機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
悪夢を見た。悪しき夢を見た。
しかし、それはあくまでも夢だ。
全ての動物が、夢を見る。
ならば、悪夢を見るのは生きているからこその特権かもしれない。
あの八百長から早くも7日が過ぎたか。エゥーゴがまとめたアクシズの情報がジュピトリスからようやく届けられた。待ちわびていた情報だった。
軍機だ。
信頼する私の副官ハイファンが紙にまとめて、このドゴス・ギアにジュピトリスの艦載員を使って届けさせた。決して、通信ではなく、他者に知られないようにハイファン自ら筆を執って私に届けて見せた。
ただの軍機ではない。このパプテマス・シロッコの友、エグザべ・オリベから託された、最重要機密だからだ。万一すらない様に、古風だが封蝋の真似事までしてある。ハイファン中尉らしいことだ。
アクシズの情報を待っていた。アステロイドベルトでジオン公国の再興を願い続けていた、敗残兵どもの情報を。地球圏に辿り着いて早々に、戦艦を出航させた者共の情報を待っていた。人類の敵を倒す為に、心待ちにしていた。
私が一番気になっていたのは、アクシズの人口規模だ。人口が分かれば、おおよその軍事力と生産能力は把握できる。所詮、人間のすることだ。
民間人を含めて3万人しかいない、か。
その3万人は資源採掘用の小惑星アクシズに接続された極小惑星モウサ、そこをベットタウンにアクシズで生産活動をしている。人口の大半が、敗残兵で構成され、製造物の5割が軍需品かMS…
もはや、アクシズが、人間社会を保てている事さえ奇跡のような状態だな。よくも、地球圏に戻ってきたものだ。
エグザベが、友が求めていたアクシズの穏健派など生きてはいまい。例え、いたとしても、地球圏まで来て自発的にアクシズから逃げ出さないのだ。もう、見捨てるしかあるまい。
エグザべは悲しむだろうが、パプテマス・シロッコが、この私がそれをすればいい。
ティターンズは本来、ジオン公国の残党を殲滅するために創設された部隊だ。
大義がある。
わざわざエグザべの手を汚さずとも、それができる。
シャア・アズナブルの盗んだ戦艦。たった1隻の戦艦であろうとも、その大義のために追うことができる。
既にこのパプテマス・シロッコの指揮下にあるティターンズは今、計15隻の艦隊で長距離からシャア・アズナブルを追跡している。サイド4のデブリ地帯まで追い込むこともできた。
おおかた、サイド4コロニーのデブリ群でこちらを撒こうとしているのだろうが、無駄なことだ。
人海戦術の恐ろしさを思う存分に味合わせてやろう、シャア・アズナブル。人の形をした獣。
人間が文字を持つ前から使ってきた戦術だ。人が獣に対しても使って来たものだ。
貴様には、その程度でいい。こちらを恐れ、憎むが良い。
思い通りにならない敵相手に焦ったお前が何をするかなど、分かり切ったことだ。
アクシズに逃げ込む。
ジオン公国のシャア・アズナブル大佐の堂々たる帰還を装って、貴様はそうするだろう。
そうするしかない。地球圏で、お前の顔と汚名を知らぬものはいない。他人に見くびられ、見栄を張れなくなったお前の居場所はアクシズくらいなものだ。
アクシズの3万人も、貴様を歓迎するだろう。
公王ミネバも摂政ハマーンもいなくなったアクシズは、シャア・アズナブルを新たな王に据える。そうするしかないからだ。敗残兵と言うならず者どもの集まりをまとめるためには、そうするしかない。
すぐに、たった3万人の王、シャア・アズナブルが即位するだろう。ジオン公国の残党の王だ。ザビ家の跡継ぎだ。貴様にとっては本懐だろう。泣いて喜べ。
このパプテマス・シロッコが掌握しているティターンズの全艦隊の兵士も3万人だ。
