機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
アナハイムエレクトロニクスの暗躍もあり、エゥーゴ主導によるグラナダ港襲撃とアンマン港防衛戦は成功に終わった。
だが、その成功が人々に平穏をもたらすはずはない。
次の戦いの呼び水だと、誰もが理解していた。
そう、次の戦いを誰もが予感していた。
アンマン港防衛戦から2日。次回の敵攻撃に対する打開案がない。と言うのはまだ、現実と呼ぶべきではないんだろう。
アンマンにはまだ敵が集結していない。ティターンズ艦隊が月へ向かってきているという情報もない。
むしろ、何も知らないようにグラナダ港で補給を済ませてグラナダ港を出港していった戦艦と補給艦さえあった、と言う。グラナダ港勤務の地球連邦軍人が、そう情報をくれた。本当だろうか?罠か偵察じゃないのか?
だが、情報を精査する時間も人手も足りない今は、信じるしかなかった。
僕の、エグザべ・オリベの力不足だ。ヘンケン艦長に意見具申はしてはいるが、エゥーゴ情報部の設立はまだ確定されていない。
ティターンズ内部で派閥争いでも起こっているのだろうか?
グラナダ港がエゥーゴによって襲撃され、アンマン近辺に伏せていたMS部隊が壊滅したという重大な情報の共有がされていない、とでも?
ありえない事態だが、現実、そう受け止めるしかない状況だった。
僕は、怯えてしまっていたのかも知れない。焦りと不安に飲み込まれていたのなら、自分はまだまだ未熟者だと言うことだ。
洗面所で顔を洗って、鏡を見る。いつもの僕だ。焦りも不安も表情に出ていないな。
それが士官にとって、一番大事なことだ。
「僕は子供を、カミーユを護りながら戦う。そう決めたんだろう。」
そう言えば、誰かを護りながら戦うなんて事はあまりして来なかったか。守るのは戦艦や僚機、あるいは基地で彼らは守るべき対象だったが、同時に守ってくれる仲間だった。
経験のない事を始める緊張感に飲み込まれていた?
こんな自分にやり通せるか、今更不安にでもなったのか?エグザべ・オリベ。
しかし、このアーガマで1番不安を抱えているのは僕ではない。カミーユだ。
子供のために大人がいるのだ。未熟な彼らに未来を託すため、彼らを護るという偉業をなしてきたから、人間は宇宙にまで来た。来ることが出来た。
僕が、ここにいるということは、僕は託され護られてきたからだ。
ならば、それを僕自身も行わなければ。
人は未来にさえ辿り着けない。
託すという本質の1つは自分が教えられた事を出来るだけ再現性高く、教えられたように教えるということ。
つまりは、訓練だった。
これを再現性高くカミーユに教えるという事は、現状かなり厳しい話だ。カミーユの問題ではない。
月には士官学校にあったような訓練施設がない。観測設備も、教本すらない。
しかし、だからと言って疎かにするつもりもない。僕にできることは、全てやる。
それも、託す、ということだ。
「本来なら、まず、ひたすらまっすぐ歩くことから始めるんだけどね。」
ここはアンマン港にも近い、未開発のクレーターの内部だった。コロニーデブリの山に近すぎて、開発予定だったのに1年戦争中に放棄されたクレーターだ。外壁面にだけ、都市化にむけて強化されていた跡があった。内部は月面そのままだ。
充分とは言い難いが、それなりの広さがある。ここを僕に紹介してくれたのはウォン氏だった。この間のデブリーフィングの時だ。
クワトロ大尉の百式も、ロベルト中尉とアポリー中尉とエマ中尉のリック・ディアスも受領したばかりだ、とあのデブリーフィングで確定した。僕としては、間違いであってほしかった。
エゥーゴのMSパイロットは全員、訓練時間が足りていない。僕も含めて。
そう指摘したとき、ヘンケン艦長はウォン氏を頼らざる得なかった。アンマン市民の避難計画とともにMSの訓練を行える場所を求めたら、ここを一時的に貸し与えられたのだ。
今、ここにカミーユと僕しかいないのは、まあ、エゥーゴがそういう組織だから、だ。
いずれ、全員が真面目に訓練をするように少しずつ矯正しなければならない。頭が痛い問題だった。
ともかく、「歩く」ことは軍の訓練の基本の1つだ。人でもMSでも基本が変わらないと言うのは、僕や同期の仲間にとって、とても興味深かった。その、本当の距離を見るまでは。
「軍のMS訓練施設なら歪みのない白線がコロニーを一周しててね、そこを歩行だけさせるんだ。そうだな、6時間くらいだったか?MSをふらつかせでもしたら10分連帯責任で追加されて行ったよ。」
あの時、僕はMSを動かすのに体力がいる事を知った。おまけに左右で微妙にバランスが違うことも、機体そのものに個性がある事も、だ。ハズレの機体は分かりやすい。ペダルが重い。より疲れるので、パイロット候補は出来るだけその機体を割り当てられないように祈っていた。
