機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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どんな学問も最初の一歩は、そう、小さな部屋から始まるものだ。

書斎、地下室、屋根裏部屋、倉庫…

個人間の手紙の往復が作り出した学問だってある。

始まりが、どこであろうと、なんであろうと、知りたいという意思が学問を育てて来た。


サイコミュ研究室 1

 

 

 

 

ハマーンさんは頼りになる人だ、とエグザべさんは言ったけれど、多分、あの人、その本当の意味は分かってないんだろうな。だって、分かってたなら、もっともっと頼りにするはずだ。

カミーユはそんなことを思いながら、意味が分からない単語で埋め尽くされている論文を読んでいる。

 

ヌー曹長は、あの次の日にエグザべさんの執務室に情報部員の半分を連れて押しかけ、それで、部屋の中で言い負かされた。部屋の外にいた僕とファには詳しい話は聞こえてこなかったけど言い負かされたのだけはわかった。部屋に入っていった情報部全員が同時に大声で話していたのが原因だ。

そのなかでもヌー曹長は聞くに堪えない罵詈雑言を発しながらエグザべさんの執務室から出てきて、それも語彙が尽きるとやがて子供みたいに、

 

「バーカ!バーカ!!」

 

と、部屋の中に向かって言うしかできなくなっていた。

僕はそれを見て、悲しくなるより先に見てはいけないものを見てしまった罪悪感に襲われた。

 

残りの情報部員も這う這うの体でエグザべさんの執務屋から出てきて、僕は更なる罪悪感に襲われた。

 

その後、情報部で行われたデブリーフィングには、僕もファも参加した。

僕たちはなんだか、本当に申し訳ない気分で心がいっぱいになってしまったので。泣くよりも、本当に申し訳ないと情報部の人たちに謝罪したい気分だった。

 

そこに来たのが、ハマーンさんだ。憲兵を連れて来た。いや、違うか。憲兵に連れられて、ハマーンさんが来た。

 

「連邦軍上層部から許可は取った。カミーユ・ビダン。これを読むか、それともグラナダ基地に保護されるか。…選ぶと良い。私は、お前にも、恩返しがしたい。」

 

ハマーンさんが、差し出してくれたのは分厚い封筒だった。縦にも横にも立てられるくらいに分厚い封筒には、書類が入っているようだった。変なマークが入っている封筒。

 

「あのね、ハマーンさんね、これ、ダメだよね!これ、読んじゃったら、カミーユ君ね、いや、ファさんもね、一生、軍属から離れられなくなるレベルの機密だよね!!」

 

ヌー曹長が慌てて封筒を奪おうとするのを、ハマーンさんは軽く足で転かして止めた。強い。

 

「だから、選ばせている。痴れ者が。」

 

「読みます。ヌー曹長、僕に読んでほしいから、ハマーンさんが持ってきてくれたんです。」

 

咄嗟に、ヌー曹長は僕の足を掴んで止めようとしたけど、僕は封筒を開けて書類を掴み出した。

 

『サイコミュ』

 

表題はシンプルだった。僕はファの顔を見た。ファも不思議そうにその書類を見ていた。何かを言おうとしたファの前に大声を出したのはヌー曹長だった。

 

「あーあーあーあー!!わかった!わかったから!空き部屋ね!空き部屋用意して!!タナカ伍長!カミーユ君!すぐにね、封筒に入れて!!空き部屋に行くから、すぐ!」

 

ヌー曹長は床に転がったまま、そう、声をあげた。申し訳ないな、と僕は思ったけれど仕方なかった。ハマーンさんは頼りになる人だって、エグザべさんが言ってたんだから。

 

「地球連邦軍とアクシズのサイコミュ研究。その知識をまず頭に叩き込んでもらおう、カミーユ。その次はニュータイプ研究も手を付けてもらう。時間はない。マシューとセーラもつける。兎に角、正確に頭に入れろ。」

 

そう言って、ハマーンさんと憲兵は空き部屋にマシューとセーラを呼んでくれたし、この分野の研究に不可欠だという、学術論文や専用の辞書までくれた。

用意された空き部屋がアーガマの憲兵区画にあるのは、これが本当に最重要機密だからだ、とわかった。

 

