機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
不安で焦燥するカミーユを前に、ヌー・ハーグは少々反省した。
17歳とは、そういう年ごろなのだ。子供でなく大人でもなく、どっちつかずで不安定な精神になる頃だ。
子供扱いのままでいたくない年齢だ、子供なのに。
子供でいられる期間って人生では短いんだから思うさま大人に甘えて堪能すればいい、とすら思う年になっていた。
己も昔は17歳だったはずなのに。
ちょっと、いじめすぎたかな?後で、エグザべ中尉に告げ口されなきゃいいけど。
まあ、このカミーユ君の様子だと、この件はもう口にも出さないかね?エグザベ中尉の進退については。
「……それでも、エグザべさんだけだったんです。僕に、僕の両親のお葬式をしようと、言ってくれたのは。もう戦わなくて、人を殺さなくていいって、言ってくれたのは!!あの時、僕にガンダムMK-Ⅱに乗らなくていいって、言ってくれたのは、エグザべさんだけだったんですよ!!だったら、僕だってエグザべさんに理想の子供をして見せたっていいでしょう!!僕だって、エグザべさんに一緒に生きてほしいって言っていいでしょう!戦場から帰ってきてほしいって!!」
カミーユ君に言葉を返されて困るのはね、俺の本心だよ。
本当にね、嫌になっちゃうな。子供に泣かれるのは一番きついよね、どんな仕事してても。子供の涙って、本当にね、見たくないんだよ、大人はね。
俺のことを悪人だと思ってね、エグザべ中尉のことも諦めてね、軍を離れてくれるのが一番楽に生きていける道なのにね。お偉いさんも希望の進路に進ませてくれるんだし、希望の職にだってつけるのにね。
カミーユ君もファさんもね、今回は悪い大人に騙されたんだって思って怒ってね、一旦は嫌な気分になっても、俺達みたいな、いつか死ぬだろう軍人からは離れて心静かに暮らすのが一番楽な道なのにね、どうしてそうしないのかな?
人間の、いや、生物の不思議ってものなのかな?何をどう考えたらね、生物は明らかに楽ではない道を進もうとしてしまうんだろうね。脳内物質のバグだったりする?ストレスがね、生物の判断力に異常を引き起こしてるんだろうか?
まあ、医者とか学者にみせたら、適応障害の1種ってラベリングでもされるのかね?ジャンル分けって大事だもんね。わかる。
カミーユ君は、俺と目を合わせようとしない。
これも昔から不思議だった。俺を殴ろうとする人間は、なんでか知らないけれどね、俺と目を合わせようとしなくなる。殴った後もね、出くわしたら気味悪い生物でも見たって感じでね、俺とは目を合わせずに足早に去っていった。
俺から挨拶してもね、知らない人扱いされるし。
「駄目なんですか?僕が、僕みたいな奴がそういう風に、エグザべさんのことを家族だと思うなんて、許されないことなんですか?僕の両親のことを悼んでくれて、僕と一緒に両親の安寧を心から祈ってくれた。誰も、そんなことしちゃくれなかった。本当は僕だって、あの時、両親の安寧なんて祈れなかった。僕と両親の関係を知らなかったエグザべさんだけが、父さんと母さんのために祈ってくれたんです。」
カミーユ君は、両親とうまくいってなかったんだったっけ?エマ中尉から聞いたような?
