機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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1年戦争の、あの時……

ゲーツ大尉は、真面目で勤勉な軍人だ。書類仕事にも向き合ってくれている。今は、少し驚いているだけで、慣れたら彼は、僕よりもずっとブライト艦長の力になってくれるだろう。

ジオン共和国軍人の僕よりずっとゲーツ・キャパ大尉は、その地位に相応しい。

1年戦争を生き抜いてきた軍人なのだろう。いや、ブライト艦長より若いから士官候補生だったのかもしれない。

ああ、ニューヨークの陸軍士官学校か。伝統ある格式高い士官学校だ。



地球の、地球の人々の傷を知った。



ルウム

 

 

ルウム。

 

ルウム。

 

ルウム。

 

僕の故郷。ルウム。家族と、友人と過ごした故郷。

 

大好きだった。旧世紀の、西暦のアメリカ、サンフランシスコを模した街並みだという。

坂の多い街サンフランシスコ。

 

ルウムの、僕の故郷の7バンチには坂道なんて無かったけど。道路の上に線路が通って、赤い路面電車が走っていた。道の両側にはいくつもマンションが建っていて、どの建物も新しいはずなのにクラッシックとか、ロマンチックとか、レトロとかそんな表現をされていた。

 

僕は、親友のカミーユとその街で育った。カミーユとはお互いの家が、同じマンションの隣同士だった。毎日、顔を合わせていたし、家も行き来していた。

それが当たり前だった。

 

カミーユには父親がいなかった。宇宙移民には珍しくない。宇宙はそういうところだ。僕もカミーユも気にしていなかった。気にしないで生きていけた。あの故郷はそう、優しいところだった。

 

あいつは、口が悪くて、悪知恵ばっかりで、かっこつけで、努力家で、僕では追いつけないくらいに頭が良くて、運動も得意で、皆に頼りにされて、僕を含めた周りの人間のこともよく面倒見てくれて、それで、それで……性格が悪かった。

そう、あいつは性格が悪かった。意地悪だった。負けず嫌いだったし、何でもかんでも自分の思い通りにしていた。

 

いつも、いっつも後から気づかされるんだ。ああ、やりやがった、て。カミーユに、してやられたって。

 

1年戦争のサイド5ルウムは、最初のコロニー落としの後、民間人の避難船を出すことをすぐに決定していた。

足りなかったのは時間と避難場所だった。

宇宙のどこに逃げられると言うのか?今なおコロニー落としの被害者数が膨れ上がっている地球のどこに逃げればいい?

 

サイド1も2も4も既に壊滅していた。

サイド6?避難民を受け入れなかった。

サイド7は遠すぎる上にコロニーも1基だけしかなかった。

 

宇宙の迷子になっていた。

 

開戦から、たった1週間で、サイド5ルウムは宇宙の迷子だった。

 

両親とは、避難船に乗る前に港で生き別れてしまった。避難民の数と避難船の収容人数が合わないことが分かって、皆がみんな、パニックを起こしていた。その人波に押されるままに、逸れてしまったのが最期だ。

 

人々の中で、両親や、カミーユ、カミーユのお母さん、クラスメイトの皆の名前を叫んだ。

宇宙港にいた人々はみんな、そうしていた。子供の、赤ん坊の泣き声さえも掻き消えるくらいに皆、叫んでいた。首だけをあちこちに回して、見知った顔がいないか、自分を見つけてくれないか、叫んで、探していた。

 

そんな、家族や知人を探して大声で名前を呼ぶだけの物体になっていた僕の背中を誰かが強く押した。振り返ることさえできない、そんな群集の中でカミーユが僕の背中を押したのだ。

 

それが、分かった。

 

カミーユの顔も見えなかったのに、それだけは確信した。

何もできないまま流されて避難船に乗り込んでしまって、僕は命を取り留めた。

 

生き残って、しまった。生き残らされて、しまった。

 

避難船なんて言ったけれど、僕が押し込まれたのは本当に小さい船だった。観光用の遊覧宇宙船だった。本当なら100人も乗れないような船に、5倍も10倍も、もっとたくさんの人が詰め込まれた。

 

宇宙に重力は無くても重さがある、と知ったのがその時だ。

人が、人に潰された。絶叫と断末魔と混乱と謝罪の…宇宙でも血の匂いはした。嘔吐物や排せつ物の臭いも。人間の体を潰してしまったという感触もした。体中で、今も覚えている。

 

かろうじて僕が脱出できた、…脱出してしまった7バンチの宇宙港がジオン公国軍に襲撃される様を見たのが、その遊覧宇宙船での最後の記憶だ。

 

気が付けば、僕はジオン公国を名乗ったサイド3のどこかの宇宙港で、消火ホースから水を浴びせられていた。

手錠だけされて、真っ裸だった。体中から、口の中からも血と嘔吐物と排せつ物の臭いがしていた。

 

僕が目を覚ましたことに気が付いたのだろうジオン兵は僕の頭に銃口を突きつけた。僕の後ろ頭に、銃口が2つ。

 

やられた。

 

カミーユの奴に!あいつ、やりやがった!!僕を、置いて、高校でできた親友たちと一緒に、ルウムで、故郷で、死にやがった!!あいつ!!