私にとって都合のいいことに、あと3日もすれば、ティターンズと無関係の対テロリスト制圧組織『ヴェルザンディ』となり、正規軍として活動できる。このパプテマス・シロッコがそう、した。ティターンズの汚名を切り捨てたエリート組織に生まれ変わる。
新設組織相手に右往左往するシャア・アズナブルの姿は笑えるだろう。
ティターンズを批判したければ存分にすればいい。私が従える『ヴェルザンディ』には関係のないことだ。
どのように批判してくるのか、考えるだけで笑えもする。
そう、笑えると言えば、グリプス2も良い笑いものだった。
バスク・オムご自慢のコロニーレーザー、グリプス2はザビの残党に破壊され続け、必要な物資が不足したあげく、サイド7宙域の監視も疎かになった結果、正規の地球連邦軍に襲撃され破壊された。
1年戦争後の地球連邦政府が、なけなしの予算で復興させたサイド7グリーン・ノアをコロニーレーザーに改造すれば、多数の反発を受け破滅する、と言うだけの当たり前の話だ。
グリーン・ノアからバスクに追い出された難民も地球にいる。遅かれ早かれ、居住者のいたコロニーを兵器化した責任はジャミトフかバスクが取らされたのだろうが、奴らが何も成せず消えたのは、爽快ささえ私に感じさせた。
祝杯をぜひ、友と副官とあげたかった。エグザベとハイファンと共に。
まあ、逃げたバスクを捕らえた際にそうしよう。アレキサンドリアの同型艦で逃げたことはわかっている。サイド1方面に。
そちらも地球連邦軍によって監視されている。このサイド4宙域からも近い。どこかにコロニーを落とさない様にだけ気を配らないといけないが、その余裕すらないだろう。バスクには人望などない。
ジャミトフは、命もない。正確にはまだあるが、昨日病死したと地球連邦軍の公式発表があった。
バスクと共に逃げたジャミトフがどのような死にざまをさらしても、地球連邦軍は関与しないということだ。ジャミトフを名乗る怪人物の死に方など誰も気にはしない。
このパプテマス・シロッコが手を下すまで、両者の息があるといいのだが。
ドゴス・ギアも、既に貴様らへの報復の準備ができている。
シャア・アズナブル、アクシズが、ジオンの亡霊共がお前を待っている。
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僕が、ハマーンの言葉を繰り返したのはそれを信じたくなかったからだ。
「アクシズとモウサを切り離して?アクシズを質量兵器として使う?」
人の悪意は、そこまでのことをするのか。
僕には思いもつかない手段だ。目の前のハマーンも暗い顔をしている。
ここはブライト艦長の艦長室だ。
もちろん彼も、憲兵も、情報部員もいる。
今日はブライト艦長がハマーンに対して重大な話がある、ということで集まった。
が、憲兵とハマーンが先に共有しておきたい情報があるということで、アクシズの質量兵器化の話題が出て来た。
ここ数日、グラナダ基地に到着してから、ハマーンは憲兵と基地内にあるエゥーゴ情報統括部に協力していた。アクシズの概要は、僕らアーガマが先に聞いていたが、詳細については彼らに任せるのが原理原則だ。
「アクシズには、その計画があった。実際、食料や医療品、生活物資の備蓄を含めモウサで1か月は生活できるように手配している。サイド3に対する脅迫としては有効とみて、私が許可した。…アクシズの質量兵器化が成功したとしても、全員、サイド3もアクシズの住人も死ぬしかなくなる。そういう手段だ。私は、サイド3やアクシズと心中するつもりでそう、した。だが、シャア・アズナブル、奴をアクシズに追い込むつもりでいるのだろう、エグザべ。グラナダ基地の情報部で聞かされた。シャア・アズナブルならば、躊躇なくアクシズを使うはずだ。どこに落とすと思う?」
言葉に詰まる。
シャア・アズナブルの思考をトレースできたことなんかあったか?僕に?
