機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
チェスの駒が盤面を動いていく。
小さな音だけがする。駒を置く音だ。黒いポーンが動いた音だ。
僕の駒は白だ。そう、いつも駒は白だった。
先に動かなければ、勝てない。先に動いても、勝てないのだから。
後手の黒いポーンが動いたのならば、僕は既に一手は打っているということ、だ。
僕は、動いたのか。
何をどこへ動かした?
そもそも、誰が、相手なんだ?
目を開けた。
目の前に、赤い、真っ赤なキュベレイが…
ここ3日、暇があればドゴス・ギアの食堂の隅でチェス盤を前に1人考え込んでいるエグザべが居る。そう、ヤザン大尉から聞いたのは昨日のことだった。1人でチェス盤を見ているが、様子がおかしい、と。
士官食堂で見かけないと思えば、そちらに居たのか。
確かに、ヤザンの言う通り様子がおかしい。エグザベ・オリベを見ればわかる。
思考を走らせすぎている。チェス盤を見ているようで見ていない。チェス盤の向こう側、どこか宇宙を見ている。それが、パプテマス・シロッコには分かる。
何かを見定めようとするエグザベの頭の周囲にあるミノフスキー粒子が思考に反応して、私には白く光っているのが見えた。
茨の冠か。不快だ。
ドゴス・ギアの艦長であるこのパプテマス・シロッコが、わざわざ食堂まで来ていることにも、目の前にいることにも気づいていないな。困った奴だ。
エグザべの目の前で指を鳴らした。指で、茨を断ち切るように。
「ああ、すまな…。いえ、はい。申し訳ありません。思考が走り過ぎて、いました。パプテマス艦長。」
気付くのが遅すぎる。兵が少ない時間で良かったな、エグザベ・オリベ。お前には珍しい失態だ。
立ち上がり私に敬礼をして、そう、言うエグザべを片手で制し問うた。
「戦績はどうだ?」
「恥ずかしい限りです。2勝7敗で1引き分けになりました。相手がミスすることを祈るしかないですね。」
不穏なことを言う。だが、ドゴス・ギアの部下の前だ。そう言うエグザべにチェス盤を片付けさせ、艦長室へ伴った。
「思考が走り過ぎている、か。」
艦長室には、最近ソファを置くようにした。ヤザン大尉やエグザべを艦長室に呼ぶことが多くなったからだ。
MS部隊とドゴス・ギアの連携もそうだが、アクシズの沈黙について見解を聞いている。この、パプテマス・シロッコとあろうものが。ニュータイプの成りそこないなどに振り回されているのが腹立たしい。
そのうえ、エグザべにさえ大きな負担をかけている。私の友に。心優しい友に、人の品性を持つエグザべ・オリベに負担をかける、あの、人モドキめ。決して、楽には殺さない。キャスバル・レム・ダイクン、お前が私に、頭を下げて死を懇願するまで苦痛を与えてやろう。
私の向かいのソファに座ったエグザべは困ったように笑うだけだ。
「恥ずかしいことにね。どうにも、制御できていない。」
物を分かり過ぎるというのも問題だ。生物としての人間の限界を越えて物を分かった所で、何ができる?何もできはしない。
制御できない能力は能力ではない。ただのハンディキャップだ。
例え、未来が見えたとしても、思考を走らせた先で戦闘をシミュレートできたとしても、それは現実ではない。
いくら蓋然性が高くとも、まだ、現実ではない。囚われるべきではない。
「キャスバル・レム・ダイクンはキュベレイに搭乗するか。」
エグザべがここ最近、チェス盤を前にしてしていることは、キャスバル・レム・ダイクンの乗ったキュベレイとの戦闘シミュレーションだった。それは分かる。このパプテマス・シロッコとエグザべ・オリベなのだから。
「今更、奴が百式に乗るわけないからね。アクシズが用意できる最高の機体を要求するだろう。ニュータイプに拘泥しているキャスバル・レム・ダイクンなら、サイコミュを欲するはずだ。」
「だが、お前が7敗もするわけがない。そうだろう、エグザべ。」
私が解せないのはそこだ。
キュベレイはサイコミュMSだが、所詮アクシズに逃げることしかできなかった敗残兵の作ったMSだ。設計図もスペックもハマーン・カーンから提供されたものを確認したが、ギャン改-Ⅱで太刀打ちできないMSではない。
本来、ファンネルを運用するためのMSだ。そのファンネルですら、ギャン改-Ⅱの装甲を撃ちぬけるほどの威力はない。キュベレイのファンネル、その小型化は威力を犠牲に実現している。