ここは月だ。コロニーほどに高低差も、ゆがみもない広いだけの場所などありはしない。このクレーター内部は狭い。本当は精巧な観測計も欲しいけど。
宇宙でまっすぐ歩く、飛行する、飛び上がる。どれも正確に少しのブレもなく出来ているのか。冗談ではなく、これが出来るかどうかで生死が分かれることもある。
訓練では何度も何度も繰り返し身体に覚え込ませる。そう、息するのと同然に出来るようになるまで。
教官も真剣に繰り返し確認していた。彼らの仕事は、軍人を育てることだけど、その育てた軍人をむざむざ犬死にさせる訳にはいかないからだ。せめて、せめて、そうはならないように、と祈ってさえいた。
一年戦争の傷跡は、誰にでも深かった。
「まぁ、だから、この場で出来る訓練から始めよう。今から、僕が月面に弾痕で直線を引くから、それに沿って、まっすぐブレずにホバー移動してみてくれ。」
カミーユに説明した後、スラスターで飛び上がる。リック・ディアスのライフルを連射に切り替え、撃ちながらスラスターで姿勢を操作し月面に弾痕の直線を引いた。コツは、ライフルの位置を確実に固定することだ。
「リック・ディアスの計器で見ても問題ないな。カミーユ!終わりまで行ったら、そのままバックで戻ってきてくれ。線は消さない程度に機体を離して、そう、その距離でいい。ゆっくりでいいよ!」
彼はまだ思ってもみないだろうな。今日は初日だから、3時間程度にしておくか。
「どうだった?」
「僕は、馬鹿にされてるのかなって、最初は思ったんですけど。」
訓練でヘトヘトのカミーユはガンダムMk-Ⅱに乗ったまま、コクピットを開けて自分がホバー走行した後を見ていた。ちゃんと3時間、彼は頑張った。軍学校の初年生より、断然優秀だ。線を跨いだ跡があっても。
「まっすぐホバー出来てない。姿勢制御装置は付いているはずなのに。これって、体力の問題ですか?エグザベ中尉。」
「集中力と慣れもあるかな?でも、MSを倒さなかった君は優秀だよ。ちゃんと指示にも従ってくれたし。僕はいい生徒に恵まれたかな?」
僕は、僕を軍へ送り出す卒業のとき、泣いてくれた教官の気持ちを再度知った。
生きて帰ってきて欲しいと。
だが、時間が無いのも現実だった。一通り、カミーユに人間は考えた通り、思った通りに実はMSを動かせていない事を自覚させる訓練をしたが、生き残るためには、全然足りない。だが、まぁ、
「パイロットは8時間以上、睡眠をとることを義務付ける規則があるから、今日はもう部屋で休んで良いよ。後は僕の仕事だから。」
カミーユは何かを返事をしたかったのかも知れないが、うめきながら部屋に戻っていった。分かるよ。初めは全身が痛むよな。
さて、彼の訓練データを見ながら何が得意で苦手なのかを把握し、訓練方針を見定め無ければ。
彼を生き残らせるために、できることを、行え、エグザベ・オリベ。
「少し、初歩的過ぎるのではないかね?」
データを確認している時に後から声をかけてきたのは、クワトロ大尉だった。画面をのぞいていたらしい。
見たいのであれば、声をかけてくれればいいものを。
「初歩とはつまり基本のことです。基本が出来なければ、基礎も出来ません。積み上げていくことが、彼の、カミーユの為になります。」
向き直り、姿勢を正して返答する。クワトロ大尉は、少し鼻で笑ったのかも知れない。
「君は、真面目な人間だな。」
「真面目に行うことこそ、軍人の基本だと教官に教えられました。そう、思われたこと嬉しく思います。ありがとうございます。」
応えると、クワトロ大尉は興味を失ったように黙って去っていった。
何なんだろうな?と彼に関してはいつも思う。気まぐれにカミーユに構ったかと思えば、抽象的で詩的とも言えるような発言をして、他人の返答もろくに聞かないまま去っていく。
一応、僕の直属の上官なんだけど、まともな指示が聞けたためしはまだなかった。
訓練計画の目処も立ったのは、カミーユが優秀で根性もあり真面目な生徒をしてくれたからだ。僕なんかが教官で申し訳ないなと思うくらいに、彼は上達が早かった。
ガンダムMk-Ⅱがいい機体だということも彼の専属機ということを除いても、天才といって過言ではない。
基本を身につけられた人間は強い。粘り強いし、諦めない。それは、本当に得難い才能だ。
だが、戦争にこの才能を使わせたくない。彼ならどんな場所にいても育っていける。学んでいける。
いつか、彼が本当に、学びたいことを選べるようにしてあげなければ。
Zガンダム本編を見ていた俺
「やめろ!カミーユは両親を目の前で亡くしたんだぞ!!」
「何がシャア・アズナブルを知っているか?だ!!人の心が分からないのか!!」
「子供を殴るな!民間人だぞ!」
「なんでそんな簡単に人を殺すんだ!人を殺させるんだ!子供に!」
「遊びで戦争してるのか!!」
「カミーユも何、流されてるんだ?抗え!!」
「子供に人殺しをさせるな!!」
「つーか、これテロだろ!!いい加減にしろ!!」