エグザべ中尉がアーガマに着任するまでの記録があまりに杜撰過ぎて、カミーユ君がガンダムMK-Ⅱに乗る経緯は、本当に情報部でも噂程度にしか聞けていない。
ガンダムMK-Ⅱに偶然乗ったカミーユ君ごとね、エゥーゴが強奪してきたらしい。が、その不確定情報とね、監視カメラの情報とね、ティターンズで作られた報告書とかがね、それぞれ違う経緯が報告されてて正直ね、精査に膨大な時間がかかりそうだ。
それだから、シャア・アズナブルにはすっごく苦しい死に方をしてほしいね、というのがエゥーゴ情報部全員の総意だ。
考え事をしながらも、目はカミーユ君から離さないようにしている。
まあ、これは、そう。
昔から、俺が油断して目を逸らした途端に殴りかかられることが多かったからだ。何されても、目をそらさないことが俺の必勝法なんだよね。
「僕は、子供の真似事、してる、僕は、……惨めな人間ですよ!傍から見ると、哀れで間抜けな道化でしょうね!でもね!僕だって!勘弁してほしいんですよ!大事だって思う人が、もしかしたら、また宇宙で死んでしまうかもしれないだなんて!嫌なんですよ!コロニーとかサイドとか地球とか全部、僕の知ったことかよ!命はね、心は、取り返しがつかないんですよ!僕の大事な人、人たちの命を!心を!馬鹿な革命ごっこで、大人のおもちゃにされたくないんだよ!!」
「エグザべ中尉はね、それでもいいよって、言うよね。君たちが平和に生きていけるのなら、それでいいって。前にも言ってたからね。」
部屋に椅子があってよかった。いや、一番ヤバかった奴らは、椅子とか塀とか窓とか乗り越えて殴りかかって来たけど。カミーユ君が、大人しい子で本当にね、良かった。椅子で殴られたら、俺は死ぬからね。
「まあね、そういうこと言うのは、エグザべ中尉の悪いところだよね。あの人の駄目なところだよね。分かってるよ。カミーユ君のね、気持ちもね。情報部のお説教って、つまりは中尉のそういうところをね、矯正したいわけだし。でも、あんまり期待しないでよね。俺らにもね、限界っていうものがあって。あー。つまりね、エグザべ中尉の思い込みっていうかね、まあ、常識的な態度っていうか、そういうクソ真面目で融通の利かない思考回路をね、俺ら情報部だけでどうにかできるわけないだろうって話でね。説教はするよ!するって。理論武装してね、なんとか中尉を言い負かしてね、説教するよ!」
「僕に、友達が、できたから!自分は用済みだって!そういうことを!言う人に、エグザべさんに!僕は!そんなこと考えてほしくないんです!それだけのことなんですよ!」
それが一番難しいから、カミーユ君もね、俺のところに来たんだろうにね。そういうこと言っちゃうのが、君の保護者のエグザベ中尉なんだから。
いや、本当にね、難しいんだよ。だって、エグザべ中尉は理屈っぽいところがあるからね。頭硬いんだよね。
別に俺なんかは、サイド3消せば万々歳じゃないかって思うけど、エグザべ中尉はそういうことをね、言わないもんな。
サイド3なんか見捨ててね、カミーユ君たちと、これからも親子みたいにね、過ごせばいいじゃあないかってね、俺は思うんだけど。そういうこと、言わないもんな。考えてもないみたいだし、本当にね、頭硬いんだよね。
地球連邦がすべてのコロニー、全てのサイドと信頼関係を結んで、ジオン共和国がジオン公国を全否定して信用を取り戻すことが一番の解決方法だなんて、真面目でかったるい方法をね、そういう道を進もうとするんだから。
そのためなら、できることは全部するってね、当たり前のように言ってくれちゃってさ。それでね、子供に、カミーユ君にこんなに心配かけてさ。
本当にね、嫌になっちゃうな。子供が泣かない未来のためならね、全力を尽くすのは悪くないかな、なんてね。そのうえで、若い奴らの理想論に乗るのも悪くないかなって思う俺がいるのも、本当にね、嫌だよね。
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私、イイ男に縁がないのよ。それが、ようやくわかったの。
医者のハサンに手当てを受けているクワトロ・バジーナ、いえ、キャスバル・レム・ダイクンを後ろから見下ろしながら、私が思うことはそれだけだった。