だが、考えられることはあった。そのまま、口に出す。
「…月のグラナダ基地にアクシズを落としたところで、ティターンズや地球連邦軍がシャア・アズナブルを討つ。ティターンズの宇宙拠点、グリプス、ゼダンの門は直線上にもないし、ラグランジュポイントさえ違う。質量兵器としてアクシズを使っても決定打にならない。ジオン共和国なんか、アクシズを使わなくても軍縮続きで占領できる可能性すらある。……まさか、地球に?!」
「地球に落として、どうなる?私でもそう思う。だが、シャア・アズナブルなら、敵の虚を突くとでも言ってやりかねない。」
ハマーンは正しい。
そう、シャア・アズナブルならば、そういうことを唐突に言う。確信だった。
だてに『赤い彗星』などと呼ばれてはいない。
「ハマーンの意見に同意する。地球連邦軍もティターンズもエゥーゴもシャア・アズナブルの動きを既に捕捉している。奴が打てる手は無いに等しい。だからこそ、アクシズ落としを乾坤一擲の策などと言い出しかねない。…だけど、なんで地球に?いや、地球に落とすだろうという確信はある。あるんだけれど、どうやって、アクシズの人間を説得する気でいるんだ?アクシズは、生産工場でもある。食料もMSも戦艦もアクシズで作っているのに、それを地球に落として、どこで生きていくつもりなんだ?」
僕の最大の疑問はそれだ。確信があっても、疑問がある。
地球にアクシズを落としても、宇宙はシャア・アズナブルの敵で満ち溢れている。
とうとう、シャア・アズナブルは幼児誘拐犯に加えて、幼児性愛者とまで人々に言われるようになってしまった。『ルウムの亡霊』が人気者だったために。シャアミームが人気過ぎたために。
既にアクシズにしか居場所は無いだろうに、そのアクシズを落として、宇宙のどこで生きていくつもりなのか。
シャア・アズナブルやクワトロ・バジーナという名前を捨てて、もしかしたら、顔まで捨てて生きていけるつもりでいるのか?
いや、シャア・アズナブルが己の功績や顔ですら捨てて、新たな人生を欲していたというのであれば、クワトロ・バジーナに名を変えた時にそうしていただろう。
顔を変え、部下を全て切り捨て、MSパイロット、いや戦場すら捨てて、新しい人生を手に入れていた。戦後の混乱ならばできなくはない。クワトロ・バジーナの名と軍籍でさえ手に入れたシャア・アズナブルだ。
新しい、ジオン公国と無関係の人生を歩んでいたはずだ。
だが、しなかった。
グラナダにはシャア・アズナブル大佐に忠誠を誓った人間が多数、いた。
アナハイムエレクトロニクスの元会長メラニー氏ですらそうだった。個人的な好意からシャア・アズナブルに便宜を図っていた。
ウォン・リー氏もクワトロ・バジーナがシャア・アズナブルだと知っていた。
彼は今、性犯罪者に堕ちた元ジオン公国軍人シャア・アズナブルを修正する、と大々的に宣言して、体を更に鍛えはじめた。
グラナダではその宣言を受けて、『ウォンさんの修正コーナー』という健康体操番組すら放映されだした。彼に『修正』されたいという奇特な人々も一緒にテレビ番組に出ていて、僕は釈然としない気持ちで毎朝、見ている。
いや、違う。今はシャア・アズナブルだ。
「シャア・アズナブルにはジオン公国軍人だった時から今までずっと忠誠を誓っていた部下がいた。このグラナダにも多数、潜伏していたんだ。憲兵によって大部分が捕縛されただろうけど。1年戦争で連敗を続けた彼にどうして部下がついていくのか、僕には理解できていない。ブレックス准将もそうだった。シャア・アズナブルに、ただのMSパイロットに何か途轍もない期待を寄せていた。そうでなければ地球連邦政府の総会に、秘書として連れて行くわけがない。」
頭の中を整理するためにも呟く。
僕だけでは、シャア・アズナブルの考えをトレースできない。ブライト艦長にもハマーンにも憲兵にも情報部にも力を借りたい。そう思った。
「アクシズのダイクン派もそうだ。地球圏まで連れて来られたはずの彼らが、今宇宙のどこにいるのか知らないけれど、何がシャア・アズナブルに期待させるんだ?話してみれば分かるだろう。彼は、自分の考えというものがない。僕には、彼の信念みたいなものが感じられない。いや、妄執みたいなものは感じるんだけれど、それも『アムロ・レイ』という彼の中にある理想像に対するもので、実際のアムロ大尉とは乖離している。」
「……シャア・アズナブルは、キャスバル・レム・ダイクンだ。ジオン・ズム・ダイクンの遺児、キャスバル・レム・ダイクンなんだ。」
アムロ大尉の名前を聞いたブライト艦長が、痛みをこらえる様な顔で、そう、言った。苦悶の表情で。
「まさか。」
ブライト艦長を信じられないものを見る目でみてしまった。上官相手に礼を欠いてしまった。慌てて目をそらした。
だが、憲兵も情報部も、冷静な顔をしている。まさか、本当に?