「これがあるうちはね、アーガマは戦闘どころか!グラナダ港からもね、でれないよ!!は?憲兵さんね!この部屋、いざとなったら、全焼できるようにね、してくれてないの?正気なの?!」

 

ヌー曹長はそれを知って悲鳴さえあげた。悪いことしたなぁ、とは思ったけれど、ヌー曹長は僕を、

 

「小さいクソガキ」

 

と、呼ぶようになったので、謝罪はやめた。

 

「カミーユ!そこは違う!こっちの論文のことだ。書かれた日付を見ろ。まだ、その論文は出ていない。その単語は、この論文から引用してきている。」

 

マシューは数学はできないが、サイコミュの知識は僕でも感嘆するくらいに博学で、丁寧に教えてくれた。逆になんで、数学ができないんだ?

 

「マシューは、本当にエリートだったんだな。俺は疑ってた。ごめんな。」

 

本当に心からそう思って僕は謝ったんだけど、マシューは僕の頭を叩いた。

 

「グダグダ言わず、さっさと読め!」

 

セーラは、サイコミュについて疑問点があると答えてくれる。既に最新の知識まで頭の中に入っているという2人に付きっ切りで囲まれて、僕は論文を読んでいる。

 

ファは、ハマーンさんとマイネと一緒に行ってしまった。ハマーンさんの秘書兼マイネの世話係に抜擢されたからだ。ファを巻き込んでしまった僕が言えた義理じゃないけれど、ちょっと裏切られたような気分になった。

 

一緒に勉強してくれないのかよ。本当に僕だけみっちり、マシューとセーラと一緒に論文を読んでいる。

 

ファの奴、嫉妬もしてくれない。いや、今までの僕の態度が悪いんだけれども。最近、色々反省して分かるようになってきた。

でも、なんだかなぁ。今更なような気がして謝るのも難しいし、というか、謝っても…取り返しが…いや、謝らないと駄目なんだけど!僕が意気地なしだから、ファとのことも有耶無耶に今まで来ちゃって、どう言葉にしていいのかわからない。

 

ファの両親のことも、ちゃんと僕たち2人っきりで話さないと駄目なんだ。

エグザべさんは、忙しいし、こういうの色恋沙汰にも性格的に向いてないし、僕が頑張らないといけないんだよな。でもなぁ。

 

僕が色々なことで頭をギリギリ回転させている時に、ファはマイネと一緒なのか。羨ましい。本当にみんなに悪いと思うけど、羨ましい。だけど、

 

「きょうから、お母さまとおひるごはんもいっしょにたべられるの。」

 

そう言って笑ったマイネはとても、とっても嬉しそうだった。なら、まあ、仕方ないよな。僕が、この研究を頭に入れるしか。

 

「バイオセンサー?サイコミュとの違いが…あれ?これ、どこかで見たような?」

 

どこで見たんだろう?僕はバイオセンサーを知っている。設計図に見覚えがある。

 

「バイオセンサーは、アクシズでは研究していない。アナハイムエレクトロニクスだ。簡易的なサイコミュだと書かれているが……アクシズのサイコミュに似ているところがある。」

 

マシューが珍しく真面目な顔をして言う。そういう顔してると、本当にエリートに見えるから、ずるいよな。

 

「そうですね、マシュー。確かに基礎が似ています。アナハイムエレクトロニクス製の物とは別系統のバイオセンサーが連邦軍にあるとは姉から聞いていますが、あっちは研究者の意向で完全に秘匿されているそうなので私たちにはわかりませんが。…アナハイムエレクトロニクス製のバイオセンサーはアクシズの技術が流出してできたもの、なのかも。」

 

「マシューもセーラも、バイオセンサーの研究論文も読んだのか。いつの間に?」

 

悔しいな、本当に。2人に負けたくないと思う。特に、まだ数学Ⅰで苦戦しているマシューには!