イイ男に縁がなかった。私がこれまで戦場を駆け抜けてきたのは、命の危険に身を晒してきたのは、全部、全部がそれだけが理由だったのよ。レコア・ロンド。
なんて惨めな男かしら、キャスバル・レム・ダイクンは。
先ほどの、パプテマス・シロッコの戦艦ドゴス・ギアとの戦いを思い出す。ドゴス・ギアさえ落とせば道も見えるなどと嘯いて、このざま。
残り少ない、直掩のための大事なリック・ディアスを全て落とされて、キャスバル・レム・ダイクンは、私達が子供の命を盾にしなければ死ぬところだった。
こんな男のために、私は地球のジャブローにたった1人で向かい、そして………悍ましい目に合った。
「しばらく、静養が必要ですよ、シャア大佐。左手首の骨、軽い罅で済んでますけど、MSの操縦はおススメできませんね。」
ハサンはアーガマに乗っていた医者だった。考えてみれば当たり前よね。キャスバル・レム・ダイクンなんだもの、シャア・アズナブルは。医者は信頼できる人間にしか務まらない。そう、キャスバル・レム・ダイクンが信頼できるものにしか。
私はそんなことも知らされていなかった。シャア・アズナブルだということさえ。
ジャブローに1人で、私を本当にたった1人でジャングルに降ろしておいて、広い地上でティターンズの動向を探らせておいて、この男は、私に報いなかった。何も教えなかった。ジャブローがどれだけ広いジャングルか、知っていたはずのシャア・アズナブル大佐。
この戦艦の中で再会した時の言葉は、死ぬまで忘れはしないだろう。「裏切ったのか、レコア・ロンド。」だった。
私は、地上で、ジャブローのジャングルを彷徨っていただけだった。川をボートで移動し、時折、ジャングルの木の間から見える大型輸送航空機の数を、正しい数でもない、ただ、ボートの上から見えた数を数えるしかできない無能をした。それだけしかできなかった。地上のことを何も教えられなかった私には、出来ることはそれだけしかなかったの。
そんな無能の繰り返しの末、アーガマとも、エゥーゴとも連絡するたった一つの手段さえ、あまりの地上の広さと地形の複雑さに戸惑って、失くしてしまった馬鹿な女がレコア・ロンドよ。
「ハサン先生、大佐の治療、ありがとう。」
それだけは言った。この男は、それさえも言わない。プライドが傷つけられたとでも。お笑い草だわ。左手首の骨の罅だけで傷つけられる、お安いプライドですこと。
私は今、ティターンズの軍服を纏っている。ジャブローで、私はティターンズに入隊した。
ジャングルを10日も彷徨っていた私は正常な判断力を失っていた。たった10日で。
ティターンズに捕縛されていなければ、命を落としていた。
地球が、あんなに過酷な環境だったなんて知らなかった。知りたくもなかった。
ジャングルで宇宙を感じた。死と隣り合わせの世界を、感じた。
ジャブロー基地の営倉で傷ついたことなど、傷つけられたことなど、受けた屈辱など、生きていることに比べれば。
だが、私は一生この傷を抱えて生きていくことになるだろう。
やがて治る傷が何だというの、シャア・アズナブル。
ティターンズに、エゥーゴとアーガマの情報を全部吐いた。ジャブロー攻略の方針をブレックス准将とクワトロ・バジーナ大尉が一考していることも話した。
だが、クワトロ・バジーナ大尉はジャブローに来なかった。私がいるジャブローに。ティターンズが罠を仕掛け、待ち構えていたジャブローに来なかった。私を助けに来なかった。
ジャブローに、エゥーゴが攻めてこなかったことが、ティターンズにとって致命的なことに繋がったらしいとは、汚い営倉の中で噂として聞いた。
アーガマは、シャア・アズナブルは月から離れなかった。私をジャブローに落としたくせに。
アーガマは月のグラナダ基地を強襲し、エゥーゴの基地へと変えた。月で地球連邦軍のエゥーゴに変わった。でも、私をジャブローから助け出しもしなかった。交渉もしなかった。私の無事さえ、確認しなかった。
ティターンズの奴らにとって、私は笑いものだった。まんまと、私が吐いた情報からジャブローでエゥーゴを殲滅できるつもりの作戦を、盛大に失敗をしたティターンズでさえも、私を、嘲笑った。
あの間抜けどもに、私は!!
