機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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サイド4のデブリ地帯。

かつて、人々が生き、命を育んだ場所は輸送船ですら航宙困難な人を寄せ付けない場所へと変わっていた。

シャア・アズナブルはティターンズの艦隊にそこまで追い込まれた。

人を、寄せ付けない、生きていけない宙域へ。



ティターンズの指揮を執るパプテマス・シロッコの意図を理解していてなお、避けるだけの力はなかった。




人で、なし

 

 

つくづく、シャア・アズナブルは人ではない。

 

ドゴス・ギアの艦長席に戻ったのは、きっかり15分後だった。

エグザべの、友の愛機が出撃準備をするためには、私の許可と命令が必要だ。

 

必要な状況が起きたのだ。私と、エグザベと、ヤザン大尉の想定通りに。

 

シャア・アズナブルの乗った戦艦は再度、接近してきた。こちらの停戦信号弾にも応じない動きは、ここ1週間で見慣れたものだ。

ダミーバルーンも、もはや無い、か。

 

「残念です。せっかくパプテマス・シロッコ艦長が僕を止めてくれたというのに。シャア・アズナブルは、艦長の優しささえ無駄にしました。」

 

艦橋に、カタパルトの射出待ちをしているエグザべから通信が入る。

声でわかる。お前も怒る時があるのだな。それが、このパプテマス・シロッコにとっては少し愉快でもある。エグザべが怒りを露にすることが。品性のあるお前に似つかわしくないというのに。

 

あるいは、私のために怒りを見せたお前が、嬉しいのかもしれなかった。

 

宙域にミノフスキー粒子は撒かれていない。シャア・アズナブルの戦艦には、もうそれだけの余裕もない。パプテマス・シロッコが直々に、包囲し続けた甲斐があったというものだ。大人しくアクシズへ向かえばいいものを。

 

「まったくだ。私の苦労を無駄にした、あの愚物には死すら生ぬるい。ヤザン大尉、金色のMS百式を狙え。それがジオンの赤い彗星だ。」

 

こちらの様子を碌に観測もせずに、戦闘行為を行うさまが『赤い彗星』らしくはある。

我慢できずに、自らMS部隊を率いて出てくるか、シャア・アズナブル。

腹立たしい男だ。

そのMS部隊もリック・ディアス5機程度、しかも、完熟訓練ができていないのは既に分かっている。伏兵もない。動きで分かる。

 

その程度の戦力で何の策も持たずに、このパプテマス・シロッコの前に出てくるとは、な。嘗められたものだ。

何度でも嬲って遊んでやるほど、私も暇ではない。この無意味な時間を思えば、シャア・アズナブルをここで殺すことは、魅力的な案ではあった。

 

まあ、艦隊の連携訓練だと思えば、良いことだ。いや、シャア・アズナブルの動きが拙すぎるか。

 

「パプテマス・シロッコ艦長。シャア・アズナブルは懲りずにメガバズーカーランチャーを持ってきています。連射はできないはず、ですが、優先的に壊します。ヤザン大尉もいてくれるなら、できます。」

 

エグザべの言うメガバズーカーランチャー、そのデータは、フォン・ブラウン市の時に手に入れていた。

 

ティターンズが大組織というのは、こういうデータの蓄積が丁寧にできるということだ。蓄積されたデータは、使うためにある。メガバズーカーランチャーは照準を定めるのにも時間がかかる。

私に言わせれば、欠陥品でしかなかった。

 

「各艦に警戒を徹底させよう。まあ、狙いは私だろうが。…エグザべ、奴はまだ殺すな。」

 

「はい、艦長。了解です。エグザべ・オリベ、ギャン改-Ⅱ出ます!」

 

ギャン改-Ⅱ、速さと近接戦闘に全てを賭けた機体か。

ビームライフルの製造やサイコミュなどの軍事研究に制限を掛けられたジオン共和国は、小径の実弾兵器の開発と共に近接戦闘に特化したMSくらいしか開発できなかった。

 

その混迷の極致で、完成したギャン改-Ⅱ、そしてその航続距離を補完するためのパンジャンドラム。

 

