機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
アステロイドベルトに白い死神はいなかった。
少なくとも、ジオン公国の滅亡を望む敵はいなかったのだ。
『白い悪魔』も『白い死神』もいなかった。
我々は思い知らされた。
臥薪嘗胆の日々をアステロイドベルトで過ごしたのは、悪魔や死神から逃げていたからだった。
ここ3か月でアクシズを包囲している地球連邦軍と小競り合いが起こり始めるようになったのは、アクシズ内部の統制がなされていないからなのだということを私は当たり前に知っているわ。
だって、誰もアクシズのトップに立たないんだもの。私たちがアクシズに来てもうそろそろ2か月近くになるのかしら。それなのに、アクシズは相変わらずミネバの不在を隠したまま過ごしている。ミネバに、ザビ家に成り代わろうという人間が出てこないのは何故かしら?
きっと、誰も責任なんか負いたくないのね。負け戦だもの。
そういうアクシズから逃げ出そうとして、アクシズ周辺の宙域で戦艦やMSが地球連邦軍に撃墜され続けている。
宙域は地獄の戦場と化してきている。素敵な戦場に。
その、アクシズ周辺の戦場に白い死神が来ているという噂話は、目の前で一緒に食事を取っているジオン共和国から来た女性兵士からも聞いた。ここ最近、彼女のように白い死神の話をする人間が増えて来たわ。
月面都市や共和国や各コロニー、宇宙デブリの中に隠された秘密基地の中から続々と集まってきたザビ家の残党たちが、忌々しそうに、こそこそと白い死神の話をしている。
有名なネームドMSパイロットの、敵の話をしている。
この1週間、ようやく私、レコア・ロンドはドアマンの退屈な仕事からも解放されて、軍人用に徴用されている食堂で昼食を摂っている。ゆっくり食事を摂れる様になった。ジャミトフがドアマンの交代要員を選定してくれたから。
ご老体には悪いのだけれど、少し見込みが甘すぎるのよね。アクシズからシャア・アズナブルが逃げ出すことはないって思い込んでいたの。
ジャミトフもキャスバル・レム・ダイクンも夢見がちな人だから仕方無いことだけれど、私が勘づいていなければもっと大変なことになっていたのよ。キャスバル・レム・ダイクンがアクシズから逃げ出して、戦場で無意味に、あっさりと苦しむことなく殺されていたの。
困った人たち。まだ、逃げられるなんて、生き残れるだなんて思ってる。可哀そうだわ。
こんなに窮屈で閉塞したアクシズの中では、アクシズの外から来た、というだけで、誰からも歓迎される。微笑んで一緒に食事してもいいかしら?と言うだけで。
不思議なことだけれど、元共和国軍人からも歓迎されるの。地球連邦にもジオニズムを支持する人間が居ることが心底、嬉しいと思ってくれている。
本当に、可愛い人たち。
「共和国の白い死神が、アクシズの宙域に来ているのよ。嫌になるわ。」
目の前の彼女は、1年戦争で活躍したエースパイロットだった。私は聞いたことも無いけれど、公国軍では「ザク・アマゾネス」と呼ばれていたそう。
共和国軍からザク改を奪って、反対する部下や上司をザクマシンガンで撃ってまでアクシズに来てくれた、可哀そうな女性だった。
共和国軍の事情にも詳しい彼女と連邦軍に居た私は、食堂で敵の情報交換をしている。
「最近、よく聞くわ。白いギャン?のことでしょ?でも、パイロットは1年戦争も経験してないお坊ちゃんだったって。」
今、白い死神について知っているのはその程度よ。白く塗られた「ギャン改-Ⅱ」というMSを、ザビ残党も共和国軍から来た人間も白い死神と呼んでいる。
「ええ、ただのお坊ちゃんよ。どういう手を使ったのか知らないけれど。3年も経たずに共和国軍上層部のお気に入りになったのよ。裏切り者の共和国軍人、エグザべ・オリベは。」
エグザべ・オリベというパイロットの名前は、初めて聞いたのかもしれないわ、このアクシズで。
でも、私はその名前を知っている。
「顔は良いわよ。チョロそうで、お人よしの顔をしてるわ。」
ご丁寧に、容姿まで教えてくれる。明るめの茶髪で、不思議な目の色をしている、彫りの深い顔立ちをした中肉中背の男。
顔は、写真データで確認していたわね。彼女の言う通りに、エグザべ・オリベ中尉はお坊ちゃんの顔をしていたわ。
アーガマの初航宙。サイド7、グリーン・ノアのティターンズ軍需工場への偵察任務を思い出させられた。
もう、遠い昔のよう。まだ、1年も経ってないのに、不思議な感覚ね。本当なら、そのグリーン・ノア宙域でエゥーゴに合流するはずだったMSパイロットの名前が、エグザべ・オリベだった。
「あらやだ!貴女、袖にされたの?」
目の前の女の、口元の歪みを見て私はそれが分かるようになってきたのね。それだけで、分かるようになってきた。
「だれが、あんなお坊ちゃんを本気で相手にするのよ。ニュータイプじゃなかったら、誰も気にも留めやしないわ。真面目なことしか言わないんだもの。つまんないったらありゃしない。」
酸っぱいブドウね。貴女の表情と声で分かるわ。
ニュータイプに、人類の革新に袖にされたから、あなたも可哀そうな人になったのかしら?
