機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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宇宙の白い死神 2

 

 

 

宇宙で戦う。

 

この宇宙で、人間を殺す。

 

宇宙にMSだったものが、人間だったものが、広がっていく。

 

それが、見えた。

 

 

 

ドゴス・ギアからの帰還命令を示す信号弾を確認し、深呼吸を3回する。

そんなはずはないのに、肺に入れた空気が焦げ臭いような気がした。

そんなはずはない。パイロットスーツは規定通りに着ている。空気はいつも新鮮なものを入れている。焦げ臭いはずはない。

 

僕は、今、敵を殺した。いつも通りに。

別に、今更じゃないか。僕だけがしているわけではない。

軍人が、命令に従って遂行している行為だ。

 

だから、目の前のMSが、1年戦争時のままの旧式ザクが何もできずに爆発したのは当たり前のことだろう。

 

彼らはテロリストだ。アクシズを拠点に、アステロイドベルトから遥々、地球圏を侵略しに来たテロリストだ。

ジオン公国を再興しに来たテロリストだ。

 

共和国軍からも「必ず全滅させるべし」と命令が下っている。

 

ゲルググと旧式ザクの1個中隊は今、全滅した。

僕が殺した。

 

ギャン改-Ⅱは、敵を殺すための僕なのだから。

 

いや、違った。僕が軍人だから、だ。

 

旧式のザクに乗っていたのが、僕より若い人間だったのがいけない。子供のような、顔をしていた。

断末魔さえ聞こえた。

 

なんで見える?なんで聞こえる?

 

思考が走り過ぎている。制御できていない。ここ最近ずっと、そうだ。

 

「エグザべ機、帰艦します。」

 

アクシズ包囲網を抜けようとする戦艦やMSを殺して回っている。それが命令だからだ。

MS1機さえも包囲網を抜けさせてはいけない。許せば、無辜の民間人が死んでしまう。

人を殺させないために、軍人はいる。

 

目が回るくらいの忙しさだ。だが、まあ、軍務だから仕方ないな。

 

共和国軍に残っている上官の命令によると、僕はシャア・アズナブルの戦果を越えなければならないらしい。直近の通信では、できれば2倍以上の戦果を出してほしい、とさえ『独り言』で呟かれてもいる。

 

上官の、参謀本部の言い分はわかる。共和国軍はシャア・アズナブルを矮小化しなければならない。ジオン共和国民の目を覚まさせなければばならない。

シャアミームもキャスバル・レム・ダイクン配信も、若年層の間では頑張ってくれてはいるが、選挙権を有する年齢層にはまだまだ訴求力が低い。

 

だけど、僕がこの短期間でシャア・アズナブルの戦果を上回れば、「赤い彗星」の伝説も薄まる。ザビ家への、シャア・アズナブルへの信仰心も薄まるはずだ。

ジオン共和国民も、共和国軍と共和国政府にもっと注目するだろう。軍事にも政治にも無関心ではいられなくなる。そう、信じろ。

 

独裁者の君臨を許したジオンの人間を民主主義に目覚めさせるためには、「英雄」が必要だ。人々が注目する存在が必要なのは分かる。

 

しかし、その、戦果の内容がこれではどうしようもない。僕にはどうにもできない酷い問題だった。

 

このアクシズ包囲網で、僕が殺している相手はほとんどが旧式の戦艦と旧式のMSなのだ。アクシズのガザCもそうだが、MSパイロットの練度も目も当てられないくらい低い。

テロリストなのだから当たり前だ。

まともに訓練したことも無いまま、あるいは訓練の重要性を忘れたまま、戦場へ来たテロリストたちが、まともに戦えるわけがない。

 

敵がこのような有様なのに、これを戦果に加えるなんて。

 

とっくの昔にシャア・アズナブルの戦果は越えてはいるが、果たして共和国民に対してこんな戦果ではったりが利くのかどうか?

 

そう、ドゴス・ギアでパプテマス・シロッコに相談したら、共和国政府からの『お願い』でもある、と返された。

本国には余裕がない。それを分かるしかなかった。

 

僕の戦果の内容を気にする余裕すらないのか。

おそらく、共和国民はアクシズに同情的なのだろう。やはり、ジオンだ。

だから共和国政府は、地球連邦政府の動向よりも次の選挙を気にしている。

共和国政府が、予想外に嵩んでいる防衛費の必要性と有用性をジオン共和国民に示さなければ、ジオン公国が復興してしまうかもしれない。

 

本当に、馬鹿馬鹿しい。

 

こういう事態になることが分かっていたから、僕のギャン部隊をアクシズ包囲網に回すように要請したというのに。

少数精鋭に過ぎるがジオン共和国軍の看板のギャン部隊だ。成果を出せば、地球連邦からも信頼してもらえるし、遠征費用もなけなしの戦艦全て出すほど多くはならない。防衛費も嵩まずに済んだ。

 

そもそも、僕が率いるギャン部隊に成果が出せないわけがない。僕が信頼している部下達だ。ドゴス・ギアの、ヴェルザンディの精鋭とすら並び立てる部下達だ。

ジオン共和国はその最善をせずに、未練成のザク改-Ⅲ部隊を前線に出すだなんて馬鹿げた真似をしている。

 

