの未来を、ニュータイプの作る未来を邪魔することが無いように釘を指しておく。エゥーゴを甘く見るな。

 

まぁ、実際に出来るとは作戦開始時には思わなかったが。

 

 

 

 

「艦長にデブリーフィングを行っていただきたいと思います。」

 

アンマン港防衛戦後、艦橋に上がってきたエグザベ中尉の感と腕の良さを褒めれば、返って来た答えはそれだった。

 

坊っちゃんめ。

 

「先程の戦闘は、緊急出撃として処理します。その代わりに。」

 

「いっちょ前に脅しか?」

 

軽く笑って言えば、エグザベ中尉は少しだけ困惑した表情に変わる。が、すぐに軽く笑みを浮かべて見せた。馬鹿上品な奴だ。

 

「自分は、そんなつもりではありません。軍務の規定として、士官の役目として事後処理の手続きを艦長に行っていただきたいと愚考しているだけです。信賞必罰は軍の拠って立つところです。まして、先の作戦は、目標を全て達成しました。艦長及び大尉からデブリーフィングで、総員を称揚していただき、士気を上げてもらえればと。」

 

鼻で笑う。お坊っちゃんめ。物は言いようだ。俺が分からないとでも思っているのか?いや、俺と面と向かって言うのだ。思ってもいないか。

 

「…反省会ってガキかよ。」

 

デッキの誰か、まぁ、多分、観測班か。今回は出番が無かった。敵に捕捉されていることも分からなかったし索敵も成功しなかった。良いところなしだ。エグザベ中尉の言う事に反発もしよう。

デブリーフィングなんかされたら、観測班は糾弾されることは間違いない。

 

「いいぞ、付き合ってやる。で?デブリーフィングの準備と時間は?」

 

だから、デブリーフィングも許可してやることにした。現場というものを分からせてやるぜ、お坊ちゃん。

 

「自分が行います。3時間後、デッキで行わせて頂ければ、全艦に放送できます。その頃にはクワトロ大尉もアーガマに帰還されていらっしゃるでしょうし、大尉の手を煩わせることはないかと具申します。」

 

中尉の顔は真面目だ。しっかりと俺と目を合わせてくる。反らしもしないし、揺らぎもしない。度胸も充分か。坊ちゃん士官の割にやるじゃないか。

 

「エグザベ中尉は、大変お言葉がお上手でいらっしゃる。……いや、気にするな。許可する。しっかりやれよ!」

 

デッキをでていく姿までお坊ちゃんだった。

 

 

 

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デブリーフィングの準備は面倒だ。書類仕事は叩き上げの軍人に必要性を理解してもらえないし、出撃で疲れ切った戦闘要員には重労働なのだ。ヘンケン艦長の許可と階級を以て命令しても、煩い者扱いされるのは仕方ない。

 

それを頭で理解していても、ため息がでてしまう。そう、新参者の僕、エグザべ・オリベ中尉は早速、このアーガマで厄介者として見られている。

面倒な仕事を増やす厄介者だと思われている。

軍務の規定に従っているだけなのに…

 

アーガマの軍人は書類仕事に対する苦手意識が強すぎる。逆に言えば、口頭で聞けば答えてくれる人間は多かった。文章を書くという作業を軽視しているうえに、難しく考えすぎている。

おまけに必要な書類のフォーマットが多岐に渡り過ぎて、現場は追いついてない。

 

「…ブリーフィングとデブリーフィングが疎かにされるわけだ。」

 

回らない頭に酸素を巡らせて必要なデータをまとめ終わる頃には、デブリーフィング開始の15分前だった。時間は多めに取っていたはずなのに…現場の反発も想定以上に強すぎた。まさか、僕は後ろから撃たれたりしないだろうな?

 

 

 

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艦橋で俺の隣に立ったエグザべ・オリベ中尉はやはり、穏やかに微笑んでいた。

 

「先の戦闘のデブリーフィングを行います。グラナダ襲撃及び敵の補給の奪取作戦、それに伴うアーガマ防衛戦は全目標を完全に達成しました。」

 

エグザベ中尉がデブリーフィングを取り仕切るのは、まぁ、この艦にはデブリーフィングを経験した人間が数える程もいないからだった。艦長の俺も含め、士官学校時代にしたか、しないか。

 

グラナダ襲撃は、現地の連邦軍協力者やティターンズに潜伏していた味方の活躍もありスムーズに済んだようだ。

特に、クワトロ大尉が機種転換したばかりの百式から降りてティターンズに白兵戦を挑んだと言う話題はデッキで大いに盛り上がった。

 

感心したのはアンマン港防衛戦のキッカケであるエマ中尉の報告ミスをエグザべ・オリベ中尉が省いたことだ。アーガマの中心人物になりつつある彼女の失敗は士気に関わる。クワトロ大尉の片腕でもあるのだ。人を見る目もある、か。

だが、若造のお坊ちゃんだ。今回のデブリーフィングで顰蹙を買って、現実を知ると良い。いい経験になる。

 

そう考えて聞き流していた時だった。エグザべ・オリベ中尉の一言で、逆に俺は現実を知ることになった。

 