 

「あ、Ζガンダムだ。俺が設計していない部分に、バイオセンサーが搭載されていた!バイオセンサーは簡易的なサイコミュになるのか?なんで搭載するんだ?計算上はバイオセンサーとかサイコミュの補助が無くても、ガンダムMK-Ⅱの機動性を凌駕していたはずだ。」

 

「ガンダムを設計した?カミーユ、何を言ってるんだ?」

 

「ガンダム、というか、その後継機だったガンダムMK-Ⅱは、色々あって俺の専用機なんだ。…俺の父が設計に携わっていた。母も、MS装甲に使う合金やフレームの研究をしていた。俺はずっと、2人の研究を盗み見していたから、それとリック・ディアスのデータを使って…なんだよ、マシュー。変な顔して。俺は、Ζガンダムには乗ったこともないよ。本当は俺が乗る予定だったらしいけど、エグザべ中尉に機体変更の訓練が難しいって反対されたから。」

 

マシューは俺の説明を聞いて、酸っぱいものでも食べたような、変な顔をしている。セーラは不思議そうに、お上品に首をかしげているというのに。マシューがエリートかどうか、疑わしくなるのは、こういうことするからだよな。

 

「お前は、何ができないんだ?カミーユ。」

 

「できないことだらけだよ、俺なんて。で?このバイオセンサーとサイコミュの比較研究って?…無い?」

 

「バイオセンサーは、アナハイムエレクトロニクスの持つ最新の研究技術です。元会長のメラニー氏が逮捕起訴されるまで社外秘でした。連邦軍が押収したので、私たちも、私と姉とマシューも意見を求められて読みました、が。実働テストの結果などありませんでしたよ。もしかしたら、消されたのかもしれませんが…まあ、その。」

 

珍しくセーラが言い淀んだな。割と、はっきり言う人なのに。

 

「セーラ様、カミーユ相手に遠慮されることなどありません。はっきり言えばいいのです。この図太い神経の人間は多少のことでもへこたれませんよ!」

 

「マシューと違って、俺は繊細なんだよ!」

 

「繊細という言葉は地球圏では意味が変わるらしいな!昨日の小テスト、採点もめんどくさいから全部やりなおせなどと、俺に言った人間の言うことか?」

 

「マシュー、話がずれています。小テストはまた、明日やりなさい。いいですね。…カミーユ、こういうことは、はっきり言いますね。バイオセンサー、エグザべ中尉が止めていなければ、あなたが最初の被験者でした。実験体と言っても過言ではないんですよ。」

 

「じっけんたい。」

 

馬鹿みたいに、セーラの言葉を繰り返していた。おれがじっけんたい……

 

「このバイオセンサーというもの、ジオン公国とアクシズのサイコミュの流れを受け継いでいる部分が見られる、と言っただろう。これは、俺の私見だがシャア・アズナブルがアナハイムエレクトロニクスに技術提供したのだと思う。サイコミュをそのまま流用しなかった理由は、MSの小型化の為だろう。」

 

「こがたかのため。」

 

マシューの言葉も繰り返している。どうしよう、頭に内容が入って来ないというか、理解したくない。

 

「なんだ?重要なことだろう。ハマーン様の乗られるキュベレイ、あの大きさは敵を威圧するための物ではない。最高品質の高出力サイコミュを搭載しようとすれば必然とあの大きさにまでなるということだ。量産には向かない。だが、小型化できたら、量産できるだろう?」

 

「りょうさん。」

 

「どうした?カミーユ、様子が変だぞ。」

 

こういう時、エグザべさんはどうしていたっけ?深呼吸をよくしていたな。真似して、何度か深呼吸をした。

息を吸って出す。その間に、もう一度、さっきの会話を思い返していた。

 

「サイコミュを小型化して、MSを量産するために、俺が実験体になるところだった?」

 

「そうだ。ただのMSじゃないぞ。ニュータイプにしか使えないMSだ。俺も機会があれば、サイコミュのMSとバイオセンサーのMSの乗り比べをしたいものだが。」

 

マシューは楽しそうに話しているが、僕にはひとつ気になることがあった。

 

「量産されたMSを操縦するニュータイプは?人間は、MSの部品じゃないんだぞ!」

 

「落ち着いてください、カミーユ。マシューが少し、いえ、だいぶMSバカなのは知っているでしょう。」

 

セーラはマシューの頭を右手で押さえつけながら、僕に言う。いや、確かにマシューに怒ることじゃなかった。

 