共和国軍と共和国政府の駆け引きが透けて見えるようだった。臆病な共和国政府め。目先の安全に気を取られ過ぎている。

 

共和国軍も共和国軍だ。僕には無理難題を押し付けておいて、パンジャンドラムとギャン改-Ⅱの部品くらいしか送って来ない怠惰をしてくれている。

前線にいる僕としては恥ずかしい限りだ。せめて、共和国軍からの脱走兵くらいは防いでおいて欲しかった。

 

 

 

 

「よぉ!エグザべ中尉!今日も大漁だったなぁ、お互いに!」

 

格納庫で、1番に声をかけてくれるのはヤザン大尉だ。

彼には感謝しかない。戦場に出ずっぱりで、まともに他パイロット達とも交流する時間が取れない僕を気遣ってくれている。ヤザン大尉が居なければ、僕はいつまでもドゴス・ギアのお客さんだっただろう。

 

「ヤザン大尉の援護のおかげです。大尉の部下も動きが良くなって来ましたね。以前、お渡しした訓練計画は役に立っているでしょうか?僕の立てた訓練計画は、あまり実戦的ではないとエゥーゴでは批判されることも多くて、気になっているんです。」

 

「おうよ!役立ってるに決まってるだろ!もっと自信を持て!エグザべ・オリベ中尉の戦果を見て、それでもなお文句を言うような輩は、戦場を知らない意気地なしの負け犬野郎だ。」

 

そう言うと、ヤザン大尉は軽く僕の胸に拳を当ててくれた。彼の自信を分けてもらえたような気がする。そうか、ベテランの彼が褒めてくれたのなら、僕の訓練計画も悪くはないんだな。

 

実際、ヤザン大尉は本当に素晴らしいMSパイロットで、良い教官だ。指導も熱心だ。彼のような教官に指導してもらえる兵士は幸せだろうな。

 

「ありがとうございます!基本を大事にできる兵士は、やはり粘り強いですから。彼らにも、そうなってほしいと思っているんです。」

 

それは、本心だった。地球連邦軍だとかジオン共和国軍だとか関係なしに、僕は彼らには生きて戦場から帰ってほしいと思っている。

そのための僕だ。

 

「ったく。お前が中尉なのは勿体なさ過ぎるぜ!早く地球連邦に戻って来いよ!俺がお前をこき使ってもやれる。」

 

大尉は、僕の事情を分かってくれてもいる。パプテマス・シロッコかな?こんな戦場でも僕を気にかけてくれたんだな。

僕にはもったいないくらい、有難い親友だ。

 

「本当に、そうしたいのが本心ですよ。パンジャンドラムくらいしか送って来ないんですから、本国は。」

 

2人して大笑いするしかなかった。パンジャンドラムの評判はドゴス・ギアでは散々だ。まあ、当たり前か。地球連邦軍には普通にドダイもビームライフルもある。

パンジャンドラムのためにMSの左腕部を強化する、などという無茶もしていない。普通のMSでは使えるものではない、パンジャンドラムは。

必要ともされていない。

 

「デブリーフィングは1時間後だ。急げよ!」

 

「はい!ありがとうございます!ヤザン大尉。」

 

1時間後のデブリーフィングには出れないだろうな。

後、48分後にはアクシズから戦艦が、ドゴス・ギアではなく共和国軍のほうへ向かう。

 

僕はジオン共和国軍の軍人だ。援護に向かわなければならない。味方を救援し、戦艦を逃がさずに落とさなければならない。共和国軍にはそれだけを行う戦力も整っていないからだ。

パンジャンドラムの予備は、それを思えばありがたい。推進剤の充填を待たずに済む。共和国軍の怠惰に感謝するときがあることが信じがたい。

 

ああ、でも、デブリーフィングに関係する書類は上げなければ。戦闘詳報も作っておこう。それから、イマニュエル上等兵にも整備計画の書類を作って渡しておかないと。

こういう積み重ねこそが、軍を精強にしていくのだから。

 

ヤザン大尉の期待にも、パプテマス・シロッコの信頼にも応えるためだ。

そうであるならば、僕にできないことではないだろう。

 

「47分後、か。」

 

ムサイ級の軽巡洋艦か。旧式のままの姿だ。補給もままならない状態でアクシズを逃げ出すテロリスト達。ここ数日、同じような光景をずっと見ている。

 

 

 

見えていた。

 

 

 

 






エグザべが立てた訓練計画についてはカミーユが初期に身をもって体験してただろう 編


ようやく、本題に戻ってこれた。
かわいそうなエグザベ中尉。偏にジオン共和国民の道徳心が足りないためだが…

当然、地球連邦軍もヴェルザンディもジオン共和国を信用していない。
敗戦したはずのジオンに軍があることさえ、分不相応だと思っている。だから、戦艦やらなにやら作っちゃう余計なお金は使い切っちゃおうね!
かわりに国債買ってあげるから、大人しくしとけよ。さもなくば、分かってんだろうな?あ??くらいの意識です。
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