「先の作戦では、戦闘要員および艦載員総勢12名が殉職しました。彼らの献身に一分間の黙祷を行います!総員黙祷!」

 

戦闘後の黙祷か。長らく忘れていた様な気がする。忘れていたか。それどころではないと言えば、それまでだが、俺は薄情になってしまっていたか。

僚艦モンブランが轟沈してしまった現実を今まで忘れてもいた。

 

キャプテン席を降り、黙祷を行い顔をあげれば、艦橋に集まるパイロット達や整備士の代表のアストナージの顔が目に入った。なんだか気恥ずかしいものだ。向こうも照れて居るような気がする。

照れるようなことではないのだが、死者へ、戦友たちへ敬意を払うのは当然のことなのだが。若造に指摘されるまで気づけなかった恥ずかしさというものがある。

 

「アーガマは、これより奪取した敵の補給を収容する作業に入ります。作業期間は10日程度予定しています。」

 

エグザベ中尉は簡単に予定を説明した後、しれっと続ける。

 

「さて、話は変わるが!本艦は既に敵に捕捉されている事は全員承知していると思う。敵の次回攻撃に対する打開案があれば、即刻意見具申を。」

 

長年、軍人をしてきたがデブリーフィングって、ブリーフィングに変えられるものなんだな。初めて知った。

 

 

 

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カミーユはデブリーフィングと言うものを自室で聴いていた。エマ中尉に艦橋に行くべきかと訊いたが、部屋に待機するように指示されたのだ。普段のエマさんなら、僕をひっぱたいて、手を引いてでも連れて行くんだろうけど。

 

「…何があったんだろうな、ハロ。」

 

一度クワトロ大尉に回収されて手元に戻ってきたペットロボット、ハロはカミーユの名前を覚えていた。ウォンさんに殴られたすぐ後のことだ。

 

「カミーユ、ハロ!カミーユ、ハロ!」

 

優しさはある人なのだ。

 

しかし、何も話さない人なのだ。話せない何かがある人とも言える。デブリーフィングと言うものを聞いて、そう知った。

 

あの時、ガンダムMk-Ⅱで、

 

「追いついていたら。銃撃戦をしていたのか、俺。」

 

生身で、人を銃で撃つことになっていたかもしれないのか……

 

いや、MSだって人間だ。生きた人が乗っている。ライラと言う女性は生きていた。

ジェリドだって、カクリコンだって生きていた。

MSの中には生きた人間が居るんだ。それが分かっているから、分かっていたから、こんなに僕の両手は震えているんだ。

 

エグザベ中尉は黙祷を総員に促した。この艦に乗って初めてのことだったかも知れない。そうか。あの戦闘でも守りきれなかったものがあったのか。

名前も顔も知らない人たちも、アーガマの味方も、ライラさんとジェリドとカクリコンも。守り切れなかったすべての命に、僕は目を閉じて黙とうをささげた。

 

宇宙をガラスの破片が流れていく………どこへ?

それを確かめるために眼を開ければ、エグザべ中尉の声が聞こえた。

 

「敵の次回攻撃に対する打開案があれば、即刻意見具申を。」

 

次回攻撃。まだ、戦いは続くのか。あんなにたくさんの人が亡くなったというのに。殺し合って、殺し合い続けてしまったら、僕はどこへ行くんだ。

震える両手にハロが乗ってきて、それを隠してくれた。

 

しかし、軍って失っていくばかりの場所なのだろうか。

 

 

 

 

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長々としてしまったデブリーフィングのあと、エグザベ中尉の求めるままに所々の手続きと書類仕事と、あと何だったか?まぁ、何かしたんだろう。サインをたくさん書いたのだけは覚えてる。その控えは既に渡されていた。必要なら確認出来るだろう。

しかし、確認なんかしたくない。本当に長いデブリーフィングだった。最後の1時間なんて、俺は何も考えずに言われるままサインだけしていた。そう、艦橋には俺とエグザべ中尉だけと留守要員だけが残って作業をしていた。

俺のサインを見たエグザべ中尉のやや困ったような微笑みだけが印象的だった。

 

なんせ、この俺、ヘンケン・ベッケナーのサインだ。酷い手癖で真似できる奴などいない。

俺が書類仕事が嫌な理由の一つでもあった。

 

 

 

 

 

へとへとの体で艦長室に戻れば、クワトロ大尉がいた。手持ち無沙汰に本を読んでいる。このアーガマで彼が入れない場所はない。

大尉は手にした本の背表紙を指で叩きながら読んでいた。彼の癖ではない。だからこそ見えるものがある。

 

「大尉のおメガネにはかないませんでしたか?」

 

「ああ、他人をおのれの手足のように動かそうとする。」

 

彼は、クワトロ・バジーナ大尉は若い。この若さは彼を魅力的な人間にしている。長じて、この魅力は失われるものではなく、人間としての懐の深さに変わるのだろう。クワトロ大尉のつくる未来が楽しみだ。

 

 

 







加筆してみると、着任1日目でエグザベ中尉の仕事多すぎ問題。
味方少なすぎ問題。

例えブラック企業でもここまでのことはしないだろうに。


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