ジャブローに気を取られて、グラナダを奪われた間抜けなティターンズにとっても、男に捨てられた女は笑いものよね。それが、己の身体と命を捧げてまで、宇宙から降りて来た女だもの。
惨めな自分を受け入れた時、私に道が開いた。
ティターンズの総統ジャミトフ大将。彼の手の者から、クワトロ・バジーナの本当の名前を聞かされた。キャスバル・レム・ダイクンであるということも、アステロイドベルトのアクシズから帰還した後にエゥーゴを組織した理由も。
ニュータイプの未来の為ではなかった。宇宙移民のためでもなかった。結局、ジャミトフの掌の上で、キャスバル・レム・ダイクンは転がされていた。それだけのことだった。
笑ってしまった。笑うしかできなかった。
アステロイドベルトのアクシズから戦艦で地球圏まで帰還しようとしたキャスバル・レム・ダイクンは、その帰還の中途で、結成されたばかりのティターンズの艦隊に見つかり、戦艦を撃破されただ1人MSで逃げた。
かろうじて生き残り、救助された艦載員から引き出された情報をもとに、ジャミトフはキャスバル・レム・ダイクンの、いえ、シャア・アズナブルの行動を予測し、ブレックス准将の元へ誘導した。情報を漏らした。
連邦政府に監視され幽閉されていたブレックス准将を、華麗な判断で助け出したクワトロ・バジーナなどいなかった。ジャミトフに助けさせられたのだ。地球連邦政府の危険分子ブレックス准将を世に解き放つために。
ブレックス准将は、ジオニズム主義者だった。ジャミトフと同じ、ジオニズム主義者だった。ブレックスは、エゥーゴは何も知らないまま、同じジオニズム主義者の作ったティターンズと戦うつもりでいた。
イイ男に縁がない人生だったのよ、レコア・ロンド。当たり前よね、戦場での、危険な場所での出会いなんて、そういうものなのよ。こんな年齢になってまで、気付かなかった私が馬鹿なの。
ティターンズに入隊したのは、その場で、だった。
グラナダ基地から出港したこの戦艦に乗りこんだのは、フォン・ブラウン市で、だった。
グラナダ基地は憲兵で溢れかえっていて、ティターンズの協力者で組織されたこの戦艦に接触できなかったから。
この戦艦でシャア・アズナブルを確保できたのは、そう、エゥーゴがシャア・アズナブルが見放したからだった。
彼らが、シャア・アズナブルの正体がキャスバル・レム・ダイクンだと知っていたのなら、どんなに無理をしてでもこの男を回収しようとしただろうに。
この人生では、イイ男に縁が無い。もう、それが分かってしまった。理解してしまった。
このまま、この戦艦はアクシズに向かう。
キャスバル・レム・ダイクン、あなたをそこへ、私が連れていく。地獄へ。
ララァさんには悪いとは思うけれど、まあ、あの世で分かり合えるわ。ララァさんと私、レコア・ロンドは、間違いなく分かり合える。連れて行ってあげるわ、ララァさんのところへキャスバル・レム・ダイクンを。
私は来世で、イイ男を探すから。
ここ書いてた時のメモ帳にはカミーユと対話する相手はブライト、とか書いてあってワロタ…無茶言うなや、俺。
ブライトがあの世へGOしてしまう…ヌーにしか出来んだろ、こんな説得は。
サンタクロース、皆さん、何歳くらいまで信じていました?親には何歳まで信じたフリして見せてました?俺は馬鹿なので4歳くらいの時に、サンタクロースはいないって幼稚園で皆に言いふらしていました。(極悪人並思い出)
まあ、そういうことです。
後半はレコア・ロンド来世ガチャをはじめる 編
えー、来世ガチャとか、ひけるわけないやろ。弊SSのレコアは正気じゃないんだよ。
シャア・アズナブル、年貢の納め時だぞ。アクシズ行くぞ。
この時点では、まだキャスバル・レム・ダイクンの名前が使えるなどと甘い予測を立てているシャア・アズナブル。
でもキャスバルの名はできるだけ使いたくないし、ゴミ箱(アクシズ)にも行きたくないから、ドゴス・ギアにちょっかいかけて軽率に死にかけた。通常運転。
Z本編での描写に準拠したつもりでいる。俺の考察上、シャア・アズナブルはこういう行動をとる。
レコアは某鬼退治漫画の鬼の女の人を意識して書いた。怖いので二度と書きたくないとこの時点では思ってた。まあ、無理だった。