「…父は、シャアがキャスバル・レム・ダイクン、と知っていた?」
ハマーンの呆然とした呟きが、耳に残る。シャアがキャスバル・レム・ダイクン…
繋がる。繋がってしまう。疑問が解け、確信へ、と。
「地球を、人の住めない土地に変えて、宇宙で人を革新に至らせる。ニュータイプに対する幻想主義。ジオニズムか!!」
ニュータイプなどという幻想、地球に住む人々への対する妬み、宇宙移民の持つ被害者感情。それら全てが、1年戦争の始まりだった。
ジオン・ズム・ダイクンの無責任な遺産だった。
ザビ家が、ジオン公国が大義として掲げた思想だった。
人類の悪夢だった。
弊SSとZガンダムテレビ版本編との違い
・エゥーゴの戦力が大幅に強化されている。(アニメ版はアーガマとラーディッシュ2隻の戦艦+10機前後のMS : 弊SSは15隻程度の艦隊+200機程度の寄せ集めMS)
・ティターンズが地球連邦軍を掌握していない。ティターンズの指示で動く地球連邦軍が少ない。
・地球のジャブロー基地が核爆弾で自爆してない。
・強化人間が戦線投入されていない。
・在地球反連邦過激テロリスト『カラバ』が壊滅。
・『ルウムの亡霊』がいる。
・憲兵が仕事してる。
・ティターンの9割がパプテマス・シロッコによって掌握された。
・バスクとジャミトフが逃亡中。
・ウォンさんが反社会行動に対する『修正』に意欲的。
あまりに、本編と違う?まあ、そういうこともある。
エグザベ周りの状況
・共和国がデラーズフリートに慌てて、ジオン公国の残党狩り用MS部隊を急遽錬成。
・地球連邦のブレックスがエゥーゴ結成した、と聞きつけて、共和国軍が政府に秘密でエグザベ派遣。
・実態は反連邦組織エゥーゴでシャア・アズナブルも所属。ジャブロー降下作戦進行中という修羅場。少年兵もいてエグザベ中尉はストレスマッハ。
・共和国軍、エグザベ中尉との連絡を怠るという痛恨のミス。
・共和国政府がザビ家を批判した際に、上記の共和国軍の暗躍が発覚。追認。文民統制の速やかなる死。
・ギャン改-Ⅱがグラナダ基地に届き、ようやくエグザベ中尉と共和国軍が連絡を取れる状態になる。
・地球連邦と共和国の協調路線アピール開始。(アクシズとシャアをだしに使って)
パプテマス・シロッコの状況
・ジュピトリスの補給と安全確保が第一。
・ティターンズの旗艦になるはずだったドゴス・ギア借りパク済。
・フォン・ブラウン市占拠の功績とジュピトリス製MSの設計図の代金で、サイド2にあった再建途中のコロニーをゲット!
・エゥーゴに派遣されてきた共和国軍人エグザベの協力のもと、ジュピトリスとグラナダ基地を介してバスクとジャミトフの失点と犯罪行為を地球連邦軍に報告済み。
・ティターンズ解散手続きと『ヴェルザンディ』結成手続き、完了。
・シャア・アズナブルをアクシズに追い込み漁、途中。
(パプテマス・シロッコはZガンダム本編だとほとんど設定が無いに等しいから使いやすい。天才!何させてても、いつの間にか「大勝利」もぎ取ってくる。パプテマス・シロッコ語が使いやすいとは思ってないけれど。割とZガンダム本編でも正気寄りのキャラクターでは?弊SSのエグザべ中尉はパプテマス・シロッコが年上で階級も上だから、甘えているところがありますね。こいつ、そういうところ馬鹿だから。仕方ないね。Z本編の登場人物で、一番勤続年数長いし(木星勤務期間)率いてる部下の人数も多いし、技術開発も最先端を走ってる。実績ですべてを物語ってる男パプテマス・シロッコ。なんで頭ハイファンにならないガンダム民がいるのか、よく分からない。エグザべ中尉はそう言ってる。俺もそう思う(洗脳済))