「分からない。分からなくて、困っている。赤いキュベレイが来る。それは確かなんだ。見えている。だが、動きがシャア・アズナブルらしくない。パンジャンドラムや僕の関節だけを狙ってくる。心臓を狙って来ない。だから、読み違え続けている。7敗のうち5敗は逃げられての負けだ。」
不穏を感じた。
「アクシズに、キュベレイを乗りこなせる人材が他にあれば、ハマーン・カーンがこちらに着くこともなかっただろう。」
たかが16歳の少女であったハマーン・カーンを指導者にするしかないほど、アクシズには人材が無いのだ。ハマーン・カーンに政治的指導者と軍事的指導者を兼任させてもいた。アクシズのテロリストはその立場を奪取するほどの求心力と指導力を誰も持たないまま、地球圏に帰ってこさせたのだ。無責任にもほどがある。
まともに戦える兵士が、信頼できる兵士が居たのであれば、ハマーン・カーンは戦場へ現れなかった。
そのようなアクシズの兵士に、友の、エグザベ・オリベのギャン改-Ⅱを落とせるはずがない。
「そう、本当にそうだ。アクシズから彼女たちが逃げてきてくれたのは僕にとっては救いだ。…でも、パプテマス・シロッコ、ハマーンは今、各サイドの有力人物と共和国政府要人の情報を盾に僕らの力になってくれている。彼女たちには平穏な暮らしを約束したはずなのに、僕は何もできていない。恥ずかしいよ。」
ハマーン・カーンの暗躍は、私のジュピトリスとヴェルザンディの情報部からも確認している。
ハマーン・カーンは記憶力の良い人間だ。物も分かっている。かつて、ジオン・ズム・ダイクンに、ジオン公国に陰で協力をしていた政界と経済界の重要人物を全て名指しであげているという。彼女の父、マハラジャ・カーン時代からの情報もある。
サイド6など、かつてジオン公国に同情的だった面々が与野党につるし上げられて、市議会が解散総選挙をすることになった。地球連邦軍への物資提供負担もかなり割合を既に約している。
ジオン共和国政府は、ハマーン・カーンの情報提供とギャン部隊と陸戦隊を頼りに、現政権へのテロ行為を防ぐことに忙殺されている。
たかが、20歳の女がそれを成すということは、
「子を護る母なのだろう、ハマーン・カーンは。ならば、どのような強大な敵にも立ち向かう。アクシズとキャスバル・レム・ダイクンを、私とお前で消し去れば良いだけの話だ。約束は護られる。」
それだけの覚悟を持った人間だということだ。
ハマーン・カーンのその覚悟を無駄にしないために、私とお前が戦場にいるのだ。本来、それを忘れるような人間ではないだろう、エグザべ・オリベは。
つくづく、キャスバル・レム・ダイクンはお前と相性が悪いようだ。
「アクシズは、後3日で餓死者が出る。」
ため息を吐くように、唐突にエグザベの口から言葉が落ちる。
それを聞いて安心した。エグザべの思考はまだ、人間の範囲内にある。
「いや、既に出ている。汚水を飲むしかなかった住民が既に死んでいる。アクシズはまだ、気づいていないようだが。」
「まだ、僕はパプテマス・シロッコに追いつけないか。」
落胆したように言うが、私はお前が人間であることが嬉しい。物が分かる人間であることが。
そして、私もお前と同じ人間だということが、このパプテマス・シロッコには心地よかった。お前にも、私にも分からないことがあることが、互いを補い合えることがこの世の何よりも素晴らしいと思える。
「いや、キャスバル・レム・ダイクンが、いまだに公王に立たない理由が、この私にも分からない。エグザべ、お前と私の差はそれほど大きいものではない。」
「僕にも、それは分からないよ。………いや、そうか。『アムロ・レイ』が戦場に居ないからか。もっと言えば、『ガンダム』が戦場に居ないからだ。キャスバル・レム・ダイクンらしいといえば、らしい理由だ。」
不快な獣だ、キャスバル・レム・ダイクンは。ジオン公国の忠犬は、このパプテマス・シロッコとエグザべにとって、いや人類社会にとって必ず排除すべき獣に違いなかった。
「ニュータイプの成りそこないらしくある、と言えばいいのか。そこまで獣に成り下がったか。」
「『ガンダム』と『アムロ・レイ』の区別もつかないだろう、キャスバル・レム・ダイクンなら。ちょうどよかった。グラナダ基地のZガンダム、あれはアーガマ情報部の横やりで解体中止になっているはずだ。ドゴス・ギアに取り寄せられないか?」
「無理だな。エグザべ、今の自分の状態も見えていないならば、私はお前の友として、お前をカミーユの元に送り返す。」
