機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
私の名前は、キルゴア・トラウト・5世だ。
先祖代々、キルゴア・トラウトをいつ頃からか名乗っていた。
曾祖父のキルゴア・トラウトによると、第二次世界大戦のときには既にこの名前を名乗った先祖がいるという。
本名か、どうか?
さあ、知らない。
戸籍にもキルゴア・トラウトと書かれている。父の名もキルゴア・トラウトだ。もちろん、祖父もだ。
説明が面倒なので、私は5世を自称している。
本当に5世かどうかも、わからない。
私はキルゴア・トラウト。私たちはキルゴア・トラウト。
人に生き人に死ぬ。文字に生き文字に死ぬ。SFに生きSFに死ぬ。幻想に生き現実に死ぬ。
私たちはキルゴア・トラウト。
久方ぶりにアメリカのインディアナ州にある私の襤褸小屋に、ニューヨークで雑誌の編集長をしている友人が訪れてくれたのは雪の冷たさと春の日差しが混ざり合う午後だった。
私の襤褸小屋には何もない。机が一つと寝台が一つ。それから散文調に書き散らされ床にまかれた原稿用紙。
「よく来てくれた。」
まだ開けていない『ファインダー』を瓶ごと渡した。このインディアナ・バーボンは古き良き友との再会の喜びとともにある。いつだって、そうだ。
「よく生きていてくれた。」
友人の手には、かの有名な格式高いキングス・カントリーのウィスキーだ。新しく友人ができたのだろう。新しい酒はそれを教えてくれる。
「生きているさ。この世に文字と人がいる限り。」
「キルゴア・トラウトの新刊を見たときの、私の驚きが分かるかね。4年前のコロニー事故のあと、君からの連絡が途絶えて。」
互いに交換した酒瓶を軽くぶつけて鳴らした。澄んだ音は再会の喜びだ。
「再会に!」
「再会に!」
口に広がるウィスキーは天使の歌声のようだ。微笑んで、私たちの再会をコーラスで祝福している。
「新しい友人の仕事かい?」
「そうだとも、キルゴア・トラウト。君ほど、他人に嫌われる奴も好かれる奴もいないもんだ。ニューヨークに私を尋ねて来た難民が居てね。宇宙からの難民だ。君とは似ても似つかない。が、不思議なんだがね、私と君が友人だと知っていたのだよ。君のサインが欲しいらしい。表紙にグリーンのインクで書いてくれ、と編集局で頼まれた。その時だ。私が君の生存を知ったのは。」
そう言うと、友人は私の新刊をスーツのポケットから取り出した。深緑の表紙に『証言』『キルゴア・トラウト・5世』と書かれている
自費出版で20冊しか出していないものだ。全て古本屋に押し付けた。それが、本当に世の中で売られていたという事実に感動した。人間がまだ本を読む生物であることに感動した。
そんな人間が、私の筆跡に価値を見出していることには落胆した。
「サイン程度、お安いものさ。ただグリーンのインクはこの襤褸小屋にはないね。」
サインを断るには良い言い訳でもない。まったく、グリーンのインクなんてこの世にないのならば、こう言って断わることもできただろうけれども、口の中のウィスキー・エンジェルが囁いた。
「ローズウォーターさんの事務所にはある。」
「ああ、あのご老人か。まだ、お元気だったとは思いもしなかったよ。君のことも、ローズウォーターさんに探してもらえば良かったのだろうな。ああ、思いもしなかったのさ。もうとっくに、神の御許に召されたものだとばかり。あの方は、神の教えに忠実で、人々に平等なお方だ。長生きはできまいと、思っていたよ。では、この『証言』もローズウォーターさんからの依頼だな?」
友人の笑い声は、天使とは程遠い。きっと老いたメタセコイアの巨木が笑ったらこういう声になるのだろう。私と彼の笑い声で、インディアナ・バーボンが揺れている。
「いやいや、友よ。私がキルゴア・トラウトだからだよ。」
SFと共に生き、SFと共に死ぬ。それがキルゴア・トラウトならば、常にSFを書かねば生きられない。
SFとは何かと、問われたならば答えよう。
この世へ向けた皮肉と愛の詩だ、と。
Dear The World!! Dear The Space!! Dear The Future!!