白い線が宇宙に走る。私のハンブラビにも引けを取らない速度、か。

 

敗戦国のジオン風情が。だが、乏しい開発予算と人材の中でMSの速度だけでも、このパプテマス・シロッコのハンブラビに追いついていたことは面白くはあった。

だてに工業生産コロニーを名乗っていたわけではなかったか。

 

「長距離メガ粒子砲、試射用意。照準は動きを止めている百式だ。エグザべ、ヤザン大尉、直線上から退避しろ。カウント、3、2、1、今。良し。」

 

ギャン改-Ⅱもハンブラビも、よくシャア・アズナブルの気を引いてくれた。私のカウントに合わせて動いてもくれた。

 

ドゴス・ギアの主砲、長距離メガ粒子砲は、百式にもメガバズーカーランチャーにも掠りはしなかったが、奴から照準を定める姿勢を奪った。貴重な時間を奪った。

 

ギャン改-Ⅱとハンブラビが、百式に届く時間を、このパプテマス・シロッコが稼いだ。後は、任せればいい。

 

 

 

 

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パプテマス・シロッコのカウントに合わせて、ギャン改-Ⅱを急上昇させた。ヤザン大尉のハンブラビは百式の下方から攻めるはず。

 

出撃前に、ハンブラビの特徴をヤザン大尉から聞いた。下方に死角がある可変型MSなのに、なんでそんなに強いんだ!

 

ベテランは、何に乗っても強い。僕は改めてヤザン大尉の凄さを思い知るだけだった。

 

目の前の百式は、メガバズーカーランチャーを抱えたまま、姿勢を崩していた。恐らく、ドゴス・ギアからの攻撃に目くらましを食らったのだろう。

 

僕らを見失ってはいても、シャア・アズナブルだ。

気づくだろう。上下からの攻撃を、予測する。

 

ギャン改-Ⅱのビームサーベルの柄を短く掴む。パンジャンドラム!!百式にぶつかってもいい!!必要なのは、速さだ。

柄を短く握れば、サーベルの振りは早くなる!

 

振り被ったビームサーベルはメガバズーカーランチャーを破壊した。百式は、メガバズーカーランチャーを囮に逃げた。

 

百式を通り過ぎる僕の、ギャン改‐Ⅱの背後を取ったと思ったか?シャア・アズナブル。

 

僕にはヤザン大尉が、ハンブラビがいる。

MA形態のハンブラビがビームライフルを撃ちながら、百式を追い回している。僕も負けていられないな。

 

「どうした!!エグザべ・オリベ!!俺と闘った時より弱腰じゃねーか!!」

 

通信からヤザン大尉の激励が聞こえる。

ギャン改-Ⅱ、お前も応えて見せろ!!最大加速の突貫。パプテマス・シロッコには通じなかったが、シャア・アズナブル、お前はどうだ?ビームサーベルの長さ、見誤らずに避けて見せろよ!長く柄を握る。

 

ギャン改-Ⅱのビームサーベルは百式の右腕を奪った。百式を通り過ぎると同時に急速制動、反転をする。百式には、MS形態になったハンブラビが取り付いていた。さすがだ!ヤザン大尉!

 

百式の背後から、ビームサーベルで左腕を突く。読まれていたか、左手のマニピュレータを、掠っただけだ。

いや、いい。

これで百式はビームサーベルを持てない。

 

取りついたハンブラビが百式の頭部を掴み、捥ごうとしている。そうだな、頭位落としておいた方がいいだろう。百式の左手を奪った勢いそのままに、後ろから首を突いた。

 

「リック・ディアスは全機こちらで墜とした。ヤザン大尉、エグザべ中尉、帰還しろ。敵戦艦が向かって来た。」

 

唐突に、ドゴス・ギアのパプテマス・シロッコから通信が入った。

 

敵戦艦が前に出てくる?このタイミングで?MSの支援もなしに?

 

「ちっ!これからって時によぉ!!面白くねぇな!赤い彗星というやつは!!」

 

「今すぐ、シャア・アズナブル大佐から離れろ!!子供がどうなってもいいのか!!」

 

戦艦から通信?子供?