「ごめん。マシューもセーラも。でも、本当に看過できないだろ、この問題は。だいたい、誰と戦うためにアナハイムエレクトロニクスはこんなMSを。」

 

「設計したのはカミーユだと言ったじゃないか。」

 

セーラに頭を押さえられながらもマシューが言う。こいつ、本当に!もう少し、エリートっぽい仕草してくれよ。

動きがコメディアンと同じなんだよ!マシューは。

 

「俺が設計してない部分だ、とも言ったぞ、マシュー。俺がZガンダムを設計したのは、戦わせるためじゃなかった。自分で乗って戦うことも考えていなかった。…ガンダムMK-Ⅱの性能を超えるMSを作ってみたかったんだ。両親の遺したものをかき集めるのに必死だっただけで。」

 

そうだ、Ζガンダムは母と父の研究の延長線上のものだ。

変形機構は、まあ、僕の趣味だけど。エグザべさんはよりにもよって、その変形機構を散々に貶してくれた。アストナージさんに聞いたときは、本当に頭に来た。エグザベさんはパプテマス・シロッコ少佐のメッサーラを絶賛してたくせに!

 

「そういえば、ニュータイプの研究論文は?」

 

セーラに訊く。

このサイコミュの研究論文を頭に叩き込んだ後は、ニュータイプに関係する論文だと、ハマーンさんは言っていた。

 

「ヌー曹長から聞きました。あと、1週間後に届くそうですよ。そちらは、私もマシューもサイコミュほど詳しくはありませんから。カミーユと一緒に勉強することになるんでしょうね。」

 

憂鬱だ。

だいたいニュータイプ研究ってなんだよ。危うく実験体にされるところだった僕が読んでもショックを受けないような内容なんだろうな?

いや、でも、ハマーンさんが必要だって言うのなら、間違いなく必要なんだろうし。

 

「サイコミュがあるMSとないMSで、比較なんかしたことないんだ、俺は。それなのに、本当に、もう。」

 

つい、言葉に出ていた。

モルモットみたいな実験体になるところだったのか。何も知らないまま、よくわからない何かを使ってしまうところだった。使わせられるところだった。

 

「サイコミュがあると、MSが自分の体になったかのように自在に動くような感じがして面白いぞ。機体の反応も良い。宇宙を自在に動けるような気がする上に、他のMSに誰が乗っているか、どんな人間が乗っているかニュータイプ同士なら分かるようにもなる。研究者は知覚が拡大してるだとか感応波が共振しているとか言うが、俺には上手い表現だとは思えないな。こう、詩的な表現ができればいいんだが。」

 

なるほど、と思った。マシューはニュータイプだ。自分がニュータイプであるということを素直に受け入れているのか。思想ではなく、能力としてのニュータイプに素直なんだ。

 

「マシューは、本当に正直で素直なんだな。俺にはできないけれど、尊敬するよ。」

 

感心してそう伝えると、マシューにまた軽く頭を叩かれた。なんだよ。僕にしては珍しく、素直に気持ちを伝えたのに。

 

 






カミーユとマシューとセーラと、サイコミュと 編


こういう青春みたいなの良いよね!俺は好き。
え?この書類読んだだけで、一生軍属ですか?はい。ここは宇宙世紀なので。宇宙世紀なので!サイコミュって純軍事技術だし…外部流出したらまずいし。
いや、連邦軍としてはミノフスキー粒子対策として有線式誘導兵器開発と戦闘用支援AI開発に舵を切るべきなんですけど。なんで、サイコミュMS開発なんかしてんですかね??
ミノフスキー粒子って有線通信も阻害できるって設定でもあるのかな?

スカイネット??ゴースト?いや、ちょっと知らないですね。新しいアメリカンレストランですか?俺はステーキが好きです。他人の金で食いたいですね。




サイコミュとニュータイプの設定はテレビ版のガンダムでも、割と唐突に出てきたように感じるので富野監督の渾身のSFだと思うんですよ、俺は。
時代を感じるよな。人間の可能性の飛翔とかアウフヘーベンとか。SFって感じがする。

いや、俺にとってSFとしか感じられないのが駄目なのかもな。
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