『森の大富豪の証言』
「今の世の中はふざけている。狂っている。それが分かるだろう、キルゴア・トラウト君。」
「私は確かに恵まれた生まれである。生涯、金に困らず、誠実で心優しい友人にも恵まれ、仕事とて人に誇れるものを生まれる前から約束されていた。羨むな、などと心狭いことは言うまいよ。しかし、あの、宇宙人共の態度はなんだね?」
「あの、宇宙人ときたら、私が地球に土地を持っていることが許せないなど、と抜かしおる。まったくもってして、宇宙人だ。エイリアンそのものだ。奴らは人肉でも喰って生きているんだろうな。悪名高きエプスタインのように!!」
「その口で、私が社会的地位をひけらかす為に土地を買ったなど!度し難い。私が買ったあの土地は、1年戦争前から自然保護区だった土地だ!宇宙人がコロニーなど地球に落として汚染しなければ、ずっと自然保護区のままであったはずの土地だぞ!」
「私が買わなければ、宇宙人共の良いように破壊されるから買ったのだ。自然を保護する、という概念もない宇宙人に、地球を任せられるものか。」
「この前買った自然保護区はまだ良い。北アメリカのあそこだ。保護区だった頃の記録が残っている。動植物の数や分布やその推移の記録がある。時間と人手はいるが、1年戦争の前の状態まで戻すことができる、が、他の保護区はどうだ?」
「宇宙人共が地球で好き勝手に大暴れしたせいで、記録さえ残ってない自然保護区の方が多いんだぞ!それを、ステータス!!全く、度し難い。」
「何が地球の、自然の回復力に任せればいい、だ。宇宙人に地球のことが分かるものか!奴らは碌な躾もされていない。親が居なかった、みなしごだ。……いや、数多の悲しい孤児たちに無礼な事を言ってしまった。私の財団も養護院を運営しているのは知っているだろう、キルゴア・トラウト君。たまに、彼らを訪問するよ。部屋は綺麗に自分たちで片付けられるし、私に笑って挨拶をしてくれる。いつも体操も勉強も頑張っているようだ。養護院の職員も子供たちに丁寧に接してくれる。その、養護院さえも見捨てたのだから、宇宙人は自分の部屋の片付けすらできないのだよ。優しいママが片付けてくれる、と思っておるのだよ。」
「実際、浮浪児のようなものだ。浮浪児より質が悪い。」
「1度だけ、部下に彼らの意見を聞きに行かせたことがある。後悔したともさ。奴ら、私が自然保護区に使っている資金や人材を何に使えと言ったと思う?」
「私たちを豊かにしてください、お金をください、と言ったのだよ。キルゴア・トラウト君。」
「地球の水と空気が無ければ、コロニーで人間は生きていけない、と部下も説明してくれたのだがね、奴らは知ったことではない、と言い切った。そう、私の部下に言ったそうだよ。」
「まったく、度し難い宇宙人だ。私の財産でコロニーをゴールドで仕立て上げれば満足するのだろうかね。いいや、しないさ。」
「奴らはずっと、可哀そうな自分でいたいだけなのだからな!」
『マリンスポーツレンタルショップのオーナーの証言』
「サーフボードを借りる宇宙の人、多いです。それで、サーフボード持って海で何してると思います?砂浜でサーフボード持って、写真撮って、お終いです。だから、うちのショップではカメラマンサービスもつけてるんです。」
「印刷サービスもしてます。安物のペンダントに入れて渡しています。これ、手作りです。シーグラスの写真入れ付ペンダント、海岸近くの町の寡婦団体に委託して作ってもらってます。シーグラスは漁協組合が海岸掃除のときに売ってくれます。」
「レンタル料高いですか?普通の5倍します。その分、サービスしてます。」
「うちのショップ高いから、他のショップも高くできるんです。」
「宇宙の人、うちのショップ使います。地球の人、他のショップ使います。他のショップの人、嬉しいからうちのショップに募金くれます。」
「募金は海洋調査団体に寄付してます。私も調査員になって行きます。オフシーズンに、です。世界地図みてください。今、私達ここにいます。ここからプロペラ機でアルゼンチン行きます。今はアルゼンチンの港から、南極近くまで行けます。昔はシドニーで船に乗りました。いま、シドニーもシドニーくらい大きい港もうないです。観測船、2年前からようやく出せるようになりました。南極に、ここから行きます。」