「いるわよね、つまらない男って。イイ男と出会いたいわ。」
そう言って、飲んだコーヒーは偽物で苦い味しかしなかった。
つまらなくない男ってこの世に居ないのを知っているから、いつもコーヒーは苦いのよ。
あの時、グリーン・ノア宙域で、私が白い死神、エグザべ・オリベを拾えなかったのは、まあ、つまらない男シャア・アズナブルのせいよ。
偵察任務だったはずなのに。ロベルト中尉もアポリー中尉も、リック・ディアスの完熟訓練さえ終わってなかったのに。コロニーの外壁に穴を開けて、コロニー内で戦闘までしてガンダムMK-Ⅱを奪取してきたシャア・アズナブル。
民間人の少年カミーユ・ビダンと一緒に、ガンダムMK-Ⅱを奪取してしまったのならば、後はもう、流れに任せて月へ逃走するしかできないのよ。
ティターンズの追っ手から逃げるしかできないのよ。
増員されるはずだったMSパイロットとの合流など二の次にするしかなかった。エマ中尉も悪い人ではないけれど、あんな手癖の悪い女を拾ってる場合じゃなかったのに。
そんな女のために、30バンチにまでわざわざ行かされて、少年に人殺し迄させてしまった。
それも全部、シャア・アズナブルの独断専行とブレックスの軽挙妄動の結果だったの。随伴艦のモンブランが撃沈したのも、私がジャブローに墜とされたのも、全て。
ティターンズという大組織相手に、狂人バスク相手に無手無策で挑んで、ティターンズのジャミトフの采配で見逃されていただけなんて、なんて惨めなのかしら。
そのジャミトフだって、ただの夢見がちな老人だったなんて、いっそう惨めね。
現実を知らない、夢に生きた老人の理想郷のために生かされた私も、キャスバル・レム・ダイクンも、アクシズも、みんな惨めよね。
白い死神は、エグザべ・オリベは、こんな惨めな気持ちなんて味わったこともないんでしょうね。軍でパーソナルカラーや最新機までもらって、アクシズ宙域で勇名をあげている。恐れられている。
目の前のこの美女ですら袖にして、共和国軍の上層部には気に入られて…お似合いの戦場まで与えられて。
アクシズの人間を怯えさせて、軽々と1年戦争時のシャア・アズナブルの戦果を越えていった。おまけにニュータイプだってだけで、お前をちやほやしたい連中はたくさんいる。
惨めな思いもしたことも無くて、そして、私を助けなかった男の1人、エグザべ・オリベ。
「イイ男なんて、この世に居るわけないのよ。だって、イイ男って1年戦争で、みぃんな死んじゃったんだもの。」
彼女の言う通りだった。本当に、そう。私と彼女は同じものを感じている。生まれも育ちも違うのに。
私の故郷は……
「本当に、そうよ。イイ男なんてこの世にいないんだもの。つくづく嫌になるわ。」
2人して声を出して笑った。こんなに晴れやかな気持ちで笑えるのは久しぶり。
そうよ。この世にイイ男なんていないの。私を救ってくれるようなイイ男はいないのよ。
だから、白い死神は戦場にいるのよ。あの、白いギャンは戦場にいるの。
来てくれたのよ。
私に殺されるために、みんな戦場にいるのよ。
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アクシズは、駄目だ。ここに居ても何の意味もない。
真にジオン・ズム・ダイクンの志を継ごうという人間はアクシズに居ない。
命を懸けてまで、ダイクンの遺志を継ごうという人間は誰もいない。
それが分かったのが、アクシズに到着してからだったというのは遅すぎた。ここに来るのではなかった。
宇宙移民の新たな希望と確信していたのに。酷い裏切りだ。
シャア・アズナブルさえも、己に降りかかった侮辱や屈辱を晴らそうともしなかった。
我々と行動を共にするなどと嘯きながら、自室から出てこなかった!
なんだ、ここは?MSと戦艦の墓場ではないか!
ザンジバル級の機動巡洋艦が、あんなにも容易く!たかが、ビームサーベルで切り裂かれるのか!旧型とはいえ、共和国軍の管理下にあったのだ。主砲や副砲、装甲などの艤装も換装しているというのに!
白い死神め!ニュータイプの裏切り者が!
6機のゲルググでさえ、あんなにも容易く抜かれるか。弾幕さえ意味をなしていない。かすりもせず、掻い潜って向かってくるギャン改-Ⅱ。
よくも、宇宙移民の、希望を。よくも!地球への恨みを晴らす機会を!
「ジオン公国に!栄光あれ!!」
白い光が、艦橋を、私を照らした。
エグザべとジオン共和国を追い詰めるもの 編
ジオン共和国軍の失態をなんとか戦果で塗りつぶして!!と依頼されてしまったエグザべに出された命令とは!!
「お願い!!テロリスト全滅させてきて!!」
シャア君は、まあ、もう逃げられないよね。
当たり前に。
「助けて」が言えない人だものね。