Zガンダムに、アナハイムエレクトロニクス製のバイオセンサーが取り付けられていると言ったのはお前だろう。シャア・アズナブルが作らせたバイオセンサーだ。今でも、己とギャン改-Ⅱを混同している発言を度々しているというのに、私がその症状を悪化させると思うのか。
そもそも、あのようなサイコミュの出来損ないを搭載したMSに人間を、友を乗せたくはない。この私が設計したバイオセンサーと名前が被っているのも気に食わないが、機能も出力も安全装置さえもお粗末なあのゴミを搭載したMSなど。
「サイコミュと今の僕は相性がいいはずだ。」
ぞっとする発言だった。
「相性が良すぎる。」
Zガンダムの、兵器の一部になる。そういう相性の良さだ。一度でも搭乗すれば、エグザべは己を、敵を殺すためのシステムに最適化するだろう。
敵を殺すことしか、出来なくなる。
「悪いことではないよ。今よりも、宇宙の全てが見えるようになるはずだ。まだ、この宇宙に隠れているテロリスト達も分かるようになる。火星も、アステロイドベルトも、木星も見えるようになる。そう、教えられた。僕がもっと、思考を走らせることができれば…」
「私は、友を失うことになる。大切な友を。」
この私に、パプテマス・シロッコにこのような懇願を言わせるのはお前くらいだ。ハイファンならば、私の意を汲んで従順にしているだろうに。
咄嗟に、震える右手を左手で隠した。怒りと、恐怖で震えている?このパプテマス・シロッコが?
「力に振り回されるな、エグザべ。」
押し殺すようにそう、言った。震える右手を左手で押さえつけている。エグザベの思考に、走る思考に巻き込まれるな、パプテマス・シロッコ。お前は、友も己も失うつもりか。
その程度の人間ではないはずだ、私は、パプテマス・シロッコは。
「……宇宙に溶ける、とゲーツ・キャパ大尉はそう、感じていた。」
ふと、思い出したかのようにエグザべが言う。
ゲーツ・キャパか。強化人間の成功体としてドゴス・ギアに呼ぶ予定で居た。戦力としても、私自身の好奇心からも必要としていた。だが、アーガマの情報部に先を越され、叶わなかった。
エゥーゴ情報部と地球連邦軍の参謀本部から直々に、エグザべの代わりに軍務を遂行できる尉官がいない、とまで言われれば諦めるしかない。
アーガマにはまだ、カミーユやファもいる。グラナダ基地にもMSパイロットとして動ける人材が必要だ。
ヴェルザンディもグラナダを補給基地としているのだ。補給艦は常時、グラナダとアクシズを往復している。重要拠点だ。防衛力を下げるわけにはいかない。
「噂の強化人間か。成功例というのは確かなようだな。物が分かるようになったか。」
宇宙に人の精神が溶ける、という感覚は私にも分かる。ゲーツ・キャパ大尉は正確に、物事を捉えている。
……たかが、強化実験でそのように成れるはずはない。所詮、ニュータイプという言葉に踊らされた凡人の実験、いや、研究の真似事だ。研究対象だったゲーツ・キャパは元からニュータイプだった、か。
エグザベが頭を振って、それを否定した。
「ゲーツ大尉の強化実験を思えば、僕も強化人間のようなものかもしれない。僕は、ただ、偶然に、彼らの受けた強化実験と同じような出来事を、人生で再現されてしまっただけなんだろう。」
「物の分からぬ連中などに惑わされるな。宇宙に溶けて、品性を保てる人間などいない。亡霊にすら成れはしない。私は、木星でそれを分かった。そうでなければ、地球圏に戻りはしなかっただろう。」
木星で、力の家畜となった者ども。愚かで哀れな者どもだ。
ニュータイプという言葉と力に溺れ、物のわからぬ連中に利用されるだけ利用され、木星の悍ましい赤い巨人に導かれるまま宇宙に溶けていった。
「亡霊にすら、なれない?…宇宙に溶けると、亡霊にすら?でも、パプテマス・シロッコ、カミーユは宇宙にいた。」
「木星に行けば分かる。」
私に答えられるのは、それ、だけだ。木星で、それが分かった。人類の命を繋ぐための最前線を見たからこそ、分かったことだ。品性を持つ、と言うことがいかに人間的で文明的で画期的な、人類が存在し続けるための手段なのかと、分からされた。
心ここにあらず、というのは、このエグザベの有様を言うのだろう。思考を走らせて宇宙に、亡霊を探しているのか。ルウムのカミーユを。
ミノフスキー粒子を輝かせて何になる?物が分かったところで、思考が走るようになったところで、何ができる?