百式を守るように弾幕を張る敵戦艦。その艦橋が、見えた。

 

「あ?戦場にガキを?!」

 

「正気なのか!!子供を盾に!」

 

2人の子供の頭に、銃を突きつける軍人の姿を、見た。

シンタとクム、攫われた子供たちが、それぞれ、頭に銃を突きつけられているのを、見た。

 

「き、さまぁ!!シャア・アズナブル!!」

 

怒ることしかできない。言葉さえ、それ以上出てこない。怒りが、思考を覆う。

 

「所詮、ジオン公国の軍人程度か!赤い彗星!男じゃねぇんだよ!!」

 

「私が命じたことではない!!」

 

ヤザン大尉にシャア・アズナブルはそう、答えた。

 

その答えこそ、男らしくないだろう!軍人でもない!

 

「シャア・アズナブル、貴様!!貴様がしたこと!許されることではない!」

 

そうやって、お前は今まで生きて来たのか!シャア・アズナブル。自分が命じたことではない、自分が欲したことではない、自分が考えている事とは違うと、世界の全てに言い訳をして。

部下も、周囲の人間も、責任を押し付けて、切り捨てて、逃げつづけてきたのか!

 

「子供のようなことを!!赤い彗星のシャア・アズナブル!部下さえ庇わない、恥知らずめ!」

 

ヤザン大尉が撤退する。しんがりは僕だ。

 

「シャア・アズナブル。貴様は、僕を、怒らせた。」

 

百式から離れれば、敵戦艦の弾幕が僕を狙うが、当たるものか。今なら、目をつぶっていても避けられる。

 

思考が、走っている。

 

走る思考で、全てが、見えすぎるくらいに見えた。

 

戦艦に戻ったシャア・アズナブルが、子供に優し気に、しかし、おざなりに礼を言うのも見えた。

2人の子供が震えているのも。

 

ああ、そうか。

子供、クムの頭に銃を突き付けていた軍人、おまえが、レコア・ロンド。

 

それすら、見えていた。

 

 

 

 

 




ほぉら!やっちゃった!!シャア・アズナブル 編

ちなみに対パプテマス・シロッコ戦の時のエグザべ中尉のMSは量産型のリック・ディアスと普通ビームサーベル。対シャア戦の時のエグザべ中尉のMSはエグザべ専用機のギャン改-Ⅱパンジャンドラム装備と特殊ビームサーベル(長柄)&ハンブラビのヤザン大尉。

え?普通ここまで戦力差があったら、戦闘せずにアクシズに向かうって?それはそう。
普通の人なら、そうする。俺だってそーする。

だけどさぁ、シャア・アズナブルだぜ?
命令外の行動もするし、部下に命令を徹底できないし。MSで前に出るのはいいが、シャア、お前の後ろにいた部下が死んでいるが?
思い付きで行動すれば、ま、多少はね?多少???え?部下も同僚もシャアの周りでバンバン死んでるな…反省とか…後悔とか…
ララァだけ??いや、ララァにも違うか。
シャア君、逃げるのは結構だけどね、逃げ方が駄目。まるで、ダメ。
なってない。まず、過去のすべてから逃げないと、ね。名前も顔もプライドも捨ててないのは「逃げる」という手段からの逃避だから。



ギャン改‐Ⅱのビームサーベル解説

ビームサーベルの柄を長く握るか、短く握るか。
これ、現代の片腕の剣道有段者が実際に使っている戦法なんです。試合が凄かった。
長く持てば間合いが伸びる。威力も上がる。衝撃が強くなるんです。短く持てば振りが早くなる。使い分けることによって、1対1で相手を翻弄されていました。
これはとても素晴らしい、カッコいい技です。何度だって言えます。かっこよかったし強かった。
どれだけの研鑽と工夫がこれを導き出したのか、俺には分かりません。だけど、この戦術をガンダムで、接近戦で使いたかった。満足です。とても、満足です。



ところで、皆さん。見えるはずのない、敵戦艦内部の様子が見えるのは『人』ですか?
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