 

僕の方が長い付き合いだろうに!僕の背中を押しやがって!!自分は満足して!!

 

「フハッ!ハハハハハハハハハハ!!!」

 

笑っていたのは僕じゃなかった。カミーユの奴だ。性格悪い顔して、大笑いしやがったに違いないと分かった。

 

「ハハハハハハハハハハ!!……バンッ!!」

 

僕の様子と銃の擬音に兵士たちは驚いたけど、僕の頭を吹き飛ばしてはくれなかった。

 

カミーユの奴を、殴り飛ばしにも逝けなかった。

 

僕はそのまま、ジオン公国で捕虜になった。捕虜?僕が?17歳だったのに?ただの高校生だったのに?人質の価値なんかあるもんか。

 

馬鹿馬鹿しかった。

 

消毒剤の熱くて痛いシャワーを浴びせられて溺れかけ、囚人用の衣服を与えられて、僕ら捕虜は工場労働者になった。

 

戦場へ行ったジオン公国人の代わりに、人を殺す機械を作らされていた。戦争のために、ジオン公国の勝利のために。

 

捕虜が戦場に出されなかった理由は単純だ。反乱を起こされたからだ。そう、起こされた、だ。

噂で聞いたときは、捕虜仲間と笑った。羨ましいと、言って笑った。

 

フラナガン博士には1年戦争が終わるころに会った。と言うより、急に行われた身体検査の結果、僕は博士の元に連行された。

 

捕虜仲間とも引き離されて。今も彼らの安否は分かっていない。

 

フラナガン博士がニュータイプの被験者を探していたのは、研究に協力的だった女性被験者が戦死したからだと博士自身から聞かされた。

 

僕を個人的な研究協力者にした後、フラナガン博士はフラナガン機関を見限って、研究施設に赤いペンキスプレーとの豚の血と、後なんだったか?食用油をぶちまけて来た、と言った。中でもペンキスプレーは油性のスプレー缶の底に穴を開ければ良いだけだったので、とても楽だったとかなんとか。

フラナガン博士の暴挙の片付けでジオン公国軍まで出動させられたと聞いたときは、少しだけ愉快だった。

 

フラナガンスクールの立ち上げには、僕も協力した。と、言っても、博士の指示するままに関係する役所や税理士や行政書士や弁護士や司法書士と、まあ、色々な場所に書類を作って持って行っただけだ。

 

給料は良かった。

 

だけど、馬鹿馬鹿しかった。全てが。何もかもが、馬鹿馬鹿しかった。

僕がサイド3に居ることも、捕虜になったことも、ジオンが公国から共和国になったことも、ニュータイプとして優秀だと評価されたことも!

 

全部!全部!馬鹿馬鹿しかった。

 

カミーユ!満足かよ!ああ、満足だろうな!本当に、お前は性格が悪かった!

 

でも、悔しいだろう!僕はニュータイプ研究っていうやつを、最新の学説って奴を学んでやるよ!お前がやりたくてやりたくて仕方なかった研究というものを、僕はやる!!お前が学びたかった学問も僕が学んでやるよ!!特にニュータイプ研究なんて、最新の新しい学問分野だ!

 

悔しがれよ!

羨ましがれ!!

僕を妬めよ!!

 

歯噛みして、くそったれ、って地団駄踏みやがれ!!

 

 

 

 

……生きて、いたかった、と言ってくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あなたに神のお恵みを  編

実際、どこに避難したらよかったんだろうな。まあ、地上なんだろうけれど、地球に降りられる船って限られているはず、この時代は。

降りられたとして、地球で生きていけるんですか?財産も、食料も、水もない。
被災地だらけの地上で。



ここ書いてた時、俺の中のエグザべが思い出を語ってくれた。それを基にこれを書いた。
俺辛くて辛くて。みんなは笑うかもしれないけど、俺まじで泣きながら書かされた。タオルで涙と嗚咽を抑えながら書かされた。
だって、君が聞きたいって言ったんだろ?ってエグザベは言った。

手加減!してくれよ!俺は一般人なんだ。頭お花畑の人間に対する仕打ちか、これ?! 

手加減はもちろんしたし、思い出を簡潔にして、これ、ってエグザベは答えた。
このSSのエグザべは、これを経てなお、目のハイライトは消えません。キラキラしてます。
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