「南極で調べること、海で調べることたくさんあります。全然お金足りません。」
「私が調べるのは南極オキアミです。これ、地球の人、エビみたいって言います。宇宙の人、虫って言います。これ、南極大陸周辺に、たくさん必要です。南極オキアミ、たくさんいないと地球は死にます。」
「嘘じゃないです。南極オキアミ、地球にとってすごく大事です。人間より、ずっと大事です。コロニーが落ちた後、凄く凄く減りました。みんな絶滅した、と思いました。コウテイペンギン、絶滅してました。もう、ヨーロッパの動物園と月の動物園にしかいません。タイプDのシャチ、絶滅したかもしれません。シロナガスクジラも1年戦争の後、まだ見つかりません。」
「それでも、南極オキアミ、増やさないといけません。海を掃除して、海岸を掃除して、たくさんの植物プランクトンを、南極オキアミの餌を海に撒いていきます。人間が殺して汚して、そのまま終わり、は駄目です。でも、記録も調査もなしに植物プランクトン撒くのも駄目です。南極オキアミ以外を殺してしまいます。南極オキアミのために、他の生物や動物プランクトン殺すのは駄目です。」
「いつ、どこにどういう植物プランクトンを撒けば南極オキアミを増やせるのか、人間が勉強して、彼らと地球を助けないと駄目です。」
「不思議、とても不思議です。この小さな南極オキアミがいないと、海の動物、だいたい餓死します。生きていけません。でも、みんな、宇宙の人も、地球の人も知りません。」
「コロニーのせいで、オーストラリア周辺の海流が変わりました。とても大変です。地球、とても大変です。気候も変わりました。海流変わると、気候が変わるって知らない人、とても多いです。海が温かかったりする、冷たかったりする、それで陸地の天候も変わるのを地球の人も知らないのは不思議です。」
「この南極オキアミは、植物プランクトンを食べます。植物プランクトンは炭素をため込んでます。それを南極オキアミが食べて、排泄物にして海底に落とします。海底にたくさんの炭素が溜まって、地球の空気から炭素が減ります。二酸化炭素が減ります。だから、宇宙の人も南極オキアミに助けてもらってます。綺麗になった空気、コロニーに送られます。だけど、宇宙の人、そんなこと知らないって言いますし、虫扱いします。」
「宇宙の人、宇宙と地球、関係ないって言います。人間は無力って言います。自然は勝手にきれいになるって言います。」
「それが、本当だって、誰が言ったんですか?」
『登山愛好家の証言』
「ようこそ、我が家へ、と言いたいところだが、ここは我が家じゃない。知らなかっただろう?キルゴア。冬は町に住んでいるよ。雪が降ったらとてもじゃないが、この山小屋には来れない。冬山用の登山道具もあるけれど、あれは予備だ。冬山に上って遭難した人がいたときのために、そういう念のために置いている、と言うだけだ。ここは冬になると避難小屋として開放もしているんだ。しかし、1人で冬山を登山する奴はよっぽど憑りつかれているよ。」
「ああ、山に憑りつかれている。私も若いころはそうだったよ。山に登ったよ。いろいろな山でね、ボランティアで、ゴミ拾いもしていたんだよ。意外だろう?」
「ああ、でも山でゴミ拾いしたときに、まさか人型のロボットが落ちてくるなんてね。思いもしなかった。スペースノイド達は凄いね。あの人型のロボットで戦争しに降りて来たんだよ。」
「そう、戦争をするために空から降りて来たんだよ!キルゴア!」
「人を殺す為に、地球を汚染する為に、あんなデカい人型作って降りて来たんだよ!」
「凄い情熱じゃないか!」
「私は、山が好きだよ。山に登っている間、人間のことを考えずに済む。疲れ切った体で、自分と仲間の安全と登頂の成功だけ考えて、笑い合って過ごす。最高だろう?だから、山が大好きになったよ。ああ、いや、雪山はこの歳になっても怖い。ジャハリとマークの魂に安らかな眠りを!」
「私の登山への情熱もあの時、大したことないと思い知らされたよ。山で生き、山で死ぬ、なんて言葉は全然情熱的じゃあ、なかった。今でも気持ちは変わらない。死ぬときは山で死にたいね。環境保護団体が許してくれないが。土葬も許可してくれないんだよ。自然環境のため、と言われたら諦めるしかないが。」