宇宙に溶け混ざり合ったのならば、決して元の精神に戻りはしない。
「ハマーン・カーンは、100年の平和を作ろうとしている。僕には思いつかなかったことだ。100年、それだけ時間があれば、人間が品性を持つには充分だろう。パプテマス・シロッコ、100年の時間が稼げるのであれば、僕は宇宙に溶けてもいい。」
そう、エグザべ・オリベならば、そう言うだろう。分かっていた。
「ルウムのカミーユが、まだ宇宙に溶けていないから、か。」
宇宙に亡霊を見たか。
いや、今のエグザべには見えていないはずだ。ルウムのカミーユは、ずいぶんと性格の悪い男のようだ。エグザべからは見えないところにいる。
エグザべが目を背けているところに。グラナダにいるカミーユのところにいる。私にはそれが分かる。
「あいつにできたことなら、僕にもできるはずだ。100年、人類を護る亡霊になってもみせる。僕にはパプテマス・シロッコがいる。パプテマス・シロッコ、僕を分かってくれる親友がいる。人類のために3万人を切り捨てた僕だ。宇宙の全てを君に伝えることができるのならば、僕が亡霊になるだけでそれが可能ならば、コストパフォーマンスも悪くはない。」
「亡霊に、死者にできることなど、何もない。」
そう、何もない。ルウムのカミーユに惑わされるな、エグザベ。
亡霊に人類が守れるものか。人類の未来は、過去に、死者に背負わせるものではない。だから、『ヴェルザンディ』と名付けたのだ。
「パプテマス・シロッコが生きているだろう。人類の存続と発展のために、木星から地球圏まで戻ってきてくれた君が居る。」
エグザベの、その安心しきった笑みを今は見たくなかった。
「ならば、この私に、人類が存続する価値を持っていることを示せ。友を失くすパプテマス・シロッコに示せるのか?馬鹿な考えは捨てろ。」
「木星のこともある。早急に、木星の彼らに報いなければ。……赤い巨人がこちらを見ている。」
エグザベは背後を振り返り、そう、言った。
エグザべには行くところまで行ってもらう 編
はい、以下あにまんスレでの解説というか言い訳
Q なんで逆襲のギガンティス混ぜたんですか?
A 今のままだと、ララァ・スンがただの悪霊・怨霊になってしまうじゃないですか。だから、代わりになる悪霊が必要だったんです。フレーバー程度にと思いながら、いれたら手が滑ったんです。事故です。
Q 赤い巨人はイデオンですか?
A Zガンダム作ってた頃の富野監督です。ニュータイプなら、分かるでしょう!
Q ハッピーエンドいけますか?
A エグザべが行くところまで行けばハッピーエンドです!!毎日鏡に向かってハッピーエンド(はぁと)!って唱えてるんだ!信じろ!
Q 因果地平の彼方って?
A 全生命体の来世への転生です。強制転生です。
Q こんな中途半端なところで、今日の更新分終わっていいんですか?
A ギガンティスを皆に飲み込んでもらうためには。他に方法が…
Q 楽しいですか?
A 俺は楽しいです。
Q ララァ・スンは悪霊ですか?
A アムロとシャアの間を永遠にただよっていたい、と語るララァ・スンは悪霊・怨霊以外の何物でもありません。間違いなく。でも、1stテレビ本編のララァ・スンならば、そんなこと言ってない。
劇場版で、なにがあったんや、ララァさん……