「それはともかく、何の話をしてたんだった?ああ、人型ロボットか。あの時、私はオーストラリアのブラフノール山にいた!本当にオーストラリアに居たんだ。山道に沿ってね、ゴミ拾いのボランティアをしていたんだ。観光客が多い所はゴミも多いからね、ゴミ袋背負って、そしたら、目の前の美しい森に人型のゴミが落ちて来た。流石に、拾えなかったよ。あの美しい山に、まだあのゴミがあるんだとしたら悲しくって悲しくって。」
「あのロボット、中に人が居たんだってね。知らなかったよ。あの時はとにかく、訳が分からないから、ブラフノールの自然公園の中を逃げ回ったのさ。それが結果的に私の命を救ったのだから。街に戻っていたら、スペースノイドに撃ち殺されていたらしい。私は山に命を救われたんだよ。山と共に生き、山と共に死ぬ。それが私の運命だ。」
「キルゴア。君と同じだ。君はSFと共に生き、SFと共に死ぬ。」
「だが、人型ロボットなんて、実にSFじゃあないかい?それが現実に宇宙から落っこちて人を殺して回ったんだから、これから先、私たちは何を指してSF的と言うのだろうな?」
「山は良いよ、キルゴア。君に山に憑りつかれてほしいとは言わないけれどね。山は良い。僕があちこちの山でゴミ拾いしているのを、スペースノイドは金持ちの道楽って言ってるらしいね。地球にしがみ付きたいがために、僕がパフォーマンスをしているって。…街に居れば、聞きたくなくても、聞かせてくる暇人たちがいるんだよ。彼らは山の素晴らしさを知らないからね。」
「でも、山で過ごすのならそんなことはないだろう?」
「登山仲間は皆、親切だ。協力してくれる。助け合って登山する仲間なんだから。僕の言葉も聞いてくれる。無視はしないのさ。登山をするなら、これからも山に登り続けたいのなら、人間はきちんとゴミ拾いするべきなんだ。人間同士が協力して、山からゴミを無くしていかないと、山だって人間の命を助けてくれなくなる。もちろん、聞き流してるやつもいるさ。でも、否定はしない。相槌は打ってくれる。金が無いから自分はできないって答えてくれる。」
「山って良い所だよ。全部をさらけ出せるから。山でゴミ拾いしてたら、1週間なんてあっという間だ。ゴミ袋も3つが満杯になる。いやいや、減ったんだよ。私たちの前にゴミ拾いをしていた人々はね、キルゴア君。1日でゴミ袋を2つを満杯にして帰って来たって言うよ。どの山でも、だ。」
「でも、時代は変わるね。アースノイドはとても善くなっている。ゴミを持ち帰るのが当たり前になってきたんだよ。驚くことだろう!持ち帰りやすいようなゴミ袋も販売されるようになったからね。」
「しかし、スペースノイドはどうなんだろうね?あんなにたくさんのゴミとロボットを地球に捨てちゃってさ。」
「スペースノイドはゴミ拾い、したことあるんだろうかね?」
『人類学者の証言』
「地球に住む人をアースノイド、宇宙に住む人をスペースノイドというけれど、君、これって正しい表現か?ステレオタイプを助長する差別用語じゃないのか?」
「ステレオタイプに分けてしまうと、個人が見えなくなるんだよ。」
「そりゃね、人間の脳みそには限界があるんだから、多少は個人を所属する組織の属性で分類するのは仕方ない。仕方ないんだけれど、『地球にしがみ付く寄生虫』『特権階級』『金持ちの道楽』とか、アースノイドのステレオタイプにされたら差別でしかない。」
「スペースノイドは貧民だけで構成されているのか?違う。アナハイムエレクトロニクスだって月にある。あそこの会長と社長は月に住んでるんだよ。コロニーにだって金持ちはいる。僕みたいな食い詰めた学者の何倍も金持ってる人間が沢山いる。大学だってあるんだよ。学校があるから、学問があるから、誰だって成功のための道は拓かれている。真面目に勉強すればいい。そしたら、金持ちにだってなれるんだ。アースノイドもスペースノイドも関係ない。」
「そんなこと、宇宙でも地球でも常識だろう?ニュース見てたら分かることだろう?地球にも宇宙にも、学問の道は拓かれているんだから。」
「でも、アースノイドは卑怯だ、ズルいって言ってしまうのは何故だろう?」
「実際、僕は裕福かと言われたら違う。両親はスペースノイドだった。借金もまだ返済途中だけど、返還不要の奨学金のおかげで、なんとか夢だった学者にもなれた。」
「そういう僕個人を無視して、彼らはアースノイドと一括りにしてくれるわけだ。是正もしない。僕個人の情報をSNSで発信しても、返ってくるのは罵倒ばかり。僕は卑怯な裏切り者で名誉アースノイド、となるわけだ。当然、謝罪もしない。」
「別に僕は彼らのことを馬鹿にしているわけではない。馬鹿にしたくて個人情報をバラまいたわけじゃない。馬鹿にされたかったわけでもない。人間には、愚かなままでいる権利もある。それを行使するのは勝手だ。……ああ、名誉棄損で訴えたとも。全員。2割くらいアースノイド、だったかな?でも、大半はスペースノイドだった。」
「それは僕にとってどうでもいいんだ。和解金はきちんと振り込まれたんだから。僕が不思議なのは1つだけだ。」
「どうして、反撃されないと思っているのか。不思議でたまらないんだ。」
「罵られた僕が彼らに反撃しない、と思ってしまった原因はなんだろうか?」
「それが分かれば、宇宙と地球で戦争なんてしなくて済むはずだ。」
『退役軍人の証言』
「トラウト!この愛すべき、ごく潰し野郎!」
「生きていたか!トラウト!嘘つき予言者!」
「元気そうで何よりだ!お前の襤褸小屋は相変わらず襤褸か?素晴らしいことだ!それでこそ、トラウト!襤褸小屋を後生、大事にする素晴らしきトラウト!神だけはお前を祝福してくださるさ。気を落とすな。」
「お前のチリ紙以下の書き散らしの調子はどうだ?ゴミ箱からきちんと溢れているんだろうな?ユートピアに憑りつかれたあのお坊ちゃまの調子はどうだ?相変わらず、役立たずの人間どもを無差別に愛してるか?」
「それは何より。奴の行いこそ、人類の革新そのものだ。」
「私か?元気だ。見ればわかることを聞くな。そんなことより聞きたいことがあるんだろうが?お前のような気違いが私の仕事を知らないまま、私に会いに来るわけがない。もし、知らないままなら、私はお前の首と再会していた。この、世界の不思議が詰まった腐った首と、抱擁しただろう、親愛をこめて!」
「そうだ。この前、皆殺しにした村は私の掟を破って、ジオン人を匿って麻薬を作っていた。上納金も誤魔化していた。」
「私は芥子を植えるように、と奴らに命じた。だが、奴らが作っていたのは大麻だった。」
「なあ、トラウト。ろくでなしのトラウト。お前も幼いころ、父に、母に怒られただろう?私もそうだ。酷く怒られた。約束を破ってはいけない。掟に背いてはいけない。嘘を吐いてはいけない。」
「そうだな、兄弟。幼いころならば許されるさ。1日反省して、泣いて謝れば許してもらえる。だが、大人になれば、違う。悲しいもんだな。許しを与えてくれる神は教会にしかいない。こんな田舎にはいないもんだ。」
「なあ、壊れた愛しい蝶番。あの村の女たちはジオン人を許していたんだ。未亡人の家で匿ってたのさ。」
「旦那も子供もジオン人に殺されたのさ、可哀そうなリンシャ・ベスカは。それだっていうのに、ジオン人を許して、くわえこみやがった。ハンクは立派な夫だった。あいつにゃ、弾薬運びを任せてた。息子のトバも立派だった。母親を庇って、銃弾に当たったんだ。それだってのに、神様でもねえリンシャがジオン人を許した。仇をくわえこんだ挙句に大麻だ。」
「まあ、殺すしかないよな。」
「私も悲しいよ。愚鈍なトラウト。お前のように、リンシャ・ベスカが法と秩序を重んじる賢い人間だったのならば、私は30人も殺さずに済んだ。リンシャ・ベスカとジオン人だけで済んだんだ。」
「まだまだ忙しい。ジオン人があちらこちらに潜伏している。爪を剝いだらすぐに喋ったのさ。俺達の掟の外にある村にまでジオン人と奴らの大麻畑があるらしい。私が隣人たちと親しくて良かったよ。彼らも協力的だ。」
「これから4つの村を焼く。誓いも立てた。私の魂に誓ったのさ。」
「優柔不断のトラウト。どこにも属さないはぐれ者、教会で祈ってやれよ。」
「これから死にゆく者の魂が安らかにあらんことを。」
「なお、ジオン人を除いて。」
「さあ、略奪の時間だ!」
尊敬するカート・ヴォネガット・ジュニアに捧ぐ
僕はうまくあなたをリスペクト出来ているでしょうか?
早川書房より『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』好評発売中です。
SF好きなら絶対読むべき作品。
スペースノイドの考えや価値観、文化、その他は様々な公式作品で、様々な人々が語ってくれているので、そちらを参照ください。